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100件を超えるキャンペーンの知見を集結! ~Xから始まるCXプランニング「4X」とは?No.3

感情が爆発するXは、広告プランナーにとってインサイトの宝庫

2024/07/29

Xプランニング
ユーザーインサイトの宝庫であるX(Twitter)は、広告キャンペーンの構築に、いまや欠かせない存在です。本連載では、Xのクリエイティブ戦略集団「Next」と電通が100件以上の広告キャンペーンの研究を重ねて編み出したCXプランニングのステップ「4X」を紹介しています(4Xの概要は、こちら)。

前回に続き、本記事でも「ステップ1・eXplore」を取り上げます。「Xを使ってどのようにターゲットのインサイトを発見するか」について、M-1グランプリ(以下、M-1)とNetflixの韓国ドラマのプロモーションを手掛けた、電通のクリエーティブディレクター・有元沙矢香氏に、X社の中川百合氏が話を聞きました。

広告プランニング


 

前年盛り上がったXのポストが、M-1のプロモーションの出発点

中川:今日はよろしくお願いします。Xで話題になるプロモーションを手掛けるクリエイターの方々は、アイデアができる前の段階からXを見て、ユーザーの強いインサイトからアイデアに落とし込んでいる印象があります。M-1も毎年、Xを活用して大きなムーブメントを起こしていますよね。

有元:私は2018年からM-1のプロモーションを担当しています。毎年、主催社の朝日放送テレビさん、吉本興業さんと一緒に、その年の大会のコンセプトを考え、コンセプトをもとにして大会のポスター、プロモーション映像、さまざまな広告物などを作ります。コンセプトは、番組のナレーションやセットなどにも反映されます。

M-1グランプリ
M-1グランプリ
2023年のM-1の広告物の一例。右上から時計回りに、①都道府県の中で前年の視聴率が最も高かった青森県で掲出されたポスター。②③六本木駅構内のポスター。④大阪・梅田駅のポスター。

中川:M-1のプロモーションを考える上で、Xはどのように役立っていますか?

有元:M-1の注目度は年々高まっていて、Xには多くの視聴者や出場者からのポストが集まります。数あるエンタメコンテンツの中で、出演者がイベント開催中に日常的に発信する媒体はなかなかありません。コンテンツの主役である人たちのリアルな思いをリアルタイムで知ることができるXは、M-1にとってもすごく面白い媒体だと思います。

中川:なるほど。企画の初期段階で、ターゲットのインサイトを発見するために、Xをどのように活用していますか?

有元:M-1のプロモーションは、前年の熱狂を振り返って、そこに今年のテーマを掛け合わせて考えています。ポスターなどの広告物は前年のチャンピオンをメインで起用して、前年の大会の文脈や熱狂をファンに改めて思い出してもらう狙いもあります。

プランニングの前にポストを見返すのですが、それは、前年の大会で盛り上がったことに、Xでの発話のきっかけがたくさん埋まっているからです。盛り上がったトピックをどう料理すれば、翌年のプロモーションでファンは発話したくなるだろうか、いろいろ考えます。

中川:ファンの人とプランニングが呼応する感じですね。

有元:発話が増えるポストは、公式アカウントの投稿だけでなく、その投稿に誰かが大喜利のようにうまく突っ込んでくれたものも多いです。だからM-1のムーブメントは、ファンのみなさんとの合作といえます。Xでポストしてくれるファンもある意味キャンペーンを一緒に作ってくれて、M-1を盛り上げてくれる大事な存在ですね。

企画段階になってから前年度の全てのポストを探すのは難しいので、気になったポストはいつもこまめにブックマークしています。例えば、2021年のプロモーションは、前年優勝したマヂカルラブリーさんをメインで起用しました。優勝したネタは、野田クリスタルさんが舞台の上をころげ回る「つり革」でした。2021年5月にマヂカルラブリーさんが、さいたまスーパーアリーナで「つり革」を披露した際、背中がすごく汚れた画像を野田さんがポストされたんです。それを見た瞬間、ポスターのイメージが浮かびました。

中川:普段Xを見ていて、その蓄積が形になっていくわけですね。

M-1グランプリ

中川:ファンのインサイトを探るという点で、Xには他にどのようなメリットがありますか? 

有元:M-1というコンテンツに対する世の中の温度感、人々がM-1に対してどういう思いを抱いているかを知るためにもXを使っています。そもそも、私自身がM-1の大ファンなので、この仕事に携わった当初は、自分のファンとしての思いとクライアントの思いを掛け合わせて企画を考えるスタンスでした。でも、M-1がビッグコンテンツになっていくにつれて、さまざまな思いのファンがいることを知り、なるべくいろんな意見を知った上でプロモーションを考えたいと思うようになりました。

中川:XにいるM-1のファンをどのように捉えていますか?

有元:M-1というコンテンツのファン以上に、各芸人さんのファンが多いです。芸人さんによってM-1への向き合い方が違う。それに伴い、ファンの方々もM-1への考え方がそれぞれ違います。

また、M-1は4分という限られた時間の中での漫才のため、それぞれの芸人さんが磨き上げたネタを披露する、ある種、スポーツの大会のようにもなってきています。だからこそ、そこから緊迫感や人生を懸けた人間ドラマも生まれ、それも一つのM-1の価値だと思います。
 
しかし、「感動」と「笑い」を同居させたくないという芸人さんも、お笑いファンの方々もいます。M-1を好きと言ってくれる人を増やしたい一方で、嫌いな人に対しては、その人の価値観を否定するようなことはなるべくしたくない、と考えています。

中川:M-1に限らず、どんなコンテンツでも、好きの押し付けでなく、コンテンツに対する人々の気持ちをうまく顕在化させて、「なんか好きなんだよね」と自発的にコンテンツに集まってもらえるのが理想ですよね。とはいえ、クライアントから「ファンダムに向けた企画を何か考えてください」と依頼されても、有元さんがおっしゃるように、いろいろなファンがいるという難しさがあると感じています。

有元:M-1って、スタッフの皆さんも本当にすごいんです。全てが、漫才師ファースト。M-1に、漫才に、真摯(しんし)に取り組んでいるすべての漫才師に光を当てたいし、一組でも多く売れてほしいと心から願っている。その思いから、決勝までの長い過程を密着カメラでずっと追っていたりもします。私たちも同じスタンスでプロモーションは作るべきだと考えていて、みんなが出場者である芸人さんの方を向いている。そこが、ファンの方々との信頼関係になっている気もします。

いまの時代は多くの人がXを使っていて、その中で、ファンがいろいろポストして盛り上がり、熱量が可視化されます。その熱量の山が、これまで興味のなかった人の興味をくすぐったりもする。どうすれば多くの人に発話してもらい、その熱量を爆発させられるかが、特にコンテンツのプロモーションにおいては勝負です。ファンの声が集まれば集まるほどその熱量が見えてきて、国民的コンテンツに育っていけるんじゃないか、と。

中川:普通はコンテンツが大きければ大きいほど、インサイトの捉え方か粗くなったり、パターン化しがちです。「ハッシュタグをつけてポストしてね」と言ったところで、たとえファンであっても、なんでもかんでもポストしてくれるわけではありません。有元さんのお話を聞いていて、M-1はすでにビッグコンテンツであるのに、ファンが本当に何を求めているかをつぶさに見ていらっしゃるからこそ、ファンが発話したくなるモチベーションをつくることができていると感じます。

中川百合


 

「韓ドラファンはコラムニストのように言語化がうまい」というインサイトを発見

中川:続いて、Netflixの韓国ドラマのプロモーション「#どうして私は韓ドラにハマるのか」について、お話を聞かせてください。どういった施策だったのでしょうか?

有元:クライアントはNetflixで、「韓国ドラマといえばNetflix」というイメージを強化したい、というオリエンでした。作品は向こうからの指定だったので、「わかっていても」「賢い医師生活」「海街チャチャチャ」など、当時配信されたての人気の韓国ドラマ9作品で、新宿駅でOOH(屋外広告)を展開しました。

Netflix

有元:ファンから、韓国ドラマにハマった理由をジェネレーターで付箋に書いてもらい、Xで「#どうして私は韓ドラにハマるのか」というハッシュタグで集めました。その付箋を実際に出力し、巨大なポスターを埋め尽くしました。さらに、ファンへのお礼として、ポスターをARモードで読み込むと、出演者の動画メッセージが見られる仕掛けに。また、動画内で書いてもらった出演者ご本人からの付箋も、この中に潜ませています。

Netflix

中川:インパクトがありますね。プロモーションを行うにあたり、Xでどのようなユーザーインサイトを発見したのでしょうか?

有元:プロモーションはSNSの発話量を増やすことが目的だったのですが、どうしたら発話を増やせるか考えながらXを見ていると、韓国ドラマファンはすごく語るし言語化がうまく、コラムニストのような感想を書く人が多いことに気づきました。ただ、みんなが有名インフルエンサーというわけではないので、多くのフォロワーに向けて発信しているというよりは、ただ感想をポストしていました。この感想を、見ていない人たちに届けて、韓国ドラマをPRできないか?と思ったのが企画の出発点です。プロモーションにあたり、「#どうして私は韓ドラにハマるのか」というハッシュタグを開発して、Xでキャンペーンを展開しました。

広告のビジュアルは、K-POPの応援広告がヒントになっています。K-POP好きなのですが、推しの記念日に事務所や広告などに付箋を貼る文化があることを知っていて、興味がない人から見ても驚くビジュアルなので、今回それを活用できないかな?と考えました。驚きや違和感がないと、なかなか広告を見てもらえないと思ったので。

中川:Xで話題をつくり、OOHとして世間に広げ、OOHが話題になってまたXが盛り上がり、その結果、発話量が増える、という仕掛けですね。

有元:プロモーションを企画した当時は、まだまだコロナ禍で、韓ドラファンたちが、聖地巡礼や推しに会いに韓国に行けるような状況ではありませんでした。けれど、ドラマの感想には熱量があふれていて、その思いを俳優や製作陣には届けたいというインサイトがあるなと感じました。ハッシュタグをつけてポストしてください、というだけでは、韓ドラファンもプロモーションに乗ってくれなかったと思います。「自分の感想が応援広告のように本人たちに届くかも?」という期待感があったから、少し手間のかかるジェネレーターを使ってでも参加したい、と思ってくださったのだと思います。

中川:なるほど。数年前よりも韓ドラは認知されて、いまだとまた違った施策になるのかもしれませんね。M-1もそうですが、コンテンツが育っていく段階によって、ユーザーのインサイトというのは変化することも、頭に入れておく必要がありますね。

人々の感情が爆発するXは、クリエイティブのヒントの宝庫

中川:M-1と韓ドラのお話を伺いましたが、広告プランナーとして、普段はどのようにXを活用していますか?

有元:私はプライベートでもXをすごく見ています。いま世間で起こっていることをチェックできる新聞や週刊誌に近い存在でもあり、リアリティのある情報があふれた図書館のようでもあるなと感じます。

特にXは、InstagramやFacebookなどと違って、「怒り」という感情にリミッターがあまりないSNSだと感じています。例えば、Instagramの投稿は、自分を少し良く見せようとするものが多い。それに対してXは、匿名性が一般化していることもあってか、感情が爆発している人たちがホントに多いなと感じます。私は「人が何に怒っているのか、怒りがどう静まっていくのか」に興味があり、Xは人の感情のPDCAが回せる場所だと捉えています。

有元 沙矢香

中川:人々のネガティブな感情って、広告を作るうえでヒントになりますか?

有元:広告は基本的に嫌われているものだと思っているので、自分が制作するときに、ネガティブな声が多く起きないように気を付けています。そのとき、怒りや悲しみのポイントの学習という点で、Xはとても参考になります。「こういうことで傷つく人がいるのか」とか、調査などではなかなか可視化できなかった人々の感情が見えるのが興味深いですね。

中川:ネガティブな声が多いから Xを避ける企業もあります。でも、広告を作る側としては、なぜこういうことが起きるのかを考えるきっかけになりますよね。

有元:世の中のすべての人に配慮して、過剰にケアしていては、面白い広告は作れない。でも、広告を見てくれる人にできるだけ配慮はしたい。Xで得たインサイトを参考に、メッセージにお断りの文言を入れて気持ちをケアしたり、発信するメディアやタイミングを考えたり、といったことはできる。誰かを傷つけないためのメソッドのようなものがXにすごくあるような気がします。

中川:「怒り」という感情の他に、Xからどんなユーザーインサイトを得ていますか?

有元:Xを見ていると、誰かに親切にしてもらったお礼とか、日常のほのぼのとした出来事のエピソードもよく目にします。渋滞の時、前の車の人がぬいぐるみを見せて子どもを楽しませてくれた、みたいなほっこりするポストとか。日常の偶然性みたいなことがXにはたくさん落ちている。広告制作では、人々のうれしいとか楽しいといった感情をどうくすぐるかもすごく難しい。どういったことが人の琴線に触れるのか、Xから学ぶことも少なくありません。

中川:人の感情のどこを押せばいいのか、といったことですね。

有元:特に、CMでスライス・オブ・ライフ(日常の一コマ)を描くときは、ちょっとした工夫で映像の印象がぐっと変わります。加えて、広告は、いかに時代の空気をつかみ、それでいて、他の広告でまだ描かれていないものが作れるかが勝負です。Xでインスピレーションを感じたポストはよくブックマークしています。最近だと、犬に360度カメラをつけた映像があがっていて、あまりの可愛さとその視点から見える景色の新しさに、タイムラインをスクロールする手が止まりました。 なんか企画に使えそうだな、と。

中川:今回お話を伺って、企画の大枠が決まってからXに目を向けるのではなく、プランニングの初期段階からXを活用すると、よりターゲットを巻き込める企画になることが伝わってきました。本日はありがとうございました。

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