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為末大の「緩急自在」No.34

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.34

2023/06/15

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

為末大氏

──前回(#33)に引き続き、今回も「呼吸とは、どういうものだ?」というテーマにお付き合いいただきます。

為末:よろしくお願いいたします。

──今回は、呼吸のメカニズムというところから、質問させていただきます。鼻呼吸と口呼吸って、ありますよね?一般的には鼻呼吸のほうが推奨されていて、子どものころには母親からよく「ほら、また口が開いてる!」などと注意されていました(笑)。アスリートの方々のイメージとしては、圧倒的に「口呼吸」が多いような気がするのですが……。鼻で呼吸している水泳選手とか、いませんもの。

為末:そうですね。競技中は口呼吸が多くなります。その理由は「鼻では、間に合わない」からなんです。

──間に合わない、とはどういうことですか?

為末:大量の酸素を、脳や体に届けないと倒れてしまいますから。鼻だけで吸ったら、量が足りないんです。

──なるほど。もう一つ、呼吸法で伺いたいのは「胸式呼吸」と「腹式呼吸」というのもありますよね。一般の方は、ついつい胸で呼吸してしまって、プレゼンのときにあがってしまうとか、カラオケでうまく歌えないといったことがあると思うのですが、アスリートの方は腹式呼吸を意識されたりするのでしょうか?

為末:そうですね。競技中はあまり意識しませんが、ウエートトレーニングの際などには意識します。腹に力を入れて腹から呼吸しないと、重たいバーベルなんかあげられませんから。

──バーベルなんか、あげたことはないのですが、イメージはできます。それでいうと、「呼吸と力の関係」って、どんなものなのでしょうか?

為末:おなかから息を吐くときに、力は出ます。重たいものを持ち上げるときに声を出したくなるのもそうですし、格闘技の選手などは相手が息を吸った瞬間を狙って攻撃するそうです。

──酸素という栄養を補給している瞬間は、弱くなっているということですね?

為末大氏

為末:剣道なんかもそうです。「メーン!」という掛け声と「竹刀をあてる」という行為が一致しないと、一本にはなりません。今は形式化というか、一つのルールとなっていますが、元々はそういうことだったのだと思います。相手を斬るというよりも脳天をたたき割る感じだったそうなので、全身全霊を込めないと無理だったのでしょう。

──それに関連した質問なのですが、「心肺能力」を高めるにはどうしたらいいのでしょう?アスリートはよく、高地でトレーニングしたりしますよね?

為末:一言でいうと、運搬能力を高めるということだと思います。

──運搬能力?酸素ということですか?

為末:そうです。少ない酸素を、全身に無駄なくスピーディに届ける能力、ということです。高地で暮らしている人が心肺能力が高いのは、酸素が薄いところで酸素を吸い運搬する能力が自然と鍛えられているからです。ただ、同じように低い地域で暮らしていてもそこに順応するので、高地から例えば日本の低地に来てしばらくしていると、心肺能力が低下すると言われています。

──低地で呼吸していたせいだ。

為末:心肺機能だけではないですが、人間の体は柔軟に適応するので、どっちにも転ぶんです。もちろん限度はあって、低地で暮らしている人がいきなり高い山に登ると高山病になったりしますが、時間をかければきちんと順応します。高いところにも低いところにも。

──アルプスの少女ハイジが、フランクフルトで体調を崩した一因も、呼吸にあったのかもしれませんね(笑)。(#35へつづく)

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム 中西より

「呼吸」がテーマの2回目。今回からアスリートブレーンズに参加しました中西です。為末さんの博識ぶりに驚かされ、聴き入ってしまって、ちょっと呼吸を忘れていました(笑)。私たちはパソコンやスマホで作業している最中に、無意識に呼吸が浅くなったり、何秒か息を止めてしまう「スクリーン無呼吸症候群」になっていると言われています。そうすると体も固まってしまっていて、たぶん頭にも酸素がいっていない。呼吸がアスリートのパフォーマンスに影響を与えるように、アイデアや仕事のはかどりも呼吸に左右されるのかもしれませんね。気をつけたいです。しかし「心肺能力」の高地トレーニングのお話では、仕事でも少しチャレンジングな環境に身を置くことで力がついたり、逆もまたしかりだなと思ったり。ビジネスパーソンがアスリートの知見に学ぶことが多いなあと、大変刺激を受けました!

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・中西夏奈子(BXCC)・荒堀源太(ラテ局)
 
アスリートブレーンズロゴ

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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