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Voice クリエイティブの現場からNo.2

クリエイティブ発想で生態系保全と向き合うユニット「DENTSU生態系LAB」

2023/01/19

「最近、クリエイティブってどうなの?」──答えを知りたかったら、クリエイティブの現場をのぞいてみよう。クリエイティブの現場では日々いろんなことが起きている。その一つがクリエイティブユニットや有志によるチームの結成だ。いま電通の中では、それぞれの野望とクリエイティブスキルを旗幟鮮明にしたユニットやチームが次々に立ち上がっている。彼らは何を憂い、何を目指しているのか?それを知ることは、クリエイティブの未来を考えることでもある。

第2回は、プランニング&クリエイティブユニット「DENTSU生態系LAB」。
さあ、彼らの声に耳を澄ましてみよう。


【ユニットプロフィール】

「DENTSU生態系LAB」ロゴ

DENTSU生態系LAB
DENTSU生態系LABは、絶滅危惧種の保全活動や動物園水族館との共同プロジェクトを実施してきたメンバーの知見と人脈を生かし、生態系保全や環境課題、SDGsを起点としたコミュニケーションを創造するプランニング&クリエイティブユニット。

DENTSU生態系LABメンバー
ラボメンバー:左から、木下さとみ氏、服部展明氏、吉森太助氏


きっかけは、身近な「野生動物研究者」を支援したい、という想い


──最初に、「DENTSU生態系LAB」は、どんな目的で活動をしているのか、教えてください。

木下:はい。その名の通り「生態系」を核のテーマとしたラボなのですが、いわゆる「野生動物保護」とか「絶滅危惧種の保全」といった活動を実践している、というわけではありません。そういった活動の中心にいるのは保全団体や動物園・水族館、そして野生動物研究者です。私たちは、普段はコピーライターやアートディレクターとして仕事をしているので、クリエイティブの力で生態系保全に関わっている人たちの取り組みを世の中に伝わるようにしていきたい、という想いで活動をしています。


──そう思ったきっかけは何だったのでしょうか?

木下:私には双子の姉がいるのですが、彼女が研究者で、ユキヒョウやさまざまな絶滅危惧種の研究をしています。以前、姉が動物園でユキヒョウの観察をしていたところ、来園者がユキヒョウを見て「あ、チーターだ」って言ったんです。なかなか研究だけじゃ絶滅危惧種のことを伝えられないと姉が悩んでいたので、当時同じ部署にいた先輩と「ユキヒョウのうた」を作ったのですが、それをきっかけに生息地に行って動物園や生活者をつなぐ活動に発展して、いつの間にか保全活動に対する知見がたまり、人脈も広がっていました。とはいえ、あくまでプライベートな活動なので電通の仕事につなげていくのは難しいだろうな、と思っていたんです。

吉森:私の娘が大の動物好きで。木下さんのお姉さんが野生動物研究者と聞いて興味を持ちました。研究者の話を聞いているうちに、基礎研究である野生動物研究は、成果が見えやすい応用研究と違って、何の意味があるのかが分かりにくく、研究資金を集めるのも大変、ということを知りました。木下さんのお姉さんがいらっしゃる京都大学野生動物研究センター(WRC)は、日本で数少ない野生動物専門の研究機関なのですが、それすら一般には知られていない。そこで、学会などで何か発信するときに研究者が使いたくなるロゴがあるといいなと思い自主提案して、HPやニュースレターなどデザイン周りを作っていきました。でもその時はボランティアでやっていて。デザインが良くなることで人が集まって、産学連携につながっていったらすてきだな、と漠然と考えていました。

京都大学野生動物研究センターのロゴとニュースレター
京都大学野生動物研究センターのロゴとニュースレター

服部:私は、今は異動して違う部署にいますが、ラボ設立時は2人と同じ1CRプランニング局にいました。私自身は、野生動物に縁もゆかりもなかったのですが(笑)。たまたま2人の活動を知って、これを個人活動にしておくのはもったいないと思ったんです。SDGsや生物多様性が重要分野になっていたのと、その中でWRCという研究機関とつながっているのは素晴らしいリソースだな、と。特定のトピックに深い見識や実体験を持っているのであれば、それをチーム化していけるのが電通のいいところですし、2人より会社に長くいる分、そういった導きをするのが自分の仕事だな、と思ったんです。そこで正式にラボを立ち上げて、その分、自覚と責任をもって活動を深めていこうよ、と提案しました。


「わかっていること」ではなく「わかっていないこと」に注目してもらうことで、研究活動そのものに光を当てたかった


──最近の取り組みや成果の中で代表的な活動としては、絵本を出版されたことですよね?

「どうぶつのわかっていること・わかっていないこと」/小学館集英社プロダクション
京都大学野生動物研究センター監修「どうぶつのわかっていること・わかっていないこと」/小学館集英社プロダクション

木下:はい。野生動物研究の魅力を広く伝えるには、研究に興味のない人も手に取りたくなるものを企画しなければと思っていたので、書籍ならできるかもしれないと思い、2人に声をかけて企画をはじめました。

吉森:いわゆる動物のトリビア本は世の中にあふれているので、そこに埋没しないものにしたいなと思いました。トリビアネタもいいけど「まだわかっていないこと」をカタチにできたら研究の面白さを伝えられるかもしれないと気づき、そこから、「どうぶつのわかっていること・わかっていないこと」を企画に落とし込んでいきました。

服部:企画を具体化する中で、小学館が重視している「探究学習」に接点が多いことも見えてきました。探究心とは、さまざまなものごとに対して「なぜ」「どうして」と思い、自分で調べていく気持ちです。出版ビジネスプロデュース局にもご協力いただいて、これを推進している小学館(出版元は小学館集英社プロダクション)に自主提案するチャンスをいただき、そこで、想いが合致して一気に出版が現実化しました。
(絵本ができるまでの鼎談はこちら


「本質」「身近」がキーワード。トレンドに流されず、生態系保全の課題を肌で感じてほしい


──最後に、今後の活動を教えてください。

木下:気候変動に続いて生物多様性という言葉を耳にする機会が増えました。ビジネス視点で言えば、これをどう「お金」にして経済をまわしていくかですが、私たちとしては、もう少し本質的なところに目を向けていきたいと思っています。絶滅危惧種が話題になっているけれど、じゃあ「絶滅」ってなんだろう。誤解を恐れずに言うと、本当に絶滅って悪いことなんだろうか、と。環境は日々変化するわけで、その絶滅はもしかしたら自然淘汰(とうた)なのかもしれない。もちろん、あってはならない絶滅もあります。研究者は冷静に見ていて「この生態に対して、それを保全するのは本当に正しいのか」という目線も持っています。私たちも、はやり廃りに翻弄(ほんろう)されるのではなく、課題の本質を捉えて、ふと立ち止まって考えるような機会を人々に提供していきたいと考えています。それがひいては、研究への理解や正しい生態系保全につながっていくと思っています。

吉森:環境が破壊され多くの生物が失われていく一方で、ペットを飼うことは大きなブームになっています。身近にいる動物ですら、わかっていないことがたくさんある。大きな環境問題に向き合うことはもちろんですが、それと同じくらい、もっと身近なことに目を向けていきたいとも思います。普通に生きていると、自然や生態系はどうしても切り離されてしまいがちです。SDGsといったキーワードはあふれていますが、毎日の生活で肌で感じるものとなると、ちょっと乏しいように思います。アートディレクターとしては、そこにデザインの力を入れることで、興味を持ってくれる人を増やしていきたい。それがいずれ世の中を動かす、小さな一歩になるかもしれないと思うんです。

木下:少しずつ実績ができ、問い合わせをいただく機会も増えてきました。研究者や動物園につないでほしいという相談もいただきます。とはいえ、私たちの本業はクリエイティブなので、つなぐだけではなく、何をどう発信するのか企画制作において力を発揮していきたいと考えています。最近では、電通デジタルにお声がけいただいて、「絶滅危惧オリガミ」というプロジェクトを実施しました。これからも多くの人とご一緒できることを楽しみにしています。野生動物関係の案件がありましたら、ぜひご相談いただけるとうれしいです。

絶滅危惧リガミ:
絶滅危惧オリガミ:
誰もが知っている折り紙。でもそのモチーフは今やほとんどが絶滅危惧種。その事実をリアルに伝えるため、AR技術で折り紙を拡張したプロジェクト。
サイトURL:https://endangered-origami.com/

 

【編集部より】
絶滅危惧種の保全、野生動物の保護──。地球規模の大きな課題にコミュニケーションの面から取り組んでいる「DENTSU生態系LAB」だが、そのきっかけは、研究者である姉の手助けや動物好きの娘の影響といった、ごく身近なところにあったという。意外にも思えるが、だからこそ問題の本質を、誰もが「自分ごと」に感じられるように、興味深く、わかりやすく伝えることができるのだろう。生態系に関する彼らの問題意識を、次はどんなアイデアとクリエイティブスキルで私たちに提示してくれるのか、楽しみである。  


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