情報メディア白書2023~いま知りたい メディア・社会の過去現在と、これから~No.1
在宅勤務型はコロナ禍前の5倍超!11の生活タイプに見る変化
2023/03/15
電通メディアイノベーションラボは、「情報メディア白書2023」を3月1日に上梓しました。
白書の巻頭特集「いま知りたい メディア・社会の過去現在と、これから」では、以下の4つの記事において情報メディア市場や人々の行動のトレンドを解説しています。
- ソーシャル・シークエンス分析から捉えるコロナ禍前後の生活行動の変化
- 「日本の広告費」~75年を振り返る~
- ビデオリサーチ「テレビ視聴率」の60年とこれから
- ジェネレ―ティブAIがメディア・コンテンツ産業に与える影響
本連載では、巻頭特集の内容を一部紹介します。第1回は、「1.ソーシャル・シークエンス分析から捉えるコロナ禍前後の生活行動の変化」を基に、コロナ禍によって人々の生活スタイルがどのように変化したのかを取り上げます。
<目次>
▼「ソーシャル・シークエンス分析」によって生活行動の変化を理解する
▼生活行動・メディア利用行動から見えてきた11のクラスターとは
▼クラスターごとに異なる行動パターンの例
▼クラスター構成比に見る人々の生活スタイルの変化
「ソーシャル・シークエンス分析」によって生活行動の変化を理解する
新型コロナウイルス感染拡大を経て社会活動の正常化に向けた気運が高まる現在、人々の生活行動の全体像を把握することは容易ではありません。コロナ禍以前の生活への回帰がはかられる一方で、一部の生活者には在宅勤務などの新しい生活様式の定着が見られるためです。
コロナ禍によって人々の生活行動がどのように変化したのかを知るためには、人々の行動をマクロとミクロの視点で把握し、経年変化をたどる必要があります。また多様な生活スタイルや変化の過程を立体的に理解するためには、「平均値」といった指標に頼らないアプローチが求められます。
そこで、電通メディアイノベーションラボはビデオリサーチの「ひと研究所」と共同で、同社の日記式生活行動調査「MCR/ex」(エム シー アール エクス)データ(調査概要はこちら)を利用して「ソーシャル・シークエンス分析」を用いた生活者の行動分析を行いました。
この分析で目指したのは生活時間の流れにおける行動パターンの類型化でした。「MCR/ex」では特定の1週間について日々の行動が時間軸に沿って15分単位で記録されています。そのため、図表1のように1日の時間の流れの中で人々が行う生活行動のシェアがどのように推移しているかを描くことができるのです。
ソーシャル・シークエンス分析とは
出来事や状態の変化など順序のあるデータを分析する統計解析手法の一つ。ソーシャルは「社会」、シークエンスは「順序」の意味。遺伝子配列の解析のための手法として開発され、社会調査データ分析への応用が広がった。
ソーシャル・シークエンス分析について詳しく知りたい方は、こちら
・メディア行動データ×ソーシャル・シークエンス分析
今回、分析対象としたのは、2018年、2020年、2022年(各6月実査)の3時点における、東京50km圏、関西地区、名古屋地区に住む12~69歳の男女(2018年:7764人、2020年:7948人、2022年:7575人)のメディア利用を含む生活行動です。
図表1は2022年の平日における個人全体の1日を通した行動パターンです。睡眠や在宅仕事(自宅でのアルバイトを含む仕事)、自宅内外でのメディア利用などがどの時間帯にどれぐらい行われているかを示しています。各メディアへの接触率は積み上げ表示されており、自宅内接触はグラフ下部、自宅外接触はグラフ上部から逆向きに表現されています。その形状から、メディア利用は主に自宅で行われ、朝、昼、夜にピークをもつパターンがあることがわかります。
今回のソーシャル・シークエンス分析では、「MCR/ex」に記録されている672時点(7曜日×24時間×4〔15分刻み〕)の行動データとこの解析手法を組み合わせることによって、異なる行動パターンを特徴とする11のクラスターを抽出することができました。
世の中に多様な生活スタイルがあることは既に知られています。これにより何がわかるのでしょうか。実は、この分析の最大のだいご味は、生活時間の流れを切り口として、その規模感とともにどのような生活スタイルが存在しているかをデータに基づき可視化できることです。さらに今回の分析では2018年・2020年・2022年の3時点の行動データを対象としているため、コロナを機に生活に生じた変化やその定着の度合いを知ることもできます。
生活行動・メディア利用行動から見えてきた11のクラスターとは
図表2は抽出された11クラスターの概要です。11クラスターはその傾向に応じて大きく4つのグループに分けることができます。
3時点のいずれの年においても構成比が最大なのは、「(1)仕事や学校があり、月~金で定型的・外出が多い」グループです。このグループを構成するのは、外出する時間帯やその長さなどの傾向が異なる5つのクラスターです。後に詳しく紹介するクラスター「⑤在宅勤務型」もこのグループです。
日中に自宅にいることが多い人たちは、自宅でのメディア関与度に応じて、「(2)在宅していることが多く、在宅中のメディア利用が目立つ」グループと「(3)在宅していることが多く、在宅中のメディア利用は限定的」なグループに分かれます。そして、ごく少数ですが夜勤などにより特に睡眠パターンが他のクラスターと大きく異なる「(4)昼夜逆転など特殊なパターン」があります。
クラスターごとに異なる行動パターンの例
各クラスターを特徴づけるのはその行動パターンです。そこで、特徴的な2つのクラスターの2022年における様子を詳しく見てみましょう。
まず、規模において最大級の「①月~金・日中フルタイム型」の生活パターンです(図表3)。土日が休みになる有職者や中高生を中心とする学生の典型的な行動パターンにあたります。この集団は、平日の日中は外出し、自宅の外では通勤・通学や昼休みと推測される時間帯にネットをよく利用しています。週末になると平日よりやや遅い時間に起床し、メディア利用を含むさまざまな活動を自宅で行うことが多いようです。
コロナ禍で注目される「⑤在宅勤務型」の生活パターンはどうでしょうか(図表4)。他のクラスターにはない特徴として、平日の日中の大半を「在宅での仕事」が占めています。興味深いことに、正午にはきちんと休憩を取り、さまざまなメディアに接している様子です。そして平日は自宅で仕事をしているため、平日より週末の方が外出機会はやや多い傾向があります。
クラスター構成比に見る人々の生活スタイルの変化
最後にコロナ禍前後での各クラスターの構成比率の変化を俯瞰(ふかん)してみましょう。
グループレベルでは、最大規模の「(1)仕事や学校があり、月~金で定型的・外出が多い」グループが全体に占めるシェアの変動幅が大きいことが注目されます。2018年に68.1%(クラスター①~⑤の合計)だった構成比は、2020年に53.2%、そして2022年には69.7%と回復しています。
しかしこのグループにおける主流派とも呼べる「①月~金・日中フルタイム型」と「②月~金・遅めフルタイム型」の全体に対する構成比は2018年から2022年にかけてそれぞれ約3%減少しています。対照的に2018年時点では1.8%に過ぎなかった「⑤在宅勤務型」のシェアは、2022年には10.0%と大幅に拡大しています。
「⑤在宅勤務型」の拡大は、主にフルタイムで出勤していた人たち(クラスター①②)の一部が流入したことによるものと捉えて差し支えないでしょう。在宅勤務の導入やその継続の判断は企業により異なりますが、この分析においては自宅で仕事をする生活スタイルはコロナ禍以降着実に定着しているといえます。
また、在宅を基本とするクラスターの構成比にも変化が見られます。例えばテレビの専念視聴に特徴がある「⑥在宅・メディア中心- テレビ専念型」の構成比はコロナ禍がはじまった2020年に拡大した後に減少に転じています。このことは、コロナ禍初期には情報やエンターテインメントを求めるニーズがテレビに向けられていたことを示唆しています。
今回は11クラスターの概要を紹介し、クラスター構成比を通して人々の生活スタイルの変化を見てきました。次回は各クラスターにおける生活時間の配分のデータを基に人々の行動の変化を捉えていきます。