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サステナブルな社会を実現する先駆者たれ!~多様な社員に旭化成のDNAを浸透させる広報部の挑戦

2023/02/09

SDGsの達成やサステナブルな社会の実現に向けた、企業のインターナルコミュニケーションや社内活動の成功事例を紹介する、本連載。第3回は、旭化成広報部の取り組みを紹介します。

世界20カ国以上に生産・販売・研究開発の拠点を持ち、4万6751人(2022年3月末時点)の社員が働く旭化成。マテリアル・住宅・ヘルスケアの3領域において、多彩な事業を展開。M&Aも積極的に行い、さまざまなグループ会社を擁する総合化学メーカーです。

同社は、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します」というグループミッションを掲げ、2050年に向けたサステナビリティの方向性として、「カーボンニュートラルでサステナブルな世界の実現」と「ニューノーマルでの生き生きとしたくらしの実現」を打ち出しています。

多様な人財が多様な事業をグローバルに展開する中で、どのようなインターナルコミュニケーションを行っているのか?2022年に実施した100周年事業を中心に、広報部の楠神輝美さん、菅田顕さん、岩附美緒さんにお話を聞きました。

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左から、旭化成広報部の菅田顕さん、楠神輝美さん、岩附美緒さん。

100周年事業を通して、旭化成のDNAを見つめ直す

──最初に広報部の業務について教えてください。

楠神:報道対応、広告宣伝、ブランド管理、スポーツ広報を含む社会貢献活動、そしてインターナルコミュニケーションに大別できます。一部、事業別に広報機能を持っている部署もありますが、私たちは、個々の商品ではなく、グループ全体の広報活動を行っています。

──2022年5月に旭化成は創業100周年を迎えました。100周年事業の概要と広報部の役割を教えてください。

楠神:100周年事業の柱は3つあり、全世界の従業員に向けたオンラインイベントの実施、社史の編纂(へんさん)、100周年サイトの制作です。広報部はこれら3つの事業のうち、各部署と連携しながらイベントを主導しました。当初は社内外から人が集まるリアルイベントなども検討していましたが、コロナ禍で大幅な変更を迫られました。最終的には、次の100年に向けての第一歩を力強く踏みだすため、当社の歴史を振り返って存在意義と志を再認識できるものを目指しました。

──100周年事業も含めた、皆さんの業務について教えてください。

楠神:M&Aなどもあり、この10年で旭化成のグローバル化は一気に進み、遠心力も働くようになりました。これはこれで自主性を重んじる旭化成らしい良さではあるのですが、根幹はグループ全体でつながっていることが必要です。広報部は経営陣の意向を踏まえながら、会社の重要なステークホルダーである従業員をどうつないでいけばよいかをいろいろな部署と連携しながら考え、施策を実行しています。同時に、エクスターナルコミュニケーションにも目を向けて、旭化成に対する信頼感や将来への期待感の醸成も図っています。100周年事業において、私は広報パート全体を統括しました。

菅田:2019年1月から2022年6月まで総務部の「社史編纂室」に所属して、社史の編纂と100周年サイトの制作・運営を行ってきました。その後は広報部に戻り、現在は主に情報発信ガイドの整備を進めているほか、史料アーカイブ作成などの業務を行っています。

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「旭化成八十年史」の続編で、グループの歴史を客観的に記した経営史として「旭化成100年史 2001-2020」を編纂。「本編」のほか、創業から100年のデータをまとめた「資料編」、それらを電子化した「DVD版」を制作した。

岩附:広報部のブランドコミュニケーション室に所属しています。室内には、インターナル、エクスターナル、社会貢献活動を担う3つのチームがあります。2022年5月末まではインターナルチームで、隔月発行の社内報の制作、イントラの管理、メルマガの発信などに携わりました。また、100周年プロジェクトでは全従業員が対象のオンラインイベントの実行リーダーを務めました。現在はエクスターナルチームで、企業広告の制作や、各種ブランドツールの管理、ホームページ・SNSの運営など外に向けた発信の仕事をしています。

──100周年事業全体の核となる考え方について、もう少し詳しくお聞かせください。

楠神:旭化成にはさまざまなグループ会社があり、それぞれ分野や文化は違いますが、どの会社も、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します」というグループミッションのもと、事業を展開しています。このグループミッションのもとに全従業員が一つになれるきっかけをつくりたいと考えました。

当社は創業から100年間、そのときどきの社会課題と向き合いながら事業を変化させ、さまざまな製品を世に送り出してきました。たとえば、創業時の1922年は、生活必需品がまだ世に行き渡っていない時代でした。「人びとがよりよい生活を実現できるよう、最も良い生活資材を、豊富に低価格で提供する」という創業者の考えのもと、作物の肥料や、衣類を作るための人造絹糸を開発しました。さらに、食品事業に進出し、ライフスタイルが変化する中でサランラップを発売し、住宅を提供し、エレクトロニクス事業を手掛け、ヘルスケア領域にも取り組むなど、社会課題を先読みしてサステナブルな社会の実現に取り組んできました。その過程では、海外から技術を積極的に取り入れたり、グローバルにマーケットをつくったりしてきました。

旭化成のDNAは、一言でいえばチャレンジ精神です。しかし、今はその志が少し弱くなっているかもしれません。2022年4月にスタートした中期経営計画でも「Be a Trailblazer(先駆者たれ)」 という副題をつけました。100周年事業でも、改めて先駆者として時代を切り開いていくことを伝えたいと思いました。

──その想いをどのように具現化したのでしょうか?

菅田:旭化成100年史については、100周年の節目に旭化成グループの歴史を書物としてきちんと残すため、漏れなく歴史を振り返り、過剰な脚色もせず、淡々と事実を綴(つづ)るものを作りました。しかし、どうしても内容が硬くなってしまいます。そこで、従業員向けに「旭化成の本─つむぐDNA─」も作りました。

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菅田:この冊子は、写真やイラストを多用して、旭化成のDNAをできるだけ分かりやすく伝えることを主眼としました。コンテンツには、創業者の野口遵(したがう)や、中興の祖と言われる宮崎輝(かがやき)などの人物ヒストリーをはじめ、当社が変化・拡大する転機となったターニングポイントや、100年の間に世に送り出した製品とその開発ストーリーなどを、いろいろな方に取材してまとめています。

さらにその延長線上で、100周年サイトを作りました。コロナ禍で社外イベントができない中、創業100周年を迎える1年前からサイトを立ち上げて、社内を中心に盛り上げていきました。こちらでも旭化成の歴史をまとめていますが、中でも各時代の旭化成の取り組みを紹介した「100 Stories」が目玉です。

100の物語を作成するにあたり、世界中の従業員から未来へ語り継ぎたいエピソードを募集しました。裏話的なことも含めて、旭化成の歴史を知って未来を考えてもらうきっかけになればと考えました。

──どのような反響がありましたか?

菅田:「旭化成の本─つむぐDNA─」は、日本国内の全従業員に冊子を配布したほか、英語版と中国語版も作って海外にもデータ配布しました。非常に面白い、分かりやすいと評価をいただきました。

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旭化成らしさを未来にどう生かすか?想像力をかき立てるグローバルオンラインイベント

──100周年事業では、グローバルオンラインイベントも実施されたそうですが、どのような内容でしたか?

岩附:「IMAGINATION SHAPES THE FUTURE(世界を変えるのは、未来をつくるのは、想像力だ)」と題し、2時間半で 10の映像プログラムを全世界にオンライン配信しました。100周年を純粋な祝賀の機会にするだけでなく、次の100年に向けて何を大事にしていくべきか、従業員一人一人の想像力に刺激を与えるようなコンテンツを作りたかったのです。

ただし、興味関心は人それぞれですので、コンテンツの内容は旭化成の仕事の延長線上ではなく、全く違う切り口で考えたいと思いました。たとえば、コンテンツの一つ「AK Talk」では、情報学研究者のドミニク・チェンさんをMCにお招きし、3名の外部有識者へリレー形式のインタビューを行いました。東京工業大学 リベラルアーツ研究教育員教授の伊藤亜紗さん、マリ出身で京都精華大学 全学研究機構長(前学長)のウスビ・サコさん、インタープリター(解釈者)の和田夏実さんといった方々と、「利他」とは何か、個人の関わり方や領域の作り方、「好奇心」が持つ残酷性や尊さなどについてそれぞれ伺いました。いずれも旭化成とはこれまで接点がなかった方々で、新鮮で刺激的な気づきを多くいただきました。

「AK Talk」では他にも、当社名誉フェローの吉野彰とデザインストラテジストの太刀川英輔さんのトークセッションを行いました。太刀川さんが唱える「進化思考」と、2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野のケースを重ね合わせ、イノベーションはどうすれば生み出せるのかについて考えました。

──反響はいかがでしたか?

岩附:5月25日から6月10日の配信期間中、世界36カ国から当社グループ従業員の約4分の1に当たる1万ユーザーのアクセスがありました。中でも「AK Talk」は大きな反響があり、「今までにない視点で旭化成を考えるきっかけになった」「涙がでるほど心が動いた」と、さまざまな声が届きました。

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楠神:100周年事業が成功した要因は、社長をはじめ経営陣が企画に対して「こうしなさい」と決めつけるのではなく、私たちを信頼して、ある程度任せてくれたのが大きかったです。オンラインイベントの内容についても、私たちの提案に対して、「やってみよう」と背中を押していただきました。これも旭化成のDNAだと思っています。

入社した従業員に、なぜ旭化成を選んだのかと尋ねると、7~8割は「人」と答えます。従業員がオープンマインドで、お互いのことを理解し合って尊重するところに魅力を感じるそうです。それは当社の「さん付け文化」にも表れていますが、このような企業風土があるからこそ、100周年を迎えられたのだと感じています。

各部署と連携してグローバルなインターナルコミュニケーションを実現したい

──普段の広報部の業務におけるインターナルコミュニケーションでは、SDGsやサステナブルについてどのような発信をしていますか?

岩附:広報部では社内報を制作していますが、「私たちのサステナビリティ」という連載を組んで、各部署での取り組みなどを紹介しています。また、これはサステナブルに限りませんが、華々しい業績を上げた従業員だけでなく、努力の積み重ねで大きく会社に貢献している従業員にも積極的にスポットを当てています。その一つが「BORDER」という連載です。若手・中堅層の従業員1名に焦点を当て、誰しもが経験する業務上の“壁”に対し、何を考え、どう工夫や努力をしているのかを引き出しています。 この企画は2021年にアワード(社内報アワード2021連載・常設企画部門グランプリ)を受賞しました。社内からの評価も非常に高いです。

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全国配布されている冊子版社内報「A-Spirit」。

楠神:社内報はコロナ禍で在宅勤務が普及して、従業員がリアルに顔を合わせる機会が減った現在、インターナルコミュニケーションの貴重なツールです。ただ、日本からの一方的な発信では各国の従業員に伝わらないこともあります。ですから、海外からもいろいろな情報を集めています。もっとグローバルに一体感が持てるよう試行錯誤しています。

──旭化成は、2050年に向けたサステナビリティの方向性として、「カーボンニュートラルでサステナブルな世界の実現」と「ニューノーマルでの生き生きとしたくらしの実現」を打ち出しています。経営陣から、SDGsやカーボンニュートラルなどについて、広報を通じて社員にもっと浸透させてほしいという要望はありますか?

楠神:社長を含めた経営陣は社内報をとても大事にしていて、会社の大きな方向性は社内報も活用して浸透せたいと考えています。インターナルコミュニケーションの手段としては、他に、同報メール、SNS、パンフレット、ポスター、イントラ、イベントなどがあります。イントラでは社長のメッセージを月に数回発信することもあります。

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──今後広報部として、どのようなインターナルコミュニケーションを実現したいですか?

楠神:グローバルにつながれる新たなプラットフォームを作りたいですね。あとは、100周年事業では実現できなかった、世界同時につながるリアルとオンラインのハイブリッドな双方向イベントをやりたい。全世界の従業員が少しでも一体になれるような取り組みをしていきたいんですよ。そして従業員一人一人が、視野を広げて、新たなヒントを得てもらえたらうれしいです。

菅田:私は今、環境や人権に関する情報発信時のガイドライン整備をしています。SDGs達成に向けての取り組みが世の中で進む中で、情報発信の際の表現も見つめ直すべきことがありますから、分かりやすくかつ適切な表現でコミュニケーションを深めていきたいです。それから、100周年事業では社史の編纂に携わったので、アーカイブの重要性を感じました。それをベースに、旭化成の歴史を生かしたコミュニケーションを形にしたいですね。

岩附:今はエクスターナルコミュニケーションを担当していますが、インターナルとエクスターナルのコミュニケーションの境目は曖昧になってきていると感じます。たとえば昨年、社長の工藤が登壇した国際ビジネスイベントのセッションで研究開発の重要性を述べたところ、R&Dのメンバーから大変誇りを感じたというフィードバックがありました。外部への発信は内部にもつながっていることを実感しています。現在、インターナル担当とも2週間に1度みっちりディスカッションする時間を設けて、意見交換しています。今後も内外のコミュニケーションの垣根を取り払って、統合的に動いていきたいです。

もう一つ大事なことは、インターナルコミュニケーションは広報だけが持つ機能ではないということです。当然と言えば当然なのですが、人事部はもちろん、各事業部門においてもリアル/デジタルさまざまな工夫を重ね、社内のコミュニケーションを活性化する施策が次々と生まれています。そのような中で広報部では、常に俯瞰した視点で会社全体のインターナルコミュニケーションのあるべき姿を考え、それを叶える環境を整えていきたいと思います。結果として、旭化成グループの「らしさ」や「強み」といったアイデンティティが、従業員の皆さんの中に根付き、同時多発的にさまざまな場所でコミュニケーションや業務を通じて体現されていることが理想だと思っています。

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