「フラット・マネジメント」~これからのリーダーに必要なマネジメント思考とは?No.3
「水曜どうでしょう」有名Dに聞く!心地いいチームづくり
2023/01/24
「若者から未来をデザインする」をビジョンに掲げ、新しい価値観の兆しを探るプランニング&クリエーティブユニット、電通若者研究部「ワカモン」(以下、ワカモン)は、これからのリーダーに必要なマネジメント思考について研究しています。
その活動から導き出されたのが「フラット・マネジメント」という概念。リーダーがトップダウンで意見を押し付けるのではなく、部下やチームメンバーをリスペクトし、対等な水平目線で向き合うことで、「心地いいチーム」をつくりだそうというのが基本思想です。
本連載は、そんな「フラット・マネジメント」を実践している著名人と、ワカモンメンバーとの対談企画。第3回は、北海道テレビ(HTB)発の大人気番組「水曜どうでしょう」を作り続けてきた藤村忠寿さん、嬉野雅道さんのディレクターコンビ。どうでしょうファンであるワカモン・説田佳奈子氏と持田小百合氏が、憧れのお二人から本質的なチーム論を聞き出します。
役割を固定しないチームで、前例のない道を走り続ける
──今回は、固定化された価値観や常識を破壊してこられたお二人のマネジメント論を伺えればと思います。まず、「水曜どうでしょう」は今でこそ伝説的なコンテンツですが、あれほど型破りな番組をローカル局で立ち上げるには、逆風もあったのではないでしょうか?
藤村:逆風というより、局の人たちはちょっとポカンとしてたよね。そもそもローカル局が真剣にバラエティ番組を作ることが、ほぼないわけですよ。予算もないし、タレントもいない。そんな中で僕らは、本気で東京のキー局に勝つつもりでいるんですから(笑)。
じゃあどう勝負するかってなったときに、「ローカル番組」に見られないようにしようと思ったの。「ローカル番組」って見られた瞬間に、もう「面白くないんだろう」「B級なんだろう」っていう前提が出来上がっちゃいますからね。
われわれは札幌を飛び出して、半年後にはなぜかオーストラリアを縦断しているという。制作費の3カ月分を前借りして、「その分作りゃいいだろ」って。
それに対して局内では「あいつら、なんか海外行ってるよ」「次なんかヨーロッパ行くってよ。いいのかな」という反応で。この人たちが何をやろうとしているのかわからない、という感じでした(笑)。
嬉野:海外行っても観光取材するわけでもないしね。
藤村:でも視聴率が良くなってきたら「あいつらだけ、面白おかしく仕事をしているぞ」という感じで注目されるようになって。日本人は特に、楽しそうに仕事してるやつって、あまりよく言われないでしょう。
嬉野:そして、しばらくすると、「どうでしょう」というものを会社としてコントロールしたい人たちが出てくるわけです。
藤村:でも1年近く放っておかれたので、編集も嬉野さんと僕だけでやってるし、スケジュールも全部僕らで決めてたんですね。だから、コントロールしたいと思い始めたときにはもう遅かったという(笑)。
──お二人はディレクターとして、チームを組んで動かしていく役割もあると思います。どのようにチームをマネジメントしているのか、心がけていることを教えてください。
藤村:「どうでしょう」はもう完全に僕と嬉野さんだけの話なので。まあタレントさん、大泉(洋)さん、鈴井(貴之)さん、その後ろの事務所というのはあるけど、チームという観点でいうと個人の集まりでしかないんですね。各個人が独立して、主張している。
嬉野:この方はよくサッカーのフォーメーションって言ってますね。われわれ2人ですけど、タレントも含めた4人が独立して考えて、動いている。
藤村:サッカーって流動的にポジションを変えなきゃいけないんです。「どうでしょう」のチームは、タレントとディレクターというポジションすら曖昧なんですよ。僕が前に出て一番しゃべっていたり、鈴井さんなんか逆に画面から外れてばかりで。嬉野さんだってただカメラを回してるだけじゃなく、カメラを倒して、自分がこの世界をコントロールしてるんだっていう主張を見せつけるわけですよ(笑)。
嬉野:まず、指示がないんですよ。指示がないけど、状況は刻一刻と変わっていく。それに対して、なんの打ち合わせもなくその場その場でフォーメーションができて、進んでいく。
藤村:攻守交代も激しくて、「あなたはツッコミで」とか、そういう役割は一切ないので、バリエーションが非常に多い。僕が目指す究極のチームというのは、あの形ですね。
──まさに理想のチームですね。「どうでしょう」以外では、どのようにチームをつくっていますか?
藤村:「どうでしょう」のレギュラー放送が1回終わって、ドラマを作り始めたんです。嬉野さんがプロデューサー、僕が監督で、外から呼んだスタッフも含めると60人という規模になる。それで真っ先に僕らが何をしたかというと、1回役者抜きで、来れるスタッフだけを集めて全部撮影したんですよ。
初めてドラマ撮るわけだから、何もわからないじゃないですか。主人公2人がここに座っているときに、どっちからどう撮ったらいいのか。引いた方がいいとして、引いた角度ってどれぐらいがいいのか。なので、まずその悩みをなくそうということで、スタッフを代役に立てて、カメラマンと一緒に全部撮っていったんです。
嬉野:ローカルは、時間だけはあるんですよ(笑)。
──本番前に、作り方の一通りを実際に体験してみたんですね。
藤村:そう。まず、ローカル局でドラマ作ることなんてあんまりないから、外部から来たスタッフって、若干こっちを下に見てくるだろうと思ったんです(笑)。そこでまず迷わないように自分たちで1回撮っちゃえば、もうこっちはオドオドしないわけですよ。本番でも「じゃあこっちに座ってもらって」「ああ、いいね、OK」とか、ものすごく余裕が出てくる。
それに、ドラマ作りってすごく楽しいことのはずなのに、険しい顔の人が多いらしく……。そういう現場ってイライラして余裕がない人が多いんじゃないかな。それってカッコ悪いな、と思って。
嬉野:イライラしてる人がいると、周りの人が気を使いだしたりするじゃないですか。仕事を進めてるわけでもないし、結局みんなの邪魔をすることになるんだよなって。
藤村:だから、「ドラマを撮る」ということをわれわれがどれだけ楽しそうにやれるかだなと。われわれが楽しむことで、チームというものを、役者さんも含めて、そっち方面に持っていったんです。
──そうしたピリピリしがちな撮影現場を、ポジティブで余裕のある空気に持っていったんですね。
藤村:われわれは事前に1回撮影しているわけだから、その分、心の余裕があるわけですよ。まあ初心者なんだけど。だから、最初は田中裕子さんが目の前で、僕の「はいヨーイスタート!」って号令で動いただけで感動しちゃって!役者さんに対しても、スタッフに対しても、素直に感動するんですよね。照明1個にしても「おお、そんなに上から当てるんですねー!」と。そうやって、ドラマづくりを楽しめる雰囲気をつくっていきました。
みんなにとって心地よいチームをつくる方法とは?
──裏方さんお一人お一人の仕事に対するリスペクトを含め、お二人が無意識のうちにチーム内の心理的安全性をつくられていたのかなと思いました。
藤村:安全性って、要は道が見えてるってことじゃないですか。安全じゃなくて浮足立ってるのは、見えてないってこと。道が見えてないのに「あっちだー!」という軍隊は滅びますよね。見える人についていけばいいんですよ。そのためには、自分に正直であることが一番大事で。
嬉野:見えてないときは見えてないって正直に言いますからね、この方。音楽も全部、本間(昭光)さんに丸投げしてましたね。
藤村:いいっすねえ!って(笑)。決め事や様式ってあるじゃないですか。監督たるものは、音楽打ち合わせでは台本に線を引いて、各場面にどういう音楽をって指示を出してくれなきゃ困りますと。で、みんなその様式に自分というものを合わせるんだけど、見えてないものを見えているふりをするのは無理がある。
もちろん僕が得意なところは自信を持って「俺がやる!」って言いますけど、どっちでもいいなと思うことは、「うまいことやってください」と丸投げしますよ。それができない人って、要は「あの人、監督なのにそんなことも知らないんだ」と思われたくないのでは?と僕なんかは思っちゃいますけどね。
──自分に正直であることと、できないことはできる人に振ると。その上で、楽しい気持ちをキープすることが大事なんですね。
藤村:そうですね。でも、楽しくというのは、ただワイワイ楽しいのを目指してるわけじゃなくて、みんなが「楽しい」と勝手に前に出てくれるようになる。それを虎視眈々(たんたん)と狙ってるんです。このぐらい(実際に前のめり)の姿勢になるから、あの感じがチーム全体に出てくるんですよね。
こっちが言わなくても、仕事が楽しいから走り出しちゃう。照明さんもピッカピカに当ててきて「こういうこともできるんですよ!」と、前のめりになってくる。こっちは提案を受けて判断すればいいので、すごく楽です(笑)。ただ、「指示がないんですけど、どうすればいいんですか」っていちいち聞きにくる人だと難しいのかな。
嬉野:出発点が「水曜どうでしょう」で、この人に指示を求める人が一人もいなかったんですよ。この方も別に指示したい人じゃないから。「良いものがあれば全部欲しい」っていう人なんで。
藤村:一人一人の持ち味を手放したら、道はないんじゃないかなと。嬉野さんといつも言ってるのが、なんでみんな「できない」って言わないんだろうねということ。正直に「これができません、これはできます」と言ってくれればいいのに、みんな「大丈夫です!」って言うんですよ。
嬉野:できないってことをちゃんと言ってくれないと、適材適所でいうところの適所に適材が行かないんですよ。
藤村:やってるうちに「これちょっとできないな」と思ったとき、頑張ることだけはやめてほしいよね。それが原因で現場でイライラし始めるんだと思うからね。人間、できることは大変でもやれちゃうけど、できないことはできないから。
──やっぱり「どうでしょう」の4人がそうであるように、立場を固定せずに、その都度その都度変化して、指示がなくても自走するというチームが理想的なのかなと思います。
藤村:今までって「自走する組織」なんて必要なかったんですよ。これまでの日本社会では、自分たちでいろいろアイデアを出して楽しくチャレンジしていく必要がなくて、組織を安定して成り立たせるための論理だけがずっといわれてた。報・連・相なんていうけど、自走する組織では相談するな、連絡するな、報告するなと(笑)。「ちょっと、やっちゃいました」と。「ここに行きます」って言ってる暇があったら、行っとけよと。
嬉野:相談は後でいいんですよ(笑)。
藤村:組織を安定して成り立たせることを優先するなら、報・連・相って必要なんです。でも、そういう古い組織で「前に行こう」「新しいことをどんどんやろう」というのは無理だと思うんですよ。僕は、勝手にやることをどれだけ許容するか、勝手に出ていける雰囲気をいかにつくるかが大切だと思いますね。
──今のお話を聞いて、思考の硬化が多くの組織にはあるのかなと感じます。特に若い人とは同じ考えを持っていないことを、そもそも大前提にしなきゃいけないのかなと。
藤村:あ、それでいうと「若者研究部」っていうのもおかしいと思って。
──そこは(笑)。
藤村:これから組織をつくるときに、「若者と年寄り」とか、「男と女」とかじゃないんですよ。「お前は若いから」とか「お前は女だから」というのは、旧来の組織づくりの考え方。もうその時点で、活性化した組織とか、前のめりな組織にならない。年齢や性別は関係なく、同じ考え方、同じ志向を持っている人が集まらないと。
これからは、「同じ志向を持つ人間同士」がチームを組んでいく時代
──今の時代にチームをつくる上で必要なスキルや考え方を教えてください。
藤村:今までは「大きい組織」が必要だったけど、人間の数も減ってくるし、大量生産大量消費が幸せだとはもはや誰も思っていないわけで、そうなると大きな組織って必要なくなる。一人で生きていけるならそれでいいわけです。そんな中で、じゃあなんのためにチームをつくるのか?
利益を出すためだけじゃないと思うんですよ。自分がやりたいことが、あなたとだったら、より一層やれる。それを共有、共感できるということじゃないかと。実はわりと一人でやれちゃうんですが、2~3人はいないとやっぱり寂しい(笑)。何かをするときの共感、共有感が、前に行く力になる。嬉野さんなんてまさにそうで、この人がいると共有と共感がすごいのよ。
嬉野:現金主義的な利益というものとは違う利益が、人間が生きていく上にはあるんだということなんですね。共感や共有が、今後人と人がつるんで仕事をする価値になって、そっちに多分未来があるんだと。
──一人では円陣も組めないですからね。だから、同じ志向を持つ者が集うチームが必要なわけですね。チームを組む人にはどんな要素を持っていてほしいですか?
藤村:先日、「水曜どうでしょうキャラバン」で全国11カ所を回ったのですが、HTBのスタッフは20人しかいない。それでは各地でテントを立ててイベントなんてできないから、ボランティアの方を30人募りました。
スタッフの中には若い人や初めてキャラバンに参加する人もいたんだけど、受付とか売り場とか、それぞれの持ち場のリーダーになって、ボランティアの方をうまく導いてほしいと伝えたのね。
以前キャラバンをやったときにも同じようなチーム構成だったけど、そのときのスタッフの中には、上から目線で「それやっちゃ駄目!」とボランティアの方に注意口調だった者もいました。それではボランティアの方たちとうまくやっていけないなというのは、自分の経験上わかる。
今回のキャラバンの前に僕が若い人に言ったのは、「とにかく楽しくやってくれ」ということ。キャラバンは1カ月近くもあちこち行ってイベントするわけ。ハードですよ。「これは仕事だと割り切ってしまったら多分できないから、来ない方がいいよ」と。まず楽しめるかどうかなんだよね。今年はキャラバンの最初にみんなで円陣を組んだりしてた(笑)。
嬉野:「行くぞー!」って言って。意外とあれが効果的なんだよね。なんかフラットじゃない?
藤村:そう、組織としてフラットになるわけ。僕らが指示しなくても、彼らはみんな前のめりで取り組んでた。ものすごく良いチームでしたね。
嬉野:キャラバンでボランティアをしてくれる方っていうのはお客さんなんですよ。お客さんだから、来てくれるお客さんの気持ちは一番よくわかってる。だからその方たちに上から指示する必要はないのね。
藤村:ボランティアの方に教わるというか、ボランティアの方のほうがよくわかってるというのもあるよね。
──フラットにチームメンバーと同じ目線で楽しむことが大事なわけですね。チームをつくるときに共感できる仲間は、どのように見つけられるのでしょうか。
嬉野:たまたまでしょうね。僕らも当時の上司の采配で一緒になっただけなので。この人(藤村氏)も、僕とだけは一緒にやりたくなかったと思うんだけど(笑)。働きそうにないし、6つも年上だし。ただ、僕としてはうまくやっていけるだろうなと思ったのは、彼が作っていた番組が面白かったんです。こんな面白いものを作る人がいるんだと。そこの感覚が一緒だったからうまくやってこれた。それにこの人は裏表がなさすぎて、ズケズケズケズケ物を言うので(笑)、コミュニケーションは非常にできるなと。
──リスペクトの素地がすでにあったということは大きいですよね。藤村さんは、とにかく自分をまずさらけ出すというコミュニケーションなんですね。
藤村:それはそうですね。
嬉野:この方は初対面の方とトークするときもいきなり切り込んでいくんですよ。相手としては、ちょっと理不尽な感じじゃないですか。そうすると、相手も切り返してくるので、そこでコミュニケーションの垣根がなくなる。会議での発言も、まともじゃないですもん。「まともな会議風景」みたいなものにのっとったことがない(笑)。
藤村:たまに会議に出るとみんなこう四角くなってやってるじゃない。そこで「基本的に問題が起きたら、ナアナアで済ませないとダメなんだよ!その方法をちゃんと考えようよ!」とか言って。
嬉野:なんかみんなホッとするよね。ああ、そういう感じなんだって。
──それもすごく大事かもしれないですね。みんなも発言しやすくなるので。上から目線ではなく、いわば水平的な「横から目線」で人と向き合うのがポイントなのかなと思います。
嬉野:この人、上から目線があるような顔でしょ?でも基本的に、この人は怒らないんですよ。怒ってる状態が嫌いなんじゃないですか。
藤村:そう。カッコ悪い、怒ってる人って。でも、上からというか、ダメな組織って、「上から見る人」が上に立っている組織じゃない?その人が右に行けって言ったら全員右に行くっていう。その人は実際には道が見えてないんだけど、古い組織にとっては「全員で右に行く」ことが大事なんですよ。そこで左に行かなきゃいけないんじゃないのって言う人には「お前許せんぞ!みんなが右に行っているのに!」って言う(笑)。
嬉野:その時その時で、道が見えてる人についていきゃいいんですよね。
──必ずしも上に立つ人が何もかも見えている必要はないし、上下関係など気にせず、見えている人がいたらその人に従うということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!