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組織の中から始める、SDGsアクションNo.2

社員一人一人が成長し続けるための学びの場「損保ジャパン大学」

2022/08/12

SDGsの達成やサステナブルな社会の実現に向けた、企業のインターナルコミュニケーションや社内活動の成功事例を紹介する、本連載。第2回は、損害保険ジャパンの企業内大学である「損保ジャパン大学」について紹介します。

お話しいただくのは、「地域共創学部」を運営し、SDGsをテーマにしたゼミナールを実施している、サステナビリティ推進部・本田恵さんと、同学部の卒業生・野村龍矢さん。

社員たちをうまく巻き込みながら、SDGsについて主体的に学んでもらうための工夫や、ゼミナールでの学び、実務への生かし方についてお聞きします。

損保ジャパン


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──まずは「損保ジャパン大学」がスタートした経緯について教えてください。

本田:「損保ジャパン大学」は、全国の社員が役職や年代を問わず、どこからでも学べるオンラインの企業内大学です。社員一人一人が自ら学び、考え、行動し、成長し続けることを目的に、2020年10月に設立しました。当社では社員の成長が会社の持続的な成長、ひいては社会への貢献につながると考えていて、損保ジャパン大学を通して会社と社員が相互に成長していくことを目指しています。

私たちが取り組む損害保険事業は、お互いがお互いを支え合う「相互扶助の仕組み」で、社会に寄与するところが大きく、SDGsとも親和性が高いことが特徴です。事故や災害の発生時に保険金をお支払いすることは私たちの大切な仕事ですが、それ以外にも防災や減災に取り組み、お客さまの安心・安全を守ることも重要な使命だと考えています。当社でも、地域に寄り添いながら、防災や減災はもちろん、地域ごとに異なる課題を解決するための取り組みを積極的に実施してきました。こうした背景もあり、当社では社会に貢献できる人材の育成に力を入れています。

損保ジャパン大学が現在提供しているコンテンツは大きく二つあります。一つが、社内外の講師がさまざまなテーマで講座を実施する配信型のコンテンツ「SOMPO LIVE」です。一回あたり約1~1.5時間で、毎月20~25本程度、新しい講座を開催しています。社員は自分の興味がある講座を自由に選んで受講できます。

もう一つは、特定のテーマに基づいた研究や活動を実施し、よりインタラクティブに学ぶことができる「ゼミナール(以下、ゼミ)」です。通常の業務ではなかなか習得が難しい分野について、少人数で深く学ぶことができるところが魅力です。現在は、デジタル、グローバル、ビジネス、ダイバーシティ&インクルージョン、地域共創、マーケティング、コマーシャルビジネスの7学部が設置されており、運営はそれぞれの部署が行っています。私が所属するサステナビリティ推進部では、「地域共創学部」の「SDGsを切り口とした社会価値創出の検討」ゼミを運営しています。

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──地域共創学部のゼミの運営方法や、内容について教えてください。

本田:ゼミは上期と下期の年2回開講して、それぞれ全5回の連続したシリーズになっています。また参加者の定員は約30人で、応募が多い場合は、志望動機、地域、職種などのバランスを考慮しながら選考しています。

当社ではこれまでも営業店からの要望でSDGsの研修をすることはあったのですが、1時間ほどの単発の研修がほとんどで、参加者自身に考えてもらう時間が限られていました。しかし社会課題を解決するためには、答えのない問いに対して、自分で調べ、考え、解を出す過程がとても重要です。そのため、損保ジャパン大学のゼミでは、参加者たちに考えてもらう時間を確保するためにも、全5回で実施することにしています。

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第2回以降は、参加者主体のグループワークがほとんどです。いくつかのチームに分かれて自分たちで掘り下げたいテーマを自由に設定し、ディスカッションや調査などを通じて具体的なアクションプランへと結びつけるようにしてもらっています。サステナビリティ推進部の社員たちは、参加者たちに「教える」というより、バックアップすることに注力しています。

このゼミを通して私たちサステナビリティ推進部が一番伝えたいことは、社会課題の解決を起点にビジネスを創出する「アウトサイドイン」や、未来のあるべき姿から逆算して、今何をすべきかを考える「バックキャスティング」の考え方です。SDGs達成のためには、目先のことだけ考えるのではなく、長期的な展望を持ち、未来のために今何をすべきかを考えることが大切だからです。単に保険商品を売るだけではなく、より広い視野を持って、「どのような保険商品を売ればいいのか」「そもそも保険商品を売るだけでいいのか」など、当社にできることを考えていく。ゼミを通して、このステップで考えることの重要性を伝えたいと思っています。

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──ゼミをスムーズに運営するために心掛けていることを教えてください。

本田:参加者たちの心理的安全性を担保することは常に意識しています。例えばゼミの最終回では、「課題に対して当社ができること」についてプレゼンしてもらいますが、それは必ずしも実現可能なアイデアでなくてもいいというルールにしています。これは、参加する皆さんに「事業化できるものでなくてはいけない」とプレッシャーを与えたり、ルールや制限に縛られたりすることなく、自由な発想で考えてもらうためです。

また、社外でファシリテーター経験のある社員から、心理的安全性を保ちながらディスカッションする方法もレクチャーしてもらい、そこで教わったことをゼミでも取り入れています。具体的には、オンライン上のディスカッションではどうしても最初は静かになってしまいがちなので、誰かが自己紹介をしたら拍手ボタンを押そうとか、リアクションを大きくしようとか、チャットも活用してコミュニケーションを活発化しようとか……。細かなことではありますが、もともと積極的で前向きな性格の参加者が多いこともあり、少しの働きかけで、ディスカッションはより活発になると感じています。

また、ゼミの第1回目は、私たちサステナビリティ推進部の社員が講師となってSDGsの最新動向を伝えるため、日頃から学ぶことも心掛けています。私自身も、国内外のサステナビリティ動向の情報収集に加えて、社会課題の解決に挑戦してみたいという思いから、空き家の削減など、地域のまちづくりに取り組む熱海のNPO法人atamista/株式会社machimoriで、社外副業を行っています。まだ始めたばかりですが、ここでの学びを今後は社内でもフィードバックできれば、と考えています。

損保ジャパン大学の周知や参加者の募集をスムーズに進めるために活用しているのが、ホームページや社内SNSのGoogle Currentsです。当社では社内SNSがもともと活発に機能していて、サステナビリティ推進部が運営するコミュニティには全国から約2700人が参加しています。ここではSDGsに関する取り組みを行ったときに投稿してもらう制度などもつくっていて、社内のコミュニティ形成にも役立っています。このようなプラットフォームをうまく活用しながら、ゼミに関する情報発信を行うことも意識しています。

──これまで実施したゼミの中で印象的だったことを教えてください。
 
本田:プレゼンのテーマはチームごとに自由に設定できるのですが、毎回さまざまな社会課題に対するアプローチが出てきて面白いなと感じています。2021年度は、フードロス、気候変動、女性活躍、教育、地方創生など、多様なテーマでプレゼンが行われました。特にサステナビリティ推進部が誘導しているわけではないのですが、自然とテーマがバラけるのを見て、参加者の興味・関心の幅が広いことを実感しました。

その中でも印象的だったのが、食品ロス削減をテーマにしたチームのプレゼンです。当社が運営するSOMPO美術館で開催できるイベントや、当社の保険商品・デジタル事業と絡めた提案をしてくれました。このように、実際に事業化できそうなアイデアも出てき始めていて、ゼミの回数を重ねるごとに、アウトプットのレベルが上がってきていると感じています。今後、実現可能性があるアイデアはマネタイズに向けて社内で提案するなどして、活動をさらに広げていきたいです。

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──野村さんは、2021年上期の地域共創学部のゼミを受講されていたそうですが、そもそもゼミに参加しようと思われた経緯について教えてください。

野村:私はゼミに参加した当時、徳島県の法人営業店に所属していて、日々の業務の中で地域社会におけるSDGsへの意識の高まりを強く感じていました。しかし「SDGsのバッチはつけているけど、具体的に何をしていいのかわからない」という現場の声を聞くことも多く、私自身もSDGsという言葉自体は知っていても、自分の生活とどう関係するかまでは具体的にイメージできていませんでした。

さらに、コロナ下で当社の教育制度が加速度的に充実していく中で、私ももっと主体的に学ばなければいけない、という危機感も覚えるようになっていて……。そんなときに、損保ジャパン大学でSDGsについて学べるゼミがあることを知り、「やらなきゃ!」と感じて、応募することに決めました。いざ新しいことを学びたいと思っても、地方でダブルスクールに通ったりすることはなかなか難しいため、会社の中で場所を問わず学びの機会があることは、とてもありがたいと感じました。

──野村さんのグループでは、どんな社会課題をテーマに取り組まれたのでしょうか?

野村:私たちのグループでは、「子ども」をテーマに取り組みました。このテーマはディスカッションで決めたのですが、年代も性別もバラバラなメンバー5人が、関心のあるテーマとして全員「子ども」を挙げたんですよね。本当に偶然だったのですが、とても驚きました。私自身がこのテーマを選んだのは、子を持つ親として、次代を担う子どもたちに対して持続可能な社会を残すためにできることは何かを考えるようになってきたからでした。

ゼミでは、初回にサステナビリティ推進部からSDGsの基礎的なレクチャーがあったおかげで、2回目以降のディスカッションを比較的スムーズに進めることができたと思います。ディスカッションではメンバーそれぞれが「子ども」をテーマに、自分の考える課題やアプローチについて熱く語り、ゼミの時間以外にもショートミーティングの時間を設けて、それぞれのアイデアをブラッシュアップしていきました。そして最終回のプレゼンでは、各自が取り組みたいことをパワーポイント1枚にまとめて、集約したものを発表。当社のSOMPO美術館を活用した「SOMPO VR美術館」や、グループ会社が行っている介護事業と絡めたお年寄りと子どもたちが触れ合う場づくり、地域包括ケアで支援する仕組みづくりなどについて、提案しました。

中でも私が印象に残っているのは、「SOMPO VR美術館」のアイデア。これは、首都圏と比べると美術館の数が少ない、地方に住む子どもたちにもアートに触れる機会を提供し、子どもたちの心の貧困をなくそうというアプローチです。SDGsといえばどうしても目に見える貧困に注目しがちですが、心の貧困という考え方もあることを知り、私自身、とても学びになりました。「実現可能性を度外視してOK」というルールのおかげで、想像が膨らみ、自由に楽しく考えることができたと思います。

また、プレゼンの内容を社内SNSでもシェアしたところ、ゼミに参加していない方からも多くのコメントをいただけました。反応があるとやはりうれしく思いますし、多くの人が投稿を見ていることから、社内でもSDGsへの意識が高まっていることを実感しました。

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──ゼミで学ばれたことは、業務でどのように生かされているのでしょうか?

野村:ゼミを受講したことで興味の幅が広がり、これまでの受動的だったインプットから、自分で積極的に情報を取りにいくインプットへと変わりました。実務でも、当社の保険商品だけで考えるのではなく、社会課題を起点に広い視野で考えられるようになったと思います。

また、実際にアクションを起こすために、社内副業制度の「SOMPOクエスト」を活用し、「水災害プロジェクト」にも参加しました。ここでは、災害に強い地域社会づくりのためにできることを考え、防災や減災、災害が起きたときの早期避難・早期復旧などさまざまなアイデアを検討しています。私は現在、防災教育をテーマに取り組んでいて、防災士の資格も取得しました。

さらに当社では、SDGsへの理解を深めたり、アクションにつなげたりするために開発したオリジナルのツール「The Action!~SDGsカードゲーム~」を使ったワークショップを開催しています。私自身、徳島県で勤務をしていたときに、「SDGsに関心はあってもどうアクションを起こしていいのかわからない」という人が多いと感じ、担当していた徳島県の金融機関に、このゲームを使ったワークショップを提案しました。

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現在も当社はその金融機関と一緒に、徳島県内でSDGsを推進し、地域社会を盛り上げていくための取り組みとして、「The Action!~SDGsカードゲーム~」を使ったワークショップを展開しており、私はそのファシリテーターも務めました。

このように、損保ジャパン大学のゼミがさまざまなアクションを起こすきっかけを与えてくれました。今後も社会に対してできることを考え、還元していきたいと思います。

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──サステナビリティ推進部の今後の展開について教えてください。

本田:地域共創学部のゼミは現在、SDGsに興味のある一定の社員には普及できていると感じています。しかし当社には2万4000人の社員がいるので、さらにスケールしていくことが今後の課題です。そのためにこれから始めようとしているのが、ゼミを自主開催してもらうための仕組みづくり。サステナビリティ推進部だけではどうしても限界があるので、例えば最初の講演内容は動画にするなどしてパッケージ化し、多くの社員に提供できるよう工夫していきたいと考えています。

また、「The Action!~ SDGsカードゲーム~」の公認ファシリテーターの資格を取得する制度も社内で進めています。現在、このゲームをベースにしたワークショップをさまざまな自治体や企業と幅広く展開しています。

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さらに当社では、2022年度中に「社会価値創造人材」を2000人つくることを目標にしています。カードゲームをきっかけにSDGsや社会課題に興味を持ってもらい、その先でできることを考え、実践するために損保ジャパン大学のゼミに参加してもらう。このようにさまざまな施策で社員を巻き込みながら、取り組みの輪をどんどん広げていきたいと考えています。

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