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情報メディア白書2023~いま知りたい メディア・社会の過去現在と、これから~No.4

広告の未来はどこへ~日本の媒体別広告費の推移から考える~

2023/06/09

電通メディアイノベーションラボ編「情報メディア白書2023」の巻頭特集の内容を一部紹介する本連載。前回は、同特集内の「『日本の広告費』~75年を振り返る~」を基に戦後日本の広告費がどのように経済や社会の情勢に影響を受けてきたかについて取り上げました。

本稿では、成長と変化を短期間で遂げてきたインターネット広告費に主に焦点をあて、その広告費の推移、マスコミ四媒体とのポジションの変化、広告の短期的な未来像などについて考察します。

2022年日本の広告費は7兆1021億円となり、初めて7兆円を突破した2007年以来、過去最大となりました。ただしその媒体別の内訳は、この15年で大きく変化しています。2007年、インターネット広告費は広告費全体の8.6%に過ぎませんでしたが、2022年には43.5%を占めています(詳しくはこちら)。

1996年に推計を開始したインターネット広告費はこれまで一度も減少することなく成長を続けています。また、その推計方法に関しては、生活者のメディア環境や広告市場動向に合わせて改定を重ねています。広告費の推計方法の改定をしている媒体はいくつかありますが、多くの改定はインターネット広告に関して行われてきました。その詳しい変遷をお伝えしていきたいと思います。

拡大し続けるインターネット広告費

情報メディア白書#4_図版01

Windows95登場の翌年の1996年から、電通はインターネット広告費の推計結果を公表し始めました。初年は16億円、翌年には60億円(前年比375%)、その翌年には114億円(前年比190%)と大きな伸びを示しました。

1999年には、NTTドコモがiモードを開始し、インターネットへの接続が屋内から屋外へと広がる大きなきっかけとなりました。また総務省「平成13年版情報通信白書」によると2001年は「ブロードバンド元年」といわれ、ADSLを中心とした高速で定額制のインターネット回線が普及し始めました。インターネット広告費はその間も順調に成長を続け、2003年には1183億円と1000億円を突破、翌年には1814億円となり、ラジオ広告(1795億円)を超えました。

2000年代には、後にソーシャルメディアと呼ばれるサービスが国内で多く登場しました。ブログでは2003年に「ココログ」、2004年に「アメーバブログ」が、SNSでは2004年に「mixi」と「GREE」が相次いでサービスを開始し、いずれも短期間で利用者数を大きく伸ばしました。

2005年に米国のティム・オライリーが「Web2.0」の考え方を提唱するなど、個人がインターネットを通じて情報の発信を行うことが容易になりました。これらの様相は、生活者がインターネットを利用する機会の拡大を促し、同時にインターネット広告は放送で言うところの24時間を上限とした広告掲載スペース上の制約がないことから、その広告在庫も大いに拡大させることになりました。2006年にはインターネット広告費は4826億円となり雑誌広告(4777億円)を超えました。

2007年には動画共有サービスYouTubeの日本語版がサービス開始され、インターネット回線が高速化する中で、生活者の動画利用が拡大する契機となりました。2008年には国内でアップル社のiPhoneが発売され、スマートフォンの普及が加速します。また同年にはFacebookやTwitterの日本語版サービスが開始され、以降ソーシャルメディアの利用もさらに加速することになります。

これらのサービスを提供するいわゆるデジタル・プラットフォーマーは、膨大なデータを活用し、アドテクノロジー(広告配信の効率を上げるテクノロジーやシステム)を進化させ、広告のターゲティング精度を向上させていきます。こうした取り組みは投資対効果を重視する広告主から支持され、インターネット広告費は堅調に推移していきます。2009年には7069億円となり新聞広告(6739億円)を超え、さらに2014年には大台を超え、1兆519億円に達しました。

多様化する広告媒体に対応してきた広告費推計方法

2007年には広告メディアが多様化していることに対応して、1985年以来となる推計方法の改定を行いました。まずSP広告費と呼ばれていた部分の対象をフリーペーパー・フリーマガジンの広告費などを追加し拡大、プロモーションメディア広告費と改めました。

またインターネット広告費に関しては、それまで媒体費のみだった推計対象に広告制作費を加えました。従来のバナー広告に加え、動画やソーシャルメディア上などで表示されるさまざまな広告への需要が高まったことに対応しました。インターネット広告制作費は、過去にさかのぼって対応を行った初年の2005年には969億円、翌年には1196億(前年比123.4%)となりました。

インターネット広告費が急速に拡大した理由の一つとして、アドテクノロジーを活用したターゲティング技術の向上が挙げられます。いわゆるデジタル・プラットフォーマーが、保有する検索履歴やページ閲覧履歴などのデータを活用し、広告が掲出されるページの来訪者に対して、各自が興味を持ちそうな広告を瞬時に掲出するような仕組みが広く普及していきました。

こうした事態に対応し、2012年よりインターネット広告の媒体費に関しては、広告の取引手法により次の2種類に分けて推計をすることにしました。

  • 「予約型広告」
    あらかじめ金額や期間、掲載場所が決まっている広告
  • 「運用型広告」
    検索連動型広告や、動画共有サイトやSNS等のプラットフォームに加えてアドネットワーク上などで表示される広告。出稿内容を出稿期間中に柔軟に変更できる(入札によって広告単価等が決定)

アドテクノロジーが進化していくなかで、運用型広告は、推計開始初年の2012年には3391億円(インターネット広告媒体費占める比率は51.2%)でしたが、2022年には2兆1189億円(同85.4%)と大きく伸張することになります。

インターネット広告費、マスコミ四媒体の広告費はどのように推移したのか

情報メディア白書#4_図版02

メディアの多様化やインターネット広告費の成長が進む中、マスコミ四媒体の広告費の増加が止まり、減少が始まりました。ただし、マスコミ四媒体の広告費のピークは媒体によって異なります。

最初にピークを迎えたのは新聞で、1990年に1兆3593億円、総広告費に占める割合は24.4%でした。次にピークを迎えたのがラジオで、1991年に2406億円、総広告費に占める割合は4.2%となっていました。新聞とラジオの広告費に関しては、インターネット広告費の推計開始前の、いわゆるバブル期にその広告費のピークを迎えていたことになります。

その次はテレビ(当時は「地上波テレビ」として推計)で、2000年に2兆793億円、総広告費に占める割合は34.0%、最後は雑誌で2005年に4842億円、総広告費に占める割合は7.1%でした。テレビメディア、雑誌の広告費は、何度かの減少はあるもののバブル崩壊後も増加の傾向を示していたことがわかります。

またそのピークを迎える時期は、インターネット広告費の伸びを加速させる動画共有サービス、スマートフォン、ソーシャルメディアが登場する前であったことは非常に興味深いといえます。増加を続けるインターネット広告費は、2019年には、2兆1048億円となり、テレビメディア(「地上波テレビ」+「衛星メディア関連広告」)広告費(1兆8612億円)を上回って媒体別で首位、総広告費に占める割合は30.3%となりました。

マスコミ四媒体の事業者は、広告費が頭打ちになる中で、コンテンツのデジタル化対応を積極的に進めていきます。媒体各社が運営するウェブページやアプリにとどまらず、TVer(2015年開始)やradiko(2010年実用化試験配信を開始)などの複数の放送局のコンテンツが楽しめるプラットフォームも登場します。

こうした動きに対応し、「日本の広告費」では2018年にマスコミ四媒体の事業者が中心となって運営するインターネットメディア・サービス上に掲出される広告費の推計を開始しました。「マス四媒体由来のデジタル広告費」は、初年は582億円となりましたが、2022年には1211億円まで拡大しています。「マス四媒体由来のデジタル広告費」の中で、2022年最も金額が大きい媒体は雑誌で610億円、その次がテレビメディアで358億円となっています。

広告の近未来への仮説 ~デジタルで溶ける境界と新たなプレーヤーの登場~

電通グループが2022年12月に発表した「世界の広告費成長率予測(2022~2025)」によれば、2021年(実績)の世界の総広告費に占めるデジタル広告費の割合は 52.5%、2025年には59.5%に達すると予測されています。(図1参照)国内においても、ウクライナ情勢や円安、さらには物流業界における2024年問題などによって、特に印刷が関わる媒体においては、コスト上昇のトレンドが続く見込みで、広告費の増減にとってはマイナス要因が働き、デジタル媒体へのシフトも想定されます。

情報メディア白書#4_図版03

前述した「マス四媒体由来のデジタル広告費」のテレビメディアには、放送局などが運営する動画配信サービス上の広告が含まれます。これらの動画配信サービスに関して、コネクテッドTV(インターネットに接続されたテレビ受像機)からの視聴数は増加を続けています。テレビ受像機に表示される動画広告に関して、テレビメディア広告なのか、インターネット広告なのか、視聴者の意識は希薄になるでしょう。また、テレビメディア広告費の推移だけで産業としてのテレビを論じることが難しくなりつつあるともいえます。

昨今注目されている広告メディア領域として、リテールメディアがあります。リテールメディアとは、流通小売企業が運営するECサイト上の各種オンライン広告やリアル店舗に設置されたサイネージ広告などで、流通小売企業が媒体社として提供する広告媒体です。

生活者の購入場所により近いこれらの媒体は、流通企業が保有するデータを活用することで、広告のターゲティングの精度を高めていくことが見込まれます。こうした広告は、従来の広告費や販売促進費の区分では捉えづらい、広義のマーケティング費用とでもいうべきもので、今後規模が拡大していくことが予想され、流通小売企業の媒体社としての存在感は増していくことでしょう。

これまで述べてきたように、大きな潮流としてのデジタル媒体へのシフトがありますが、デジタル化はさまざまな側面で既存の広告メディアの枠組みに変化をもたらしていると言えます。またリテールメディアなどのように、テクノロジーを活用し、自社の資産を広告媒体化していく新たなプレーヤーの登場も予想されます。本稿では「日本の広告費」の推計方法の改定に関しても言及してきましたが、広告費の推計に関して、今後もさらなる改定が必要な場面があることは間違いないでしょう。

変化が加速し、手段が多様化・複雑化する今日の環境下では、日本の広告費の推計にあたって、そもそも推計の対象とする広告をどのように定義するかの議論も必要になっています。前回記事において、「広告は時代を映す鏡である」と述べましたが、今後も経済社会の動きをさまざまな視点から精緻にとらえつつ、「広告とはなにか」を問い続ける必要があるともいえるでしょう。

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