loading...

食ラボ調査から見えてきた「食のキザシ2023」No.1

食のトレンドは節約から、節楽へ

2023/06/01

はじめまして!電通「食生活ラボ」(以下、食ラボ)の坂井田直幸です。食ラボでは、2023年2月に食生活に関する調査を行いました(リリースは、こちら )。

マスク着用が個人判断となり、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行するなど、コロナ禍が徐々に収束期を迎えようとしています。街や飲食店も活気を取り戻しつつある中、食ラボでは調査結果をもとに、これからの食生活の兆しを、連載でひもといていきます。

「節約」の中にこそ、豊かな暮らしのヒントが隠れているのかも?

節約を強いられる暮らしについて考えると、否定的にばかり捉え語られてしまうことが多いですが、「節約」にはもう少し肯定的に捉えるべき重要なことがあるのではないか?と私は考えます。

「大好きなプロ野球をたくさん見に行って、好きなものにお金を使いたい」
「推し活動にお金を使いたい」
「どうしても欲しいカメラがある」
「目指していることがあって、お金が必要」

何か夢中になっていることに使うお金のために節約をする。
これも暮らしの中で「節約」が多く取り入れられるシーンでしょう。

私自身、華美でぜいたくすぎる暮らしをあまり好まない気質で、安く楽しくおいしいお酒を飲める機会を愛してやまない(どう転んでも「港区おじさん」にはなることができない)人間だからなのかもしれないですが、「節約をしている暮らし」は「聞く価値のある暮らし」として、人からよく聞くようにしています。なぜなら、節約をする暮らしとその理由から、人の「夢中になって生きる」という行為の輪郭を見えやすくしてくれると私は考えるからです。また、この「節約」という行為の中にもさまざまな創意工夫を凝らす機会があり、それは暮らしを少し丁寧にする知恵にあふれていると思うのです。

前置きが長くなりました。今回の食生活に関する調査の中で、私が着目したのは、「節約」に対する意識です。

物価高騰!真っ先に「節約」の対象になるのは「食」

コロナ禍、食トレンドは「免疫対策」などの健康志向や、「在宅太り対策」など機能的ベネフィットを求める志向が強まりました。次第に、自粛疲れなどの影響から、「個で楽しむ消費」や「ギルトフリー」といった罪悪感なく楽しめるエンタメ志向への揺り戻しが起こるように。一方で、この頃からさまざまな物価が高騰し始め、今、物だけではなく、エネルギーなどあらゆるものが「値上げ」されています。

相次ぐ物価高騰のあおりを受け、本格的に生活費の見直しが迫られているとき、まっ先に節約の対象として想起されるのは「食」です。

図1

すでに相次ぐ価格高騰が報じられていた2022年の暮れの時点で、値上げのために節約をしている、またはその意向があると答えた人は42%。節約の意識は高まっていました。

さらに「食」においては、「フードロスへの意識の高まり」「もったいないと感じる意識」も影響し、「食の無駄な消費をカットしたい」という機運は今も高まっていると思います。

「節約」に対する意識に変化が起きている!

しかし、その一方で「我慢したくない」という意向も見られたのです。普段の家での食事において、値上げしてもこれまでと同等以上のお金をかけたい人は全体で47.5%(記念日や特別な日の食事においては70.3%)。

さらに、普段の日の外食においては48%(記念日や特別な日の食事においては69.1%)に。

図2
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。
図3

食生活の実態として、「値上げがあっても食べたいものは我慢しない」という意向を持つ回答は全体で47.4%もみられたのです。

図4

コロナ禍では行動の制限があり、そして今度は物価が高騰し金銭面での制約がつきまとう中、生活者は食への節約意識はあるものの、「我慢したくない」という意向が傾向として強く出ていることがわかります。

苦しいだけの「節約」ではなく、楽しめる「節楽(せつらく)」へ

こうした調査結果を経て、台東区を愛してやまない私が率直に感じたことは「ついに港区おじさんの時代から、台東区おじさんの時代が来たかもしれない」という予感でした。 私自身、あるテレビ番組のディレクターをさせていただいていた時期があって、その際に身近にご家庭で使える“技”をたくさん研究しました。視聴者に役立つコンテンツづくりの経験から、制限のある暮らしを上手に楽しむすべは今後より一層高い価値として見直されることを予感したのです。 「節約しないといけない」、でも「我慢はしたくない」。 そんな人間の欲求をかなえるべく、節約に秘められた創意工夫や発見を楽しむこと。これを私は「節約」ではなく「節楽(せつらく)」と呼びたいと考えます。この「節楽」の兆しは今も広がりを見せつつあるようです。

安価な居酒屋の客層変化
最近では比較的安価な居酒屋が立ち並ぶ、新橋や上野、赤羽、高円寺、阿佐ヶ谷、谷中、大塚にまでこれまで以上に若い層が足を運ぶようになりました。コロナ禍と物価高騰を経て、こうしたエリアの居酒屋の客層が若返ったという話も、お店などの現場からはよく聞こえてきます。

「#アルモンデ」
また、家の食事においても、「#アルモンデ」というハッシュタグをつけた料理レシピがトレンドになるなど、「家にある、ありものでなんとかする」という行為を前向きに楽しむ傾向を察することができます。

楽しむ「節約」コンテンツの人気
「くーねるまるた」という漫画コンテンツでも、海外からの留学生が創意工夫を凝らしながら楽しそうに、かつ丁寧に暮らす様子と、その知恵が人気と注目を集めています。
 

「節楽志向」は単純に我慢を強いられるのではなく、何か制約がある中だからこそ、楽しみ方を具体的に作ることができるという考え方であり、また何のために「節楽」をしているのかということからも人それぞれの「夢中になれる人生」が見え隠れするようになる。そんな「節楽志向」をひもとくことから、より多くの切り口やアイデアが生まれていくのではないかと思います。

華美で非日常を味わうぜいたくもすてきではありますが、自分の本当に求める生き方に焦点を当てながら、無理せず最大限に楽しさを追い求める工夫、「節楽」は今後の日本の食生活の実態を明るく捉えるものの見方になっていくのではないでしょうか。

今後も、食ラボでは調査結果をもとに、これからの食生活の兆しを、連載でひもといていきます。次回をお楽しみに!

tw