100件を超えるキャンペーンの知見を集結! ~Xから始まるCXプランニング「4X」とは?No.2
2800万リーチを記録した「ランダムマック」。若手クリエイターのX活用術とは?
2024/07/25
ユーザーインサイトの宝庫であるX(Twitter)は、広告キャンペーンの構築にいまや欠かせない存在です。本連載では、Xのクリエイティブ戦略集団「Next」と電通が100件以上の広告キャンペーンの研究を重ねて編み出したCXプランニングのステップ「4X」を紹介しています(4Xの概要は、こちら)。
今回は、「ステップ1・eXplore」を取り上げます。「Xを使ってどのようにターゲットのインサイトを発見するか」について、マクドナルドの「ランダムマック」プロジェクトを手掛けた電通のクリエイターに、X社の中川百合氏が話を聞きました。
「マック利用者は、メニューが固定化している」というインサイトを発見
中川:本日はよろしくお願いします。最初に、プロジェクトチームについて簡単に紹介をお願いします。
小西:クリエーティブディレクターの小西です。「ランダムマック」を企画したのは全員20代の若手チームです。今日の座談会は、チームメンバーの中から、アートディレクターの八武崎さん、コピーライターの辻さん、UIUXデザイナーの大淵さんが参加しています。「ランダムマック」は、2022年に行ったプロジェクトで、当時3人は入社1年目でした。
中川:Z世代のアイデアが形になったのですね。「ランダムマック」とは、どのようなプロジェクトだったのでしょうか?
小西:マクドナルドから、公式アプリで注文と決済ができる「モバイルオーダー」サービスの利用促進と、平日お昼限定でいつものセットがおトクになる「ひるまック」を掛け合わせて、今までにないアプローチができないか?そのための施策を一緒に考えたいというお話をいただきました。
そこで、広告などに掲出されたQRコードを読み込むと、「ホットアップルパイ」「エッグチーズバーガーセット」というように、単品やセットメニューが表示される企画を考えました。メニューがランダムに表示されることで、メニュー選びの助けになったり、今まで食べたことのないメニューに出合えます。動くQRコードを作って各地の屋外広告に掲出したり、Xの公式サイトに投稿したりしました。
「ランダムマック」の関連記事
Z世代のアイデアで新サービスを。偶然をつくり出す「ランダムマック」とは?
中川:企画はどのように生まれたのでしょうか?
八武崎:マクドナルドのアプリへの導線として、街のいろいろな場所に目立つQRコードを掲出したらビジュアル的にインパクトがありそうだと思いました。QRコードを読み込んでメニューを注文してもらうという仕掛けは悪くないものの、「ユーザーを動かすアイデアがもう少しほしいね」という意見がありました。
小西:ディスカッションをする中で、「QRコードを読み込むと、メニューがランダムにレコメンドされたら面白いかも」という意見が出ました。それで、「普段みんな、どんなメニューを頼んでいるんだろう?」という話になって。
大淵:私はいつもチーズバーガーを頼んでしまっているんですが(笑)、周りの人たちは日によってメニューを変えながらいろんな商品を楽しんでいる、と勝手に思い込んでいました。
小西:それが、みんなもいつもほとんど同じメニューだった、という。そこから、「マックを利用する人は、メニューが固定化している」という仮説が生まれました。実際はどうなのかなと、確かめ算的にXでインサイトを探ってみることにしました。
中川:仮説を検証するためにXを利用したのですね。小西さんたちに限らず、Xの活用法として、「ただ企画のネタを探しに行くのではなく、最初に何かひらめきがあって、そのアイデアの根拠みたいなものを確かめに行く」というクリエイターは多いです。
大淵:まさに、Xでの検索の仕方もちょっと工夫が必要だと思っていて。今回の企画では、もちろん「マック メニュー 固定化」と打ち込んでもインサイトは探れません。そこで、「マック おすすめ」で検索すると、いろいろなポストがあがっていました。
八武崎:マクドナルドのおすすめメニューをフォロワーに聞いているユーザーの投稿が多くヒットしたので、メニュー選びに迷っている人が多数いて、切実なインサイトであることに気づきました。
中川:Xのユーザーは、マーケティング的な発想でポストしているわけではないですからね。ふだん何げなくポストしている言葉にいかに近づけていくか、ユーザー感覚での検索スキルが求められるわけですね。企画を提案したときのクライアントの反応はいかがでしたか?
小西:大変興味を持っていただけました。特にXのポストを根拠に、「メニューの固定化」のインサイトを伝えたときは、担当者の方の表情が変わるのが分かりました。もしもXのインサイトなしに、「動くQRコードを各地に掲出して、ランダムにメニューが表示されるようにします」というアイデア提案だけだったら、「面白そうだね」と思っていただいても、施策の実施には至らなかったかもしれません。
大淵:インサイトを示したことで企画に前向きになっていただけたわけですが、「メニューに悩んでいる人が何%います」といった定量的なデータではなく、「メニュー選びについて、Xにこんなポストがあがっています」と示したことで、共感できるストーリーとして受け取ってもらえたと感じています。
小西:定量的な調査はそもそも調査項目が決まっていて、その中で結果が出てきます。そうではなく、Xのように一人一人の「自分の意見」がたくさん集まっていると、強いインサイトだと感じていただけるのかもしれません。自分たちが考えたアイデアが本当に「世の中ゴト」なのか否かの証拠になります。
大淵:「ランダムマック」のティザー施策として、マクドナルドの公式アカウントで、「いつも同じメニュー頼みがち…」とポストすると、9万以上の「いいね」を獲得して、「メニュー固定化」心理への共感の声が集まりました。
小西:「ランダムマック」プロジェクトは、最終的にリーチ数は2800万以上、参加者は2000万人以上になり、日本マクドナルドの売り上げの112%(施策月の前年比)に寄与したと考えています。Xでのインサイトの発見が大きな成功につながったことをプロジェクトチームのみんなが実感しました。
ニッチなトピックに対する熱量を時系列で探れる
中川:「ランダムマック」の他に、Xでインサイトを発見した事例はありますか?
小西:マクドナルド利用者のインサイトとして、「マックは面白いヤツ」という認識がある。ですから、企画に対して面白がってもらえるハードルが低い感じがします。
辻:例えば、2024年4月1日に「マックの内弁当の販売決定」という投稿をXで行いました。これは、エープリルフールのネタなのですが23万を超える「いいね」を獲得しました。
辻:マクドナルドがお弁当を出すとしたらどんなラインアップになるか、メニューの選定をあれこれ考えてビジュアルにもこだわったことが話題につながったと思います。ただ、これほど多くの「いいね」を頂けたのは、やはり「マックは面白いヤツ」という土壌があったからでしょう。
大淵:マクドナルドの施策は、ユーザーの「マックに対する愛着」みたいな部分を引き出せるかが勝負ですよね。
辻:マクドナルドは多くの人が利用したことがあり、「ユーザーが積み上げてきた体験」という資産が大きく、コンテキストがものすごくあります。そのことをひしひしと感じますね。
中川:マクドナルドは利用者が本当に多いブランドで、ある意味、レアなケースだと思うのですが、他の案件の場合はいかがですか?
小西:よりニッチになっていくほど、インサイトをきちんと確かめる必要があります。自分の中では起きていることかもしれないけれど、世間ではどうなのか分からないことはよくあります。そういう場合は、Xでインサイトを探ってみるのが一つの手法です。
これもマクドナルドの事例ですが、ガラケー時代のゲームを復活させてコンテンツにする、という施策がありました。僕は実際にプレイしたことがあったのですが、本当にそのゲームのコンテンツが話題になったのかをかなり調べました。もしかしたら、自分の学校だけではやっていたことかもしれないですし。そのとき、ネット検索ではいろいろな記事が出てきたものの、どのくらいの人が興味を持っていたのかまでは分かりませんでした。
辻:Xはポストしたときの日付や時間が表示されますよね?それがすごく重要です。当時の日付とともに、時系列で生々しく熱量を把握できるのがインサイトの発見に役立ちます。
八武崎:昔よく使っていたものや、よくやっていたゲームなど、ユーザーが懐かしさを覚えて共感できるものは、いろいろなポストが集まっていますね。
中川:ガラケーのゲームのようなニッチなことは、わざわざ面と向かって誰かに話さないことの方が多いですもんね。でも、Xのポストにはそのときの自分の思いや発見などがつぶやかれている。ニッチなことのインサイトを探るのにXは役立っているのですね。
インサイトの発見と同時に、企画に対するファンのリアクションも見える
中川:みなさんは、ふだんどのようにXを活用していますか?
小西:みんなで企画を考えるとき、「最近、Xで面白いポストあった?」といった会話はよくします。企画のターゲットとかプロダクトに関係なくフラットに、「変わったYouTuber」や「テレビのニッチなコンテンツ」など、自分が見つけた面白いポストを紹介したりしていますね。
八武崎:アートディレクターとして、ビジュアルのアイデアを探すときはあまり活用していないですね。僕も、世の中ではやっていることや企画の種を探すことが中心で、大変役立っています。特に、若者がいま夢中になっていることを探るときに重宝しています。
辻:僕は検索によく使っています。長くXを使っていますが、他のSNSと比べて、Xはいちばん本音がポストされていて、最もユーザーインサイトが探せるプラットフォームだと思います。ネットよりもXで検索した方が、自分が探しているものが早く見つかります。
中川:Xを使うときは検索が基本ですか?
辻:はい。仮説の検証というか、みんなが頭の中になんとなく思い描いているものを改めて可視化して確認する感じです。そして、インサイトの近くにある、何か新しいものの発見にもつながります。例えば、「いいね」がそんなについていなくても、すごく良いポストが見つかることもあって、そのときは、一気にショートカットして企画に役立つインサイトにたどり着けた気になります。
八武崎:他のSNSとの違いという点では、Xは特に文字単体、もしくは文字と画像の大喜利であふれていることかな、と思います。インサイトを探るという点では、昔よく使っていたものや、よくやっていたゲームなど、ユーザーが懐かしさで共感するモノは特に反応が良いと感じます。
小西:Xを見ながら、面白いと思ったトピックは「いいね」しています。いいね欄は、ネタ帳みたいになるよね。
大淵:会議のときは、いいね欄からネタを出すこともありますし。
小西:他にも、Xはタレントを起用するときの判断基準の一つになります。例えば、フォロワーがたくさんいる超有名人でも、その人についての発話が少ない場合、広告に起用してもそれほど話題にならない可能性があります。逆に、フォロワー数がものすごく多くなくても、熱量のあるファンが多ければ、広告に起用したとき発話が増えることもある。タレントのいろいろなポストに対して、平均してどのぐらいの人が反応しているのかをチェックすることもあります。
中川:タレント起用について、キャスティング会社から伝えられるフォロワー数だけを参考にしない、ということですね。ポストに対する発話量、いわゆる「エンゲージメント率」みたいなところも見て判断される、と。
辻:「アクティブフォロワー」みたいな概念があれば、クライアントへの提案に効きそうですけどね。
大淵:私は、コンテンツ系の企画をするときは、そのファンの文化性をXを通してなるべく丁寧にリサーチするようにしています。そのとき、ファンの雰囲気とか温度感だけでなく、やってはいけないラインというかおきてみたいなものや、よりファン心をくすぐる方法を学ぶことも少なくありません。例えば、「ファンは、このキャラクターがこんなことをしてくれたら、Xで突っ込んでくれそう」みたいなところまで見えると、企画の定着がより明確になります。
中川:インサイトを探るのと同時に、企画に対するファンの発話やリアクションが見えてくるわけですね。みなさんのお話を伺って、Xでのインサイトの発見が企画をブレークさせるための大きなカギになっていることが分かりました。本日はありがとうございました。