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「フラット・マネジメント」~これからのリーダーに必要なマネジメント思考とは?No.1

格闘家・武尊選手に聞く、いま求められているリーダー像とは?

2022/11/18

「若者から未来をデザインする」をビジョンに掲げ、新しい価値観の兆しを探るプランニング&クリエーティブユニット、電通若者研究部「ワカモン」(以下、ワカモン)は、これからのリーダーに必要なマネジメント思考について研究しています。

その活動から導き出されたのが「フラット・マネジメント」という概念。リーダーがトップダウンで意見を押し付けるのではなく、部下やチームメンバーをリスペクトし、対等な水平目線で向き合うことで、「心地いいチーム」をつくりだそうというのが基本思想です。

本連載は、そんな「フラット・マネジメント」を実践している著名人と、ワカモンメンバーとの対談企画。第1回は、格闘家の武尊さんが登場します。前人未到、K-1史上初の3階級制覇を成し遂げたトップファイターである武尊さんに、実体験を交えたお話を伺いました。

フラット・マネジメント

アクションを起こせば、周囲も反応。ビジョンが実現に近づいていく

古橋:「フラット・マネジメント」の軸となる考え方の一つに、「大きなビジョンより小さなアクション」というものがあります。SNSの普及でものごとを隠すことは難しくなり、現代は「透明性の時代」ともいわれています。大きいことだけ言って実際には何もしない、あるいは行動が伴っていない企業やリーダーはすぐに見抜かれ、信頼を失ってしまうんですね。その分、行動で示すことの重要性は増しているように感じます。

武尊選手は、K-1史上初の3階級制覇を果たし、2022年6月には「THE MATCH 2022」を実現しました。さらに11月、今後は一格闘家として国や団体の垣根を超えて挑戦していくことを発表。普段トレーニングしている仲間とteam VASILEUSを始動しました。本当にさまざまなことを行動で示されてますよね。

武尊選手は、「大きなビジョンより小さなアクション」という考え方について、どう思いますか?普段から意見を述べるだけでなく、行動で示すことを意識しているのでしょうか。

武尊:そうですね。例えば、対戦したい相手がいたとしても、ただ表立って「闘いたい」と言うだけでは実現しません。そこにつながるような地道な努力、つまり行動がやはり大事だなと実感しています。

ただ、あえて初めに大きなビジョンを口に出すこともあります。口に出すことによって責任が発生し、その責任を果たすために行動する、というわけです。結果的には、やはり行動を大事にしているということですね。

古橋:実際に行動することで、周りの方々はどう変化しますか?

武尊:会社で言うと「部下」にあたると思いますが、僕の場合、周りの人たちが協力してくれるようになります。アクションを起こすことで、周りの人たちも反応し、実現に向かっていきます。

武尊

自分のアイデアを試すきっかけをもらうと、人は成長できる

古橋:昔は、下の世代が理不尽に感じてしまう後輩教育がたくさんありました。非常に厳しく叱ることなどですね。しかし現在は、そのようなやり方では下の世代がついてきませんし、そもそも問題が大きいですよね。武尊選手は、ご自身が格闘技を始めた頃と今で、上の世代やリーダーに必要な資質の変化を感じることはありますか?

武尊:格闘技業界には、今でも「これが正解」「これをやりなさい」と、選手を押さえつけるような昔ながらの指導を行うジムがあります。でも幸いなことに、僕が所属していたジムは、会長も選手もみんな対等。そういう場だからこそ、僕はここまで成長することができたんだと思います。

古橋:ジムの会長からは具体的にどのような指導を受けてこられたのでしょうか?

武尊:これまで所属していたK-1ジム相模大野KRESTの会長・渡辺雅和さんは、「こうしなさい」と押し付けてくることはありません。むしろ「どうしたい?」と聞いてくれますし、僕がアイデアを出すと「だったらこうしようか」と対等な話し合いをしてくれました。上からではなく同じ目線で話すような感覚ですね。僕にとっての理想のリーダーです。

結局、闘っている本人が自分のことを一番よくわかっているじゃないですか。だから会長は「自分の直感を信じてほしい」と、僕たちを尊重してくれました。そういうところから信頼関係ができ、選手が意見を言いやすい雰囲気が生まれたと思います。

古橋:自分のアイデアを試すきっかけをもらえる環境は、選手の成長にどのような影響を与えていますか?

武尊:まず、「やりたいことをやらせてもらえる」ということで、責任感が生まれます。そして、もし失敗した場合には、自分のアイデアだからこそ、より深く理由を考えることになる。それが成長につながるんです。

逆に言えば、上から押し付けられたことしかやらない人は、それ以上の成長がないように感じます。教えてもらったことは全部できるけど、試合だと結果が出せないんですよ。結局、実践で必要になる応用力って、自分で考えて動いた時にしか身につかないと思うんです。「フラット・マネジメント」を実践すれば、成長する人が増えると思いますね。

電通若者研究部

弱い部分を見せることが、勇気を与えることもある

古橋:「フラット・マネジメント」では、メンバーの本音を引き出したり信頼を得たりするうえで、「嫌われない建前よりも丁寧な本音」を言うことを重視しています。例えば、「弱い素の自分を見せる」ということもそうです。武尊選手は、「THE MATCH 2022」の後の会見で休養宣言をされましたね。うつ病やパニック障害を患っていたことなど、素の部分を初めて公表されました。その後、「これまで以上に応援したい」というファンが増えたように思います。弱い素の自分を見せることの大事さについて、どうお考えでしょうか。

武尊:自分自身の気持ちが楽になったことに加えて、すべて知ってもらったうえで、これからの試合を見てもらえれば、乗り越える勇気を与えることにもなるのかなと思っています。弱い素の自分を見せることって、同じような悩みや問題を抱えている人たちの力になることもあるんですよね。

古橋:那須川天心選手との試合では、勝ち続けてきた武尊選手が10年ぶりの敗戦を経験されました。それも「弱い素の自分を見せる」ということだったと思うのですが、何か心境の変化や、学んだことなどはありましたか?

武尊:もう、学んだことしかないですね。勝ち続けていると、見えなくなるものがいっぱいあるんです。自分は勝つことが当たり前で、勝つことしか求められていない。負けることは絶対に許されない。そんな状況に、どんどんがんじがらめにされていきました。

ファンが優しい言葉をかけてくれているのに、どこかで「でも、僕が負けたら離れていくんだろうな」という気持ちもあって。だからこそ、負ける恐怖から逃れるために練習するし、負けないように試合する。良くも悪くもそういう循環になっていたのですが、マイナス面が大きかったですね。ずっと恐怖に支配されていたわけです。

それが負けたことによって、その重圧から解き放たれた感じがありました。「勝ちたい」「勝たなきゃいけない」という気持ちは変わりませんが、負けてもこれだけの人が変わらず応援してくれるし、「パワーをもらった」と言ってくれる人がいる。勝つことだけが人にパワーを与えるわけじゃないんだと学んだし、負けることへの恐怖心がなくなった分、これからはもっと思いきり試合や練習ができるんじゃないかと思います。

古橋:素の自分を見せたことが、自分にも相手にもよかったということですよね。

電通若者研究部


 

フラットな関係は、次世代へ。心地いい関係は広がっていく

古橋:武尊選手は10年間勝ち続けてきたわけですが、その成功体験が足かせになることはありませんか?例えば一般企業の場合、過去に成功体験がある人ほど、年齢を重ねるにつれて思考が固まり、その成功体験を捨てられなくなる傾向があります。その結果、下の世代に自分の考えを押し付けてしまい、気づかない間にどんどん「老害」といわれるようになっていってしまいます。武尊選手はまだまだお若いですが、誰もが成し遂げられなかった偉大な成功体験をされています。年齢を重ねるにつれて、そういった危機感を覚えることはありませんか?

武尊:あまりないですね。例えば食事について、「こうしたほうがいいよ」とアドバイスをすることもありますが、体に合うもの、パフォーマンスが上がるものは人によって違います。そう理解しているので、意見を押し付けることはありません。ジムの会長が、選手を尊重してくれるのと同じような感じですね。

古橋:相手を尊重するフラットな関係というのは、世代を超えて受け継がれていくんですね。一方で、ご自身はレオナ・ペタス選手との試合でカーフキック(ふくらはぎ付近を蹴るローキック)を入れてみるなど、新しい戦術も取り込んでいます。新しいものを吸収することも、常に意識しているのでしょうか。

武尊:そうですね。自分はまだ完璧ではありませんし、新しい技術を覚えようという気持ちが強くあります。海外へ修行に行くのも、新しいもの、自分に足りないものを吸収したいから。そういう意識は常に持っています。

古橋:11月からteam VASILEUSを始動し、一格闘家として新たなスタートを切りましたね。格闘技界を引っ張るリーダーとして、後輩たちと接する際に大事にしている考えがあれば、ぜひ教えてください。

武尊:インタビューでもよく「後輩にひと言お願いします」と言われるんですけど、大体「何もないです」と答えます(笑)。僕はあまり後輩選手に教えることもないし、特別に言葉をかけたりすることもありません。一緒にトレーニングしたり試合に出たりして、自分の姿から吸収したいところを吸収してくれたらいいなと思うだけ。僕のまねをする必要はまったくないし、自分たちがやりたいことを試合で表現できればいいと思っています。なぜなら、時代が変われば格闘技界の状況、客層や見ている側の気持ちも変わります。その時代に合ったものがあるので、僕から何か言うことはないんですよね。

古橋:成功体験を押し付けないことや、常に新たなものを吸収する姿勢、これは「大きなビジョンより小さなアクション」という「フラット・マネジメント」の基本思想に通じるものがありますね。そういった武尊選手の姿勢に導かれて、後輩の方々の成長にもつながるのでしょうね。

武尊

対等に本気でぶつかり合うからこそ、いざこざのないチームになれる

古橋:では、武尊選手にとって理想のチームとはどんなチームですか?

武尊:僕がこれまで所属していたジムは、トップレベルの格闘家が集まっていました。同じ階級の選手もいるので、競い合って大会への出場枠を勝ち取らねばならず、チームの中でも競争がありました。だから、スパーリングでもバチバチに殴り合うし、つぶし合いのような闘いをすることも。でも、練習が終わるとみんなめちゃくちゃ仲がよかったんです。

そういう気持ちのいいチームが、僕の理想ですね。一般企業でも、同じ部署の社員同士でいい意味での競争やぶつかり合いがあるとどんどん成長できるんじゃないでしょうか。殴り合いをするわけにはいきませんけど(笑)。仕事でぶつかったとしても、一緒に仲良く上を目指せるチームだと最高だと思います。

古橋:「本気でぶつからないと逆に失礼」という思いがあるのでしょうか。

武尊:そうですね。相手を尊重しているからこそ、本気でぶつかり合うし、逆にいざこざのない関係を保てているんだと思います。どちらかが陰口を言い出したり、直接的にぶつからなくなったりしたら、トラブルもどんどん生まれるでしょう。全力でぶつかり合うのが大事というのは、どの業界でも言えることなのかなと思います。

古橋:先ほどの「嫌われない建前よりも丁寧な本音」と通じるところがありますね。上司と部下が全力でぶつかり合わず、うわべだけで会話していると、うまく関係を築けないことも。ぜひビジネスパーソンにも伝えたいお話だなと思いました。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。

武尊:11月1日にSNSでもお伝えしたのですが、これからは一格闘家として、国や団体の垣根を越えて挑戦していきたいですね。これまで10年以上、K-1にお世話になり、日本ではある程度やりきったかな、という思いがあります。次は海外で試合や活動ができたらと考えています。

古橋:常に行動を止めない真摯な姿勢があるからこそ、後輩選手やファンの信頼も増していくんでしょうね。今後がますます楽しみです!応援しています!

本連載では、「フラット・マネジメント」について、各業界で活躍する方々にお話を聞いていきます。どうぞお楽しみに!

キャスティング:Mint'zPlanning
 

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