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情報メディア白書2023~いま知りたい メディア・社会の過去現在と、これから~No.2

「睡眠」「外出」に大きな違い!コロナ禍前後で人々の生活行動時間はどのように変化したのか

2023/03/31

電通メディアイノベーションラボ編「情報メディア白書2023」の巻頭特集の内容を一部紹介する本連載。前回はビデオリサーチ社の「MCR/ex」(エム シー アール エクス)生活行動データを用いたソーシャル・シークエンス分析によって抽出された、11のクラスター(生活パターン)の概要とその構成比率の推移を見てきました。

今回は、よりミクロな視点に立ち、代表的なクラスターの生活行動時間における配分の様子を通して、コロナ禍前後で人々の生活に生じた変化を紹介していきます。

ソーシャル・シークエンス分析とは
出来事や状態の変化など順序のあるデータを分析する統計解析手法の一つ。ソーシャルは「社会」、シークエンスは「順序」の意味。遺伝子配列の解析のための手法として開発され、社会調査データ分析への応用が広がった。

ソーシャル・シークエンス分析について詳しく知りたい方は、こちら
メディア行動データ×ソーシャル・シークエンス分析

「MCR/ex」(エム シー アール エクス)とは
ビデオリサーチ社が特定の1週間に行う日記式調査。生活者の行動を基本的な生活行動、メディア接触等の視点から、曜日別に時間軸に沿って最小15分単位で捕捉する。
<目次>

生活行動時間を分解してコロナ禍前後の変化を知る

コロナ禍以降はほぼ全てのクラスターの睡眠時間が増加

コロナ禍を機に朝の通勤時間が睡眠時間に転じた「⑤在宅勤務型」

家族や取り巻く環境など、“本人以外”の変化も生活行動に影響を及ぼす

 

生活行動時間を分解してコロナ禍前後の変化を知る

11のクラスターは2018年、2020年、2022年の3時点を通して、共通する生活パターンに基づき分類されたものです。

情報メディア白書2023#2_図版01
出典:電通・ビデオリサーチ「MCR/ex 2022ソーシャル・シークエンス分析」

しかし、個別の行動に充てる時間が3時点においてすべて等しいということはありません。限られた1日の時間を「何に対してどの程度」、また1日のうち「どのタイミングで」配分しているのか。さらには同じクラスターにおいてもその配分が「時系列でどのように変化しているか」を把握することで、人々の生活の実態をより詳しく理解することができます。

ここでは規模において最大クラスターである「①月~金・日中フルタイム型」の生活パターンにおいて、コロナ禍前後で生活行動時間がどのように変化したのかを見てみましょう(図表2a:自宅外の行動を示した表/図表2b:睡眠と在宅時の行動を示した表)。

なお、以降の分析は東京50km圏、関西地区、名古屋地区の3地区のデータを基に行っています(調査概要はこちら)。

情報メディア白書#2_図版02a
情報メディア白書#2_図版02b
出典:電通・ビデオリサーチ「MCR/ex 2022ソーシャル・シークエンス分析」
※分数は小数点以下第1位で四捨五入しているため、その差分はスコア変動の数値と一致しない場合があります。

このクラスターは、平日の日中に仕事や学校のために外出する特徴があります。それでもコロナ禍の影響を受け、2018年と2022年を比べると1日あたりの外出・移動時間(週平均/表2a「2018年→2022年差分」列全数値の合計)は33分減少しました。また、自宅でのテレビのリアルタイム視聴時間は2020年に一時的に増えたものの、2022年には2018年と比べて25分減少しています。

一方、2018年と2022年を比較して行動時間が増えたのは、ネット系メディアの利用、自宅でのメディア以外の生活行動や仕事、睡眠などです。中でもネット系メディアのうち、自宅で「ネット動画」に充てる時間は22分増と大きく伸長しました。

利用デバイス別に詳しく見ると、2018年に8分だったモバイル経由のネット動画利用は2022年には18分になりました。また2018年では1分にすぎなかったテレビ受像機でのネット動画利用は2022年に10分と、どちらも大幅に増加しました。

自宅で過ごす時間が増えさまざまな娯楽に対するニーズが高まったコロナ禍において、ネット動画サービスの利用が増えたとされています。代表的なクラスターである「①月~金・日中フルタイム型」の生活パターンにおいても、従来のスマホでの視聴スタイルに加えてテレビの大画面を活用したネット動画視聴が急速に浸透している様子がうかがえます。

コロナ禍以降はほぼ全てのクラスターの睡眠時間が増加

生活時間において大きな比重を占めるのは睡眠です。睡眠は生活の流れにリズムをもたらす重要な行動要素です。また、コロナ禍において健康が強く意識される中で、睡眠の重要性も広く認識されるようになりました。それでは11クラスターの睡眠傾向にはどのような特徴が見られるのでしょうか。図表3に各クラスターの3時点における1日あたりの睡眠時間(週平均)を示します。

情報メディア白書#2_図版03
出典:電通・ビデオリサーチ「MCR/ex 2022ソーシャル・シークエンス分析」
※分数は小数点以下第1位で四捨五入しているため、その差分はスコア変動の数値と一致しない場合があります。

3時点を通して睡眠時間が最も長いのは、「⑧在宅・メディア中心 - テレビ+ネット型」です。このクラスターは比較的自宅での時間の過ごし方を自分でコントロールしやすい集団にあたり、テレビ視聴と同等以上にネットメディア利用も多く、若年層の大学生や主婦のうち在宅が多い人を含みます。睡眠時間そのものは長いのですが、コロナ禍前後の睡眠時間の変動幅はそれほど大きくありません。2020年に4分増えた後、2022年には2018年と同水準の518分に戻っています。

調査年ごとの睡眠時間の推移に注目すると、ほぼ全てのクラスターの睡眠時間がコロナ禍以降に増えています。中でも、「③月~金・時短外出型」「⑤在宅勤務型」「⑩在宅・生活行動中心 - 夜更かし型」の睡眠時間は2018年から2022年にかけて20分以上増えていました。

これらは既婚女性や在宅勤務のオフィスワーカーを多く含むクラスターです。このうち「⑤在宅勤務型」の2018年から2022年にかけての睡眠時間の伸び幅は29分と最大です。この変化はどのような要因によってもたらされたのでしょうか。

コロナ禍を機に朝の通勤時間が睡眠時間に転じた「⑤在宅勤務型」

図表4は「⑤在宅勤務型」の1日を通しての「睡眠行為者率(週平均)」の推移を表しています。睡眠行為者率はその時間帯にどれくらいの人が寝ているかを示します。朝の時間帯に注目すると、2020年、2022年の睡眠行為者率は2018年を上回っています。2018年では朝7時の時点で寝ている人は33.8%でしたが、2022年には49.1%と大幅に増えています。つまり起床時刻がより遅くなっている傾向です。

情報メディア白書#2_図版04
出典:電通・ビデオリサーチ「MCR/ex 2022ソーシャル・シークエンス分析」

2018年に「⑤在宅勤務型」が全体に占める比率はわずか1.8%でした。コロナ禍を機に勤務形態が在宅中心となった人が一気に増えたことを踏まえると、朝寝のトレンドをもたらしたのはこの新規参入組と考えられます。その多くはコロナ禍前にはフルタイムで出勤していたと想定され、在宅勤務によって通勤の必要がなくなったことから遅めの時間に起床するようになったといえそうです。

家族や取り巻く環境など、“本人以外”の変化も生活行動に影響を及ぼす

前回から2回にわたって、生活行動データのソーシャル・シークエンス分析を通して人々の生活がコロナ禍でいかにダイナミックに変化してきたかを見てきました。

今回の分析は3エリアを対象としており、特に在宅勤務導入による生活パターンの変化は大都市において顕著な傾向と考えられます。その点に留意は必要ですが、2022年現在、平日にフルタイムで仕事や学校に行くために外出する生活パターンがやや減少する一方、在宅勤務の生活パターンが定着している様子を捉えることができました。

また各クラスターにおける生活時間配分を通して、睡眠などの基本的な生活行動、さらにはテレビやネットなどのメディアとの関わり方がコロナ禍前後で変化している様子も見えました。

なお、一日の生活の流れの中で人々の行動が変化する要因は多岐にわたります。例えば同居する家族がいる人の場合には、たとえ本人の状況が変わっていなくても、家族がコロナ禍を機に在宅勤務を取り入れたことでそれまでの生活スタイルを変えざるをえなくなることもありえます。今後も人々の生活行動やメディア利用行動の背景を考える際には、本人の属性や嗜好性などに加えて、その人を取り巻く環境の変化が影響している可能性についても考慮する必要があるでしょう。

【調査概要】
調査名:MCR/ex(エム シー アール エクス)について
調査エリア:東京50km圏、関西地区、名古屋地区、北部九州地区、札幌地区、仙台地区、広島地区
本稿では東京50km圏、関西地区、名古屋地区の3地区のデータを分析
調査対象者:男女12~69歳の個人(エリア・ランダム・サンプリング)
実施時期:毎年6月、12月(東京50km圏のみ)
調査手法:電子調査票による調査
調査会社:ビデオリサーチ社
 

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