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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.30

キレイゴトを、チームの力で変えていく 

2023/08/22

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第30回は、鹿児島を拠点に“地球にコミットする循環商社”ECOMMIT(エコミット)を紹介します。2007年に、弱冠22歳で起業した川野輝之社長が目指していることとは?その本質に迫りました。

「この事業を立ち上げるきっかけは、『使命感』というよりも、『憤り』にあったような気がします。怖さはなかったですね」と、インタビューの冒頭、川野社長は口火を切った。弱冠22歳で新規事業を立ち上げることに怖さはありませんでしたか?という、僕の質問に対してだ。なるほど。使命感によるプレッシャーに押しつぶされることはよくあるが、憤りに押しつぶされるという話はそうそう聞かない。高校卒業と同時に就職した中古機器の輸出企業での経験が、今に生きているのだという。「最初に驚いたのは、ボロボロの家電などがぴっかぴかによみがえること。と同時に、あれあれこの業界、なんだかおかしいぞ、ということにも驚かされました」

金銭欲や出世欲というものは、案外モロいものだ。ふとしたことで、心がぽきっと折れてしまう危険性を常にはらんでいる。一方で、憤りは健全だ。健全であるがゆえに、さまざまな障壁に行く手を遮られることもある。この事業は、まだまだ道半ばだ、と川野社長は謙遜するが、その先に見据える「大いなる夢」について、ぜひとも学ばせていただこうと思う。

文責:湯治健富(電通九州)

未来のモノづくり&企業経営を支える、インフラでありたい

「循環商社、と言われてどのような企業、なにを生業とする会社だと思われますか?」と川野社長から逆質問を受けた。取材にあたり、予習は済ませてきたつもりであったが、はて、一言でいうと、どういうことなんだろう?DXを駆使したシステム開発みたいなことかな?と考えていると、「私たちは、回収業者でも、循環業者でもありません。環境コンサルタントでも、システムエンジニアでもない。未来のモノづくりや企業経営を支えるインフラを提供する会社なんです」という答えが返ってきた。

インフラ、と言われると工場のようなものを思い浮かべてしまうが、取材を進めるにつれ、その真意がおぼろげながら、見えてくることになる。一言でいうなら「理想とすべき本物の循環型社会の姿を、手触り感をもって構築する会社」ということになるだろうか。”本物の”、”本当に”、という川野社長の口癖が、ある意味キーワードだ。

川野輝之氏:ECOMMIT代表取締役CEO 高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。
川野輝之氏:ECOMMIT代表取締役CEO
高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業。創業後、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止し、環境問題に改めて向き合う。現在は、自社開発システムを主軸に企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開する。

だれかの「不要」は、だれかの「必要」。そこに事業拡大の可能性を見た

川野社長はこう話す。「だれかの『不要』は、だれかの『必要』になる。それも、国をまたいで。そこに、事業拡大の可能性を見たんです。もっともエキサイティングなのは、市場の大きさですね。自分ひとりではどうにもならない、同じ志をもつ仲間とチームを組んで挑むべき、途方もないスケールなんです。たとえば、日本のコンビニはおよそ7.6兆円、スーパーは18.5兆円の市場です。*¹ それに対して、循環型社会ビジネスの市場は38兆円の規模(平成19年度の数字*²)。この数字だけでも、圧倒されませんか?」

*¹出典:業界動向サーチ(コンビニ)業界動向リサーチ(スーパー)
*²出典:環境省
 

それは、知らなかった。たとえば、新車を購入する、分譲マンションを手に入れる、という行為には、なかなかの金額と労力と夢がつまっていて、なかなかのスケール感を実感できる。対して「循環社会実現のための行動」と言われると、真っ先に思い浮かぶのは、ゴミの分別くらいかもしれない。そんな僕の思いを知ってか知らずか、川野社長はさらに話をつづける。「スケールが大きいということは、それだけクリアすべき課題も大きいということ。たとえばゴミの分別そのものは大切な取り組みですが、それだけで巨大な市場をけん引していく力にはならないですからね」。これは、先手をとられた。

ECOMMITは「捨てない社会をかなえる」ために、ものが循環するインフラをビジネスで実現する循環商社。全国7カ所にリアルな循環センターを持ち、不要になったモノを回収・選別して再流通させ、その循環インフラの輪や分野を拡大。さらに、リユース・リサイクル率の算出や、CO2 削減量のリポーティングを通して回収から再流通までの“ものの流れ”をデータ化するトレーサビリティシステムまで、企業や自治体の特性に合った循環サイクルの実現に向けたサービスを包括的に提供している。(写真は、創業時。生まれたばかりの長男を抱いているのが川野社長)
ECOMMITは「捨てない社会をかなえる」ために、ものが循環するインフラをビジネスで実現する循環商社。全国7カ所にリアルな循環センターを持ち、不要になったモノを回収・選別して再流通させ、その循環インフラの輪や分野を拡大。さらに、リユース・リサイクル率の算出や、CO2削減量のリポーティングを通して回収から再流通までの“ものの流れ”をデータ化するトレーサビリティシステムまで、企業や自治体の特性に合った循環サイクルの実現に向けたサービスを包括的に提供している。(写真は、創業時。生まれたばかりの長男を抱いているのが川野社長)

海外で目の当たりにした「業界の闇」

ここで、ECOMMITという社名の由来について尋ねてみた。「正直なところ、『ECO』というワードに、疲れていたんです」。疲れていた、というのは「飽きていた」とか「うんざりしていた」といった意味だ。「安易に乱発されるでしょう?ECOという言葉。実態はECOでもなんでもないことでも、ECOとうたっておけば、なんだかいいことをしている、という感じになってしまう。僕がECOというものを語る際には、”本当に”ECOなことを、”本気で”追究したい。そんなとき、COMMITMENTというワードが飛び込んできました。ああ、これとECOを組み合わせれば、わが社が目指しているものが分かりやすく表現できるのではないか、と思ったんです。いわば、一周まわってのECOですね」

「実態はECOでもなんでもないこと」というところがひっかかったので、どういうことなのでしょうか?という質問をした。「高校卒業と同時に中古品輸出企業へ就職したのですが、主な輸出先である中国で、見てはいけないものを見てしまったんです。ボロボロになった製品を、僕らは海外へ売りますよね?おカネも入るし、ああ、すっきりした、といった感覚です。でも、現地の労働環境は、とてもECOとは言い難い。日本から運ばれてきたガラクタが山と積まれ、労働賃金は安い。そうした光景を見ているうちに、ああ、これが『業界の闇』の部分なのだな、と打ちのめされると同時に、ものすごい違和感と憤りの感情が湧き上がってきました」

リサイクル産業の現場

「高度経済成長」から、「高度循環成長」へ

「ともに事業を立ち上げた仲間は、僕のことを『究極のビビり』といってはばからない。確かに、その通りです。いざ、動くとなったら、猪突猛進なところはありますが、基本的にはその前に熟慮を重ねるタイプです。なので、中国に一緒に行ってみないか、という誘いを知り合いから受けた時も、二つ返事でついていった。なんでも知りたい、備えておきたい、というビビり体質は危機意識につながりますし、訪れた危機への耐性も自然と養われていくんです」

川野社長の言う「耐性」は、退路を断たれたときにもその力を発揮する。「僕らは今、高度経済成長ならぬ、高度循環成長への転換を迫られています。言い方を変えるなら、伸びていかざるを得ない業界、とも言える。なにもしないでいれば、その先に待っているのは『社会の死』です。これはもう、使命とか責任とかの問題ではありません。チームで一丸となって、やるしかないんです」

日本の高度成長期(イメージ)

川野社長は「僕たちの事業が大きくなればなるほど、社会に、世界に貢献できる」という。それには、聞こえがいいキレイゴトを発信するのではなく、理想の環境を追求する人や企業がもうかる仕組みをつくって、本当の豊かさを実感してもらうことが大事、とも。インタビューの冒頭で「私たちは、システムエンジニアではない」と話した川野社長の思いや、キレイゴトと戦うというビジョンが、ようやく“肌実感”として分かってきた。

「企業のブランドリセールを支える」という取り組みも、そのひとつだという。ブランドへの誇りを大切にする企業ほど、自社製品の修繕などによるリセールを願っている。売り抜けてもうかれば御の字、といった意識はつゆほどもない。「とはいえ、自社製品を自社で回収するのは、非常に大変な作業。モノづくり企業のインフラづくりでお役に立ちたい、というのは、そうした顧客の思いに応えるための取り組みなんです。個々のお客さまを訪ねて、生まれ変わったブランド品を宅配する、といったことでは、ビジネスとして成立しない。でも、高度循環モデルの物流をつくってしまえば、点ではなく“面”での対応が持続的に可能となるんです」

エンドレスな”循環”を生むシステムが、これからの社会を支えていく。
エンドレスな”循環”を生むシステムが、これからの社会を支えていく。

ここ九州から、日本を、世界を変えていく

ECOMMITは、2023年4月より不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で行うオリジナルブランド「PASSTO(パスト)」のサービス提供を開始。PASSTOとは、PASS TOを短縮した造語で「次の人に渡す、未来につなぐ」ことを意味している。郵便局や駅、商業施設、マンションなど、生活者の暮らしの動線上に不要品回収ボックスを置いてもらうことで「捨てるのではなく、渡す」という行為を身近なものとして感じてもらい、「捨てない社会」の実現を目指すのだという。

「PASSTOに不要品をお持ち込みいただいた方には、たとえば、その地域で利用できるポイントが付与される、というような仕組みがあるだけで、さまざまな人を巻き込んだ、全員参加型の循環社会ができ上がっていく。そうした地道なインフラづくりこそが、未来の社会を支えていくのだと思っています」

不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で行うオリジナルブランド「PASSTO(パスト)」。PASSTOに関するよくある質問は、こちら。
不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で行うオリジナルブランド「PASSTO(パスト)。PASSTOに関するよくある質問は、こちら

九州が動くとき、日本は動く。そんなフレーズが、頭をよぎった。九州発の情熱や活動は、必ずやムーブメントとなり、海を渡った異国の地にも波及するにちがいない。実際、川野社長の目は、中国につづいてタイへ向けられている。リユース・リサイクルのマーケットが、近年、急速に伸びている国だからだ。

そうした新たな拠点を構築する上で、九州というロケーションには大いなる可能性があるように思う。歴史を振り返っても、金印の出土、邪馬台国伝説、元寇、鉄砲&キリスト教の伝来、秀吉による朝鮮出兵、長崎・出島での交易、薩長同盟による倒幕、西南戦争、現代の種子島宇宙センター……と、例を挙げ出したらキリがない。

なかでも、太平洋と東シナ海を臨む鹿児島は、昔も今も、時代を先駆けるムーブメントが「起こるべくして、起きてしまう」という、なんとも魅力的でぜいたくな場所だ。もちろん、川野社長の趣味の一つである「海釣りを楽しむ」という点からも、“本当に”ぜいたくな環境であることは言うまでもない。

「釣果」はさておき、お気に入りの場所で最高の夕日を眺める。そのひとときが、川野社長の仕事への原動力だという。
「釣果」はさておき、お気に入りの場所で最高の夕日を眺める。そのひとときが、川野社長の仕事への原動力だという。

ECOMMITでは、これまでに30以上の自治体と連携することで、衣類に限らず日本トップレベルの品目数を取り扱い、全国約1300拠点からの回収を実現。創業15期目となる今からを第二創業期と位置づけ、企業や自治体のみならず、生活者に向けたライフスタイル形成を含むサーキュラーエコノミーを推進するブランドとして、「捨てない社会をかなえる」ための事業を展開中。代表的な取り組みに、伊藤忠商事との業務提携プロジェクトである日本市場における繊維製品の回収サービス「Wear to Fashion」や、本文でも紹介したオリジナルブランド「PASSTO(パスト)」などがある。
ECOMMITでは、これまでに30以上の自治体と連携することで、衣類に限らず日本トップレベルの品目数を取り扱い、全国約1300拠点からの回収を実現。創業15期目となる今からを第二創業期と位置づけ、企業や自治体のみならず、生活者に向けたライフスタイル形成を含むサーキュラーエコノミーを推進するブランドとして、「捨てない社会をかなえる」ための事業を展開中。代表的な取り組みに、伊藤忠商事との業務提携プロジェクトである日本市場における繊維製品の回収サービス「Wear to Fashion」や、本文でも紹介したオリジナルブランド「PASSTO(パスト)」などがある。

ECOMMIT(エコミット)のHPは、こちら
 

なぜか元気な会社のヒミツ ロゴ「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第30回は、鹿児島を拠点に“地球にコミットする循環商社”ECOMMITを紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

取材を前に、さまざまな資料をあたった。その中で興味深かったのは、循環型社会は「動脈産業」と「静脈産業」でできている、という記述。専門的で、なかなか難解なワードだ。でも、人体に置き換えると、非常に分かりやすい。

派手なのは「動脈産業」だ。体の隅々まで新鮮な血液(産業でいうなら新製品)を力強く送り出す。でも、それらを回収して復活の道へといざなうのは「静脈産業」だ。どちらが欠けても、健康な状態は維持できない。「食べられなく」なり、「血液の循環」が滞り、「排せつ物を外に出せなく」なると、その先には死が待っている。

「心臓部」イメージ

「その意味でECOMMITという会社は、最終的には健康な産業、健康な地球を支える『心臓部』になりたいんです」と、川野社長は言う。「頭脳」ではなく「心臓部」と表現するあたりが、いかにも川野社長らしい。頭で考えるのではなく、経験を通して培った健康で健全な産業構造、その理想的なあり方を模索し、社会にコミットしていく。廃棄すべきは、偽りやポーズといった人類のエゴ(キレイゴト)なのだ、と改めて思った。

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