どうなる?日本のインバウンド~訪日客を増やすためのキーワードを探る~
コロナ禍を経て、ジャパンブランドはどうなったのか?
今後どのようなビジネスチャンスが生まれそうなのか?
2022年に大きくリニューアルした海外中高所得者層向けの電通独自調査「ジャパンブランド調査」(概要はこちら)の最新データを見ながら、ジャパンブランドの現状と、今後の日本のポテンシャルを探る本連載。
前回は世界の海外旅行気運と旅行先としての日本の人気の高まりについてお話をしました。今回は、実際に日本に来てもらうために必要なことは何か、日本の今後のインバウンドを回復させる方策について、ジャパンブランド調査の結果をもとに考えたいと思います。
日本で何をしたい?~“自然”へシフトしつつ、国・地域ごとに細分化するニーズ
前回の記事で「海外旅行で重視すること」として“自然”体験への関心が高まっていることをお伝えしました。「関心のある訪日体験」について聞いた質問でも、「自然・景勝地観光(森、渓谷、河川、海辺等)」「四季の体感」「自然・景勝地観光(日本式庭園)」といった自然に関する3つの項目がトップ3を占めています(データ①)。
コロナ前(2019年調査)にトップだった「食」は、今回の調査ではあまり振るわず、トップ3に入っていた「温泉」や上位に入っていた「繁華街の街歩き」も順位を落としています。コロナ禍の影響か、人混みや人との濃厚接触を連想させる項目の人気が下がる傾向が見られました。後述しますが、「温泉」についてはコロナへの不安が大きいアジアでは依然として人気があることから、体験そのものについて否定するのではなく、コロナ禍の影響で不特定多数の人との接触をネガティブに感じてしまう心情に配慮した表現をする必要があると考えられます。
続いて各エリアで訪日客が多い国としてアメリカ、イギリス、中国、タイの結果を見てみます(データ②)。 “自然”に関連する項目がトップ3を占める点や、そこでしか見られない貴重な「世界遺産」が上位に入る傾向は共通していますが、それ以外の項目では各国ごとに違いが見られます。
一口に“欧米”と言っても、アメリカでは史跡や神社仏閣等の日本らしい建造物を見ることや、トレッキングやキャンプなどの自然を体感できるアクティビティを好み、イギリスでは伝統文化体験や食へのニーズが高くなっています。他方、中国とタイでは温泉やショッピングという共通点はありますが、中国では伝統文化体験やテーマパークというエンタメ性の高い体験、タイではフルーツ狩りといった四季を楽しめる体験へのニーズが高くなっているなど、“アジア”の中でも違いが見られます。
特に日本との心理的・物理的距離感が遠い欧米を中心に、行きたい気持ちを高めて実際の訪日につなげていくためには、訪日体験に対する上位のニーズだけではなく、コロナへの不安を考慮した伝え方で、上記のような国・地域ごとの細かなニーズの違いを掛け合わせた丁寧なアプローチを行うことが大切です。
日本でどこに行きたい?~より「広」がり、より「深」まる旅先
では、海外の人は具体的に日本のどこに行きたいと思っているのでしょうか?
“自然”への関心の高まりは、行き先に影響するのでしょうか?
まず都道府県別で認知・経験・意向を聞いてみると、やはり「東京」がすべての項目でトップとなっており、その後に「北海道」「大阪」「京都」「沖縄」が続きます(データ③)。
「東京」がトップであることは調査開始以来続いている傾向で、コロナ禍を経ても変化はありませんでした。他方で、近年の調査では特にリピーターの訪日客が多い東アジアでは「北海道」の人気が高くなる傾向がありましたが、2022年調査では「北海道」の人気が加速。さらに「沖縄」の人気も高まっていることが分かりました(データ④)。特に東アジアではまだコロナへの不安が大きいので、その影響が出ていると推察されます。
続いてもう少しピンポイントに、行きたい「観光地」について聞いてみると、トップ3は「富士山」「札幌」「東京の島(大島、八丈島、三宅島など)」になりました(データ⑤)。日本の象徴「富士山」、人気の北海道の中心都市「札幌」に次いで、「東京の島」がランクインしていることは少し意外に感じられるかもしれません。都会と自然のイメージとのギャップに興味をひかれ、さらに“自然”体験に対する関心の高まりが影響していると考えられます。
また国別に傾向を見ていくと、アメリカでは世界遺産があるエリア、イギリスでは歴史的な場所である「原爆ドーム」や歴史的な建造物である「姫路城」も人気があり、総じて地方への関心が高いことがうかがえます。
一方で中国とタイでは、「銀座」や「新宿」など、東京のエリアが複数ランクインしており、かつて行った・なじみのある場所(東京)にまた行きたい、というニーズも感じられます。
コロナ禍の影響を受けて、自然豊かなエリアやそこにしかない体験ができる地方へと人の動きが広がるとともに、行ったことのある場所を深く体験したいというニーズも存在し、訪日旅行の在り方がより細分化していくことを予感させます。
何を見て日本に来る?~圧倒的に「YouTube」強し。身近な口コミとともに「リアル」を重視
海外では人の動きが活発化しており、各国が海外旅行客を誘客するプロモーションを開始していますが、最後に具体的な手法についても考えてみたいと思います。
海外旅行の情報収集の際に参考にする情報源(※中国については独自の選択肢で別途聴取)のトップ3は「YouTube」「家族、友人の口コミ」「Google」でした(データ⑥)。その他上位項目には「Facebook」「Instagram」などSNSもランクインしています。
この結果から、コロナ禍を経て旅の貴重さを感じた生活者が、行くに値する場所かを検討するために、「YouTube」やSNSの体験情報、身近な人の口コミなどの「リアル」な情報をますます重視しているのではないかと考えられます。
ただし、情報源についても旅のニーズと同様に、国・地域ごとに特徴があります(データ⑦)。
訪日観光客が多い4つの国を比較してみると、アメリカでは紙媒体、イギリスではリアル口コミ、中国では動画、タイではネット広告の影響力が大きいことがうかがえます。
リーチ効率だけではなく、こうした各国ごとに存在する効果的な手法も組み込むことで、人を動かす力のあるアプローチが実現すると考えられます。
“自然”という大きなニーズと、国・地域ごとに「細分化」するニーズ、「広」がりと「深」まりにより訪日旅行の在り方も多様化するなど、調査結果からはコロナ禍を経て訪日旅行が変化する兆しが見えてきました。
個人旅行が解禁になったら、東南アジアや米国、豪州からの旅行客は早期に回復する、というポジティブな見方をする専門家もいます。回復ではなく、チャンスと捉えてより大きな成長を目指すために、コロナによって起きている変化を踏まえた、以前とは異なるアプローチをすることが重要です。そのヒントとしてこの記事をご活用いただければ幸いです。
第1回・第2回を通して「インバウンド」をテーマに、日本のビジネスチャンスを高めるヒントについて考えてきました。次回は「日本の製品」というテーマで、今後の日本のポテンシャルを探りたいと思います。
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社電通 ジャパンブランドプロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp
ジャパンブランド調査ハブページ
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/japan_brand/
【電通ジャパンブランド調査 実施目的】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年、調査設計・分析アプローチおよびアウトプットを抜本的再構築し、専門性を高める全社横断プロジェクト活動へと進化。2025年、一般向けナレッジポートフォリオを新たに企画・構築し、生活者インサイトに立脚した社会的価値の創出を目指す。
ジャパンブランド調査では、訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題・可能性を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。
【電通ジャパンブランド調査2022 調査概要】
・対象エリア:22カ国・地域(アメリカ、カナダ、中国本土、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、オーストラリア、サウジアラビア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、フィンランド)
・サンプル数:8,220(内訳:アメリカ 960、中国本土 1,260、その他の国・地域 各300)
・調査期間:2021年12月~2022年1月
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)
・調査手法:インターネット調査
・調査機関:株式会社電通(調査主体)、株式会社ビデオリサーチ(実施協力)
【注記・免責事項】
※1:中国本土の対象エリアは主に1線都市、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ、オーストラリアはシドニー都市圏、東南アジアは主にメトロポリタンエリアに限定。
※2:中間所得層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
※3:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
※4:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
※5:本調査レポートおよびウェブサイトからの情報発信における対象国・地域の名称表記は、従来からの日本政府の見解、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものです。
※6:本調査の図表作成において、分析対象となる国・地域名は一部例外を除き、国際基準ISOカントリーコード(ISO 3166-1 alpha-2/3)を使用しています。
アメリカ/US/USA、カナダ/CA/CAN、オーストラリア/AU/AUS、イギリス/UK/GBR、ドイツ/DE/DEU、フランス/FR/FRA、イタリア/IT/ITA、スペイン/ES/ESP、フィンランド/FI/FIN、アラブ首長国連邦/UAE、サウジアラビア/SA/SAU、インド/IN/IND、インドネシア/ID/IDN、シンガポール/SG/SGP、マレーシア/MY/MYS、フィリピン/PH/PHL、タイ/TH/THA、ベトナム/VN/VNM、中国本土/CN/CHN、香港/HK/HKG、台湾/TW/TWN、韓国/KR/KOR
※7:本調査における国・地域の名称表記は、統計上または分析上の便宜を目的としており、いかなる政治的立場や見解を示すものではありません。
※8:本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。
※掲載されている情報は公開時のものです
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著者

中里 桂
株式会社電通
第4マーケティング局
コミュニケーション・ディレクター
入社以来、マーケティングセクションに所属。食品、飲料、化粧品、アパレルなど多岐にわたる分野の企業や官公庁のコミュニケーションプランニングを担当。官公庁・自治体の海外広報案件にも数多く取り組んできた。2013年から「電通ジャパンブランド調査」の実施を担当。電通 チーム・クールジャパン メンバー。






