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Voice クリエイティブの現場からNo.3

やさしい世界を、アイデアで。
クリエイティブユニット「やさクリ」

2023/06/30

「最近、クリエイティブってどうなの?」──答えを知りたかったら、クリエイティブの現場をのぞいてみよう。クリエイティブの現場では日々いろんなことが起きている。その一つがクリエイティブユニットや有志によるチームの結成だ。いま電通の中では、それぞれの野望とクリエイティブスキルを旗幟鮮明にしたユニットやチームが次々に立ち上がっている。彼らは何を憂い、何を目指しているのか?それを知ることは、クリエイティブの未来を考えることでもある。

第3回は、クリエイティブユニット「やさクリ」。
さあ、彼らの声に耳を澄ましてみよう。


【ユニットプロフィール】

「やさクリ」ロゴ
 やさクリ
「やさしい世界を、アイデアで。」というスローガンの下、第1クリエーティブ・プランニング局の若手有志が立ち上げたクリエイティブユニット。定期的にメンバーが集まり、社会課題に関する情報共有やディスカッション、企画などを行っている。クリエイティブの仕事に携わる者として、社会の中で自分たちは今何をすべきかをチームで考え、学び、アイデアを創出し、手を動かして形にしていくことを目指している。


 

社会課題は、閉じないタンスのよう

やさクリのメンバーの村田です。やさクリを立ち上げる前、仕事の中で社会課題と向き合う度に感じていたのは、一つの社会課題の解決方法を考えていると、別の社会課題が浮上してくる、ということでした。まるでタンスの引き出しを閉めると別の引き出しが開いてしまうような。例えばコロナ禍は、人の命の問題から始まり、エッセンシャルワーカーの過重労働問題、飲食店の経営問題、教育の問題、孤独の問題など無数に何かと何かがつながっていました。どの引き出しを閉めても、ふわっ、とどこかが押し出されてしまうような。このタンス問題に直面し、一人で一つの問題に取り組むだけじゃなく、それぞれの引き出しに詳しい人が集まって、情報を共有したり、一緒に考えたりする場が必要だと思うようになりました。幸いにも近くに、同じような志を持って自主的に社会活動をする仲間がいたのでユニットを立ち上げることにしました。

現在の活動の中心は、定期的な情報共有やディスカッション、アイデア出しなどです。メンバーそれぞれに詳しい領域があるので、お互いに毎回いろいろな刺激やヒントをもらうことができます。最終的にアイデアを形にするとなったときには、やさクリとして形にする場合もあれば、メンバーが個々に形にする場合もあり、そのあたりは状況に応じてフレキシブルに動くようにしています。

やさクリのメンバー同士で会話していると「その裏にはこういう課題があるらしい」「じゃあこういうこともやった方がいいじゃない?」と違う角度の知識とアイデアが自然と出てきて、おのおのモチベーションを維持しながら、次にやることに取り組むことができています。メンバーがクリエイティブ職だけなので、企画、演出、クラフトについてなどの視点で議論をワイワイできるというのが、このユニットならではの特徴になっているかなと思います。

興味分野もスキルも違う6人が集まった

ユニットのメンバーとそれぞれの代表的な仕事を紹介します。電通に、こういうことをやっているクリエイターがいるよ、ということを知ってもらえるとうれしいです。

村田晋平
コピーライター/CMプランナー村田晋平 コピーライター/CMプランナー

興味分野:いのち、ダイバーシティ、防災
若者の社会課題解決ワークショッププログラム「社会を変えるアイデアフェス」、新聞6紙展開「いのち守るマナー新聞」、フードロス対策イベント「地球も人も治したい八百屋」、熊本地震周年番組「防災クイズ」など

視覚障がい者がウインドーショッピングを楽しめるアプリ「Listening Window
「ウインドーショッピングがしてみたい!」と視覚障がいのある方に伺って「じゃあそれ作りましょう!」と2022年から作っているものです。視覚障がい者だけでなく、誰もが街歩きを楽しめるアプリになるよう音声ナビに「彼氏モード」を搭載するなど現在アップデート中。ACC 2022クリエイティブイノベーション部門ショートリスト

「Listening Window」紹介ムービー
Listening Window」 紹介ムービー (画像をクリックすると公式YouTubeチャンネルで動画をご覧いただけます)

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木下さとみ
コピーライター/CMプランナー
木下さとみ

興味分野:生物多様性、環境保全、絶滅危惧種
DENTSU生態系LAB代表を務める。絵本「どうぶつのわかっていること・わかっていないこと」(京都大学野生動物研究センター監修)、ARコンテンツ「絶滅危惧オリガミ」、京都大学野生動物研究センターPR映像制作、名古屋市「東山動植物園80周年記念事業」など

書籍「幻のユキヒョウ 双子姉妹の標高4000m冒険記」(扶桑社)
広告に携わる人間が動物研究者とともに野生動物の生息地に行くと、何を考え、どう行動するのか。10年にわたる活動を1冊にまとめた記録本。生息地で得た経験と人脈を生かして2020年に「DENTSU生態系LAB」を立ち上げ活動中。

書籍「幻のユキヒョウ 双子姉妹の標高4000m冒険記」(扶桑社)
書籍「幻のユキヒョウ 双子姉妹の標高4000m冒険記」(扶桑社) 表紙(左)とカラーページ

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高嶋結
アートディレクター
高嶋結

興味分野:医療と福祉とデザイン
電通そらり「知的障がいをもつスタッフと作る数字カレンダー」ワークショップ設計&アートディレクション、メビウスメディカル「なんでも相談できる医療相談所 はなそう-HANASOW-」ブランディング、医療従事者と共同開発こどもの入院オリエンテーションキット「HOSPITAL BINGO」企画&アートディレクションなど

電通そらり「知的障がいをもつスタッフと作る手描きの数字カレンダー」
知的障がいがあるスタッフの自己表現を共有するプラットフォームとして、全員が理解できる「数字」に着目し、すべての数字をスタッフが手描きするカレンダーを制作しました。繰り返しの多い作業に集中力をもって臨むことができる彼らの特性が生き、約1000個のユニークな数字ができあがりました。電通そらりとそこでいきいきと働く彼ら自身をPRする唯一無二のカレンダーです。

電通そらり「知的障がいをもつスタッフと作る手描きの数字カレンダー」
電通そらり「知的障がいをもつスタッフと作る手描きの数字カレンダー」
カレンダーの数字を手描きする電通そらりのスタッフ
カレンダーの数字を手描きする電通そらりのスタッフ

石崎莉子
アートディレクター
石崎莉子

興味分野:教育・アート
若者の社会課題解決ワークショッププログラム「社会を変えるアイデアフェス」「高校生アイデアフェス」、小学生向けのインクルーシブデザインワークショップ「くるくるデザインワークショップ」、障がい・疾患を知ってもらうプロジェクト「THINK UNIVERSAL」など

若者の社会課題解決ワークショッププログラム「社会を変えるアイデアフェス」
まじめで堅そうに見える課題のイメージをデザインで変えられるのではないか?ということをきっかけに、学生・生徒さんに向けた課題解決ワークショップに取り組んでいます。「社会を変えるアイデアフェス」では、骨髄ドナーの少なさを解決するためにさまざまな大学・高校から学生さんがアイデアをじっくりと考えてくれました。

社会を変えるアイデアフェス
骨髄バンク推進全国大会in広島「社会を変えるアイデアフェス」ポスター
参加者と審査員全員で集合写真
骨髄バンク推進全国大会in広島「社会を変えるアイデアフェス」参加者と審査員全員で集合写真
【骨髄バンク】社会を変えるアイデアフェス
骨髄バンク「社会を変えるアイデアフェス」紹介ムービー(画像をクリックすると公式YouTubeチャンネルで動画をご覧いただけます)

ワークショップをやってみて思うことは、とにかく学生・生徒さんの熱量がすごいことです。学生・生徒さんの熱量にあてられた大人たちが、なんとかアイデアを実現するべく奔走しています。

例えばワークショップに参加した高校生が考えた「スポーツ観戦×ドナー登録」のコラボ企画、審査員特別賞を受賞したアイデアが「ピースドナーシート」。長年骨髄バンクを支援してくださっているVリーグさんのご協力により、2023年4月23日に代々木体育館で実現に至りました。


北恭子
コピーライター/コミュニケーションデザイナー
北恭子

興味分野:高齢者・ジェンダー
「#あたりまえのことを、あたりまえに言える時代へ」というコピーを掲げたNetflix カミングアウトデーキャンペーンや、「#これからの心地よさ」としてメイクする/しないの自由を語るメッセージムービーを制作したKANEBO ウェブムービーなど。

直近の仕事としては、エンドオブライフ・ケア協会のステートメント/ネーミング/シンボルマーク制作があります。ホスピスなど看取りの現場で培われた、人生の最終段階で直面する「解決しようのない苦しみや憤り」にどのように向き合うかというマインドセットが、人生のあらゆる局面に通じるものであることから、介護専門スタッフにはじまり、そのご家族や小学生に至るまであらゆる方に講座を開いている団体です。そこで教えている考え方を「ユニバーサル・ホスピスマインド」と名づけ、そのシンボルマークを作りました。

シンボルマークは心臓をモチーフに。こころのケアは、いのちに関わること。心臓の柔らかなフォルムは、死を前にしても穏やかでいられるこころのありようやその考え方を連想させつつ、二つの色と影ともとれるその形は、明るいときも、暗いときも、人と人が支え合う様子を体現しています。

「ユニバーサル・ホスピスマインド」シンボルマーク
「ユニバーサル・ホスピスマインド」シンボルマーク(左)とウェブコンテンツ「みんなのスピーチ0100VOICES」
 

そして団体を体現するアクションとして、0歳から101歳の声でステートメントを読み上げた「みんなのスピーチ0100VOICES」というウェブコンテンツを制作。「専門的なこころのケアをすべての人生のそばに」というコピーで活動の意義を明文化しました。


竹村優奈
アートディレクター/ビジョニングディレクター
竹村優奈

興味分野:SDGs、地域格差
国際協力NGOジョイセフのI LADY.ノート製作やワークショップイベント、電通そらりのロゴ開発やビジュアル関係を担当

SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の普及を目指し、国際協力NGOジョイセフさんと、性に関することを自分で選んで決めていくワークショップを開催しました。表現しづらいことをデザインで工夫し、男女問わず参加していただけたことがうれしかったです。

さ
国際協力NGOジョイセフのワークショップイベント「i SELECT SHOP」

クリエイターみんなが、半径50mの社会課題を解決すれば…

私たち6人は、それぞれが割と小規模に、自分の身の回りの課題に対して好きにやっているようなメンバーです。仕事として社会課題の解決に向き合っていると、経済や政治の話に行きついたりして、スケールが大きすぎて自分に何ができるのか分からなくなったりしますが、もちろんそういう視座は持ちつつも、目の前の困っている人の役に立ちたい、くらいの感じが、アイデアを考える上ではちょうどいいのではないかと思っています。クリエイティブ職の人たちみんなが、自分が住んでいる街の、半径50mくらいの、自分たちにできる、社会課題の解決を目指すようになったら、そして、そんな人たちが100万人もいたら、いい世界になるかもしれない、と思ったりしていて、「これくらいは俺にもできそう。」と思われるチームになれたらいいなと思っています。やさクリの人数を増やしたい、というよりも、みんながおのおのでユニットを作って、同じような活動をする人が増えるのが理想です。


◾️編集部より
やさクリ立ち上げのきっかけとなった、「一つの社会課題の解決方法を考えていると、別の社会課題が浮上してくる」という問題意識にハッとさせられた。ある社会課題は、別の社会課題と密接に結びついているという事実。知の専門化・細分化が進む今、横断的な知の交流から生まれる「総合知」の重要性が指摘されているのは、問題を一つの固定化された視座からのみ捉えることの危険性ゆえであろう。「同じような活動をする人が増えるのが理想です」という言葉に、現場レベルで知の交流を進め、あらゆる視座から社会課題の解決に当たろうとする動きの萌芽を感じた。

 

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