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組織の中から始める、SDGsアクションNo.4

従業員一人一人が「自分にできること」を選び、アクションを起こす~パナソニックグループの企業市民活動

2023/04/18

SDGsの達成やサステナブルな社会の実現に向けた、企業のインターナルコミュニケーションや社内活動の成功事例を紹介する、本連載。第4回は、パナソニックグループの取り組みを紹介します。

総合エレクトロニクスメーカーとして、家電、情報通信機器をはじめとする幅広い製品やサービスを提供するパナソニックグループは、事業活動とともに企業市民活動にも力を入れています。

24万人を超える多様な従業員に、企業市民活動を理解してアクションを起こしてもらうために、どのようなインターナルコミュニケーションを行っているのか。「サステナブル・シーフード」や「みんなで“AKARI”アクション」の取り組みを中心に、CSR・企業市民活動担当室長の福田里香さんにお聞きしました。

福田里香

福田里香氏:2014年、CSR・企業市民活動担当室長に就任。重点テーマとして貧困の解消、環境、人材育成(学び支援)を軸に各種活動に取り組んでいる。

事業活動と企業市民活動の両輪で取り組む

──まずは、パナソニックグループが企業市民活動に取り組む理由や背景について教えてください。

福田:当社はもともと、1918年に創業者・松下幸之助が家族3人で始めたベンチャー企業でした。現在、従業員数は24万人を超え、その半数以上が海外の従業員というグローバルで規模の大きな企業になりました。

しかし、当社の経営理念は創業当時から基本的に変わらず、「事業を通じて人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する」ことです。そのために、本業である製品やサービスの提供によって社会に貢献する事業活動と、事業とは別のアプローチで一企業市民として社会に貢献する企業市民活動の、両輪で取り組むことが大切だと考えています。

では、企業市民活動では何をすべきなのか。当社はこれまでさまざまな活動を行ってきましたが、ちょうど2018年に創業100周年を迎える中で中期計画を策定するにあたり、活動の“軸”を決めようと、2015年ごろに社内でかなり議論をしました。その際に、軸を決める指針の一つになったのが、ちょうどその時期に採択されたSDGsです。当社がグローバルな企業ということもあり、グローバルな社会課題に目を向けることが重要だと考えました。

また、当社のこれまでの歩みを振り返り、創業者が「貧困は罪悪である」との考えの下、生産者の使命として「貧乏の克服」を掲げていたことと、現在の社長が「環境問題は21世紀最大の課題だ」と考えていることを、社内で再認識しました。こうした経緯で、企業市民活動の重点テーマとして「貧困の解消」と「環境活動」を取り上げることになりました。さらに、課題解決のベースとなる「人材育成(学び支援)」にも重点を置いて取り組むことを決めました。

小さなアクションでも社会貢献できることを知ってほしい

──「環境活動」に関する企業市民活動の一つ、サステナブル・シーフードの取り組みについて教えてください。

福田:サステナブル・シーフードとは、MSC認証(水産資源と環境に配慮した漁業で取られた天然の水産物の証し)、またはASC認証(環境と社会への影響を最小限にして育てられた養殖の水産物の証し)を取得した水産物のことを指します。当社は2018年に日本で初めて社員食堂でのサステナブル・シーフードの継続導入を始めました。

この活動の背景には、国内外の環境保全に取り組む公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の海の豊かさを守る活動を、当社が20年以上支援してきたことがあります。この活動の一環で2014年から支援していたのが、東日本大震災で被災した宮城県南三陸町のカキ養殖業です。

南三陸町では、震災の前から過密養殖によりカキの生育が遅くなり、生産性が課題となっていました。そこでカキ生産部会の漁師の方々は、津波で養殖施設を全て失った後、養殖業を再開する際に「元通りにするだけではダメだ」と、施設である筏(いかだ)を大幅に削減しました。もちろん、筏の削減によって収入が減少するのでは?という懸念もあったそうです。

ところが、いざ実行してみると、カキの生育環境が改善されたことで、今までよりも短い周期でおいしいカキが育つようになり、労働時間の減少や収入の増加といった成果を得ることができました。さらに、2016年3月には、南三陸町のカキが日本初となるASC認証(※)を取得しました。

こうした背景を知ってもっと応援しようと始めたのが、サステナブル・シーフードを社員食堂へ導入する取り組みです。今では社員食堂で定期的に「サステナブル・シーフードの日」を設けていて、南三陸町のカキだけでなく、エビやサケといったほかのサステナブル・シーフードも提供しています。

この取り組みで目指しているのは、まずは従業員に「食べることでちょっとした社会貢献ができる」と知ってもらうこと。そして、社員食堂だけでなく、普段の生活の中で、サステナブル・シーフードを購入したり、スーパーで「認証された商品はありませんか?」と質問してもらったり、日頃の意識や行動を変えること、すなわち消費行動の変容にもつながれば、と考えています。

※ASC認証制度:水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度で、自然環境の汚染や資源の過剰利用の防止に加え、労働者や地域住民との誠実な関係構築を求めるもの。

 

──従業員の皆さんにこの取り組みを認知してもらうために行ったことを教えてください。

福田:最初は、食堂で様子を見ていても、「サステナブル・シーフードって何?」という人が多かったですね。しかも、サステナブル・シーフードを使ったメニューは他のものより値段が高いんです。だからこそ、きちんと説明する必要があると思い、危機に直面している海の現状がわかる資料を掲示したり、MSC(海洋管理協議会)からいただいた資料を配布したりして、サステナブル・シーフードの重要性やMSC・ASC認証の周知に力を入れました。もちろん、おいしくないと従業員に選んでもらえませんから、総務部門や給食会社を中心に、メニューも工夫いただいています。

あとはベタですが、食堂にのぼりを立てたり、「今日はサステナブル・シーフードの日なのでぜひ食べてください!」と食堂で呼びかけたりもしましたね。また、私たちは企業市民活動に関する情報発信の手段としてメルマガも活用していて、現在6万人ほどの登録者数がいるので、そこでも発信をしました。従業員の皆さんの口コミの力も大きく、今では「サスシー(=サステナブル・シーフード)」という言葉が、あちらこちらで従業員の口から出るほど社内で浸透しています。

サステナブル・シーフード
福田:さらに、サステナブル・シーフードの取り組みを、社内だけにとどまらず、ほかの企業に広めるための働きかけもしてきました。この活動に限ったことではないのですが、私たちは企業市民活動の3年間の中期目標として、1年目は活動を自分たちの手で広げ、2年目は活動を広げるための仕込みをして、3年目は活動を自走させる、ということを掲げて推進してきました。

これが最もうまくいったのが、サステナブル・シーフードの取り組みです。始めて1~2年目の時期には、サステナブル・シーフード導入のためのセミナーを開催したり、他社から「どうしたらいいの?」と聞かれたら、おせっかいと言われるくらいにどんどん説明に行ったりしていました(笑)。

また、社員食堂にサステナブル・シーフードを導入するには、認証を取得した水産物を仕入れる給食会社の協力も不可欠です。そのため、導入したい企業だけでなく社員食堂を運営する給食会社にも積極的にノウハウを共有しました。そのかいあって、今や私たちの知らないところにまで活動が広まっています。

現在は、全国に約100ある当社の社員食堂のうち、56拠点にサステナブル・シーフードを導入しています。コロナ禍の影響もあり、一進一退の時期もありましたが、今後も少しずつ拠点を増やしていきたいと考えています。

福田里香

──「貧困の解消」に関する企業市民活動の一つ、「みんなで“AKARI”アクション」についても教えてください。

福田:当社では無電化地域の生活水準向上を目指して、2013年から2018年にかけてソーラーランタン10万台をアジアやアフリカなど30カ国に寄贈するプロジェクトを実施していました。その活動は終了したのですが、後継活動の一つとして現在行っているのが、「みんなで“AKARI”アクション」です。これは一般の方も参加いただけるプロジェクトで、社内外から集まったリサイクル品の寄付で、当社製品のソーラーランタンを無電化地域に届けています。2018年からスタートし、これまで累計約1万3500台のソーラーランタンを計14カ国に寄贈しました。

──この取り組みでは、従業員を巻き込むためにどのような工夫をされているのでしょうか。

福田:各事業会社や拠点にリサイクルボックスを設置して従業員から不用品を回収したり、リサイクル募金サービスを通じて直接買い取り、ソーラーランタンとして無電化地域にお届けしています。さらに、当社の福利厚生制度であるカフェテリアポイントを寄付できる仕組みもつくっています。

社員は付与されたポイントを使って、キャリアプランやライフプランに応じた福利厚生のメニューを選択・利用できるのですが、ポイントが中途半端に余ってしまうことがあるんですよね。ポイントには使用期限があり、使わないのはもったいない。そこで、使用期限の前にメルマガなどを使って「カフェテリアポイント余っていませんか?端数でもいいのでぜひ寄付してください!」と呼びかけています。なんとか気づいてもらうために、メッセージが目立つように工夫をするなど、みんなで涙ぐましい努力をしているんですよ(笑)。

実際、コロナ前の2019年度には各拠点でチラシを配布しながら寄付を募ったところ、1年で600万円ほど集まり、1000台ものソーラーランタンを購入することができました。一人一人が端数を寄付するだけでもこれほどの金額が集められるなんて、やっぱり「数は力」ですよね。忙しくて自分にできることはないかもしれないと思っている人にも、「余ったポイントを寄付する」というちょっとした行動で貢献できることを知ってもらえたら、と思います。

さらに、ソーラーランタンがどのように使用されているのか、現地の様子を視察する特派員を社内で募集したところ、毎回定員以上の人数が集まっていました。従業員の皆さんにアクションを起こしてもらうだけでなくて、そのアクションがこれだけの成果を上げた、こんなことにつながった、というフィードバックもきちんと行うことが大切だと考えています。

“実体験に触れられる場”を積極的につくることで、取り組みを広げる

──パナソニックグループには従業員が気軽に参加できる企業市民活動も多い一方で、ボランティアで半年以上活動をするプロボノ(社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動)プログラムもありますね。こちらはどのような内容なのでしょうか?

福田:当社では、社会課題の解決に取り組むNPO/NGOを応援する“新しい形のボランティア”として、2011年から「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」に取り組んでいます。支援するのは、NPO/NGOの組織基盤強化を応援する「Panasonic NPO/NGOサポートファンドfor SDGs」の助成先や、東日本大震災・熊本地震での復興支援団体などさまざまです。

支援する内容も、マーケティング調査や中期計画策定、ウェブサイトの再構築、営業資料の作成など多岐にわたります。特に、NPO/NGOではどうしても目の前で起きている問題に対処することが優先されるので、運営や管理までなかなか手が回っていないところも多いんですよね。

そこに、当社の従業員が仕事で培ったスキルや経験を生かしてサポートすることで、団体の事業展開力の強化を支援しています。また、プロボノプログラムは、チームを組んで半年以上の期間活動をすることも特徴で、普段はなかなか会わないような従業員同士が交流する機会にもなっています。

──プロボノプログラムを社内で浸透させるために行っていることを教えてください。

福田:プロボノプログラムも、サステナブル・シーフードの取り組みや「みんなで“AKARI”アクション」と同じように、社内イントラネットに掲載したり、メルマガで情報発信をしたり、説明会を開催したりして、募集しています。

また、プロボノプログラムは最終的に具体的な成果物をおさめた後、成果報告会も行っています。参加者からは、プロボノプログラムに参加したことで、社会課題への感度が上がった、自分の仕事にも活かせる、自社に誇りを持つようになった、というようなポジティブな声が多く聞かれます。

中でも、普段の業務ではお客様から直接感謝を伝えられる機会があまりない従業員もおられるので、自分のやったことがためになった、喜んでもらえたということに心動かされる方が多いようです。成果報告会は約100人が視聴してくれて、それをきっかけに次の機会に応募してきてくれる方々もいます。やっぱり、参加者から体験談を聞くことで、熱量が伝わったり、自分もやってみようかな、と背中を押されたりするんでしょうね。実体験に触れられるような機会は、今後も積極的につくっていきたいなと思っています。

福田里香
──最後に、今後の展望をお聞かせください。

福田:当社では1年に1回、企業市民活動に関する実態調査を行っています。今では10万人くらいの従業員が回答してくれていますが、企業市民活動に参加するために必要なことを聞くと、「情報がほしい」という声が一番多いんです。

その結果を受けて、メルマガなどを活用した情報発信に今まさに力を入れているのですが、きちんと情報が届くよう、今後も引き続き努力していきたいと考えています。さらに、企業市民活動に参加しやすくなるような、社内の環境を整えていくことも必要だと感じています。

例えば、働き方に関して、コアタイムをなくすことで平日の昼間にも活動できるようになるなど、より柔軟に働ける環境をつくり、利用しやすくすることで、これまで参加できなかった人もアクションを起こしやすくなると思います。職場責任者に向けた情報発信などについても検討していく予定です。

また、パナソニックグループには現在8つの事業会社がありますが、企業市民活動にはグループ全体で取り組み、みんなで大きな動きにしていきたいと考えています。そのためには、従業員一人一人の意識も大切です。最近は、新入社員やキャリア入社の社員の中に、企業市民活動のことを知って応募してきてくれる人もいて、感度の高い人が増えてきていると感じています。

とはいえ、まだ、従業員全員が企業市民活動について知っているわけではなく、知っていてもアクションを起こせていない人が多くいます。そのため「いかにハードルを低くして取り組んでもらいやすくするか」は、これからも考えていきたいです。従業員全員が長期間の活動に取り組む必要はなく、それぞれが自分にできることを考えて、アクションを起こしてもらえたら、と思っています。

TeamSDGsTeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。

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