料理で大事なのは、味や栄養よりも「食材を無駄にしないこと」。変わる「食品ロス」の意識
2023/10/02
電通食生活ラボ(以下、食ラボ)の調査結果から食のキザシを探る、本連載。今回は、コロナ禍での買い占めや食品廃棄に関するニュースなどを通して、より意識されるようになった「食品ロス」を取り上げます。
実は気候変動にも関係している食品ロス問題。本稿では調査結果から見えてきた生活者の食品ロスに対する意識の高まりについて述べ、食品ロス削減に向けたさまざまな取り組みなども合わせてリポートします。
<目次>
▼生活者の8割以上が「食品ロス問題」を解決すべきと考えている
▼「食品ロス」と「フードロス」は違う?
▼料理をするうえで「食材を無駄にしない」ことは、味や栄養よりも大事
▼食品ロス削減に向けた7つの取り組み
▼「食のごみ」がなくなる未来へ
生活者の8割以上が「食品ロス問題」を解決すべきと考えている
食ラボの調査によると、8割以上の人が「食品ロス問題は解決すべきだと思う」と答えています。また、この1~2年で「食材や食品の廃棄を気にするようになった」という人も7割近くいます。
さらに、電通 Team SDGsの調査でも「食品ロス」という言葉の認知は9割を超えており、提示した15のサステナビリティテーマのなかでは認知・理解ともにトップでした。これらの結果からも「食品ロス」は生活者が強く意識している課題であると言えるでしょう。
食べものを捨てることは、限りある資源やエネルギーを使って生産し、流通させたものを、さらにエネルギーを使って処理することを意味します。食料の生産や廃棄において排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの影響は甚大と言われており、地球の気候変動や温暖化にも関係しています。
また、食品ロスは経済損失にもつながります。農林水産省が発表した2021年度の食品ロスの推計値は、年間523万トン。食料自給率が低い日本では、食料の大半を海外からの輸入に頼っているにもかかわらず、その食料を大量に捨てているという矛盾を抱えているのです。
「食品ロス」と「フードロス」は違う?
農林水産省では、食べられない部分を含む食品の廃棄を「食品廃棄物」、食べられる食品の廃棄を「食品ロス」と呼んでいます。
一方、FAO(国際連合食糧農業機関)では、食品廃棄物を「Food Loss and Waste」と称しています。ちなみにWasteは、日本語に訳すと「無駄」です。
日本では、「食品ロス」も「フードロス」も食べられるのに捨てられてしまうという意味で使われることが多いのですが、世界での英語表記を見てみると、「Food Loss(フードロス)」は生活者に届く前に廃棄されてしまうもの(生産、製造・加工、流通過程でロス、つまり失われてしまったもの)、「Food Waste(フードウェイスト)」は生活者に届いてから捨てられるもの(食べられる状態なのに無駄に捨ててしまったもの)を指すようです。
生活者個人の食品ロス削減のための行動としてよく挙げられる「食べ残さない」「食べ切れる分だけ買う」などは、英語でいうとFood Wasteをなくすための行動と言えますね。個人的には「ロス」よりも、海外で使われている「ウェイスト」のほうが生活者の意識や行動に委ねられていることが強く伝わるなと感じます。
料理をするうえで「食材を無駄にしない」ことは、味や栄養よりも大事
食ラボの調査で「料理をするうえで大事なこと」について聞いたところ、「自分や食べる人の好み」「量」「レシピ」「バランス」などといった26の項目のうち、「食材を無駄にしない」を選んだ人が約47%と最も多く、ダントツの1位でした。
コロナ禍の買い占めや食品ロス問題を目の当たりにし、さらに食品の値上げに大きな影響を受けている今の状況が反映された結果と言えるでしょう。
さらに、普段の食生活においても3人に2人が「食品ロス対策を意識して行動している」と回答し、「食事はすべて食べ切り、食べ残しをしない」と答えた人は85%という結果でした。こういった数字からも、生活者の「食品ロス」に対する意識の高まりがうかがえます。
一方、電通 Team SDGsの調査によると「企業」に積極的に推進してほしいサステナビリティのテーマとしても「食品ロス」が最も多く、過半数を超えていました。生活者個人のアクションだけでなく、企業にその解決を求める気持ちも高まっているようです。
食品ロス削減に向けた7つの取り組み
食品ロスについては、多くの企業・団体や行政において、さまざまな取り組みが始まっています。その内容を7つに分類してみました。
① ゼロウェイスト/リデュース
食材をまるごと使い切る、もしくは捨てるものを減らす取り組みです。ここ数年、野菜の皮や芯なども捨てずに食材をまるごと使用し加工した食品ブランドなども登場。他にも、サンドイッチを作るときに端を切り落とす必要がないように、耳まで白くて柔らかい食パンの開発といったイノベーションも起きています。
②廃棄・放置食材の有効活用
食べられないとして捨てていたものをうまく活用する取り組みです。例えば、未利用魚を使った商品開発などはそれにあたるでしょう。他にも、傷んでしまい出荷できないキャベツを、身が痩せて食用に向かないムラサキウニの餌として与え、おいしいブランドウニとして生育させた神奈川県の事例もあります。
③余剰食品の救済・リメイク
冷蔵庫で余って捨てられがちな野菜などの食材を生かすレシピや、食べ切れずに残った料理を別のメニューに生まれ変わらせるヒントなどを、食品メーカーをはじめ、さまざまな企業が提案しています。そのような取り組みが評価されてPRアワードなどを受賞するケースも見られます。
④リジェネレーション/アップサイクル
リジュネレーションとは「再生」「繰り返し生み出す」といった意味です。廃棄される食材や食品を使い、商品としての価値を高めたり、付加価値をつけるために加工するケースです。日配品で廃棄されやすいパンや残飯などを活用し、ビールに生まれ変わらせるアップサイクルビールなどは、最近目にするようになりました。
⑤鮮度維持・保存期間延長
食材や食品が長持ちすれば、それだけ捨てられる頻度や可能性が下がるという考え方です。野菜を長持ちさせるパッケージ包材、安全で安心な品質保持技術などがこれにあたります。賞味期限表示を年月日から年月に変更する取り組みも進んでいます。
⑥ダイナミックプライシング/フードシェアリング
ダイナミックプライシングは、平たく言えば、賞味期限が近いなどの理由による値下げ。フードシェアリングは、何もしなければ廃棄されてしまう商品を消費者のニーズとマッチングさせることで食品ロスの発生や無駄を減らす仕組みです。以前から主に流通・店頭で行われてきましたが、今は賞味期限が近い食品と生活者をつなげるサイトやアプリも登場しています。また、賞味期限や時間帯などを加味して売価をコントロールする自販機なども開発されています。
⑦ AI・デジタルの活用
AIによる需要予測で仕入れを調整し、最適調達によって在庫を減らしている流通の事例があります。①~⑥の取り組みとAI・デジタルの掛け合わせも考えられます。
生活者の食品ロス意識が高まりを見せる今、行政や企業のダイナミックな動きがますます求められています。
「食のごみ」がなくなる未来へ
私たちがふだん食べているものは、その多くが「いのち」です。しかし、生産や製造、流通過程で図らずもロス(損失)したり、おいしく食べられる状態になっているにもかかわらず、人間の都合でウェイスト(無駄・廃棄)してしまえば、それらはただの「ごみ」になってしまいます。
「ごみ」は、行政が回収し、処理をしています。一般廃棄物の処理に要する経費は年間で約2.2兆円 (環境省「一般廃棄物の排出及び処理状況等について(2021年度)」)。その費用は多くの場合、税金です。もしごみが減ったら、回収量も処理にかかるエネルギー量も少なくなり、行政負担も、ひいては私たちの税金負担も少なくなるかもしれません。
特に食品は多くの水分を含むため、焼却する際はたくさんのエネルギーを使い、かつ二酸化炭素が発生するそうです。そう考えると、食品ロスを削減するためのルールや仕組みができれば、行政だけでなく生活者にとっても地球環境にとっても有意義だといえるのではないでしょうか。フランスでは市民の政策提言を基に、消費や食品関連を含む46項目が盛り込まれた環境法が策定されています。
企業においても、産業ごみの処理は基本的にお金がかかります。サステナビリティへの取り組みはどうしてもコストオンをせざるを得ないケースが多いと思いますが、ごみが減り、これまで捨てていたものを価値あるものとしてビジネスにつなげていけるなら、長い目で見れば回収できる投資と言えるかもしれません。
しかも、食品ロス対策をはじめ、SDGsに取り組む企業は、良い印象が強くなる、好感度が上がる、応援したくなる、信頼感が増すといった、生活者調査の結果も出ています。
食品企業の方と話をすると、「仮に企業が食品ロスを減らすための努力をしても、お客さまがそれを望まないと実際にはアクションに移しづらい」という発言を聞きます。「商品が売れないと企業は潰れてしまう」「賞味期限が長いものから買われてしまうと残った期限切れのものは廃棄せざるを得ない」とも言います。
しかし、今は生活者の意識や行動も変わりつつあります。食ラボの調査によると、「見ばえや形の悪い野菜も気にせずに買う」人は8割近くに上り、「多少高くても、環境に配慮された食品を買いたい」人も約4割いました。
農水省の発表によると、2020年度から2021年度にかけて、事業活動を伴って発生する事業系食品ロスが4万トン増加していたのに対し、家庭から発生する家庭系食品ロスは3万トン減少しています。この数字からも、生活者の食品ロスに対するアクションが見て取れます。
10月は食品ロス削減月間。そして、10月16日は国連世界食料デー、20日はリサイクルデー、30日は食品ロス削減デーです。
「いのち」を「食べもの」としていただくか、「ごみ」とするか。「食のごみ」が存在しない未来に向けて、皆がアクセルを踏む時期が来ています。