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十人十色の思考のお伴No.2

──阿佐見綾香さん、「調べる」ってどういうことですか?

2023/11/22

十人十色の思考のお伴 TOPビジュアル

2023年10月。ウェブ電通報は、開始から10年の節目を迎えた。ここはぜひとも、10周年にちなんだ「連載モノ」を編んでみたい。たどり着いたのが、「10」人「10」色というテーマのもとで、すてきなコンテンツを提供できないだろうか、というものだった。大きく出るなら、ダイバーシティ(多様性)といえるだろうか。

思考に耽(ふけ)りたいとき、アイデアをひねり出そうとするとき、ひとには、そのひとならではの「お伴」(=なくてはならないアイテム)が必要だ。名探偵シャーロック・ホームズの場合でいうなら、愛用の「パイプ」と「バイオリン」ということになるだろうか。

この連載は、そうした「私だけの、思考のお伴」をさまざまな方にご紹介いただくものだ。あのひとの“意外な素顔”を楽しみつつ、「思考することへの思考」を巡らせていただけたら、と願っている。

(ウェブ電通報 編集部)

第2回のゲストは、阿佐見綾香氏(電通第4統合ソリューション局)

──阿佐見さんといえば、ウェブ電通報にもたびたび登場していただいていますし、「ヒットをつくる調べ方の教科書」(PHP研究所)のご著書でも知られる、第一線の戦略プランナーです。

阿佐見:恐れ入ります。

──記事への反響も多く寄せられていますし、これまでに2万部を売り上げた「ヒットをつくる調べ方の教科書」に至っては、なんと500ページを超す超大作です。

阿佐見:いわゆる「鈍器本」というヤツですね(笑)。ストラテジック・プランナーの間で暗黙知として伝わるあまたのナレッジを、一つずつ言語化しながら書いているうちに、とんでもない分厚さになってしまったという。頭から通読するのではなく、辞書的に使えるようにしています。

──「教科書」って、そういうものですもんね。

新卒で広告会社・電通に入社して、マーケティング部門に配属された著者が、時間をかけてたたき込まれたのが、本格的な「マーケティングリサーチ」。分かりやすい言葉でいうと、ヒットをつくるための「調べ方」。しかし、調べられるものが無限にあるため、スムーズにリサーチを使いこなせるようになるまでに5年以上の年月がかかった。 そこで、電通でクライアントの商品を売るために調べることの中でも、頻繁に使う重要な「調べ方」だけに絞って、ステップをできる限り簡略化。効率化のためのオリジナルツールやフォーマットを開発。そして完成した、電通のマーケティング部門必修の新人教育プログラムを書籍化。リサーチの基本から実践で使えるコツまで解説した完全保存版で、初心者の最初の1冊にも、基本をきちんと習ったことがないベテランのおさらいにもおすすめの1冊。
新卒で広告会社・電通に入社して、マーケティング部門に配属された著者が、時間をかけてたたき込まれたのが、本格的な「マーケティングリサーチ」。分かりやすい言葉でいうと、ヒットをつくるための「調べ方」。しかし、調べられるものが無限にあるため、スムーズにリサーチを使いこなせるようになるまでに5年以上の年月がかかった。
そこで、電通でクライアントの商品を売るために調べることの中でも、頻繁に使う重要な「調べ方」だけに絞って、ステップをできる限り簡略化。効率化のためのオリジナルツールやフォーマットを開発。そして完成した、電通のマーケティング部門必修の新人教育プログラムを書籍化。リサーチの基本から実践で使えるコツまで解説した完全保存版で、初心者の最初の1冊にも、基本をきちんと習ったことがないベテランのおさらいにもおすすめの1冊。
阿佐見綾香氏のウェブ電通報連載記事のバックナンバーは、こちら

 

──ご著書などを拝見していて一番興味をそそられたのは、なにより阿佐見綾香という人物そのものでした。思考の仕方そのものが、なんというかチャーミングなんですよね。そういう「優しく、思いやりのある」視点で商品を見てるんだ、といったような。

阿佐見:そういっていただけると、うれしいです。

──というわけで、本稿のお題にもつながることだと思うので、まずは、阿佐見綾香という人物をプロファイリングさせていただこうと思うのですが、よろしいですか?いうなれば、「調べるひと」を「調べる」という趣向です。

阿佐見:えー、なんでしょう?(笑)。

── 一言でいうと、阿佐見綾香さんという人物は、「不安なひと」ではないか、と思ったんです。もちろん、こちらが勝手に立てた仮説ではありますが。

阿佐見:不安なひと?

──なにごとに対しても、不安で、不安で、たまらない。だから、世の中でよくいわれていることには、どこか懐疑的。そこで、ある仮説を元に調べる。調べて、調べて、調べまくる。でもそこに、共感が生まれる。なぜならこの時代、世の中も企業の方々にとっても、「不安なこと」だらけだから。

阿佐見:「不安なひと」かあ……いわれてみれば、そうかもしれません。戦略プランナーという仕事は、自分の中の不安や、世の中の不安、クライアントの方々の不安と向き合う部分が大きいですから。その不安を取り除くには、本のタイトルにもなっていますが「調べる」しかありません。ただ、そもそも私は調べることが好きなんです。好奇心が強くて、プライベートでも気になったものはとことん調べます。

──プライベートでも、調べているんですか?

阿佐見:例えば、私は「電通Bチーム」というプロジェクトのメンバーでもあるんですが、本業であるA面とは直接関係のない、本能的に好きなこと(B面)を突き詰めていくことで、A面にもつながるような発見をする、という取り組みなんですね。私は自身が重度の難聴のこともあって、「ダイバーシティ」をB面にしていました。世の中でこの言葉を知っている人があまりいない頃からです。好きなことだから、調べたくなる。そうやって突き詰めていくと、逆に業務にいきてくるんです。

──それは、いいお話ですね。このご時世、「調べなきゃ、置いていかれる」といった強迫観念に突き動かされている部分はありますものね。でも、「調べなきゃ」から、いまおっしゃったような「幸せのスパイラル」は生まれない。

阿佐見綾香氏:戦略プランナーとして数多くの企業のマーケティング、経営戦略、事業・商品開発、リサーチ、企画プランニングに従事。2010年より業界初の女性マーケティング専門チームGIRL’S GOOD LAB(旧・電通ギャルラボ)に参画。時代ととも共に変わり続ける女性のインサイトと女性の消費トレンドを研究。2011年から電通ダイバーシティ・ラボに参画。「LGBTユニット」のリーダーとして、日本のLGBTQ+の課題と、LGBTQ+を中心に広がる消費に関し、当時日本唯一の大規模なLGBTQ+調査を実施。そのリサーチ結果を活用し、企業や経営者向けの戦略、アイデアなどのソリューションを提供。Forbes JAPAN オフィシャルコラムニスト。著書に「電通現役戦略プランナーのヒットをつくる『調べ方』の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術」(PHP研究所)。持論は「LOVEのカタチが変わると消費が変わる」。
阿佐見綾香氏:戦略プランナーとして数多くの企業のマーケティング、経営戦略、事業・商品開発、リサーチ、企画プランニングに従事。2010年より業界初の女性マーケティング専門チームGIRL’S GOOD LAB(旧・電通ギャルラボ)に参画。時代ととも共に変わり続ける女性のインサイトと女性の消費トレンドを研究。2011年から電通ダイバーシティ・ラボに参画。「LGBTユニット」のリーダーとして、日本のLGBTQ+の課題と、LGBTQ+を中心に広がる消費に関し、当時日本唯一の大規模なLGBTQ+調査を実施。そのリサーチ結果を活用し、企業や経営者向けの戦略、アイデアなどのソリューションを提供。Forbes JAPAN オフィシャルコラムニスト。著書に「電通現役戦略プランナーのヒットをつくる『調べ方』の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術」(PHP研究所)。持論は「LOVEのカタチが変わると消費が変わる」。

阿佐見:もう一つ、私が意識していることがあって、それは、収集した情報は、なるべく多くの人に発信すること。すると、その筋の専門家の方からフィードバックが集まってくる。たとえば私、今、ヴィンテージの古着にはまっているんですが、そうした古着を扱うショップに行ったときに、店長さんから興味深いお話を聞いて、それを情報発信したら、いわゆる専門家の方や、Z世代を中心に反響をもらって。そうしたマーケットが伸びている感触が実感として持てたりする。そしてさらに、どうしてなんだろう?なにが彼ら彼女らを引きつけているんだろう?で、楽しくなってまた調べて、発信して、理解が深まっていく、といったような……。

「ニューレトロなヴィンテージ古着ブーム」を含む、日本経営合理化協会での阿佐見氏の連載記事「3分でつかむ!令和女子の消費とトレンド」は、こちらから。
 

──それは、「検索エンジンを、ぽちっ」という調べ方ではたどり着けない情報ですね。

阿佐見:自分の足で現場に行って、見て、引き出すのが好きなんです。遊んでいる中で調べている感じです。私、高校・大学とストリートダンスにはまっていたんですが、社会人になった途端、疎遠になってしまって。「仕事が忙しくて、それどころじゃないんです!」と当時のダンス好きの上司にこぼすと、「それはキミが、本気でダンスが好きじゃないから、時間をやりくりできないんだよ」と言われ、ハッとさせられたことがあります。

働く女性イメージ

「思考のお伴」とは、凝り固まった思考をほぐしてくれるもの。(阿佐見綾香)

──具体的な「思考のお伴」の話を伺う前に、そもそも阿佐見さんにとって「思考のお伴」というものがあるとするなら、それは一体、どのようなものですか?

阿佐見:それは自分の思考にない思考をプレゼントしてくれる存在だと思います。人はどうしても、情報とか理屈とか経験とかに縛られちゃうじゃないですか。それを言語化していると、どうしても窮屈になる。適切なワードか分かりませんが、「自分以外の素材」が欲しい、という感覚なんです。

──素材、かあ。なんとなく分かります。

阿佐見氏お気に入りのヴィンテージショップ「Marvin's(マービンズ)」原宿・明治通り沿いの地下にある有名店で、デニム中心に日本一のヴィンテージの品揃え。博物館級のレアな商品の数々が圧巻で、サイトを見ているだけで勉強になるという。お店では、店長の半沢和彦さんが色々な知識を教えてくれます!くわしくは、こちら。
阿佐見氏お気に入りのヴィンテージショップ「Marvin's(マービンズ)」原宿・明治通り沿いの地下にある有名店で、デニム中心に日本一のヴィンテージの品揃え。博物館級のレアな商品の数々が圧巻で、サイトを見ているだけで勉強になるという。お店では、店長の半沢和彦さんがいろいろな知識を教えてくれます!くわしくは、こちら
阿佐見氏が私物でコレクションしている、1970年代アメリカのKENNINGTON(ケニントン)のヴィンテージニット。ニットの中に、ミッキー&ミニーの刺繍が施されていたりする、ディズニーコラボのものを中心に収集している。
阿佐見氏が私物でコレクションしている、1970年代アメリカのKENNINGTON(ケニントン)のヴィンテージニット。ニットの中に、ミッキー&ミニーの刺繍が施されていたりする、ディズニーコラボのものを中心に収集している。

阿佐見:なので、好きな素材、興味がある素材を、できるだけインプットするようにしています。すると、明け方寝ぼけていたり、洗い物をしたり、湯舟に漬かってたりするときに、あ!あれってこういうことなんじゃないの?と、ふと思いついたりする。

──それきっかけで、「調べたい」が始まってしまう。いつの間にやら「幸せのスパイラル」が始まっている、というわけですね?分かります……。

阿佐見:「企画をすること」と「企画書にすること」は、私の中では全くちがうことなんです。アタマの使い方も、使う場所も、時間帯も。時間を決められて「ハイ、この時間内で思考を深めてください」とか言われても、うまくいきませんからね。

──分かるなあ……。さっきから、「分かります」ということしか、口にしていない(笑)。かくして多くのひとが、阿佐見さんマジックに魅了されていくのだな。

激レアな一品。マービンズにて、リーバイス®の1942年S506XX、通称「大戦モデル」を、試着させてもらいました!(掲載にあたっては、お店の許可をいただいています)「大戦モデル」と呼ばれるもので、ヴィンテージマニアの間で人気があり、1942年第二次世界大戦中にリーバイス®が製造・販売したモデル。戦時中の物資規制で使える素材が削られ絞られた結果、無駄がそぎ落とされた洗練された形が実現したのだという。「例えばこの写真のデニムジャケットのように、通常モデルはボタンが5つだったところ、4つに削られているなど、特殊な特徴を持った面白い個体が多く発見されているんです!」
激レアな一品。マービンズにて、リーバイス®の1942年S506XX、通称「大戦モデル」を、試着させてもらいました!(掲載にあたっては、お店の許可をいただいています)「大戦モデル」と呼ばれるもので、ヴィンテージマニアの間で人気があり、1942年第二次世界大戦中にリーバイス®が製造・販売したモデル。戦時中の物資規制で使える素材が削られ絞られた結果、無駄がそぎ落とされた洗練された形が実現したのだという。「例えばこの写真のデニムジャケットのように、通常モデルはボタンが5つだったところ、4つに削られているなど、特殊な特徴を持った面白い個体が多く発見されているんです!」

阿佐見綾香氏の「思考のお伴」とは?

──さて、いよいよ本題となりますが、阿佐見さんの具体的な「思考のお伴」について教えてください。

阿佐見:それは「夫との会話」なんです。なかなかのおしゃべり夫婦だと思います。食事のとき、二人で散歩をしてるとき……。なんてことのない会話なんですが、フラットな立場で、相手はこんな気持ちでこんなことを考えているのか、といったことを感じた瞬間に、凝り固まった思考がふわっとほぐれていく感じがするんです。

──「人生の伴侶」であるパートナーが「思考のお伴」とは、うらやましいです。

夫・犬塚壮志さんと。
夫・犬塚壮志さんと。

阿佐見:「ヒットをつくる調べ方の教科書」、正式なタイトルはもっと長くて「電通現役戦略プランナーのヒットをつくる『調べ方』の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術」というんですが、自分と編集者の方と、出版プロデューサーの方と……いろいろな人のアイデアが結集したタイトルなんです。

──それに関しては、想像していたんですよ。とてもいいですよね、一人でも多くの人にこの本を手に取ってもらいたい、というチームワークが感じられて。

阿佐見:ありがとうございます。そのタイトルの中の「調べ方」というワードは、実は夫が考えてくれたものなんです。

──そうだったんですね!「調べ方」、いいワードですよね。今は、ビジネスシーンにかぎらず、調べ方が分からなくて苦労している人って、多いと思うんです。なにしろ、情報が多すぎるから。

阿佐見:元々、私が書いていた没タイトルでは「リサーチ」だったんです。でもそれではリサーチする人にしか届かない。それだと違うよね、何がいいだろうね……って二人で話をしていたら、夫が「調べ方」じゃない?と、ポンと言ってくれたんです。夫は、前職が大学受験予備校の化学の講師で、いまは独立して企業向けの研修プログラム開発や、教材作成の代行などを提供する仕事をしています。そんな自分にはない専門性を持った人からフラットな意見をもらうと、すごく刺激になります。思考の素材をインプットしているような。全く畑ちがいの二人が、なんてことのない会話をするからこそ、なにかが生まれるような気がするんです。

「思考のお伴」ラストビジュアル

「ウェブ電通報10周年企画」の連載、続々、配信中。ぜひご覧ください。
ウェブ電通報10yj連載’(その1)
ウェブ電通報10th連載(その2)
ウェブ電通報10th連載(その3)