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未来は「待つ」のではなく「創る」!未来思考で変える日本のキャリア教育No.1

あったらいいな、を仕事に。14歳が芽吹かせる「未来職」とは?

2022/07/27

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「将来なりたい職業」や「自分が大人になった未来」を今の子どもたちはどのようにとらえ、そして企業や大人は彼らにどんなサポートをしていけるのでしょうか。

電通のグループ横断組織「未来事業創研」と「日本テレビR&Dラボ」は、共同で未来の職を考えるワークショップ「14歳の未来職学校」を実施しました。どんな仕事につきたいかを今ある職業から「選ぶ」のではなく、向き合わなければいけない課題や誰かを喜ばせるためにやるべきことを起点として「創り出していく」取り組み。つくば市立みどりの学園義務教育学校8年生(中学2年生)の生徒87人が受講しました(概要はこちら)。

新たなキャリア教育の一手ともなる企画はどのように生まれ、実施へと進んだのか、本企画を主導した日テレR&Dラボの土屋敏男氏と電通未来事業総研の吉田健太郎氏が対談。企画の背景にあったそれぞれの課題感やアイデアの源、ワークショップから大人たちが得た学びなどについて語り合いました。

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「14歳が大事」から企画が加速。“未来の課題”を教えるのではなく、未来を創るためのキャリア教育を

吉田:「14歳の未来職学校」は、未来事業総研の発足直後にR&Dラボから連絡をいただき、一緒に何か発信ができないかという話からスタートしました。R&Dラボは僕自身がもともと「テレビ局が、いろんなところとつながりたいnote」などを拝見し、面白い取り組みをしていると注目していましたが、普段はどんなことをされているのでしょうか?

土屋:そもそもは、5年半前に当時の社長の大久保が「日本テレビは番組を作る『メーカー』なのだから、やはり研究部門がないといけない。それも、未来に向けての取り組みや、モラルの研究、番組開発をする部門が必要だ」と言って発足した組織が前身です。当時は視聴率分析のチームと合同だったのですが、その後、将来への価値のようなものを探究していく専任チームとしてR&Dラボができました。

吉田:「メーカーである」という会社の立ち位置の置き方と、「ものづくりをするためにはコアになる強みを開発しないといけない」という発想が非常に面白いですね。
今回、当初は未来に起こりえる明るいニュースを真剣に配信するような企画を考えていましたが、議論の中で今の子どもたちは“未来の課題”ばかりを教えられているという話が出た。それだと「課題をどうにか減らさなくてはいけない」という思想になっていき、未来に対する希望が生まれにくくなります。さらに中学校では個別最適化されたキャリア教育の手法に悩んでいるという情報が入ってきて、「未来職学校」のアイデアが出てきました。

土屋:僕も未来が明るくないと思っている子どもがかなりの割合に上るという資料を見た時、非常にショックを受けました。それは間違いなく大人の責任ですし、大人がきちんとしていかないと駄目だと強く思いましたね。僕は以前から「14歳」が子どもから大人になるとても大事なタイミングだと思っていました。そこで「(企画の対象者を)14歳にしよう」と提案したり、内容の話をさせていただくうちにプロジェクトリーダーと呼ばれていて(笑)。

吉田:土屋さんが「14歳にしよう」と言われた時のことはとてもよく覚えています。僕も子どもたちが未来をネガティブに感じている状況をどうにか突き崩せないかという課題意識は持っていましたが、土屋さんは「14歳が大事」と明確に出してきた。定量的なロジックがなくてもなぜか説得力があって、企画が一気に加速したように思います。

土屋:「中二病」というロングセラーのはやり言葉がありますよね。中学2年生って、それまで学校の中で生きてきた子どもが、「自分は社会の一員なんだ」と気づき始める年齢なのだと思います。その社会に目を向けた時に、今の子どもは絶望して「僕らの未来、暗くない?」と思ってしまうのではないかと。そうではなく「未来は今中二の君たちが作るのだから、君たちが考えるんだよ」とポジティブな方向を示唆できたらいいと考えました。

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“当たり前”を壊し、「ないものを考える」ワクワク感を届けたい

土屋:僕らが未来を考える場合、どうしても「老後の世界」を想定してしまいますが、14歳が考える未来は、自分たちが大人になった時どうするのかの話でとてつもなくリアリティがあるんですよね。彼らと初めてリモートで話をした時、そのリアルの“強度”みたいなものに気づきました。

吉田:確かに、僕も今後の仕事を考えるときどうしても「本当にやりきれるのか」や「どうコミットメントするのか」といったことが頭をよぎってしまいます。けれど、中学2年生であれば、いったんそこはおいといて、本質的に何をしたいのか、何をすると未来がよくなるのかだけを考えられる。そうした自由を前提で何かを考えるシーンが、現状教育の中であまりに少なすぎるように思いますね。

土屋:そうですね。僕自身がテレビ番組をずっと作ってきて、「今ない番組を考える」ことが僕自身のコンセプトでもあったので、「今ないものを考える」ことのワクワク感を子どもたちにも知ってほしかった。そもそも、YouTuberだって、昔はそれが仕事になるなんて誰も考えていなかったわけですからね。

吉田:なりたい職業を、なぜ今あるものから決めなくてはいけないのかは、打ち合わせ中も指摘されていましたよね。そういった“当たり前”を壊すことは、とても価値がありますし、いいアプローチだったと思っています。特に中学2年生は10年後くらいに大学を卒業して社会人になっていく年頃。14歳の時に、こうした未来の考え方を伝えて、ポジティブな思いを作っておくことは、今までと違う視野を持てることにつながるのではないでしょうか。

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「虫農家」に「アニマルスピーカー」。子どもたちの内面から、多彩な仕事の“種”が生まれる

吉田:企画の実施にあたっては、みどりの学園義務教育学校との出合いが非常に大きかった。

土屋:さすが電通さんだと思ったところですね。ワークショップをするなら、学校はどうする?と話した次のミーティングで、もう学園の担当者が出席していたという。

吉田:電通の担当者の一人がみどりの学園の校長先生(現在は退任 )と知り合いで、「すぐ興味を持ってもらえますよ」と話をつけてくれました。同学園は公立校なのに、校舎はきれいだし、小学生がとてつもない勢いでプログラミングやプレゼンをしていて驚きました。この企画を進めるにあたってのハードルがほとんどなかった。加えて、メンターとして非常に多くの方に協力いただけたのも、大きな利点だったと思います。

土屋:電通さんの中では、確かクリエイティブもそれ以外の分野でも、いろんな方がメンターに立候補してくださったとか?

吉田:はい、やりたい、やりたいと(笑)。
結果的にメンターとして電通約20人、日本テレビさん約10人の計30人くらいに関わってもらえ、学校関係者の方も喜んでくださったいい取り組みになりましたね。

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※日テレR&Dラボ公式YouTubeチャンネル「14歳の未来職学校(ロングバージョン)」よりキャプチャ

土屋:そうですね。ワークショップ時のルールは、「今ない職業を考える」ことだけ。そこで「あなたなら何をしますか?」と聞かれ、生徒たちそれぞれが自分の“内側”を探ることになったのだと思います。そこから生まれたものが、例えば「虫農家」だったりした。彼はたぶん虫好きで、どこかで昆虫食って文化があることを思い出して、虫を専業にする農家を作ったらいいと考えたのでしょうね。そんなふうに「今ないもの」のコアを自分の中に探してもらったら、全員から全く異なるアイデアがたくさん出てきて興味深かったですね。

吉田:確かに、87人が参加して「似たような案が多いな」と感じることはありませんでした。学校のキャリア教育でいうと、中学校にはもともと職業体験や、会社訪問の形で「こんな仕事がある」と大人から話をする場があります。けれども、今後は個別最適化されたキャリア教育として各自の個性や強みをいかに生かし伸ばしていくかを考えなくてはいけない。その中で虫農家や、別の子が提案した動物と人間をつなぐ「アニマルスピーカー」などは、まさに個性の表れだったと思います。

土屋:外から課題を伝えられたのではなく、自分の中の種からスタートしているので、今回のアイデアは生徒たち自身の中に残るでしょうし、10年後も持っていてくれる子がきっと何人もいるだろうと感じました。

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※日テレR&Dラボ公式YouTubeチャンネル「14歳の未来職学校(ロングバージョン)」よりキャプチャ

ワークショップを通して大人が実感した「褒める」の効力

土屋:今企画のもう一つのポイントは、メンターが子どもたちのアイデアを「まず肯定する」と決めたところだったと思います。とにかく褒めて、子ども自身に考えさせるルールにした。そこに対して先生から、「生徒たちが目をキラキラさせながら、『アイデアを褒めてもらえたのがうれしくて、もっと考えて、すごいって言わせてやろうと思った』と話していた」と言ってもらえたのはうれしかったですね。そういう意味で「コンバイナー」という、人間とアンドロイドをコンバインする仕事を提案した子のことは特に覚えています。

吉田:彼は僕も印象的でした。“コンピューターと人の融合”という話でしたよね。

土屋:彼が「コンバイナー」と発表をした瞬間の「俺はやったぞ」って顔と雰囲気が本当にすばらしくて、僕も「よし、いいぞ!」と思った。生徒たちは、自分の中から課題や新たな仕事の種を発見しながらも自信を持てずにいたところ、大人たちから「いいね!」と褒められたわけですよね。そこでもっと考えてやるぞと火がついて、プレゼンで「俺はやった」「私はやった」という体験ができた。それぞれのたった一行のアイデアに自信が加わったことで、その子にしかできない成長をする、本当にうれしい過程を見られた気がします。

吉田:おっしゃるように、成長の様子が素晴らしかったですね。“指導”をされると反抗したくなる年頃に対して、あのアプローチ方法は本当に良かったと思います。褒めたら、跳ねる。メンター側も、褒める前提で話を聞いているから「必ずどこかにいいところがある」という目でアイデアを見ていた。それは、世の中を良くするためにも必要な視点なのではないかと。

土屋:そうですよね。大人はどうしても指摘をしがち。社内の会議でもリスクヘッジの観点や「穴を見つける」みたいなことをしなくてはならない中で、「褒める」に焦点を置いたら相手が生き生きすることを発見しましたよね。

多彩な会社と「バトンを渡す」場を広げたい

吉田:中学2年生に向けて「今ない職業を考えよう」と投げかけることは、おそらく彼らにとって相当意味があると思いますし、“これから”を考えることで、人生における一つの楔になったのではないかと思います。今回の企画をふまえ、土屋さんは、今後どんなところにフォーカスをあてて次の取り組みにつなげるとよいとお考えですか?

土屋:今回、参加してくれた生徒一人一人の中に、何か一つ未来に向けた種を生むことができた実感がありました。できれば日本中の14歳に「未来職学校」を体験してほしい。すぐには結果に結びつかないかもしれないけれど、自分は世界や未来を支える一員なのだと考え始めるきっかけにはなると思います。大事なのは、そこで大人たちが「未来に向けて僕が新しく何かをするんだ!」という子どもの「想い」を肯定し、「そうだ、君がやるんだ、頼むぞ!」というポジションで関係性を作れること。“教える”のではなく、彼らが「大人にバトンを渡された」と体感できる場を広げていけるといいと思います。

吉田:僕はこうした取り組みが企業側にも寄与できるポイントがあると考えています。例えばB to B企業の研究職や、車の部品のベアリングを作る人たちが何という職業なのか、子どもたちは知りませんよね。でも、こうした仕事があることが安全で快適な今のくらしや、これからの素晴らしい未来につながります。14歳くらいの時に、どんな未来に貢献したいかやどんな仕事をしていたいのかの輪郭が少しでも見えていると、就職活動時に「本当は技術系に行っておけばよかった」「本当はこんな勉強をしたらよかった」というような後悔をしなくなるのではないでしょうか。

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土屋:今回87人の生徒の多彩なアイデアがありましたが、企業の方から見ると「実は、うちの研究所でこのアイデアの延長線上の研究をしている」といったケースもあると思っています。そこで、同じ研究者として彼らと会ってくれるようなマッチングをしてもらえると、いわゆるインターンの会社見学や工場見学とは違った交流の仕方ができそうですよね。

吉田:はい、将来的には企業にとってもいい人材を獲得できたり、人材が育って裾野が広がっていくように思います。

土屋:一つのチームに日テレと電通それぞれの社員がメンターとして入って一緒にサポートしていたのもとてもよかった。企業の関わり方という意味では、多彩な分野の方がメンターとして参加することで得られるものもあると思います。

吉田:メンターで参加したい企業は多そうですよね。14歳くらいの時に、こういう取り組みをすることで心の中に自信の源みたいなものを作ってもらい、その源に少しずついろんなものを肉付けして大きくしていくようなところを僕たちがお手伝いできると、未来に希望が根付いていくと思います。そんなアクションを今回だけで終わりにせず、今後もぜひさまざまな企業とタッグを組んで続けていきたいですね。

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