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情報メディア白書2022~“WITHコロナ”時代のメディア接触と発信をひもとく~No.3

東京オリンピックの「バズ」を解析してみた

2022/05/23

電通メディアイノベーションラボ編「情報メディア白書2022」(ダイヤモンド社刊)の巻頭特集の内容を一部紹介する本連載。

電通とビデオリサーチでは、2021年春からテレビ番組のTwitter反応をAIで全自動分析する「Buzzビューーン!」の開発を進めています。今回は、そのシステムを基に先行的にトライした「TOKYO2020」(東京オリンピック)について、人々のバズ反応(Twitter全量)が実態的にどうだったかと、視聴率との関係を情報メディア白書の内容にウェブ電通報独自の視点を加え、解説します。

<目次>
1日の総ツイート数の中で、驚くべきシェアを占めたオリンピック関連投稿

視聴率との“ズレ”から見えるTwitterならではの特性とは

関心が国民化するほど、若年層や女性層の投稿が増加

競技別投稿量の上位は「野球」と「サッカー」。「自転車」人気も中継新時代を予感

オリンピックの度に進化したテクノロジーが、バズ可視化の後押しに

1日の総ツイート数の中で、驚くべきシェアを占めたオリンピック関連投稿

2021年、新型コロナウイルス感染症の影響を受け東京オリンピックは史上初の「無観客」で行われることに。自国開催のオリンピックでありながら、テレビやインターネットでの視聴を余儀なくされ、多くの声援がSNSで送られることになりました。

開催当時の記憶・気持ちというのは、時が経つにつれ曖昧になるものです。しかし、現在のテクノロジーではSNSで送られた“声の記録”をさまざまな角度で「ぜんぶ」残すことができるようになってきています。ここでは、その一部として視聴率とTwitter投稿量から見る「TOKYO2020」についてお伝えします。

まずは、大会期間中の視聴率(図表1)と、TOKYO2020関連ツイート数(図表2)の推移を見ていきましょう。視聴率が一番高かったのは7月23日の開会式。関東地区での世帯視聴率は50%超という、近年ではほとんど見ることのない数値が記録されました。(図表1)

一方、関連ツイート数は、水谷隼選手と伊藤美誠選手(卓球男女混合ダブルス)や西矢椛選手(スケートボード女子ストリート)が金メダルを獲得した7月26日にピークを迎えています。この日は一日で約160万件超の関連ツイートがありました。(図表2)

情報メディア白書③_図版01
出典:ビデオリサーチ「視聴率(関東地区)」を基に作成
情報メディア白書③_図版02
出典:Buzzビューーン!「TOKYO2020分析」を基に作成

図表3は関連ツイート数(青色)のグラフに、リツイート数(緑色)を追加。さらに日本でその日投稿された全ツイート量を分母とし、任意のテーマ関連ワード(今回はTOKYO2020)を分子とした占有率を示す新指標「SOB(Share Of Buzzの略)」(赤の折れ線グラフ)を重ねたものです。

情報メディア白書③_図版03
出典:Buzzビューーン!「TOKYO2020分析」を基に作成

今までは「バズった」といわれる事象が発生しても、その規模を横比較するスコアがありませんでした(投稿量は普及率等で左右されるため)。そこで1日の全投稿量に対してテーマ関連投稿がどのくらいを占めていたかを算出することで、バズを指標化したのがSOBです。

SOBで見ると、人気テレビ番組であってもSOB値は「0.01~0.10%」が通常。国民的な超人気ドラマであっても「0.2~0.5%」といった状況です。しかしTOKYO2020は開催期間中のSOB値が連日「1.0%」を超えるという活況ぶり。いかに人々の関心を集めていたかがよく分かる結果となっていました。

開会式のSOB値はいきなり2.76%に。この日(7月23日)は日本全体でのTwitter投稿総量(分母)も多かったのですが、それも併せて2%超えというのは記録的なスコアでした。さらにその4日後にはSOBがピークを迎えました。連日、日本選手団の金メダルラッシュが続き、7月26日に卓球での水谷選手・伊藤選手や数多くの選手がメダルを獲得。SOB値が実に3.47%にも達しました。

視聴率との“ズレ”から見えるTwitterならではの特性とは

図表3は「日別」の関連投稿数の推移ですが、投稿量を「時間別」でさらに詳しく見ることもできますし、それを「テレビ放送の毎分視聴率」と重ねることもできます。それによると開会式の個人全体での毎分視聴率(関東地区)のピークは20:30頃でした。選手団の入場が始まったあたりになります。しかしSOBの瞬間最大ピーク時間は20:45頃。つまりテレビ視聴に比べ、バズのピークが15分ほど後ろにズレています。これは、20:45頃にドラゴンクエストの音楽が流れはじめたためだと考えられます。Twitterでの投稿を行う若い世代にとっては「うおぉぉ、俺たちの曲きた!」と胸アツになるものがあったようです。

また、Twitterは短文とはいえ、書き込みをするための時間が必要です。このため5分程度の遅れが通常は発生します。

しかし、野球決勝戦でアメリカチームを相手に侍ジャパンが金メダルを決めた8月7日は、勝利の瞬間となった22:00頃に、「毎分視聴率」と「SOB瞬間最大」双方がピークとなっていました。野球の場合、最終回までくれば余程の番狂わせがない限り、結果を予測し投稿しやすいからでしょう。まさに「その瞬間」に一斉に大勢の祝福の投稿が飛び交っていました。スマホを片手に「おめでとう!日本!!」と書いて投稿ボタンを押すのを待っていたかのようです。

開会式での「ドラゴンクエストの行進曲」にあわせた「Twitterならではの若年層の反応」も、幅広い世代が勝利に沸いた「侍ジャパン勝利への反応」も、TOKYO2020というイベントを多くのみなさんが見守っていた興味深い結果だったと言えます。

関心が国民化するほど、若年層や女性層の投稿が増加

図表4は、TOKYO2020関連ツイートの投稿者を性・年代別に分析したものです。「Buzzビューーン!」のシステムではAIを用いて投稿者の「性・年代別」を推定しています。

推定に際しては、ひとつひとつの投稿内容からではなく、膨大な投稿データを分析させることにより行っています。また、調査会社の保有する「メディア接触パネル」も教師データとして学習させてありますので、正答率はかなり高くなっています。

従来のソーシャルリスニング分析では、この「性年代構成」が不明瞭で、人力に頼らざるを得ない状況が続いていました。しかし、人間には無理でも、AIという機械であればプロフィールを推定することが可能になっています。ただし、現在のテクノロジーをもってしても演算処理の負荷はまだまだ高めです。2021年の7月だったからこそ、毎日数百万件投稿という規模での推定が可能になったのです。
今後、「個人情報の特定」ではなく「個人プロフィールの推定にとどめる」という前提に立って、バズというものはもっと精度の高い分析が共有されていくべきだと考えます。

情報メディア白書③_図版04
出典:電通メディアイノベーションラボ・橋元良明東大名誉教授共同研究(2021年7月)

さて、図表4にご注目ください。これは毎日のTOKYO2020関連ツイート全投稿者アカウントを性・年代別に推定して割り出した推移グラフです。これを見ると、TOKYO2020の開会式以前に、積極的な投稿をしていたのが50代以上の男性であることが分かります。逆に若年層、特に10代・20代女性の投稿はあまり多くありません。ところが、7月23日から徐々に投稿量が増え始め、大会終了までずっと増え続けています。選手の奮闘やがんばりに胸を打たれ、後半になるほどツイート投稿という声援を送ったのが若年層や女性層だったことが分かります。
といっても、これは本来のTwitterの利用率の構成比に近づいたといった方が正確です。

図表4の下図にあるように、Twitterの各世代利用率を見ると、10代82.2%、20代77.4%、30代55.7%と続き、50代は38.2%ほど。利用率的な構成比率からすれば50代以上男性のツイート数の割合は1~2割程度が本来の妥当な規模でしょう。選手たちの活躍によって大会への関心が国民的・全世代的なものとなってからは、本来的な構成比率にならされていったと言えます。一般大衆に広くオリンピック熱が高まるにつれ、全世代が声援を送るようになっていたのです。

競技別投稿量の上位は「野球」と「サッカー」。「自転車」人気も中継新時代を予感

次に実際の競技が行われた7月21日~8月8日間の全投稿を「競技別」構成比で見てみます。

情報メディア白書③_図版05
出典:Buzzビューーン!「TOKYO2020分析」を基に作成

投稿が多かったのは、主に団体競技。中でも「野球,ソフトボール」と「サッカー」が突出しています。そんな中で、注目すべきは「自転車」です。自転車競技については、テレビ放送がロードレースの中継がないなど限定的だったにもかかわらず、10位に入っています。

インターネットのみでの配信となったロードレースは、レース距離が男子約244km、女子約147kmと長く、東京・神奈川・静岡をまたいだコースを走ります。時間にすれば6時間超。それは裏を返せば、1都2県に含まれる、たくさんの人々の“わが町”を通ったということになります。投稿数が増えた一つの理由として、自分の家の近くや地元をオリンピック選手が走れば、やはり投稿したくなる一種の記念投稿ムーブがあったのではないでしょうか。

多くの人にとって、自国でのオリンピック開催は一生にそう何度も巡ってくることのない機会。すぐ近くで世界レベルの選手たちが戦っているのに直接観戦がかなわない状況の中、“自分ごと”として投稿できる数少ない競技の象徴となっていたのかもしれません。

競技別の投稿の各性年代構成(図表6)を見てみると、自転車は男性が多数。30~40代の男性の中にはある程度の自転車人口が存在し、ネット世代とも親和性が高かったと考えられます。本来のTwitter利用者の構成比に一番近しいのはバレーボールで、幅広い人々から親しまれた競技の筆頭格だったことが分かります。

情報メディア白書③_図版06
出典:Buzzビューーン!「TOKYO2020分析」を基に作成

オリンピックの度に進化したテクノロジーが、バズ可視化の後押しに

2021年、コロナ禍が収まりきらない中開催されたオリンピックを、私たちは複雑な思いを抱いて見守ることになりました。そこで投稿された内容をさらにAIで分析していくと、競技に奮闘する選手たちを見るうちにオリンピックを楽しみ、応援する投稿が徐々に増えていったことが見えてきました。

オリンピックが開催されるたびにさまざまな技術が進化し、テレビ放送も白黒からカラー、さらにハイビジョン、4K、8Kへと革新を続けました。インターネット配信も登場し、TOKYO2020においては、テレビ放送のない競技を中心に全33競技の会場から送られてくるライブ映像(場内音声のみ、または英語実況付き)が配信されました。

一方で、SNSが普及し視聴者側の動きも変化しています。戦う選手にリアルアイムで声援を送ることができ、選手自身も競技前の率直な胸の内を発信し、視聴者がまた反応を返したりする。選手の奮闘をもっと届けたいという放送局・配信プラットフォーマー側の想いと、もっと声援を届けたいという視聴者の想いが交じり合い、こうしたテクノロジーが相互的に発展したのです。

分析の技術もまた発展しています。「Buzzビューーン!」ではAIを用いることでここまでご紹介した投稿量や層の分析に加え、投稿におけるネガポジの比率や代表的なツイート内容を推定することもできます。今後もさらに技術や分析手法をブラッシュアップさせることで、こうした人々の声「バズ」の記録を、残していきたいと考えています。

#arigatoというハッシュタグが、閉会式に選手から多く投稿されました。「こんな大変な時期に、私たちアスリートにとってかけがえのない、競技ができる機会を与えてくれてありがとう!」という感謝のツイートでした。賛否両論があったのも事実です。慎重派の声も、選手の声も、いろんな声があったのです。それを少しでも記録に残せたのなら、この分析は多少なりとも意味があったのだと思っていいでしょうか。

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