勉強も、趣味も、「タイパ」重視だけではないZ世代の動画視聴
2023/01/18
新型コロナウイルス感染拡大を機に、大学生を取り巻く環境は大きく変わり、リモート授業や就職活動におけるリモート面接などが一般的になりました。余暇時間の使い方も変わり、それに伴ってメディアとの接触状況なども大きく変化しています。また、Z世代の動画視聴では、倍速・スキップ視聴が当然のように行われ、視聴時間とその満足度を測る「タイパ(タイム・パフォーマンス)」といったキーワードも登場しています。
こうした中、電通メディアイノベーションラボでは、Z世代のメディア視聴の実態を探るため、関西学院大学社会学部 森康俊教授の協力のもと、首都圏、関西圏の合計5大学に在籍する社会学部系の学生に対して動画視聴に関するアンケート調査を行いました。(詳細はこちら)
今回は、講義動画の視聴実態や大学受験時の活用などの「学習としての視聴」「エンターテインメントとしての視聴」の二つの切り口による調査結果を紹介。森教授の見解を伺いながら、電通メディアイノベーションラボの長谷川想とZ世代に近い年代の熊川愛臨が分析します。
<目次>
▼8~9割の大学生が授業動画を倍速・スキップ視聴
▼YouTube動画は、高校の平準的な学びから大学の自由な学びへの接続点
▼Z世代はスマートフォンの利用頻度を減らしたい?
▼時間を無駄にせず、効率的に良いコンテンツに接したい
▼Z世代にも響く地上波放送のコンテンツ力
▼求められるのは、共感度の高い強いメッセージ
8~9割の大学生が授業動画を倍速・スキップ視聴
長谷川:コロナ禍のステイホーム期間を通じて、メディア接触行動が大きく変わったとされています。特に今の大学生は、入学当初からリモート授業が前提になり、ステイホーム期間も長く経験しています。
2020年以降、コロナ禍によって講義を動画で視聴することが当たり前になってきましたが、まずは学習面での視聴状況に関する回答結果を二つ紹介します。
長谷川:おおよそ9割の学生が講義動画を視聴していますが、その中の約9割がリアル授業ではできない倍速やスキップ視聴をしていると回答しています。現在はまだオンライン授業の効果に関わる知見を収集している状況だと思いますが、森先生は学生のモチベーション、その教育効果などについてどうお考えでしょうか。
森:学生の前で行うリアル授業は、どうしても情報が冗長になりがちです。学術的な概念を説明するときには、まず固く正確な言葉で表現し、その後かみ砕いて説明することを何度も繰り返していました。
一方、オンライン授業ではマイクに向かって話します。すると、素人ながらも、アナウンサーのようにきちんと正確な日本語をゆっくりしゃべろうという心構えになります。その結果、教室でしゃべるよりシンプルで簡潔な話し方になり、説明がよりわかりやすく、尺は短くなっていきました。私が勤務する関西学院大学は100分授業ですが、講義動画は同じ情報量でも60分ほどの長さに収まるようになりました。
つまり、講義動画は余計なノイズがそぎ落とされるため、倍速・スキップ視聴しても頭に入りやすいのだと考えられます。また、リアル授業と違い、動画の場合はわからなければ何度でも繰り返し視聴できます。その安心感もあって、倍速・スキップ視聴する学生が多かったのではないでしょうか。
また、いつの時代も学生は、少しでも楽をして良い成績を修めたいと考えるものです。昔は大学周辺に「ノート屋」があり、授業を口述筆記してまとめたノートが売られていました。こうしたノートを購入したり、知人からノートをコピーさせてもらったりして、効率的に定期試験を乗り切っていたのです。
現在は、いつでも教材にフルアクセスできる時代になり、学生は常に情報過多の状態に置かれています。情報を圧縮し、できるだけ効率的に学びたいという欲求が生じるのも当然ですし、その結果、動画も倍速・スキップ視聴するようになったのではないかと思われます。
長谷川:学びのスタイルが変わり、先生の話し方や講義の仕方も変わったというのは興味深いですね。
YouTube動画は、高校の平準的な学びから大学の自由な学びへの接続点
長谷川:続いてこちらの結果は、大学生に「大学受験時に参考にしていたもの」を聞いたアンケート結果です。ご覧いただくと、動画を積極的に学習に取り入れていたことがわかり、特にYouTube動画の比率が高く出ています。
さらにYouTube動画の中身に関して具体的な内容を見ると、科目では英語や歴史、特にお笑い芸人の授業動画を参考にしたとの声が多くありました。スマートフォンなどを通じて多くの情報を得られる中、自分にあった動画やツールなどを見つけて、積極的に学習に活用してきた実態がよくわかります。また、当時からYouTubeには倍速・スキップ機能が備わっていたため、もしかするとこういった動画も倍速で視聴していたのかもしれません。
ミレニアル世代の熊川さんは、この結果をどう捉えていますか?
熊川:YouTube動画やスタディサプリなどのアプリは、金銭的もしくは距離的な事情で予備校や学習塾に通えない生徒には非常に有効だと聞きます。一方、学生からは「スマートフォンを使っていると、親世代には遊んでいるように見えて困る」という声もあがっており、大人側も学生たちがスマートフォンを使って学習していることもありうるという実態を理解する必要があると思われます。
長谷川:最初にお見せした回答結果も合わせると、多くの大学生は高校生の頃からYouTube動画の倍速視聴機能などを活用して学習してきた、つまり倍速視聴による学習に慣れていたとも考えられます。森先生は、この点についてどのようにお考えでしょうか。
森:倍速視聴機能は、受験勉強で動画を見る際に習慣づいた可能性が高いと思われます。私は今から40年ほど前、公立の進学校に通っていましたが、授業が平準的でつまらないと思っていた記憶があります。そこを補っていたのが、予備校文化でした。当時は大手3大予備校があり、名物講師の授業を受けたり、彼らの出版物を読んだりすることで刺激を受けていたのです。高校までの刺激の少ない学びから、大学の自由で主体的な学びへのつなぎ目の役割を、予備校が提供していたように思います。
現在は、そういった機能をYouTube動画が補っているのでしょう。特に語学の動画は「聞く」「話す」に特化したものが多く、受験生に限らずどの年代の利用者にとっても有益です。学習アプリも暗記や反復学習に適した機能を備えており、受験生はその有用性を理解したうえで活用しているようです。
かつては参考書を読んで勉強するだけだった歴史も、日本史や世界史を面的にわかりやすく解説する動画をYouTubeで視聴できるようになりました。単にテストの成績を上げるだけではなく、歴史に横軸を通して理解することができ、かつての予備校文化にも通じる刺激を得ることができます。高校的な学びから大学的な学びへの接続点に、YouTubeなどのコンテンツがあるのではないかと考えられます。
Z世代はスマートフォンの利用頻度を減らしたい?
長谷川:ここまで学習に関するお話でしたが、続いては日常生活全般におけるスマートフォン利用について伺いたいと思います。次のグラフは、スマートフォン利用を中心に、生活全般に関して大学生に質問した回答結果です。
多くの大学生が、「コロナ禍によりスマートフォンの利用が増えた」と感じつつ、同時に「利用頻度を減らしたい」とも考えている実態が明らかになっています。また授業だけでなく趣味の動画視聴に関しても、「短時間で視聴できると満足感がある」と回答した女子大学生が4割にも達しました。お金より時間が足りないと感じる学生も、3分の1ぐらいいるという結果も出てきています。
こうしたアンケート結果やご自身の経験を踏まえ、熊川さんはどう考えますか?
熊川:在宅時間の増加によって、スマートフォンの利用が増えたことは間違いないと考えます。電通が2022年8月に20代前半の大学生や社会人に実施したグループインタビューでは、ドライヤー中は「目が暇」なので、髪の毛を乾かしながらスマートフォンで趣味に関する情報を収集しているなどのコメントもあり、おうち時間のさまざまな場面でのスマートフォンの利用が加速しているとも考えられます。
一方、スクリーンタイムなどの機能によって、自身が画面を実際に見ていた時間も簡単に把握でき、利用時間を減らしたいという意識もより強く働いているようです。
また、グループインタビューによると、男性でも美容への影響を懸念し、睡眠時間を気にしているとの意見もあるほど、睡眠に関する意識が高い若者が多く見られました。スマートフォンの利用が長時間に及ぶことで、視力低下だけでなく、睡眠時間が短くなることも懸念しているとも考えられます。
長谷川:森先生は普段から大学生と接していらっしゃいますが、生活の様子なども含めて、特にコロナ禍を経て、お気づきの点はありますか?
森:スマートフォン利用に関する話からは逸れますが、コロナ禍になって、ひとつ不思議に思った点があります。それは、体育会系部活の部員が増えたことです。私も部活に関わっていますが、これまで体育会系部活は未経験者をどう包摂するかがひとつのテーマでした。特に私大の場合、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール、野球はすでに経験者でチームが出来上がっているため、未経験者は入りづらいとされてきました。しかし、コロナ禍に大学に入学してきた人たちは、そういった競技の部活にも入っているのです。
長谷川:現段階では、その理由をどのように分析していますか?
森:2020年度は全世界的に緊迫した空気でしたから、大学とつながっていたいという欲求から、体育会系とは縁遠い学生たちが部活に入ることを選んだのかもしれません。また、ハイレベルな練習ができなかった分、新規参入者のハードルが低くなったという推測もできます。特にバイトができない時期には新入部員が増え、サークルよりも体育会の方が大学生活の実感を得やすいためか、そのまま辞めることなく部に残るケースが多かったようです。
時間を無駄にせず、効率的に良いコンテンツに接したい
長谷川:では、ここからは学習ではなく趣味などの動画視聴に関する回答結果を紹介します。
下記グラフの「映画や書籍は、作品の内容や評価を知ってから楽しむ」は、いわゆる「ネタバレ視聴」に関する回答結果です。女性では2割を超えました。
また、講義動画と同様に、映画などの趣味や娯楽に関しても倍速視聴を一定の比率の学生が定常的に行っていることが確認できました。
熊川:いわゆる「ネタバレ視聴」は、時間を無駄にしたくない、面白くない動画を見続けたくない、失敗したくないという気持ちが背景にあると考えられます。面白さが未知数だと感じる普段見ないタイプの動画を視聴する際には、倍速やスキップ機能を活用して視聴を進め、面白そうなシーンや自分の「推し」が出ているシーンがあれば普通のスピードに戻して視聴するような実態もあります。また、いわゆる「伏線回収」といわれるストーリーの結末に影響する伏線を正確に理解したいといった気持ちも背景にあるかもしれません。
長谷川:「ネタバレ視聴」や「倍速視聴」ともに女性の比率が高いですね。
熊川:女性のほうが関心のある動画の量が多い、ということかもしれないですね。
長谷川:森先生は、今日の大学生のエンタメコンテンツの消費態度などに関してお気づきの点はありますか?
森:お金を無駄にしたくない、時間を無駄にしたくないという二つの気持ちを感じます。アンケート結果を見ると、時間を無駄にしたくないという思いがより強く、しかも女性にその傾向が高いことがうかがえます。
ここまでのお話の中で、かつての機能が現代のコンテンツやプラットフォームにどう代替されているかという比較をしてきました。私が大学生だった頃も、レコードを購入したり映画を見たりするときに、お金を無駄にしたくないという動機から雑誌の評論を参考にしてレコード店や映画館に行きました。例えば洋楽であれば、音楽雑誌の新譜レビューを読み、「このライターが推しているなら信じて買おう」と指針にしたことも。お金は有限ですから、限られた中でより良い音楽に接したいという動機はわれわれの時代にもあったのです。
映画についても同じです。ミニシアター系の映画であれば、ある程度内容がわかったうえで見に行きたい。難しい背景があるなら、映画評論家の解説を事前知識として仕入れ、今でいう伏線回収に近いことをしていたように思います。今は解説系YouTuberが音楽史や映画の背景を説明してくれるようになり、紙媒体から動画へとメディアの代替が起きているのではないかと思います。
それに加え、今の大学生は良いものだけに接したいという欲求が強いのかもしれません。私も学生と話しているときに、「泣けるクリスマス映画を教えてください」といった質問を受けることがあります。そこでタイトルを挙げると、すぐに調べて「見てみます」と言います。きっと膨大な作品の中から自力で1本を探しあてるより、目利きに紹介してもらったほうが調べる手間が省けるからだと思います。
今は音楽も映画もサブスクリプションサービスで楽しめますから、若い世代は個々のコンテンツに対価を払っているという感覚が希薄です。そのため、お金を無駄にしたくないというより、できるだけ効率的に良いコンテンツに接したいという気持ちが強いのではないでしょうか。
Z世代にも響く地上波放送のコンテンツ力
長谷川:上記の調査では、NHKや民放の見逃し配信サービスの視聴が拡大する中で、1週間程度の視聴可能期間に留意しながら視聴を楽しんでいる層や、YouTubeは動画より音楽をより楽しんでいる層が、おのおの一定比率存在することが確認できました。
これまではテレビ番組をリアルタイムで視聴する、YouTubeでは動画を楽しむといった習慣がありましたが、メディアの楽しみ方にも新たな潮流が生まれているように感じます。熊川さんはどう見ていますか?
熊川:コロナ禍によって、大学生にはリモートやオンデマンド授業、社会人には在宅勤務によって、自分で自分の時間をコントロールできる機会が増えました。加えて、配信動画数の増加、コネクテッドTVへの対応など、サービスも充実しています。その結果、見逃し配信でテレビ番組を好きな時間に見る、勉強をしながらパソコンやスマートフォンを使ってYouTubeなどで音楽を聴くといった傾向が加速していると考えられます。
長谷川:コロナ禍でメディアとその接触時間の関係性が変化し、さまざまな種類の「ながら接触」や、隙間時間の長さに応じたメディアの使い分けといった、より複合的なメディア接触が加速していくと思われます。例えば、隙間時間が短いときはTikTokを見て、余裕があるときはYouTubeを見るといった使い分けも浸透しつつあります。マスメディア全盛期、それに続くパソコンでの利用が中心だったインターネット登場期と、大きく様子が変わりつつありますが、森先生はどのようにお考えでしょうか?
森:大学生を見ていると、エンタメ系コンテンツに関してはテレビの地上波放送の力はまだ残っていると感じます。それは、今回の調査結果からも確認できると思います。やはりお笑い芸人やアイドルに関するコンテンツは、テレビから生まれるものが多く、依然としてその力は強いと再確認しました。
ただし、今回の調査ではひとり暮らしの男性の約2割がテレビを持っていないというデータもありました。男子学生のテレビ番組離れ、テレビ受像機離れの兆候があるとも、同時に思います。
長谷川:テレビ番組離れとテレビ受像機離れは、分けて考える必要があるのかもしれません。コンテンツを提供する側も、接点を増やす工夫が必要だと感じました。
求められるのは、共感度の高い強いメッセージ
長谷川:では最後になりますが、コンテンツや広告が、より大学生に受容されるために必要なことは何だと思いますか?熊川さんと森先生のお考えを聞かせてください。
熊川:昨今、特にマーケティングに使われるメッセージでは、婉曲的であまり断言をしないコミュニケーションが多い印象があります。こうした中では、共感度の高いストレートで強めのメッセージが有効ではないかと思われます。次々に情報が目や耳に飛び込んでくる中で、接触する場所や場面に応じて、本人や社会にとって意味のあるものとして瞬時に受け取ってもらう工夫が重要ではないでしょうか。
もうひとついえるのは、若者は自分の時間を重要なものだと捉えていることです。自分の時間をコントロールしたいという意識が強いので、特にネット動画ではどのタイミングで広告が入るかは、非常に重要なポイントだと思います。
テレビでは番組の流れに沿った形でCMが入る一方で、ネットでは突然広告動画が入ることがあります。今年の夏に実施したグループインタビューの中でも、「動画の途中でいきなり広告が出ると自分の時間が止められるようで嫌」という声がありました。
一方で、SNSによっては「自分に合った広告が出ることが多く、好感を持てる」という声もありました。自分の時間を大切にしている若者へ向けたものだからこそ、どこでどのように広告を出すかという、広告の出し方も大きな課題だと感じています。
森:今、熊川さんが「婉曲的なメッセージが多い」とお話しされましたが、実は大学の現場でも同じようなことがいえます。断定的で核心的なメッセージを出さず、聞き手、つまりは授業の履修者の判断あるいは受け取り方に委ねる表現が、大学のコミュニケーションで広がっています。授業もそうですし、大学側から学生にお願いするメッセージについても強く打ち出さないような言い回しになっています。
その背景には、ハラスメントに対する大学としての意識の高まりがあります。性別にかかわらず学生に呼びかける時は「さん」付けをするなど、正しい言い回し、正しい行動の規範やガイドラインが定まってきて、われわれもそれを体現するようになりました。
マーケティングの現場と同じように、受け手としてはもう少しはっきり言ってもらいたい、良いか悪いか批評してもらいたい、強いあるいはカリスマ性のあるやり方でメッセージを発信してほしいという要求も、そのうち出てくるかもしれませんね。