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アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.33

為末 大

為末 大

Deportare Partners代表

日比 昭道

日比 昭道

電通

荒堀 源太

荒堀 源太

株式会社 電通

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──今回からは、新しいテーマでお話を伺いたいと思っています。

為末:よろしくお願いいたします。

──いつものように、風変わりなテーマを思いついてしまいました。それは「呼吸とは、どういうものだ?」という話なんです。アスリートと言われると「筋力」とか「骨」とか「体の動かし方」といったものをイメージしがちですが、それと同じくらい「呼吸」も大切だと思うんです。まずはざっくりとした質問なのですが、アスリートにとって「呼吸」とはどういうものですか?

為末:おっしゃる通り、パフォーマンスをあげていく上で、非常に重要な要素です。一言で呼吸といっても、2種類あると僕は思っているんですよね。それは、「リアルな呼吸」と「抽象の呼吸」。リアルな呼吸のほうは、例えば「有酸素運動」とか「緊張をコントロール」するとか、そういうことです。

──緊張をコントロールする、に関しては「競技前に深呼吸する」みたいなことですね?

為末:そうです。アーチェリーの選手で、呼吸に関する面白い話があって、呼吸をすると体が微妙に揺れてしまって、的を外してしまうらしんです。

──えっ、じゃあ、弓を射るときは、息を止めるんですか?

為末:きちんと呼吸をしているのですが、吸う吐くの隙間で行っているそうなのです。しかも、本人がそのことを自覚していないのが面白いところです。

──リラックスの極み、ですね。武術全般に言えることかもしれませんが。

為末大氏

為末:抽象の呼吸に関しては、「阿吽(あうん)の呼吸」ってあるじゃないですか?吸ってー、吐いてー、みたいなリアルな呼吸ではなく、概念としての呼吸。

──それ、ぜひ伺いたかったんです。サッカーなんかを見ていると、阿吽の呼吸で走り出している選手に、阿吽の呼吸でパスを出したりしますよね。為末さんの場合は個人競技の選手でしたから、チームプレーという意味での阿吽の呼吸とは無縁だったと思うのですが、それでも隣を走るライバルがこのあたりでペースをあげてくるぞ、みたいな阿吽の呼吸があったのではありませんか?

為末:確かに、そういう側面はあります。自分一人でレースをしているわけではありませんからね。

──何なんでしょう?阿吽の呼吸の正体って。単なる勘ではなく、「呼吸」と呼んでいるあたりが絶妙ですよね。大相撲の立ち会いとかもそうです。

為末:僕が思うに「過去の経験に基づくパターン認識」だと思います。忖度(そんたく)といったものも、それに含まれるかもしれません。相手との関係性において、思考が一往復しているんですよね。僕がこのように行動したら、相手はきっとこう行動するにちがいない、という。

──なるほど。

為末:陸上でいうと、日本のリレー競技が強くなったのは「合宿の回数の多さ」が決め手だったんじゃないかと言われています。リレーはマークを置いて相手が向こうから走ってきて、そのマークを越えた瞬間に走り出すのですが、相手の調子を見てほんの少しだけ微調整しているそうなんです。ここからは私の仮説ですが、同じ時間を過ごすことで相手の日常の調子、つまり基準が分かって、その基準と照らし合わせて飛び出しのタイミングの微調整をしているのではないかと思うのです。

──まさに、阿吽の呼吸ですね。(#34へつづく)

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 日比より

今回のテーマは「呼吸」でした。リレー競技が強くなったのが、「合宿の回数の多さだったかも」という話は、とても興味深い話だと感じます。企業に置き換えると、どう組織を越えて力をつなげるのか、どうチーム/個人の力をつなげるのか、そのヒントにもなるのではないでしょうか。組織のパフォーマンスを高める手法・ノウハウは、世の中にさまざまなものが出ています。そういった中でもメタファーとして、世界でもトップレベルのパフォーマンスを発揮している「リレー競技」の暗黙知というのは、さまざまな手法の中でも優先度高く取り組みたくなる、そんな手法だと考えます。アスリートのトップパフォーマンスの暗黙知を、ビジネスに展開することで、型を破る「ブレークスルー」が起こせるかもしれません。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・中西夏奈子(BXCC)・荒堀源太(ラテ局)

 

アスリートブレーンズロゴ

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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為末 大

為末 大

Deportare Partners代表

元陸上選手。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者。現在は執筆活動、身体に関わるプロジェクトを行う。Youtube為末大学(Tamesue Academy)を運営。国連ユニタール親善大使。 主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。45歳を迎える2023年、初めて文章執筆した本書『熟達論』を刊行する。 HP:https://www.deportarepartners.tokyo/ Twitter:@daijapan

日比 昭道

日比 昭道

電通

クリエイティブディレクターを務めつつ、ストラテジスト/ビジネスディベロッパー/ファシリテーター他、さまざまな肩書きをもつ。 ストラテジックプランニング局、営業局を経て、インターナルマーケティング、エクスペリエンスマーケティングなどの専門部署を経験。根っからのスポーツ好き。社会人アメフト・トップリーグの選手経験も。中小企業診断を士。 主な仕事:アスリートブレーンズ/電通バイタリティデザイン/BASE Qなど。

荒堀 源太

荒堀 源太

株式会社 電通

電通入社後、2年間スポーツビジネス&コンテンツビジネス業務を経験し、2016年より営業として、日用品、外資系生保、不動産、通信など多岐に渡るクライアントを担当。さまざまな媒体を使ったコミュニケーションを実施。2020年より現職、テレビCM関連の業務を担当する他、パリコレ等のファッション関連業務も担当。根っからのスポーツ好き、特に競泳。アスリートブレーンズメンバー。

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