loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

月刊CXNo.12

Z世代のアイデアで新サービスを。偶然をつくり出す「ランダムマック」とは?

2023/03/28

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。

今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?

その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載。それが「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

今回ご紹介するのは、「マクドナルド」(以下:マック)の事例。新しいメニューに出会える「ランダムマック」は、どのように生まれたのか?プロジェクトにCXクリエイティブのアプローチで関わった、大淵玉美氏に話を聞きました。

大淵氏は1990年代後半生まれのZ世代。今回のプロジェクトでは「Z世代ならではのアイデア」が求められたといいます。Z世代チームのアイデアが集結した「ランダムマック」プロジェクトの成功要因に迫ります。

※CXクリエイティブとは……クリエイティブの力を使って、価値ある新しい顧客体験を生み出すこと。また、その取り組み。

 
大淵氏
【大淵玉美氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
アートディレクター/UIUXデザイナー
デザインブティックを経て、電通へデジタルクリエイティブ職入社。情報整理・編纂をするグラフィックワークが好きで、複雑な事象をデザインという明るいアプローチで解きほぐすことにワクワクする。最近ではウェブサイト、アプリといったUIUX開発や、キャンペーンにおけるSNSプランニング・アートディレクションを担当することが多い。

【「ランダムマック企画」他クリエイティブメンバー】
木津孝次郎(第4CRプランニング局)・小西慶(第1CRプランニング局)・八武崎凌平(第2CRプランニング局)・辻健太郎(第4CRプランニング局)・小林麻里奈(第1CRプランニング局)

 

30種類以上のハンバーガーがあるのにいつも同じものを食べてしまうインサイト

ランダムマック画像

月刊CX:「ランダムマック」とはどのようなプロジェクトだったのでしょうか。

大淵:広告などに掲出されたQRコードを読み込むと「ホットアップルパイ」「エッグチーズバーガーセット」というように、単品やセットメニューが表示され、メニュー選びの助けになったり、今まで食べたことのないメニューと出会えるという企画です。

ステップ
予想できないメニューに出会える新しいオーダー体験のステップ

大淵:このプロジェクトでは、広告展開でも新しいチャレンジをしました。まずキャンペーン期間中、首都圏と地方都市を中心に屋外広告「LIVE BOARD」(以下:ライブボード)などに掲示したほか、Twitterでも動くQRコード付きの投稿を行いました。屋外広告の映像は176本制作し、東京や九州など地域に応じて、時間や曜日、天気や気温でも出し分けました。

参加シーン
全国53カ所の屋外広告でランダムマックを展開
全国53カ所の屋外広告でランダムマックを展開
時間・曜日・天気・気温に応じて屋外広告上のメッセージを出し分け
時間・曜日・天気・気温に応じて屋外広告上のメッセージを出し分け

月刊CX:展開含めてとてもユニークな企画ですね。

大淵:元々この企画は若手クリエイティブチームの社内競合から実施につながった案件でした。クライアントからの要望は、公式アプリの一つの機能である、注文と決済がすべて完了するサービス「モバイルオーダー」の利用促進です。「モバイルオーダー」を使ってみたいと思えるような、話題になる施策を考えてほしいというお題をいただいていました。

また、屋外広告ライブボードを使用する条件付きで、シチュエーションとしては都心店舗のランチタイムに使用したくなるようなCX設計が必要でした。さらに「Z世代ならではのアイデアを」ということで、斬新なアイデアを期待されていた状況だったんです。そのぶん自由度が高く伸び伸びと考えられる環境でしたね。

月刊CX:その中で「ランダムマック」のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。

大淵:私を含めて20代前半〜後半のチームメンバーで会話をしているときに、いつも同じものばかり食べてしまい、冒険できない悩みがあるという話題が出てきたんです。そういえば私自身も、小学生の頃からチーズバーガーが好きでそればかり食べていたなあと。マックのハンバーガーって30種類以上あるのに注文はいつも同じ、ここに隠されたニーズがあるのではと思いました。

月刊CX:確かにたくさん選択肢があるがゆえに冒険できない、そのようなマンネリ化はあるような気がします。

大淵:そうなんです。SNSでもリサーチしたところ、思いのほか同じ悩みを抱える人が多くて、切実なインサイトがあることに気づきました。そうした状態をチーム内で「マック心理」と定義しました。会話の中でぽろっと出てきただけですが、友達に話してみても「分かる!」とすごく共感を得られたんです。

月刊CX:「マック心理」という言葉は消費者のインサイトを言い得て妙だなと思います。

大淵:みんなが共感できる言葉の定義ができたことも良かったです。クライアントにも、自分たちの体験談を交えつつ「マック心理」という言葉を使ってプレゼンしたのですが、一発で分かってもらえました。だからこそ、そうしたインサイトにどのように応えるかが肝心でした。

月刊CX:チーム内では、どのようにアイデアを形にしていったのでしょうか。

大淵:チームの中で、「話題化させるだけじゃなくて、しっかりと『モバイルオーダー』を顧客に使ってもらえるようなアイデアの強度は持とう」と話していたんです。いちユーザーとしてマックの「モバイルオーダー」はすごく便利だと感じているので、サービスを知ってもらうだけではなく、その便利さが伝わるCXを広告施策の中に装置として盛り込もうという方向で固まりました。

QRコードを使って「モバイルオーダー」に遷移させるという基本的なアプローチではありますが、そこをどれだけ引き算してゲーム性を持たせるか検討を重ねる中で、最終的にうごめくQRコードという形になりました。

変動するQRコードを発明。QRコードを読み込むと予想できないメニューが表示される(掲出動画から抜粋)
※本キャンペーンは終了しております


大淵:チームメンバー内でのブレストでは、誰かのアイデアにどれだけ自分のアイデアを組み合わせられるかを念頭に置いて検討しました。誰かひとりのアイデアというよりも、チームのアイデアが乗っかり合って生まれたものでした。

普段のチームでは、それぞれの役職に応じた役割に従ってプロジェクトを進めることが多いのですが、ランダムマックでは全員が肩書に縛られず意見を出しました。プランニングやデザイン、コピーまでも突っ込んでディスカッションしながら進められたことが、若手チームならではだと感じましたね。

プレゼン時にはクライアントも「日本だけじゃなく世界中でも面白いといわれるワールドワイドアイデア」だと共感してくださり、プロジェクトを進めることができました。

偶然性を与えてマンネリを打破するサービスが求められていた

月刊CX:「ランダムマック」の反響はいかがでしたか?

大淵:キャンペーン期間を通して2801万人にリーチし、参加者は207万人と、とても大きな反響がありました。屋外のライブボードから参加してくれるユーザーも多かったのですが、特にSNSではさまざまなユーザーの声を見ることができました。

大淵:サービス提供前にマクドナルド公式Twitterで「いつも同じメニュー頼みがち…」というティザー投稿をしたんです。すると、リツイートが7000以上、「いいね」が9万以上(2022年4月7日時点)と、ものすごく多くの方が反応してくれました。みんな同じことを考えていたんだと実感できたのはうれしかったです。

月刊CX:外部が「頼みがちでは」と提案するのではなく、公式アカウントが言うことでメタ的というか、パワーのある投稿だなと思いました。

大淵:われわれはSNSも担当していたんですが、この投稿だけは絶対最初にしようと決めていました。反応を見ても「自分たちのことを分かってくれている」など好意的に受け止めてくれる方が多かったです。この投稿をきっかけにユーザー同士で「いつもチキンフィレオ食べている」「ビッグマックばっかり」みたいなアピール合戦も起こっていて、ユーザーが思わず口に出したくなるようなコミュニケーションづくりができたのかなと思いました。

公式アカウントの投稿に対して、多くのユーザーがコメントで反応
公式アカウントの投稿に対して、多くのユーザーがコメントで反応

月刊CX:くじ引きで旅行先を決めるキャンペーンなどランダム性を生かしたコンテンツが近年増えています。「ランダム」が世の中に評価される理由についてはどのように分析されていますか?

大淵:コロナ禍ということもあり、予定調和的な毎日が続く中で、そのマンネリを打破するものが求められているからではないでしょうか。近年台頭してきている音楽配信サービスやマッチングアプリなども、ランダム要素のあるレコメンド機能が評価されるなど、想定外のものに出会いたいという渇望は若い世代に強くあると感じます。

Z世代中心のメンバーで進めたプロジェクトが「ランダムマック」に行き着いたのは、そういう感覚があったのかもしれませんね。

月刊CX:大淵さん自身もランダム性のあるサービスはよく利用しますか?

大淵:サービスではないですが、人からおすすめされた本やお店で流れている音楽、しおりのない旅をすることでの出会いは大切にしていますね。同世代の友人たちを見ていても、やはり自分では選択しないようなものとの偶然の出会いを求める気持ちはあるように感じます。Z世代はランダムに新しい曲に出会うような感覚で、カジュアルに自分と何かとの新しい関係を楽しめるような世代なのかなと思っています。

私は今までチーズバーガーばかり食べていたのですが、今回の「ランダムマック」で初めて「サムライマック」を食べてそのおいしさに感動しました(笑)。苦労して取捨選択したものだけが思い出深くなるかというと、必ずしもそうではない。パッと試してみて好きになる最初のきっかけをどうつくるか、その体験をどう演出するかが大事なのかなと感じましたね。

多くのユーザーがランダムマックで表示されたメニューをツイートした
多くのユーザーがランダムマックで表示されたメニューをツイートした

日常を新しい語り方で伝える“編纂(へんさん)”のアプローチ

月刊CX:今回の企画は顧客の体験づくりにおいて、かなりキャッチーかつ成功した事例だったように思います。大淵さんがCXクリエイティブで心掛けたことを教えてください。

大淵:新しいストーリーでアイデアを伝えるということに尽きるかと思います。情報を整理し、体験をデザインする。その過程にこだわることでうまくCXに落とし込めたのではないかなと感じています。企画を進める上で“編纂”という言葉を秘めて大切にしていました。

月刊CX:“編纂”、ですか。詳しくお聞かせください。

大淵:私なりの解釈ですが、“編纂”は「既存の要素を独自の視点でアレンジ・コラージュし、新しいストーリーを紡ぐ」ということを意味する言葉だと思っています。日常から導かれたアイデアを、そのブランドらしさを生かしつつ、「新しい体験」として仕立てるアプローチが大切なのかなと。「ランダムマック」はそうした伝え方を大事にしていたことで、ユーザーにも楽しんでもらえる企画につながったと感じました。

月刊CX:ありがとうございます。最後にこれからチャレンジしたいことを教えてください。

大淵:今回の企画で、私の中で何か偶然性のある出会いをつくる楽しさが芽生えたので、その体験を他の企画でも開拓していきたいですね。またその一場面の装置にとどまらず、長く世の中に愛されるものとして定着させていくことが私のチャレンジになるかなと。「ランダムマック」もこの企画にとどまらないで、ブランドに長く根付く体験になってほしいと思っています。

※QRコード®︎は、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

(編集後記)

月刊CX第12回では、2022年4月に実施した、顧客がマックで新しいメニューに出会えるお手伝いをする「ランダムマック」プロジェクトについて紹介しました。

予定調和的な日常が続く現代において、マンネリを打破するきっかけが求められているからこそ、ランダム性を持つサービスが受け入れられたのではという大淵氏の分析は、大きなヒントかもしれません。Z世代を中心としたメンバーから生まれたという点でも、この時代を象徴するような事例だったのではないでしょうか。大淵氏が語る“編纂”といったアプローチのように、いろいろな姿勢がCXクリエイティブには秘められていそうですね。

今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、興味がおありでしたらそちらも併せてご覧ください。

また今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記のお問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

月刊電通報ロゴ
月刊CX編集部
電通CXCC 小池 小田 高草木 金坂 奥村 大谷
Twitter