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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

十人十色の思考のお伴No.1

──山田壮夫さん、お話が少々マニアックです

2023/11/09

思考のお伴 連載ビジュアル

2023年10月。ウェブ電通報は、開始から10年の節目を迎えた。ここはぜひとも、10周年にちなんだ「連載モノ」を編んでみたい。たどり着いたのが、「10」人「10」色というテーマのもとで、すてきなコンテンツを提供できないだろうか、というものだった。大きく出るなら、ダイバーシティ(多様性)といえるだろうか。

思考に耽(ふけ)りたいとき、アイデアをひねり出そうとするとき、ひとには、そのひとならではの「お伴」(=なくてはならないアイテム)が必要だ。名探偵シャーロック・ホームズの場合でいうなら、愛用の「パイプ」と「バイオリン」ということになるだろうか。

この連載は、そうした「私だけの、思考のお伴」をさまざまな方にご紹介いただくものだ。あのひとの“意外な素顔”を楽しみつつ、「思考することへの思考」を巡らせていただけたら、と願っている。

(ウェブ電通報 編集部)

第一回のゲストは、山田壮夫氏(電通1CRP局)

──山田さんといえば、ウェブ電通報のコラムでも連載中の「ぐるぐる思考」で人気を集めていらっしゃいます。

山田:人気かどうか、は知りませんが、ぐるぐる、ぐるぐると思考を巡らせているうちに、気が付いたら足掛け10年、通算180回以上の連載になっていました。これは毎回毎回お忙しい中、目を通してくださる読者の皆さまのおかげです。

──ひとりの読者として、毎回、発見があるというか。あれほどまでにぐるぐると思考できる、というのは凄いことだと思います。

山田:確認まで、なのですが、それは「お褒めの言葉」と受け取ってよろしいのでしょうか?

──もちろんです!

山田壮夫氏による連載コラムのバックナンバーは、こちら。
山田壮夫氏による連載コラムのバックナンバーは、こちら
 
山田氏が携わる新サービス「Indwelling Creators」。Indwelling(インドウェリング)とは、「棲み込む」という意味。経験豊かな電通のクリエーターが契約時間、クライアント内に棲み込んで、チームの創造力を活性化。イノベーションが自発的に、持続的に起きるような風土づくりを目指しているという。
山田氏が携わる新サービス「Indwelling Creators」。Indwelling(インドウェリング)とは、「棲み込む」という意味。経験豊かな電通のクリエーターが契約時間、クライアント内に棲み込んで、チームの創造力を活性化。イノベーションが自発的に、持続的に起きるような風土づくりを目指しているという。

──山田さんのコラム(書籍も含め)を拝読していますと、よくある「ノウハウ本」「ハウツー本」とは一線を画しているような気がするんです。「僕はこう思うんだけど、あなたはどうですか?あなたはどう、お感じになりますか?」といった感じというか……。

山田:それは、うれしいなぁ。正直なところ、ビジネスにおいて誰もが簡単に「正解」にたどり着くハウツーなんて、ホントにあるのかな?と思っています。そういった意味での「ノウハウ・コラム」にはしたくないんです。一方で、サイエンスとアートを駆使するビジネスは、結局「人間とは何か?」という深遠なテーマから逃れることができない。とすると、その真理に近づくためには「対話」しかない、という気持ちで書いています。

──コラムのラストには、毎回、お料理が出てくる。「召し上がれ!」というメッセージとともに。このあたりも、山田さんらしい。

山田:まじめにいえば、ボク自身の人間性をオープンにしなければ「対話」は始まらないという思いで料理の話を書いています。実際においしいと思ったものをご紹介しているのですが、まぁ、自分でつくった料理に関しては「お粗末さまでした」の一言です(笑)。

山田壮夫氏宅のお料理

「思考のお伴」には、さまざまな価値観との出会いが必要。(山田壮夫)

──具体的な「思考のお伴」の話を伺う前に、そもそも山田さんにとって「思考のお伴」というものがあるとするなら、それは一体、どのようなものですか?

山田:それにはまず、「思考」とはなにか、ということについて整理させてください。いささか、理屈っぽい話になりますが……。

──覚悟しています(笑)。

山田:「思考」には大きく二つあると思います。一つは「正解」を求めるために必要な「論理的思考」。直線的に、モレなくダブりなく、正しく科学的に考え進めるアプローチです。もう一つは「その手があったか!」というアイデアを手に入れるために必要な「創造的思考」。「ぐるぐる思考」はこれを説明するモデルですが、そこでは一方向に正しく考える代わりに「行ったり、来たり」を繰り返します。

──はい。

山田:そして、その思考に「お伴」が必要となるのは、論理的思考と創造的思考に共通して、何かがうまく進まなくなるタイミング。いわば思考が「迷子」になったときだと思うんです。

──なるほど、なるほど。それは、思考を整理する上での「きっかけ」ともいえますね。

山田:おっしゃる通りです。論理的思考であれ創造的思考であれ、自分が思考の全体プロセスのどこら辺にいるのかを俯瞰(ふかん)して見直す、その「きっかけ」が大事なんだと思います。

山田壮夫氏:アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、テレビ番組製作から商品・事業開発まで手掛ける。著書「〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考」「コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法」(ともに朝日新聞出版)は海外向けに翻訳もされている。明治学院大学(経営学)非常勤講師。電通Indwelling Creatorsのメンバー。
山田壮夫氏:アイデアを核として広告キャンペーンはもちろん、テレビ番組製作から商品・事業開発まで手掛ける。著書「〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考」「コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法」(ともに朝日新聞出版)は海外向けに翻訳もされている。明治学院大学(経営学)非常勤講師。電通Indwelling Creatorsのメンバー。

山田壮夫氏の「思考のお伴」とは?

──さて、いよいよ本題となりますが、山田さんにとっての具体的な「思考のお伴」について教えてください。

山田:ホントに、恥ずかしいのですが……。

工藤夕貴コレクション
──こちらは、もしかして……。

山田:そう、工藤夕貴さん。今年ちょうどデビュー40周年の歌手で女優さん。編集部のあなたもご存じのように、ボクは40年間工藤さんの「追っかけ」をし続けている、今風に言えば「推し」なんです。これはコレクションのほんの一部。

──これで一部とはすごい!新入社員の頃から山田さんのことを知っていますが、ずっとお好きですよね。

山田:仕方がないじゃないですか。特に「工藤夕貴さんの歌声」は、何か考え事をするときに、ちょっとそばに置いておきたいものなんです。

──なるほど。でも、推しの女性が「思考のお伴」という感覚が、いまひとつ分からない……。

工藤夕貴

山田:そこは聞かれるだろうな、と思って整理してきました。

──ぜひ、お願いします。

山田:ボクにとって工藤さんが「思考のお伴」になる理由は大きく二つありそうです。一つは、「リフレッシュ」。工藤さんの歌声を聞くだけで、デパートやレコードショップのイベントに「追っかけ」をしていた中学・高校時代、そして大学生、新入社員の頃に戻れるんです。元気が出るのと同時に、少し冷静になって全体観を取りもどせるのです。ところで、工藤さんの歌については?

──残念ながら……おぼろげな記憶しかありません。

山田:ぜひ、一度聴いていただきたい。彼女独特の少しハスキーで太く深い歌声は、どこか演劇的で、ふっと「別の世界」に連れて行ってくれるんです。最近聞いた中では、彼女のお父さまである井沢八郎さんの「あゝ上野駅」「北海の満月」や、ベット・ミドラーの「愛は翼にのって」(Wind Beneath My Wings)のカバーなんかは、良いですねぇ。さらにここだけの話、デビュー40周年を機に話題性たっぷりの新曲がリリースされるというウワサも……。

工藤夕貴さんの新曲ジャケット

──なるほど、なるほど。山田さんにとって彼女が、特にその魅力的な歌声が「リフレッシュ」の機会を与えてくれる唯一無二の存在である、という熱き思いはよく分かりました。その上で、彼女が「思考のお伴」となるもう一つの理由について、なのですが……。

山田:失礼いたしました。ここからは、冷静にお話ししますね(笑)。彼女のもう一つの魅力とは、僕がこれまでの人生で感じた「さまざまな価値観」を思い起こさせてくれる、ということにあるのです。

──「さまざまな価値観」とは、どういうことでしょうか?

山田:工藤さんからは、過去、いろいろな刺激を受けてきました。追っかけ人生の最初、ヤクルトホールでアイドルデビューした彼女が語ったのは「いじめ」の話でした。「家族との葛藤と絆」みたいなお話もありました。彼女はまわりにどう思われようと、頑(かたく)なに自分の主張をするタイプに見えました。苦労して作り上げた主演映画「台風クラブ」がなかなか公開されない「閉塞感」みたいなものを感じたこともありました。工藤さんは「ボランティア」にも熱心だし、ジム・ジャームッシュ「ミステリー・トレイン」を足掛かりに海外への挑戦もしたし、静岡のご自宅は徹底的なDIYだし、犬をはじめとする「動物」たちと信頼関係をつくるのも上手だし、最近は「登山」をやってらっしゃるし、自然農法で野菜やお米、お酒までつくって「食」にも造詣が深い。

登山する工藤夕貴
稲刈りをする工藤夕貴

──その一つ一つが、山田さんの人生とリンクしているという。

山田:つまり、何が言いたいかというと、ですね。工藤さんがいろいろなことに本気なことはとても魅力的なのですが、一方で彼女の価値観が、必ずしもボクとは一緒じゃないから良かったのかなと思うんです。この40年、ずっと「変わった人だなぁ」と思ってきたというか、「へーっ、そんなふうに考えるんだ!」の連続だったという。

──工藤夕貴さんに「心酔」されている、ということではないんですね。

山田:う~ん、難しいなぁ。ファンだから大好きなのは間違いない。もちろん共感することもあるけれど、むしろ彼女との違いが楽しいというか。たとえば彼女が大好きな犬も、ボクは単純に怖くて触れることすらできないし。だからこそ、アイデアを手に入れるための「創造的思考」をしようとするとき、「工藤夕貴さんなら、どう考えるかな?」という妄想が突破口になっているのかもしれません。

──そういえば最近、仲間と「無駄話」をする機会が減ったなぁ、と。昔の企画会議なんて、ほとんど「無駄話」でしたが、不思議なことに、それがきっかけで、アイデアが湧いたり、まとまったりしていました。もしかすると、あの「無駄話」というのも「さまざまな価値観」との出会いの場だったのかもしれませんね。

山田:分かります、分かります。これもコラムに書きましたが、今のビジネスは、すべてを科学的に正しく管理しようとして、かえって非効率というか、「無理」が生じています。それはそれで必要ですが、それとは別に、「無駄話」の世界というか、実は真剣に主観と主観をぶつけ合うプロセスもまた不可欠です。

人間らしいビジネスフロー図

──ちょっと難しくなってきました(笑)。要するに、工藤夕貴さんという「思考のお伴」が、ご自身でも想像すらできなかった思考を、「ぐるぐる」と広げてくれるのだ、と。

山田:強引にいってしまえば、そういうことになります。

──やはり、少々、強引でしたか(苦笑)。

山田:今日はなんだか、個人的でマニアックな話に終始してしまいました。

──いえいえ。「思考のお伴」というこの連載のお題というのは、そもそも極めて私的なテーマですから、初回にふさわしいお話でした。本日は、ありがとうございました。楽しかったです。

山田:こちらこそ、楽しい時間を過ごさせていただきました。機会があれば、ぜひ工藤夕貴さんの歌声を!

思考のお伴 ラストビジュアル

「ウェブ電通報10周年企画」の連載、続々、配信中。ぜひご覧ください。
10th連載告知(その1)
ウェブ10th連載告知(その2)
ウェブ電通報10th 連載告知(その3)