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Voice クリエイティブの現場からNo.1

広告を自由なやりかたではみ出す
クリエイティブユニット「HAMIDASU」

2022/10/05

「最近、クリエイティブってどうなの?」――答えを知りたかったら、クリエイティブの現場をのぞいてみよう。クリエイティブの現場では日々いろんなことが起きている。その一つがクリエイティブユニットや有志によるチームの結成だ。いま電通の中では、それぞれの野望とクリエイティブスキルを旗幟鮮明にしたユニットやチームが次々に立ち上がっている。彼らは何を憂い、何を目指しているのか?それを知ることは、クリエイティブの未来を考えることでもある。

第1回は、クリエイティブユニット「HAMIDASU」。
さあ、彼らの声に耳を澄ましてみよう。


【ユニットプロフィール】

クリエイティブユニット「HAMIDASU」のロゴHAMIDASU
会社という枠組みをはみ出して、クリエイティブで遊んできた1CRプランニング局の若手3人(諸星智也、一森加奈子、萬田翠)が立ち上げたクリエイティブユニット。3人それぞれの得意技を掛け合わせ、これまでの広告の常識にとらわれない新しいクリエーティブの可能性を追求している。 


僕らはクリエイターと呼ばれてよいのだろうか?

一流のクリエイターやアーティストとして活躍している方や、ちょっと変わった特技を持っている方など、既にポートフォリオが充実しているクリエイティブの新入社員が、最近は多いように感じます。私(諸星)もまだまだ若手ではありますが、それでも群を抜いた才能たちの入社に正直毎年ビビっています。自身が、学生の時に一流だったかどうかはさておき、私は大学と大学院ではクリエイティブコーディングを用いた創作活動をしていて、それをきっかけに電通に入社することになりました。現在は学生時代に培った技術を生かしながら、クリエーティブ・テクノロジストとして企画やそれに伴うプロトタイプ制作を中心とした仕事をしています。

同じ職種の同僚や後輩たちと話していると、「学生の時みたいに〇〇がやりたい」「もっとものづくりをしたい」みたいなことがよくトピックとしてあがってきます。その理由の一つとして、学生時代に自ら創作活動をしてきた人たちにとっての”つくること”の捉え方と、広告会社のクリエイティブの働き方の違いに、ジレンマがあるのではないかと思います。今の働き方においては企画レイヤーの仕事が中心で、実制作レイヤーの手を動かす部分は担当しないという場合が多くあります。もちろん、私を含めて同じ境遇の人間の多くが、自ら企画の仕事を選んで働いているわけなので、”ないものねだり”である部分は往々にしてあるのですが、”企画屋は手を動かさないのにクリエイターなのか?”そんなジレンマが共通してあるのではないかと思っています。


おもしろいほうに、はみ出す。

そんなジレンマと向き合うため、また、自らのつくりたい欲を満たすため、私はクリエーティブ・テクノロジストとして仕事をしながら、プライベートでも個人名義の創作活動を続けています。電通の仕事で担当させていただける規模感の仕事には大きなやりがいを感じる一方で、学生時代のように自分の感性や制作スキルをフルに使って創作する機会もまた、自分にとって幸せな時間であると感じています。先ほど触れた同僚や後輩の中にもまた、同じような理由でプライベートワークに励む方々は多くいます(もちろん会社的に認められた状態で)。

Escalator Museum - 福澤 貴之+諸星 智也+油井 俊哉
Escalator Museum - 福澤 貴之+諸星 智也+油井 俊哉
エスカレーター脇のデッドスペースに、街の動力を利用した自動鑑賞型美術館を開館したパブリックアート。六本木アートナイト2019のオープンコール・プロジェクトに採択され、六本木ヒルズ森タワーメトロハットにて展示を行った。

 電通では広告を中心としたコミュニケーションの企画を、プライベートでは芸術祭への出品やMV制作といった作家的な活動を続ける中で、頭の中で切り分けていたこれら二つの考え方を両立させることはできないだろうか?と考えるようになりました。プライベートワークのように電通の仕事ができれば、ジレンマから解放されるのではないかと。

そこで生まれたのが「はみ出す」というコンセプト。それは、プライベートワークにまではみ出して創作活動をしていた自身のことであり、その創作の仕方を仕事に持ち込むことで、仕事のやり方をはみ出すことができるのではないかというものです。

まずは「はみ出す」を仕事として具体的なアクションにするよりも、自分のスタンスや理想を周囲に伝えるための宣言として掲げることが必要だと考えましたが、いろんな特技を持ったスーパーな先輩がうじゃうじゃいる電通の中で、このコンセプトをひとりで掲げ続けるのは得策ではなさそうでした。そんなとき、田島MDから「諸星がリーダーをやる若手のユニットを作ってみなよ」という話をいただき、同じ志を持った若手を集め、旗を立てることにしました。それが「HAMIDASU」です。“若手”で結成したのは、ジレンマやフラストレーションの部分を共感できるという点と、単純に自分たちが楽しいからです(笑)

HAMIDASUのメンバー
HAMIDASUのメンバー。左から、諸星智也、一森加奈子、萬田翠

自分ひとりでは思い描けなかった“はみ出し方”

クリエーティブ・テクノロジストの諸星はクリエイティブコーディングやメディアアート、アートディレクターの一森はタイポグラフィやパッケージデザイン、同じくアートディレクターの萬田はアニメーションやキャラクターデザインをプライベートワークとしてきました。それぞれ得意領域も興味も異なる3人なので、それぞれが自分らしい仕事を持ち寄ったり、好き勝手にやりたいことを発言したりと、自分ひとりでは思い描けなかった“はみ出し方”が有機的に生まれてくるのがこのチームのいいところだと思います。そういったところは、会社に染まりきっていない若手だからこそ生まれてくるというのもあるのかもしれません。

また、普段の電通の仕事のスケール感ですと、多くのスタッフやプロダクションさんとチームになることが多いですが、それぞれが手を動かすことのできるチームなので、ワンストップで企画から制作までをコンパクトに担うことができるのも、強みだと考えています。

 「触手話」というコミュニケーション方法をきっかけに生まれたボードゲームLINKAGE(リンケージ)
 LINKAGE(リンケージ)
「触手話」というコミュニケーション方法をきっかけに生まれたボードゲーム。指先と指先がつながるゲーム体験を表現したイラストで、スリーブを差し替えて柄を変えられるパッケージに。大型雑貨店でも全国販売中。
 

誠品生活「日台Summer Festival 2022」
台湾発の大型書店「誠品生活」の日本橋店で行われる夏のフェア、「日台SUMMER FESTIVAL」のKVイラストレーションをはじめ、サイネージ動画、店内装飾、グッズなどを制作。

 

HAMIDASUとして最初の仕事となったのが、株式会社ソユーさんと開発した「FUNTOS」です。FUNTOSは、ソユーさんのもつ全国の催事場で、アニメ・漫画・映画などのコンテンツとコラボレーションしたイベントが楽しめるイベントスペースで、コンセプトからイベント空間でのコンテンツ企画まで幅広く担当させていただいております。現在も次のコラボレーションに向けて準備を進めています。

FUNTOS with お文具といっしょ © お文具/講談社
FUNTOS with お文具といっしょ © お文具/講談社

今後どんなはみ出し方を体現していくのかは、現在進行形で試行錯誤しながら歩みを進めています。広告会社を取り巻く環境がドラスティックに変化している今だからこそ、これからの時代を担う私たちが新しい仕事のつくり方をはじめていけるといいなと思っています。(生意気言ってすみません)ちょっと変わったアプローチをしたい、電通の若い力を使いたいなどといったお仕事があればお気軽にご相談いただけましたらうれしいです。

 

【編集部より】
「企画屋は手を動かさないのにクリエイターなのか?」そんな葛藤から生まれた「はみ出す」というコンセプト。彼らが広告会社のクリエイティブの「型」から軽やかに「はみ出せる」のは、プライベートワークという形で表出してきた創作活動への純粋な欲求ゆえだろう。彼らの仕事を魅力的にしているのは、緻密な制作過程の裏側にある「遊ぶ」という感覚であると感じた。今後どんな「はみ出し方」をしてくれるか、楽しみである。


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