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カンヌの話をしよう。CANNES LIONS 2022No.4

今、カンヌから何を学ぶか

2022/11/29

「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」が、6月20日から24日までフランス・カンヌで開催されました。3年ぶりにリアルでの開催となった世界最大規模のクリエイティビティの祭典は、クリエイターの目にどう映ったのか。受賞者、プレゼンター、審査員など、さまざまな立場でカンヌに関わったクリエイターたちが、それぞれの視点で、カンヌの「今」をひもときます。

第4回では、カンヌライオンズ 2022 の ブランド・エクスペリエンス&アクティベーション部門の審査員長を務めた電通の佐々木康晴CCO(Chief Creative Officer)に、世界のクリエイティブの潮流や変化ついて聞きました。

カンヌライオンズのロゴ



コロナ後の「人」「ブランド」「社会」のつながり方を探す

──3年ぶりのリアル開催となった今回のカンヌの印象は?

佐々木: 3年ぶりの現地は、「コロナ前の2019年とほぼ変わらない感じ」でした。ぱっと見、コロナの影響がまるでなかったかのように人であふれ、セレモニー会場は2階のいちばん上の席まで埋まり、誰もマスクはしておらず、でした。一方で、カンヌの会場地下にある入賞作の展示スペースは少し閑散としていました。学びたい若手の来訪が減り、シニアな人たちが集まっていたということかもしれません。

ちなみに審査中のランチは、各部門の審査員が混じり合って、会場の裏手にある屋外のテーブルで食べるのですが、そこで僕も昔の審査員仲間やかつての同僚である各国各社のECDやCCOたちとの懐かしの再会ができました。まるで同窓会会場のような感じで、そこかしこでみんなが久々の会話を楽しんでいました。気のせいか、再会のハグをする人はいつもより少なめな印象でしたが……。

──今回、自身2度目の審査員長を務め、その間にはコロナ禍もありました。審査の視点に何か変化はありましたか?

佐々木:審査員長の仕事は、ざっくりいえば「審査基準の提示」「審査のモデレート」「結果の記者発表と贈賞」「トレンドの発見と発信」というあたりでしょうか。ちなみに審査員の構成は多様性が重視され、世界のさまざまな地域から多様な専門の審査員が集まります。男女構成もなるべく半々になるよう調整されています。僕の担当した「Brand Experience & Activation Lions」はカンヌでも2番めくらいに大きな部門で、2000本近い応募があります。そのためまずオンラインで30人の審査員が手分けして一次審査を行い、二次審査は現地で10人の審査員が集まって議論して決めていく、という流れです。

Brand Experience & Activation Lions部門と審査員長の佐々木氏を紹介する会場パネル
今回、佐々木氏はブランド・エクスペリエンス&アクティベーション部門の審査員長を務めた

審査の視点にコロナの影響があったか、と言われると、もちろん影響しています。ブランド・エクスペリエンス&アクティベーション部門は、「体験やアクティベーションによって人々が動くことでブランドを成長させて社会を動かす」部門ともいえます。その動く「人々」の気持ちがコロナ前後で大きく変わってしまっているわけで、みんなに提示する審査基準としても考慮せざるを得ませんでした。

ちなみに僕が提示した審査基準は「正しいつながりを探す」と「体験の質を重視する」の2つです。コロナによって「人とブランドと社会」の三者のつながり方が不可逆的に変わってしまった今、ブランドが一方的に利するだけでなく、人々や社会のことを考えた新しい、正しいつながり方を探そう。それから、その場かぎりの面白さではなく、または単なる社会貢献でもなく、ブランドが成長できてかつ中長期的に人や社会に良い影響を与えるような「質」の高い体験を探そう、ということです。

本質的な変革を起こせ

──世界のクリエイティブの潮流や変化について、感じたことを教えてください。

佐々木:カンヌは他の国際アワードとはずいぶん違う存在になってきています。10年以上前にいわゆる広告からクリエイティビティのアワードに変わっていますが、ここ数年でいよいよ「ブランド成長と社会変革」のアワードになったと感じます。クリエイターの自己満足的事例とか、世の中の人々を置き去りにした表面的なソーシャルグッド事例などは減る傾向にあるかわりに、本質的な変革を起こし、ブランドを成長させながらも人や社会に利のあるアイデアが増えているように思います。

この傾向を加速させたのも、コロナ禍かもしれません。人々はより真剣になって、自分が生きるために必要なプロダクトやサービスを探し、共感できて信頼できるブランドを探している。企業も、生き残るためにはかっこつけていられず、社の存続と成長につながる施策が必要。この両方がどちらも成立する非凡なクリエイティビティが求められているのだろうと思います。

そういう意味において、世界は、まだ感染者は多かったとしても、いちはやく次のステージに進むべく、ブランド成長と社会変革のアイデアをたくさん出してきています。それに対して、日本は「アイデアを実行に移す」という側面においては、1〜2年後れをとっている、という印象です。

担当審査部門の贈賞式でスピーチを行う佐々木氏
担当審査部門の贈賞式でスピーチを行う佐々木氏

──日本と世界のクリエイティブの間に違いを感じますか?日本のクリエイティブが進むべき道とは?

佐々木:とくに今年は日本の受賞が少なかった印象があります。まだ景気が回復していないため、応募数自体も少なかったのだと思います。しかし、日本から応募されたものがなかなか評価されなかったのも確かです。それはなぜか。まず言えるのは、日本の企業のものは、欧米の事例のような「本質的な変革」を起こしているものは少なく、ギミック的なアイデアが多かったからかもしれません。そして、先ほどお話ししたような、企業の成長と人や社会へのポジティブな影響の両方を満たしているアイデアが少ないようにも感じます。

日本の広告が進むべき道、というと話が大きい気はしますが、まず僕たちは「狙った人に企業の情報を届ける」という先にある、「心が動き、人が動く」というところを改めて重視するべきだと思います。「心が動き、人が動く」というのは、ついクリックしてしまう、つい買ってしまう、というようなギミック的なものではなく、じわじわとブランドが心に染みていったり、もしくは一目ぼれのように一気に好きになった結果、心からそのブランドに共感し協働するような、そんな強いクリエイティビティによって生まれるものだと思います。

また、「企業の成長と人や社会へのポジティブな影響の両方を満たす」ために、僕らクリエイティブは、世界のエージェンシーがやっているように、もっとクライアントのみなさまの奥深くに入り、一緒に深く悩む必要があると思います。場合によっては、経営者のみなさまと膝突き合わせて話すことも必要になります。

担当審査部門の贈賞式で受賞チームと(右から二人目が佐々木氏)
担当審査部門の贈賞式で受賞チームと(右から二人目が佐々木氏)

──カンヌから得られる知見を、国内のクライアントの課題解決にどのように生かしていけば良いでしょう?

佐々木:すでにお話ししたように、最近のカンヌは、ブランドのビジネス成長につながるアイデアが多く見られます。グローバルブランドの大きなキャンペーンだけが入賞しているわけでもありません。また、そのアイデアが世界共通のキャンペーンになったということは、単にお金をかけて世界のメディアでオンエアされたというだけではなく、世界の人々のインサイトにしっかり刺さったということでもあります。そして南米やインドの事例のような、一見ニッチそうに見える課題解決だったとしても、アイデア次第で他の地域の人たちの深い共感を得られるメガキャンペーンになり得ることがカンヌで証明されています。ブランドの大小に惑わされず、世の中の動きを捉え、インサイトを見つけ、課題を意外な方法で解くという部分に注目していきましょう。カンヌには、日本国内のクライアントに応用できるヒントが無限にあると思っています。

その課題が一見小さそうに見えたとしても、その課題設定が本質的であるならば、堂々とアイデアで解決するのみです。日本には、世界に誇るクラフト力と、テクノロジーと、細部まで気配りの効いたクリエイティビティがあります。あとは、それがクライアントに伝わるように、世界に分かるようにプレゼンテーションするのみです。

クリエイティビティは、世界で最もクリーンでパワフルなエネルギー

──クリエイティビティが持つ意味や役割は変わってきていると感じますか?

佐々木:クリエイティビティの本質は変わっていないと思います。企業の課題をあざやかに解決するもの、世の中に非連続でポジティブな変化をつくるもの、人々を幸せにするもの。戦略立案だけでなく、実施まで責任持ってやるときにこそ、クリエイティビティは光ります。よく言っていることですが、クリエイティビティは、人々が動く、世界で最もクリーンでパワフルなエネルギーです。その適用範囲は、メディアの上の広告だけでなく、世の中のありとあらゆる場所でも必要とされていることが、ここ数年で証明されつつあると思います。これも何度も申しあげていることですが、ますます僕らクリエイティブの活躍の余地が広がっているということです。

現地でメディアの取材に答える佐々木氏
現地でメディアの取材に答える佐々木氏

──今回のカンヌを総括するとしたら?

佐々木:改めて、カンヌはなかなか良い場所になった、ということでしょうか。「賞取り狙いのクリエイターだけのための祭典だ」とか、「カンヌは日常の仕事の延長線上にないから見る必要がない」、などという言い訳がきかない、「企業や人々や社会が動くクリエイティビティを問う」祭典になったと感じます。クリエイティビティの価値を高められる「良い場所」がパワーアップして戻ってきたのだと思います。

──若手クリエイターにカンヌから何を学んでほしいですか?

佐々木:とにかく、応募された事例をたくさん、浴びるように見てください。そして自分の視点で事例を細かく分解してみてください。その後、自分なりの「今年のトレンド」を考えてみてください。できれば受賞しなかった「ダメ」な事例も見てください。なぜ良いか、より、なぜダメか、を考えると、より学びが多いです。

そして、何か1本でも自分で応募したその年がチャンス。ぜひ現地に行ってください。もし受賞しなかったら現地でとことん悔しがってください。その悔しさは20年メラメラと燃えるエネルギーになります(僕はそうでした)。もし受賞したら好きなものを好きなだけ飲み食いしてください。。また、現地では日本人だけで行動せず、パーティなどに潜り込んで日本人以外の人たちと話してみてください。また違う気づきをもらえます。クリエイティビティ発揮が大好きという、共通の趣味がある人どうしなんですから、下手な英語で上等です。旅の恥はなんとやら。僕はパーティ超苦手なのですが、夜な夜なクリエイターが集まるガターバーに行っていました。

みんなですてきなソリューションをつくり出し、来年のカンヌで壇上に登りましょう!

 

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