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SDGs達成のヒントを探るNo.15

サステナブル時代、「蔦屋書店」がコミュニティになる!

2022/09/01

SDGsの達成やサステナブルな社会の実現のためのヒントを探る、本連載。今回は、蔦屋書店および、蔦屋書店を中核とした商業施設「T-SITE」の立ち上げを指揮する、カルチュア・コンビニエンス・クラブ 株式会社・蔦屋書店company メディア事業本部 本部長の鎌田崇裕氏にお話を伺います。

「循環型社会の実現に向けて、蔦屋書店はコミュニティになれる」と言う鎌田氏。店舗ごとにコンセプトを持つことの重要性、SDGsをお客さまに自分ごと化してもらうためのきっかけづくり、さらにリアルなメディアプラットフォームへの思いなどについて語っていただきました。

鎌田崇裕
蔦屋書店やT-SITEの出店をプロデュースしてきた鎌田崇裕氏。出店に先立ってマーケティングを行い、顧客が求めているものや地域のライフスタイルを探り、店舗のコンセプトを軸に、メーカーのプロモーションやコラボレーション企画の立案などを行っている。

蔦屋書店は、お客さまの「共感」を生むコミュニティになれる

──カルチュア・コンビニエンス・クラブは、「TSUTAYA」や「蔦屋書店」を運営しています。2011年に「代官山 蔦屋書店」がオープンしたときは、大きな話題になりました。鎌田さんはその立ち上げを指揮されたそうですね。

鎌田:代官山の蔦屋書店は、少子高齢化が進む中で、ペルソナを60代に設定して「大人の蔦屋」をつくろうとしました。いろいろな経験を積み重ねてきた大人が、アートやリビングライフ、旅、食など、さまざまなジャンルにおける成熟した文化を提案する場所と位置づけました。代官山の場合は、蔦屋書店を中核として個性豊かなショップがシームレスにつながる「T-SITE」という商業施設になっていることも特徴です。開店から10年以上たちますが、60代の方はもとより、幅広い年代の方に利用していただいています。

──鎌田さんは、代官山の他にも、藤沢、柏の葉、大阪の枚方、広島にもT-SITEを立ち上げていますね。蔦屋書店を中核とした商業施設をつくる狙いは何でしょうか?

鎌田:デジタル化など時代の変化によって、新刊の数は減り、雑誌は休刊・廃刊が相次ぎ、書店もどんどん姿を消しています。時代は変化していて、私たちも物販だけではやっていけません。もっと情報を発信したり、体験を提供したり、蔦屋書店を中核としたコミュニティをつくっていければ、お客さまの「共感」というものを生み出せるのではないか。それが、これからの蔦屋書店の存在意義だと考えていますし、実際、お客さまからもそのような役割を求められていると感じます。

当社は昔から「企画会社である」という考えのもと、「生活提案」を旗印に店舗運営を行ってきました。店舗によってはさまざまなテナントが入っていて、メーカーとのお付き合いもあります。T-SITEは、まちづくりの一翼を担っており、地域の公共団体などとのつながりも広がっています。これまで培ってきた企画力やネットワークを生かせば、「書店」という枠をもっと超えられるはずです。

さらに、私たちがメインで扱う本や雑誌などは編集スキルや探究心のアウトプットの場と捉えることができます。著者や編集者とタッグを組めば立体的な企画をもっと世の中に提案していけます。さらに、いろいろな有識者や各分野の第一人者と組んでコンテンツと連動した情報発信もできるはずで、そのような取り組みもすでに始めています。

サステナブル・SDGsの文脈でも、循環型社会の実現に向けて、蔦屋書店やT-SITEというリアルな場が貢献できることはたくさんあります。実際に、出版不況の昨今でも蔦屋書店の来店者数は減っていません。それは、お客さまもリアルな場での物事の発見や体験に価値を感じているからだと思います。

コミュニティをつくるためには、コンセプトが必要

──蔦屋書店やT-SITEがコミュニティとしての役割を果たすために必要なことは何でしょうか?

鎌田:どのような価値観や考え方のもとに店舗が存在するのかという、コンセプトをきちんと持つことですね。

コロナ禍前に商業施設でのイベントやワークショップを2年間で2000回ほど行った際に、2~3万人ものお客さまが訪れる様子を目の当たりにして、お客さまはリアルに楽しい体験を求めていることを実感しました。

しかし同時に、ただ面白いことだけをやっているのでは、その場限りのものになりがちで、面白いイベントがあるときだけお客さまが集まることになりかねません。それではお客さまと蔦屋書店との関係性や信頼感といったものが深まっていきません。ですから、各店舗ごとにコンセプトが必要なのです。これを店舗で働いている人、お客さま、取引先、さらには、世の中で情報発信している方と共有する。何をコンセプトにするかというと、店舗があるそれぞれの地域の住民の方の興味関心軸にアジャストするものです。

──T-SITEのコンセプトについて具体的な例を教えていただけますか?

鎌田:代官山に続いて、2014年に湘南T-SITEを藤沢に立ち上げました。これは反省すべきことなんですが、湘南T-SITEの開業当初は、「スローフード・スローライフを提案する一番の場所になる」というコンセプトを掲げました。当時はスローフード・スローライフが注目されていました。湘南T-SITEはFujisawa サスティナブル・スマートタウンの中にあり、海も近い。きっとこの地に住む人々のライフスタイルに沿っていると思いました。ところが、このコンセプトは、お客さまにも、T-SITEで働く人々にも、取引先にも全く浸透しませんでした。

湘南T-SITEでは、湘南のライフスタイルを発信しているカルチャー雑誌「SHONAN TIME」とタッグを組み、2019年に「湘南博」という企画を行いました。そのときは、「湘南が生んだもの」という間口の広いテーマで開催しました。当時は湘南T-SITEのコンセプトもそこで行うイベントのテーマも漠然としていたというか、住民の方の興味関心にしっかりアジャストしていたとは言い難い感じでしたね。

湘南博は第2回を、2022年4月29日から約1カ月間実施したのですが、企画を立てる際に、まず湘南T-SITEそのもののコンセプトを考え直す必要性があると感じました。

そこで再度、湘南T-SITEに来るお客さまのことを考えてみました。Fujisawa サスティナブル・スマートタウンは、再生可能エネルギー使用率30%以上、二酸化炭素を70%削減などの目標を掲げていて、先進的なインフラが整っています。各家庭は太陽光パネルで電気を賄うなど、サステナブルな暮らしを体現しています。

SDGsやサステナブルに共感する方が住まわれているのですが、住民の方にアンケートを実施すると、ごみの分別やビーチクリーンといったこと以外に、自分でできる身近なアクションが思いつかないという声が多かったんです。もう少し商圏を広げて調査してみても、SDGsやサステナブルなことへの感度は低くなく、サステナブルやエシカルな取り組みをしている方もいらっしゃる。しかし、それが地域の人々のアクションにあまりつながっていない印象を受けました。

そこで湘南T-SITEは、訪れる方にSDGsやサステナブルをもっと自分ごとと捉えて、アクションを起こすためのヒントがつかめる場所にしたいと思いました。そこから湘南T-SITEは、「サステナブルな循環型社会を目指す拠点になる」というコンセプトを掲げました。

 湘南T-SITE
湘南T-SITEは、蔦屋書店を中核として、個性豊かなショップがシームレスにつながる商業施設。湘南博では、地球と環境について考えるさまざまなコーナーが設置された。

──湘南T-SITEのテーマ設定は、地域のことをより深く考えることが必要だったわけですね。第2回湘南博では、どのようなことを行ったか教えてください。

鎌田:湘南博は、「湘南発、地球を考える」をテーマとし、同時期に発売された「SHONAN TIME」も同テーマで編集していただきました。雑誌の内容を湘南T-SITEで立体的に体験できる仕掛けです。湘南T-SITEでは、サステナブルな社会の実現に向けて取り組まれている方や企業の取り組みを、展示、販売、トークショーやライブなど「50のコト・モノ」として発信しました。

SDGsやサステナブルな社会というものを自分ごと化してもらうためには、地域の方々が興味関心のあることを扱う必要があります。そして共感してもらうためには、地域の方々がリスペクトしている方からの発信が大事です。ですから、そういう方をたくさん集めようとしました。

例えば、「本からの発信」というテーマで、SDGsに関する書籍をまとめたコーナーをつくりました。湘南はサーフカルチャーが根付いているということを意識して、サーフカルチャーの第一人者の著書を紹介したり、その方からの発信の場を設けました。訪れた方々がそのような情報に触れることで、「サステナブルって、こういうことなんだ」というふうに、視野を広げるお手伝いが私たちにできると思いました。

 湘南T-SITE

──「サステナブルな循環型社会を目指す」というテーマを定めて活動したことで、まわりからはどのような反響がありましたか?

鎌田:文化人や社会活動をされている方、SDGsやサステナビリティを掲げた商品を開発されているメーカーの方、さらには自治体などから、私たちに対する期待というものを大いに感じました。湘南博を開くにあたり、提案書をつくってお渡ししたら、多くの皆さまから、「いいですね、ぜひ参加したい」と言っていただけて、大いに励みになりました。

蔦屋書店はリアルなメディアプラットフォームになれる

──鎌田さんは湘南T-SITEの今後の姿をどのように描いていますか?

鎌田:湘南博のような取り組みは今後も継続していきたいですね。今度はシンポジウム型にしたいと思っています。平和のシンポジウムといえば、広島と長崎を思い浮かべる人が多いと思います。サステナビリティやSDGsのシンポジウムは湘南というイメージが定着するぐらいに取り組んでいきたいですね。

さらに、次回からはオープンプラットフォーム化することも検討しています。テーマごとに、もっといろいろな方や企業を募りたいし、高い意識を持ってSDGsやサステナブルな暮らしを体現されている、この地域の方を呼んでもいい。

私たちがなにもかも段取りするよりも、テーマに基づいた参画型のほうが、大きなうねりを起こせそうです。極端な話、1億2千万人がこういった思想をもって生活すれば、日本はサステナブルな社会になっていくわけですよね。ですから、一部の限られた人の思想を発信するのではなく、もっと幅広い発信や体験を企画していきたいです。

それから、千葉県の柏の葉にもT-SITEがあって、こちらは、藤沢より規模の大きいスマートタウンの中にあります。次回は湘南と柏の葉での同時開催も考えています。

──イメージがどんどん膨らみますね。コミュニティづくりや地域創生では、中身の部分がなかなか伴わず苦労するケースもあります。地域の方を巻き込んで文化をつくっていくコツや工夫すべき点は何でしょうか?

鎌田:それ、よく聞かれます。結局のところ、向き合うしかありません。それは、おそらく会社も同じじゃないでしょうか。新入社員と向き合う、社長と向き合う……。もし相手との間に壁を設けてしまうと文化は醸成されないと思います。

いろいろ取り組む中で、クレームを受けたりイヤな経験をすると、それ以上踏み込めなかったりします。でも、コミュニティづくりの目的は何かを考えてほしい。未来がより良くなっていくなら、みんなうれしいわけですよね。多少クレームがあっても多くの人に支持されているなら、進んでいくべきです。

反対に、取り組んでいることが大きな支持が得られない場合は、そもそも自分たちがやっている活動があまりタイムリーではない可能性があります。何か企画を立てるときは、いろいろなチャネルの方にマーケティングしますよね。僕は、「これはみんなが喜びますかね」ということを、普段の業務で苦言を呈してくれる人にも聞いて、その方が「いいんじゃない」と言ってくれたら一気にドライブをかける感じです。やっぱり向き合うしかない。まぁ、私の場合は、マーケティングと向き合うっていうことでしょうか。

私は蔦屋書店やT-SITEは、リアルなメディアプラットフォームになれると思っています。いろいろな人、企業、組織が情報を発信して、それが地域に波及し、アクションが起こっていく……。そこまで昇華させられたら、循環型社会の中での私たちの存在価値は高まるはずです。これからも蔦屋書店だからこそできることを模索して形にしていきます。

TeamSDGs

TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。

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