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食ラボ調査から見えてきた「食のキザシ2023」No.4

食のウェルビーイング~「未知なる感情」を味わう習慣をつくろう

2023/12/07

最近よく耳にする「ウェルビーイング」。Well(よい)とBeing(状態)が組み合わさった言葉で、「よく在る」「よく居る」状態、心身ともに満たされた状態を表す概念です。

ウェルビーイングとは「主観的」なものなので、一人一人の「よい状態」が異なるため、全員にあてはまるような大正解のソリューションは存在しません。しかし、定量的な分析をすることでウェルビーイングを向上させるヒントが見えてくるのではないか。今回は、食生活とウェルビーイングの関係性について、電通食生活ラボ(以下、食ラボ)の調査結果を踏まえて考察します。

<目次>
栄養バランスは大事。だけど、1日2食でもOK

未知なる感情を味わう、という考え方

地球によい食事は、人間にもよい


 

栄養バランスは大事。だけど、1日2食でもOK

食ラボの調査では、食生活の満足度が自分の幸せに関係があると答えた人は7割を超えました。

食生活ラボ

調査を進めると、「栄養バランスを重視している」人はウェルビーイングを実感しやすいという結果が出ました。

食生活ラボ
測定方法:回答者(N=1300)に、現在の食生活の「満足度」について、最も満足度が高い状態を「10」、最も低い状態を「0」として11段階で評価してもらった。その結果を、H層(満足度が高い層・10-9点・N=120)、M層(中間層・8-7点・N=687)、L層(満足度が低い層・6点以下・N=493)の3つに分類。この結果をベースにクロス集計を実施。例えば、ある設問の結果で「そう思う」と回答した割合が、全体(N=1300)30%、H層(N=120)65%、L層(N=493)15%なら、H層−全体=35point、L層−全体=−15pointというように全体とのGAPを測定した。

砂糖や脂質のとりすぎが健康によくないことはみなさん知っていると思いますが、実は主観的なウェルビーイングにも影響があることがわかっています。砂糖や脂肪をとりすぎると、脳は快楽を感じるのですが、瞬間的にピークアウトして元の状態に戻ると言われています。人間の脳は、瞬間的な上昇を「快」と感じる半面、その後の落差を「不快/不足」と感じてしまうため、過剰摂取につながりやすいのです。日本で古くから料理に使われる「うま味」はゆるやかにおいしさを感じるので、持続的に「満足」という感覚になると言われています。

調査では、「体調や予定によって食事の量が変わる」「時間に関わらずその時食べたいものを食べたい」といった、規則正しい食習慣がない人もウェルビーイング実感が低い傾向が見られました。

食生活ラボ
「1日2食以下で済ませる」「1日4食以上食べる」など食の回数による影響も分析しましたが特に違いは見られず、1度の食事でバランスよく食べられていれば満足度には影響しないことがわかりました。自分に合った食習慣をつくることがウェルビーイングを向上させるヒントかもしれません。

未知なる感情を味わう、という考え方

先日、会社の料理好きな先輩と小伝馬町のビストロで食事をしていた時に、彼が話していたことがあります。いわく、「料理は実験だ」だと。豚の角煮を下ゆでする時間、しょうゆを入れるタイミングなど、試行錯誤を重ねた上で再現性のある研究成果を導き出していくプロセスが楽しいのだとか。食ラボ調査でも料理をする人のほうがウェルビーイングの実感が高い傾向が出ています。その理由はさまざまですが、一つは、料理をすることで「未知なる感情を味わえる」からではないかと考えています。

食生活ラボ
ウェルビーイング研究においては、「感情の多様性(Emotional Diversity)」という考え方があります。ずっとポジティブな感情にしかならない映画やドラマを見ていると逆に退屈してしまうこともあるように、ポジティブとネガティブ両方の感情のグラデーションを感じられているほどウェルビーイング実感が高くなるのです。

これまでは、食生活における健康とは「病気にならない」ことに焦点があてられがちでした。規則正しく、バランスのよい食習慣を身につけることはもちろん大事なのですが、人間は飽きやすい生き物なので、ずっと同じものを食べ続ける食生活が心身ともに「よい状態」とは限りません。今回のコラム執筆にあたり、食生活におけるウェルビーイングとは何かを図式化してみました。

食生活ラボ
まず、瞬間的においしいものを摂取するものの、規則正しくない食生活は「快楽的」で持続的なウェルビーイングとは異なります。前半で話をしたように、砂糖や脂質のとりすぎはウェルビーイング実感に影響を与えるので、「栄養バランスが悪いジャンクフードばかりでも、おいしいと感じればウェルビーイング!」とは言い難いというのが個人的な見解です。

ただし、規則正しい食生活をしようとかたくなになったり、たまに食べるジャンクフードや少量の砂糖や脂肪にも罪悪感を感じてしまうのはウェルビーイングではないのでは、という意見もあると思います。バランスを考えつつ、「未知の味を追求する習慣をもつ」ことが、食生活におけるウェルビーイングを向上させるヒントだと私は考えています。

地球によい食事は、人間にもよい

食ラボ調査では、「できるだけ環境に配慮して作られた食べものを選んでいる」「食品ロス対策を意識して行動している」「料理するとき、環境に配慮してごみの量や分別を意識している」など、地球のサステナビリティを意識している人のウェルビーイング実感が高いことがわかっています。

食生活ラボ
人間の健康にも地球環境にも理想的な食のガイドライン「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」という世界的なムーブメントをご存じでしょうか?世界人口が2050年までに約100億人にまで拡大することが予想される中、人口増加に見合った食料を確保するために農地や家畜の数を増やそうとすると温暖化が加速してしまうため、環境に配慮した食糧システムを築こうとするものです。具体的には、肉、魚、卵の消費を抑えることや、砂糖、穀物を大幅に削減した食生活を提唱しており、実は、地球にとってよい食事は、人間の健康にとってもよい影響を与えるという点がユニークだと感じています。

今回は、食生活とウェルビーイングの関係性について考察しました。好きな食べ物、心地のよい食環境、食生活のリズム、どれも人によって違うものなので、ウェルビーイングを「万能なソリューション」として活用しようとすると、うまくいかないかもしれません。一つあるとすると、ウェルビーイングとは「食を通じて、もっと人々を幸せにできないか」という「問い」なのだと思います。今回のコラムでお伝えした、「未知なる感情に出会う旅に出かけてみる」「地球にも人間にもよい食事という視点をもつ」ことにぜひ挑戦してみてください。きっと食にまつわるウェルビーイングへの理解が深まると思います。

今後も食ラボでは調査結果をもとに、これからの食生活の兆しを連載でひもといていきます。ご期待ください。

【調査概要】    
食生活に関する生活者調査(電通食生活ラボ調べ)
・対象エリア:全国
・対象者条件:15~79歳の男女
・サンプル数:1300
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2022年9月29日~10月1日
・調査機関:電通マクロミルインサイト
 

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