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右脳と左脳で考える、広告会社とコンサル会社の未来No.2

「パーパス」とは「ウチの会社らしさ」の究極形である

2022/06/22

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グラフィックレポート&挿絵:甲斐千晴(電通グラレコ研究所 代表)

企業を知るには、組織の存在意義を示した「パーパス」を見るとよいと言われます。しかし、いざパーパスの中身を見てみると、何かを言っているようで言っていない、当たり障りのない内容が書かれているのを目にした人も多いでしょう。

パーパスの策定がうまくいっている企業は、消費者から「商品と企業の思いが紐づいている」と安心感を得られますし、従業員のエンゲージメントにも成果が出ているように思います。

そしてこの数年、日本でもパーパス策定が注目されています。パーパスを“流行り”で終わらせないために、本記事では気をつけるべき3つのポイントを、電通コンサルティングの加形拓也が紹介します。

<目次>
“誰でも言える「PMVV」“が流行中

広報だけにPMVV策定を任せないことが重要

パーパス策定のPoint 1:まずは”全社プロジェクト”に

パーパス策定のPoint 2:「自社の中を見る」前に、未来の社会を見る

パーパス策定のPoint3:未来の具体アクションを考えることで究極の自社らしさを追求する

「パーパス+事業アイデア」をセットで会社の資産にしよう

“誰でも言える「PMVV」“が流行中

「PMVV」とは、これまでのミッション・ビジョン・バリューに「パーパス」を加えたものです。最近、「新しいPMVVを策定しました」と発表する企業が非常に増えています。

パーパスを軸にしたコンサルティングを行うエスエムオー社の調査によると、プライム上場企業の中で公式に「パーパス(もしくは英語でPurpose)」を掲げている企業は、91社に上っています(2022年5月現在)。

パーパスへの注目がこれまで以上に集まっているのは、同じ業界の競合企業を見たときに、技術のキャッチアップがあまりにも速くなったことにより、似たようなサービスが増えてしまったからです。同時に顧客も成熟したことで、モノを買う行為がただの「購入」ではなく、自分のお金を“投票”に見立てたような「清き一票」の要素を強く持つようになってきました。

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そのような心持ちの顧客が、企業を見つめたときに感じるのは、「そもそもこの会社って、何のためにあるんだっけ?」という問いです。つまりミッション、バリューをより深く突き詰めた企業の存在意義である「パーパス」に、顧客も目を向けるようになっているのです。

ちなみに企業というのは実際には存在せず、実際に存在しているのはそこで働いている「人」そのものです。よって働く人たちも、自分たちの存在意義である「われわれという存在はなんなのだろう」ということを深く考えるようになりつつあります。

問題は、このパーパスの中身が実にふわっとしている企業が多いことです。

現代は「デジタル・ボルテックス」の時代に突入しています。ボルテックスとは、直訳すると「渦」のこと。デジタル技術の進展により、企業がデジタル化の渦の中に巻き込まれ、淘汰(とうた)されています。企業はこれまでの「業界での勝ちパターン」に安住することが許されず、今や「自分たちの業界/業態はいったいなんなのか」と常に問い続けて変化することが求められています。

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そして、次に起きるのは、企業が生き残りのために業態を変化させた結果、顧客のどのニーズに応えたいかが可視化しにくくなるといった状況です。

例えば、ある企業にもともと独自の特徴(実は強みとなる点)があったとします。しかしデジタルの進化など時代の流れの中で、その特徴(強み)から脱却しながら、同時にパーパスも作ろうとすると、うっかり「お客様志向」や「次の時代の」「新しい」といった「結局何を言っているかわからない」要注意ワードを掲げてしまうことになります。

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せっかくのパーパスなのに、何かを言っているようで何も言っていない。そんなふうになっていないか、あなたの会社のパーパスも、ぜひ一度確認してみてください。

広報だけにPMVV策定を任せないことが重要

実際の企業で「パーパス策定」を任されることが多いのは広報担当です。なぜなら、パーパス策定後の内と外のコミュニケーションを担うのは、多くの場合、広報になるから。そこでどうしても「中期経営計画はこのようになります。だからそこを踏まえて、いいあんばいの言葉でパーパスを考えてください」と、経営陣から頼まれる状況が多くなってしまうのです。

“広報が任されがち問題”の傷口をより広げているのが、昨今の企業のホールディングス化です。ホールディングスの広報担当者が各事業会社の役員を束ねていくことは容易ではありません。

広報がそのような立場では、作られたパーパスの内容も上から言われるままにたたかれ、磨かれることで、まるで“丸い石”のようになっていきます。最終的に社内のどこからもたたかれないアウトプットを作ろうとすることで、具体的な内容がどんどんそぎ落とされる方向に進んでしまうのです。

そのようにしてできたパーパスを見てみると、内向きには「具体的には何をすればいいのか分からない」ものとなり、外向きにも「他の会社でも言える内容」になってしまいます。

このような悩みは、付き合いのある企業のどの広報担当の方も痛感していました。「それなら、どうやって進めたらいいんだよ!」という悲痛な声を何度もうかがいました。そこでパーパスが“丸い石”のような内容にならないように、3つの対策ポイントをお伝えします。

パーパス策定のPoint 1:まずは”全社プロジェクト”に

パーパス策定ポイントの1つ目は、とにかく「頑張って全社マターにすること」。次に、「プロジェクトの範囲を狭めず、チーム編成に気をつける」です。方法論としては、以下の2点になります。

1)PMVVの再定義は手段。会社の未来をつくるための「全社マター」と位置づける

PMVVの再定義は、企業が新しい歴史をつくっていく第一歩です。新しい事業や会社の方向性、世の中に対しての在り方を含め、真剣に内容を詰めなくてはなりません。

この再定義を言葉に落とし込むのは、広報担当だけでは到底、無理な話です。ホールディングス化している会社ならばなおさら、各事業会社に分かれていたり、それぞれの専門性を持ったりしているメンバーが、言葉を考えるのではなく会社の未来について考える、といった形でプロジェクトの範囲を広げ、全社マターにしていくことが大切です。

そのため、当社で付き合いのある広報担当の方に、「一緒にパーパスの言葉を作ってください」と言われたときは、基本的にそのままではお引き受けしないようにしています。

とあるメーカーのケースでは、社長にも稟議してもらい、「言葉の着地」にとどまらず、より大きなプロジェクトとして新しい事業アイデアを同時にアウトプットできるよう、具体内容を考えながら進めました。その結果、いくつかの新事業が生まれる、という成果にもつながっています。

2)多様なメンバーを巻き込むことを怖がらない

次に大事なのは、PMVV再定義を検討するメンバー集めです。大切なことは、「あの人に根回ししておかないとマズい」「あの人が納得して動いてくれたら、話がスピーディーに進む」と思われているような、各事業会社の根幹を担うベテランを怖がらずにプロジェクトチームに入れることです。

プロジェクトチームには若手メンバーも入った方がよいでしょう。しかし若手ばかりそろえるのは禁物です。PMVV再定義の目的は「無難なPMVVを作って着地させること」ではなく、「PMVVの策定プロセスと新しい未来の構想プロセスを一緒に行うこと」です。もっと言うと、究極の目的は「本当に新しい未来を実現させること」。会社の苦い部分も熟知している専門性のあるベテランを巻き込むことで、その先の果実を得られるようになります  。

パーパス策定のPoint 2:「自社の中を見る」前に、未来の社会を見る

次はプロジェクトの進め方です。

「パーパス」=「ウチの会社の存在意義」になるので、策定の際、一般的には会社の歴史や資産の分析から入るケースが多くなります。もちろん、これらも必要な要素ですが、わたしは「話し始めるときの順番」が大変重要だと考えています。

社内のさまざまな立場の人が集まって自社の話をすると、結局話題が会社の枠組み・しがらみから脱却できません。各々の部署に縄張りのある人が集まるため、縄張り内の話題に終始してしまい、それぞれが部分最適の答えを出してしまう。話題が未来志向にならないのです。

そこで、メンバー全員が同じ方向を見られる仕組みをつくることが大切です。よく「はじめてのデートをするなら、テーブル席よりカウンター席」と言われます。人間関係が深まっていないうちはお互いが向かい合うよりも、カウンターの向こうで起きることを話題にする方が、結果として話も弾み相互理解が深まるからです。

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PMVV策定のメンバーに見てもらいたい景色は「未来」です。カウンターの向こう側を「未来」に設定するのです。そこで電通が活用しているのが、「電通未来曼荼羅(まんだら)」です。

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「電通未来曼荼羅」は毎年のように更新され、近未来の社会がどのように変化するのかを72のテーマで網羅しています。

プロジェクトの始めにまず、曼荼羅をそれぞれの視点でプロジェクトメンバーに見てもらう。すると、「自分の会社なら、このように変化する社会に対してどのような存在意義をもてるのか?」と自社に引きつけ てその先を考えられます。

「社会がこんなふうに変化するなら、ウチの会社の資産の一つがこう使えるのでは?」

未来志向の話ありきで話を始めると、社内に隠れていた素晴らしい資産が飛び出してくる様子を何度も目にしてきました。プロジェクトが一気に盛り上がる瞬間です。ある食品会社では、下記のような会話が実際に展開されました。

A氏「世の中は大量生産から本当にパーソナライズされた世界に変わるよね」
B氏「Amazonのリコメンドがパーソナライズされているなら、口に入るものもパーソナライズされてないとおかしくない?」
ベテランC氏「ウチの冷凍食品も大量生産に見えるけど、高齢者施設向けにアレルギー対応している。そういえば、多品種少量の生産ラインがあったよね?」

そもそも、パーパス・ミッション・ビジョン・バリューの定義は、実は上記のような具体的な内容が出ていないと、話し合えないものです。「ウチの会社は結局どのような未来に向かって進むのか?」という結論を出すには、具体的なアイデアをあわせて組み立てる必要があるからです。

ちなみにわたしたちがサポートする場合は、経営陣も「生煮えの議論」に加われるように調整を行います。多忙を極める社長、副社長クラスも、「ワークショップのここの時間で登場してください」と調整を行うことで、要所で議論に加わってもらうのです。

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パーパス策定のPoint3:未来の具体アクションを考えることで究極の自社らしさを追求する

最後は、未来の具体的なアクションをPMVVとセットで考える大切さについてお伝えします。

大切なのは、未来の社会変化から機会領域を見つけ、その企業が紡いできた資産と照らし合わせ、「具体的にどんなアクションをするべきか」を一緒に考えること。

未来に向けての自社の存在意義、これこそがパーパスですが、抽象的な言葉の議論だけでこれを定義していくと、冒頭にお伝えした「ふわっと」したパーパスになってしまいます。2歩、3歩踏み込み、「では、具体的にわたしたちはどんなアクションを起こしていくのか」ということまで考えることで、はじめて自社らしさがあぶり出されてきます。

アイデアをどこまで詰めていくか、は企業・プロジェクトによって異なります。PMVVの再定義と同時に、未来の基幹事業となりうる事業アイデアを相当な期間・工数を使って考える場合もあります。結果としてPMVVが再定義されただけではなく、プロジェクトの中で考えたアイデアから実際に世の中に出る事業がいくつも出た例もあります。

時間の制約やプロジェクトの位置づけからもっとライトに「例えば、こんなことを」のレベルで行うこともありますが、いずれにせよ大切なのは、プロジェクトの中でしっかりステップを設けて具体案を考えていくことです。

発散させたアイデアの中で、われわれが本当に進むべき道は何だろうかと落とし込んでいくこと。そのアイデアは自社が持っている資産を活用できるか、自社が掲げてきた価値観に合うかどうか、ビジネスとして収益が出そうか。この絞り込みの過程で「自社にしかできないこととは?」や「競合企業にはできないことは何か?」という議論が出てきます。闊達(かったつ)な議論がなされた後に、はじめて「どっちの方がウチの会社らしいだろう?」という究極の判断をすることになります。

例えば、あるメーカーではこの過程で「では、これからわたしたちが取り組もうとしているスマートシティ事業ではどんなことを行うのか」という議論を行いました。非常に幅広い技術を保有する会社でしたので、「スマートシティ」をどうとらえ、技術をどこに適用していくのか、当初は優先順位をつけられなかったのです。

議論を深めていく中で、この会社は地方で創業し、多くの工場や営業所が地方にあることから経営者、社員の多くが地方での生活が長く、少子高齢化、都市への一極集中によって地方が衰退していくことに対して強い危機感をもっていることが分かりました。

地方の衰退に対して自社ができることはあるか、とさらに問いを深めていくと、農業のスマート化やオートメーションに寄与する技術など、これまでは俎上(そじょう)に上ることがなかった隠れた資産が見えてきました。競合に対する優位性もあることが分かり、自社でしかできないことが研ぎ澄まされていったのです。

社員の多くが地方に「ふるさと」と呼べる土地を持つこの会社が決めたパーパスには、自社の技術やデジタルの進化を活用して、地方の活力や豊かな自然を守っていく、という決意が盛り込まれました。

「パーパス+事業アイデア」をセットで会社の資産にしよう

このようなプロセスを経て、蒸留酒の澄んだ一滴のように、絞り出した言葉に落とし込んだものが新しいPMVVです。さらに結果として、PMVV策定過程で出てきた新しいアクション施策や事業のアイデアが残りました。範囲を狭めず、多種多様なメンバーによって勇気を持って話し合われた内容は、PMVVの言葉のみならず、研ぎ澄まされたアイデアもセットで会社の資産になるのです。

これまで多くの企業と伴走させていただきながら、PMVVの策定をしてきました。プロジェクトを通じていつも湧き出てくるのは、ここまでイノベーションを繰り返しながら歴史を紡いできた企業に対する尊敬の念です。

過去・現在にいかに多くの方が勇気をもって創意工夫を積み重ねて社会に貢献してきたか、をじかに伺い、言葉・アイデアを紡いでいくプロセスはこれまでになく貴重な時間になります。

一方で、多くの企業が、激しすぎる社会変化や組織ならではの縦割りの弊害に直面して苦しんでもいます。先ほどデートカウンター効果について紹介しましたが、ぜひカウンターの先にいるバーテンとしてわたし たちを呼んでください。いいお酒を出す代わりに、いい未来を一緒に考えられるパートナーとなれるよう、多様なメンバーが日々鍛錬を続けています。

ちなみに、電通コンサルティングのパーパスはこちらです!
https://www.dentsuconsulting.com/company/

Special thanks : 横山由希路(記事構成)

 

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