為末大の「緩急自在」No.31
アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.31
2023/02/09
為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。
──前回(#30)に引き続き、今回も「数字とは、どういうものだ?」というテーマにお付き合いいただきます。
為末:よろしくお願いいたします。
──前回の「アスリートにとっての数字」に続く今回は、為末さんのもう一つの顔であるところの「経営者にとっての数字」という切り口でお話を伺おうと思います。
為末:経営者にとって、もちろん数字は大事ですよね。売り上げや利益率、株価などなど。コストの削減や効率化といったこともそうですよね。端的に言うなら、要するにおカネです。でも、アスリートにとっての記録や、学生の頃のテストの点がそうであるように、それだけで全てを表せるわけではないんだろうと思います。
──おカネという数字は、分かりやすいですからね。
為末:おカネを全ての指標としていい時代では、数字だけを追いかけることが有効に機能していたのだろうと思います。
──でも、今はちがいますよね?「心の豊かさってなんだろう?」「自然と共存して、持続可能な社会をつくるにはどうしたらいいのだろう?」みたいなことを、大勢の人が考えて行動するようになっていますものね。
為末:僕は10年ほど前にSNSを始めたんですが、当時は「フォロワーの数」というものは、そんなに重視されていなかった。世の中に何かをつぶやける、誰かとつながれる、ということが楽しかった。ところが、「フォロワー数、何十万人とか、何百万人」みたいなことになってくると、その数字が、急に大事な「指標」となる。フォロワーの数で、選挙に出れば受かるんじゃないかとか、このぐらいは本が売れるんじゃないかとか言われ始めました。
──結果としての数字が「読める」ようになった、と。
為末:最近ではインプレッションも注目されている。「どれだけ反応を得られたのか」ということですね。
──指標としては、より深いものに進化している。
為末:「数のフォロワー」に対して「反応のインプレッション」という感じでしょうか。僕自身、これまでに何冊か書籍を上梓(じょうし)していますが、読者の数よりも、反応が知りたいですから。これは、人付き合いでも、政治の世界でも、もちろん企業経営にとっても、長足の進歩だと思いますね。
──進歩であると同時に、怖くもある。フォロワーの数字だけで人気者であるように勘違いしていたことが、白日の下にさらされるわけですから。
為末:おっしゃる通りです。興味を持たれているかどうかも、分かってしまうようなものでしょうから。
──「数字」というテーマでは次回(#32)がラストなのですが、フォロワーとインプレッションという指標は、大いなるヒントをいただいた気がします。
為末:SNS歴10年のおじさんの体験談というか、単なる感想です(笑)。
──次回のインタビュー内容を、前もってお話ししておきますと、「定量的な分析」と「定性的な分析」ってあるじゃないですか?数値で表すのが定量的、対して数値で測れないことを表現するのが定性的、というアレです。広告会社では主にマーケティング部門の人間が前者を、クリエイティブ部門の人間が後者を担当することが多いと思うのですが、これがまあ、昔からなかなかしっくりくることは少ない。前者は、調査や統計学などを駆使する数字のプロフェッショナルだし、後者は言ってみればアーティストに近い。どちらも、クライアントにご満足いただけるよう、汗を流しているのですが……。
為末:そういうことって、ありますよね。よくあるのは「チーム論」みたいなことだと思うのですが、それを「数字」という観点から斬ってみるのは面白いと思います。
──なんとなくの、これまでの僕のイメージですが、両者は「表裏一体」というか、表と裏のような感じなんです。「車の両輪」に例えるひとも多いですが、キレイにまとめすぎてる感じがどうしてもしちゃう。でも、今回も含めて「数字」をテーマにお話を伺ってみて、おぼろげながら正解が見えつつある気がします。
為末:いつものように、走りながら、雑談をしながら、考えてみましょっか(笑)。
──よろしくお願いいたします。(#32へつづく)
(聞き手:ウェブ電通報編集部)
アスリートブレーンズ プロデュースチーム(日比より)
数字の2回目。経営における数字の大切さは当然ながら、今まで見えていなかったものが、可視化され、数字化されている現象の話。フォロワー数であったり、経営的な売り上げという「量」だけではなく、人の心をどれだけ動かしたのか?など、定性的だったものが、定量化されていく流れを感じます。スポーツの「試合」も、今まで見えなかったものが数字化されており、その結果、楽しみ方が増えているし、人の「感情」に近しい定性的なものも、数字化されていくことで、また、新しい楽しみ方が増えていくのではないか。
アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・荒堀源太(ラテ局)
為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら。