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電通ジャパンブランド調査から探る日本の可能性No.3

外国人が読み解くジャパンブランドの魅力と課題~「日本製品」編

2022/11/11

2022年に大きくリニューアルした海外中高所得者層向けの電通独自調査「ジャパンブランド調査」(概要はこちら)の最新データを見ながら、ジャパンブランドの現状と、今後の日本のポテンシャルを探る本連載。

今回のテーマは「日本製品」です。ジャパンブランド調査のプロジェクト設計を務める電通のチーム・クールジャパン所属のリーが、外国人の視点から「日本製品」の魅力と課題を考えます。

<目次>
自由な発想と集合知の力

ロゴス・エトス・パトス

鳥の目と虫の目

イデアを目指すも、決して現実を軽視せず

彼を知り己を知れば百戦殆うからず

無知の知

自由な発想と集合知の力

本題に入る前に、まず社会背景について触れたいと思います。
2010年代の後半に入ってから、日本のデジタルトランスフォーメーションの周回遅れ説が頻繁に聞かれるようになりました。また、社会環境についても、日本経済の黄金期に比べ、停滞感や閉塞感に覆われ、個人も組織も余白を楽しむ余裕がなくなっているという論調が散見されます。

そうは言いつつも、その環境に置かれているわれわれ一人ひとりは、ただの傍観者ではいられません。それぞれの立場でもがきながらも必死に打開策を模索している人も多いでしょう。

不思議なことに、不確実で複雑、前例も正解もないにもかかわらず、われわれは良くも悪くも短兵急に、「自分が理解できる分かりやすさ」を追い求めようとしています。左脳と右脳、デジタルとアナログ、グローバルとドメスティック、伝統的大企業と新興企業、マーケットインとプロダクトアウト、終身雇用と成果主義、トップダウンとボトムアップ、というように二項対立的に捉えて、もっともらしい論理的分析で説得を試みる手法がより高く評価される風潮が見られます。

しかし、VUCA時代や新型コロナウイルスがもたらす不可逆的な社会の流れの中で、ジャパンブランドの現在地と可能性という壮大なテーマと向き合うには、ひとりの知恵、ひとつの勝ちパターン、あるいはひとつのアプローチだけでは日本製品が直面している壁を突き破ることはもはやできませんし、新たな魅力の創造も青天に上るよりも難し、と考えています。

ひとつのデータ、さまざまな読み解き方。本連載は誰もが一瞬で共感するような答えを示すものとは程遠いかもしれませんが、呼び水となってさまざまな卓見を引き出せればと願っています。自由な発想と集合知の力に敬意をこめて。

ロゴス・エトス・パトス

アリストテレスは「弁論術」において、人を説得するための3要素として、ロゴス(論理)、エトス(人柄/信頼)、パトス(感情/共感)が必要不可欠だと主張しています。商品購入の本質はロゴス・エトス・パトスの掛け算そのものです。

今回は、製品イメージを、
① 機能性
② 価格
③ サービス
④ 使い心地
⑤ 安全性
⑥ ブランドイメージ
⑦ デザイン性
の7カテゴリーに分類した上で、さらに33の項目にブレークダウンして解像度の高い調査を行いました。
ここでは日本製品に必要な3要素(ロゴス・エトス・パトス)を思考の軸にしながら、考察を加えてみます。

A.ロゴス:理性や比較検討が強めに働く「機能性・価格・サービス・使い心地」(=論理)
B.エトス:製品/企業としての性格や信頼度を表す「安全性」(=人柄/信頼)
C.パトス:ブランドの物語や美学を反映する「ブランドイメージ・デザイン性」(=感情/共感)

ロゴス・エトス・パトス

A.ロゴス:理性や比較検討が強めに働く「機能性・価格・サービス・使い心地」(=論理)
まず、7割超の回答者は、日本製品が「機能性に優れている」というイメージを持っています。すなわち、他国製品と比べて「ロゴス」の部分で大きく優位性を発揮できていると言えます。
さらに機能性のうち、「高性能」と「ハイテク」がもっとも評価が高く、他の項目を大きく上回りました。
そのほか、「丁寧な作り」「実用的」「細部まで作り込んでいる」「壊れにくい・長持ちする」といった、多くの日本製品に共通する特徴も高く評価されていることが分かりました。

B.エトス:製品/企業としての性格や信頼度を表す「安全性」(=人柄/信頼)
次に、「エトス」に該当する安全性については、「安心して使えそう」のイメージが強く、安心のMade in Japanという感覚が確実に定着しています。

C.パトス:ブランドの物語や美学を反映する「ブランドイメージ・デザイン性」(=感情/共感)
それから、「パトス」と定義したブランドイメージ・デザイン性においては、「上質である」「信頼できる」が最も評価されており、「ロゴス」(高性能、ハイテク)と「エトス」(安心感)の裏付けと捉えることもできます。
その一方で、歴史や文化の蓄積、センスの良さ、美しさなどの項目は比較的低くなっており、ブランドの物語や美学という軸で見た場合、一抹の物足りなさが残ります。

日本製品のイメージ

鳥の目と虫の目

普段何気なく欧米とか、アセアンとか、アジアという地理的なくくり方が多用されています。ある一定のシチュエーションにおいて、確かにそういうくくりは非常に便利です。

しかし、マーケティングや認知心理学などの観点では、往々にしてこうした分類の仕方は誤謬(ごびゅう)や思い込みの元となります。本来複雑性や多様性と向き合うべきはずの思考や取り組みを、必要以上に単純化してしまう恐れがあります。

本調査においては同じ西欧の国々であっても、日本製品に対するイメージについて、多くの項目で大きな差異が見られました。
たとえば、「ハイテク」について、イギリスでの認知は全体平均とほぼ同水準にあり、ドイツとフランスを大きく上回っています。

一方、「特にイメージを持っていない」に関しては、フランスが最多(約5人に1人)という結果が出ています。言い換えれば、日本製品に特に興味もなければ関心も示していない割合が、フランスでは比較的高いことを意味しています。フランスに憧れをもつ人にとっては、実に残念な結果と言わざるを得ません。

日本製品のイメージ

続いてアジアに目を向けると、対日好感度の高い台湾とタイにも大きな違いが存在していることが分かります。台湾では、「丁寧な作り」「繊細」「壊れにくい・長持ちする」「高級感」「先進的」といったイメージが非常に強く持たれているのに対して、タイではそれほどでもなかったのです。

タイの消費者にとって、日本製品は「高性能」「コスパがよい」「おしゃれ」などといったイメージがより強いことがうかがえます。こうした細かな違いを観察することで、近隣のアジア地域とはいえ、訴求ポイントを変えていく必要があることが分かります。

日本製品のイメージ

イデアを目指すも、決して現実を軽視せず

第1回第2回では、インバウンドを切り口にさまざまなデータを紹介しました。観光庁と日本政府観光局(JNTO)によると、2019年の訪日外国人の70.1%(※1)を占める東アジアは、訪日外国人旅行消費額の64.4%(※2)を占めているという統計結果が出ています。

インバウンドの最大ボリュームゾーンが東アジアであることは事実であり、現実でもあります。地理的・文化的に近い近隣地域から人が集まってくるのは多くの国で見られる現象であって、決して日本だけに起きているわけではありません。

現実をしっかり捉えた上で、日本が今後目指すべき観光立国の理想像(イデア)とは何かを、時間軸と空間軸を伸ばしながら議論し、意思決定を重ねていく必要があると考えます。言うまでもなく、イデアと現実の間に必ずギャップが存在します。旅行に限らず、インバウンドは裾野が広く、事業者の従事分野によってもイデアが当然ながら異なるため、それに伴うギャップも一様ではないことが容易に想像できます。そのギャップを示唆するデータは本調査からも確認できました。

日本製品の購入意向について調査したところ、アジアのほとんどの国・地域では、テレビや冷蔵庫、洗濯機、大衆車、エアコンなど、ジャパンブランドを代表する製品カテゴリーがランキングの上位にずらりとランクインしています。その関心の高さは数字だけでも感じとることができます。

それに対し、西洋文化圏では、大衆車やテレビに加え、残念ながら「この中にない」も上位に上がっています。主要な製品カテゴリーをほぼ網羅した選択肢を提示したにもかかわらず、「この中にない」をあえて選択したことは興味関心を持っていないことと同義です。

中でもイギリス、ドイツ、フランスの日本製品の購入意欲のなさは、欧米の中でもワーストクラスと言えます。これはインバウンド関連項目でも見られる現象であり、欧米諸国を対象とした誘致促進もしくは販売拡大によるビジネスの躍進を目指す場合、並々ならぬ「ロゴス(論理)・エトス(人柄/信頼)・パトス(感情/共感)」の創意工夫が試されるに違いありません。

日本製品の購入意向TOP5

 

彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず

日本でも愛読者の多い「孫子」が成立したとされる紀元前5世紀頃は、古代ギリシアのソクラテスやプラトンが生きていた時期とほぼ同時代です。はるかなる古代の兵法を今日の競争戦略にそのまま転用できるのは実に興味深いことです。

人間の寿命伸長に反比例して、企業が勝ち続け、俗に言う勝ち組でいられる期間は昔よりも短縮されています。しかし、自由競争が必要とされる限り、勝って存続するための努力をしなければなりません。小見出しの通り、ここでは他国製品(ドイツ製、フランス製、中国製、韓国製)との比較を通して、製品イメージの角度から日本製品の特徴をあぶり出したいと思います。

はじめに、日本以外の4カ国の製品イメージについて手短に解説します。

日本製品にイメージが近いのはドイツ製です。多くの評価軸において、両者が接戦状態にあり、日本製にとっての真のライバルはドイツ製かもしれません。

フランス製は「おしゃれ」「高級感ある」「美しい」といったブランドイメージやデザインの評価が突出して高く、フランスに対する従来のイメージと合致している部分が多いことが分かります。

中国製は「安価」「シンプル」など、従来通りのイメージ。特に「安価」が突出してスコアが高いです。また、「使いやすい」「コスパがよい」「人気がある」といった項目においては、ほぼ日本製と拮抗している状況です。

韓国製は「おしゃれ」「かっこいい」「美しい」というイメージが持たれているようです。韓国のものづくり自体の競争力が増しているほか、グローバル展開への意識が強く、ソフトパワーの一丁目一番地であるコンテンツ(ドラマ、映画、音楽等)の世界的ヒットを立て続けに生み出していることも一因だと推察されます。

そして、肝心な日本製品はこれらの競合と比較した場合、悲観視するほどブランド価値が下落したかというと、決してそんなことはありません。むしろ卑下することに必要性が全く感じられません。

事実として、機能面を筆頭に高く評価されていることが一目瞭然です。特に「ハイテク」「高性能」「細部まで作りこんでいる」「壊れにくい・長持ち」「上質である」「信頼できる」といった評価軸において、他国の製品より明らかに優位性があると読み取れます。

他国性とのイメージ比較

ただ、他国の後塵(こうじん)を拝したデジタルエコシステムの構築がすでに示したように、日本よりイノベーションが起こりやすい一部の国による、機能面での追いつき追い越せは早晩現実としてやってきます。先進技術を軸にしたものづくりの「イデア」を追求する精神は大いに尊重されるべきです。しかし、それに縛られることなく、いかにして彼を知り己を知るか、いかにして変化し続ける市場の「現実」を虚心坦懐に見つめ、アジャイルに軌道修正していくかもますます問われます。

無知の知

公私で経験したことも含めて、多くの人は無意識のうちに諸外国の多様性や相違点を過小評価したり、異質性に対して静かな拒絶反応を示す傾向が見て取れます。

日本の場合、日本は島国だからという理由がよく使われています。しかし、ある程度理解はできるものの、深い共感はなぜか得られませんでした。というのも、ユーラシア大陸の沖合にある島国として、日本は古今東西のさまざまな文化を積み上げた希少な「ミルフィーユ国家」であり、この上ない奥深さと味わいが感じられます。バイアスを外して観察していれば、社会の至るところに、多様性と包括性の下地ができあがっていることが分かります。

問題の本質は島国という地理的要因よりも、歴史のある時期を背景に、画一性がもたらした類を見ない成功体験と、その成功体験が形成した強固なコンフォートゾーンにあると推察します。つまるところ、天井知らずの黄金時代と、ハイコンテクストで同質性の高い環境において、社会・組織・個人の違いを相対化する機会に触れることが少ないため、「さまざまな違いが客観的に存在していることを知らない」という構造になりかねません。

これは日本に限らず、どこの国/集団にでも起こりうることですが、日本製品を含むジャパンブランドの長き繁栄にとって不利なのは火を見るよりも明らかです。そして最も問題となるのは、「違いの存在を知らないことに気づいていない」というパターンです。

「違いの存在を知らない」にせよ、「違いの存在を知らないことを自覚していない」にせよ、解決の糸口として、はるか昔の紀元前5~前4世紀を生きていたソクラテスの「無知の知」という考え方が大いに参考になるはずです。要するに、「違いの存在を知らないことを知っている」を出発点にするということです。

古代ギリシアの時代から2000年以上の時がたっても、今もなお価値が認められ続けているということを踏まえると、賢者の考えからヒントを得ることは不確実性の高い時代だからこそ必要な知恵だと考えられます。

以上、説得手段、多面的観察、理想と現実、対比、自覚と探求など、時代に左右されない先人の教えを借りながら、違いを知る・違いに気づく手段としてのジャパンブランド調査を土台に、移ろいやすい世界の消費者と日本製品を読み解いてみました。

日々の営みの中で具体策や結論を急ぐあまり、視野偏狭になっていないか、グローバルや多様性は自分の住む世界とは無関係のものと思っていないか。知らず知らずのうちに、認知の死角がおのおのの豊穣(ほうじょう)な余白を暗黒化してしまうことが十分あり得ます。それを防ぐため、リソースとアプローチの多様化とともに、思考の余白を意図的に創り出すことが求められています。やや異質的かつ抽象的かもしれませんが、多少なりともご参考になれれば幸いです。次回は食の世界を駆け巡ります。

出典:
※1:日本政府観光局(JNTO)「2019年訪日外客数」をもとに計算
※2:観光庁「訪日外国人の消費動向2019年年次報告書」をもとに計算
当該ページのURL https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001345781.pdf

 
【電通ジャパンブランド調査とは】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。電通チーム・クールジャパンとパブリック・アカウント・センター主導のもと、2022年に対象エリアや聴取内容を変え、大きくリニューアルした。
 
【電通ジャパンブランド調査2022概要】
・対象エリア:22カ国・地域(アメリカ、カナダ、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、オーストラリア、サウジアラビア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、フィンランド)
・対象者条件:中高所得者層 20代~50代男女
・サンプル数:8220人(アメリカ=960人、中国=1260人、その他の国・地域=300人)
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2021年12月~2022年1月
 
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