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中小企業は、心を動かすコンテンツメーカーNo.10

地域・企業の課題解決に貢献する「心動かすデジタル空間」とは?

2024/03/01

中小企業

中小企業やベンチャーのコンテンツメーカーとしての魅力・可能性に迫る本連載。今回は中小企業が最先端のデジタル空間技術を活用し、ビジネス活性化にチャレンジしているケースを紹介します。

大阪府堺市の保険代理店・保研オフィスは、アメリカ・日本を拠点に置く世界レベルの技術を有するアートテクノロジースタジオのO(オー)と連携し、デジタル空間を活用した企業PR動画ギャラリーを制作しました。公開直後から社内外で大きな反響を呼び、保険業界におけるデジタル活用の新たな可能性を切り拓く事例として注目を集めています。

本プロジェクトの背景にあった狙いとは?デジタル空間技術を活用したコンテンツメイキングは、地域・中小企業にどのように貢献するのか?

保研オフィス代表取締役の田野雅樹氏、O(オー)創業者兼代表取締役CEOのa春氏に、O(オー)をサポートしている電通のプランナー・森本紘平がインタビューしました。

デジタル空間を起点に、誰もが“Deep Work”できる社会をつくる

森本:本日はよろしくお願いいたします。はじめにO(オー)のミッションや事業内容について、a春さんから改めてご説明いただけますか?

a春:はい。O(オー)は、人間のクリエイティビティを拡張することを目指しているアートテクノロジースタジオです。これからのAI時代、人間に必要なのは複雑な問題を解決に導く「クリエイティブな思考力」です。これまで、人は物理空間の中でクリエイティビティを拡げてきました。例えば、初めての道を散歩する、自然の中へ出かけてみる、モノに囲まれたアトリエに行ってみる、などです。

しかし今、クリエイティブなモノづくり・コトづくりは、デジタル空間でも実現できるようになりました。それだけでなく、「デジタル空間だからこそできる体験」によって、クリエイティブコストを大幅に下げ、誰もがもっと簡単に新しいアイデアを創出できるようになると考えています。当社はデジタル空間制作を起点とした体験・ソリューションの提供や、アイデア創発を促すクリエイターのためのメタバースプラットフォーム「MEs」の提供などを通じて、誰もが“Deep Work”できる、ワクワクする社会づくりにチャレンジしています。

a春
O(オー) a春氏

森本:デジタル空間をコンテンツとして提供することはもちろん、それを起点にクリエイティビティを拡張することまで目指しているのですね。デジタル空間技術を提供する企業が多数ある中で、O(オー)の強みはなんでしょうか?

a春:まず、使用可能な技術の幅広さです。高解像度のグラフィックを特徴とするUnreal Engine5や自社開発の独自エンジンをはじめ、Unity、Blender、Houdiniなどさまざまなツールを活用してオリジナリティのあるデジタル空間を生み出せます。そのため、フルオーダーメードで世界観を作り込むこともできますし、テンプレートを活用して低コストかつスピーディに制作することも可能です。

もう一つの強みが、アート/デザインに対する理解度の高さです。私自身がアメリカのRhode Island School of Design(RISD)で工業デザインを学び、現在もアーティストとして活動しています。ほかにもRISD元教授や大手ゲーム制作会社出身の3DCGアーティストなどがメンバーにいるため、アート/デザイン領域に精通したチームによるディレクションを提供することができます。

森本:私たちもO(オー)が制作するデジタル空間のクオリティの高さに感動したことが、連携の決め手となったポイントの一つです。アバターの動きも自然で、データを3D空間のオブジェクトとして配置することもできます。こういった細部にまでこだわった心が躍る空間の中で、日々の定例会議や企画のブレストをすることも可能です。加えて、例えば自由に外出・旅行できない人に向けて、デジタル空間で地域・世界の魅力を体感してもらう感動体験の創出や、海外の人に日本の文化を没入感とともに感じてもらうプロジェクト、さらには、言葉だけでは理解が得られにくい企業の魅力をデジタル空間で可視化するソリューションの創出も可能です

このように、単にコンテンツとして優れたものが作れるだけでなく、さまざまな分野で地域や中小企業の活力を呼び覚ますソリューションになり得るところにも大きな可能性を感じました。地域メディアや支援機関等が持つ知見・資産との連携で、社会課題解決に寄与する新たなプロジェクト開発にもチャレンジしていきたいと考えています。

私たち電通の具体的なサポート内容としては、O(オー)が持っている本質的な価値を分かりやすく可視化するためのお手伝いや、ビジョンを実装するための企画立案、セールス支援、プロジェクトマネジメント支援などをさせていただいております。

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事例①:街づくり・商店街の再アプローチ(物理・仮想両面から)
クライアント:隈研吾事務所、東邦レオ、Any
隈研吾

事例②:デジタルツインキャンパス共同研究(教育現場における、物理と仮想の相互連携による課題発見・解決の実践)
コラボレーター:慶應義塾大学SFC研究所デジタルツインキャンパスコンソーシアム、ソフトバンク

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事例③:オリジナルテンプレートワールド 
O(オー)は既にテンプレートワールドを複数開発しており、さまざまな用途や目的に合わせてコストを抑えたワールド開発が可能。もちろん、ゼロからのワールド開発もできる

デジタル空間の先進性と、保研オフィスならではの“温かみ”を融合

森本:O(オー)の技術を活用した地域・中小企業活性化を考えたとき、ぜひとも最初にお声がけしたいと思ったのが、NIKKEI社歌コンテストに何度もご応募いただいている保研オフィスでした。田野さん、最初に企画を聞いていただいたときの印象はいかがでしたか?

田野:最初にO(オー)の事業内容やa春さんのご経歴をご説明いただいたときは、自分たちとは別世界の話を聞いているような感覚でした(笑)。それと同時に、われわれでも導入できるような企画をご提案いただいたことで、これまで縁遠い世界だったデジタル空間を使える可能性があることにワクワクしたことを覚えています。

当社も以前からデジタル活用は進めていましたが、やはり保険という商材はお客様と企業・販売スタッフとの信頼関係が非常に大切になりますから、これからネット社会の中でどのようにお客様との信頼関係を築いていくべきなのかを考えなければなりません。そのような中で今回の取り組みは、当社らしいデジタル活用のあり方を模索する一つのきっかけになると思いました。

田野
保研オフィス 田野氏

森本:私自身、保研オフィスの社員の皆さんの心配りや温かさに大きな魅力を感じていたので、その社風がO(オー)の生み出すデジタル空間の雰囲気とマッチするのではないかと考えました。そこで、保研オフィスの“温かみ”が凝縮されている社歌動画を、デジタル空間の中で体験する企画をご提案しました。

森本
電通 森本氏

田野:当社では、私たちが大切にしているモットーを歌・動画に込めることで、お客様や社員にメッセージを伝えたいという思いで、これまでに複数の社歌動画を制作してきました。おかげさまで社内外に良い影響が生まれていますが、その一方で全ての動画を最後まで見ていただくのはなかなか難しいという側面もありました。だからこそ、デジタル空間の中でダイジェスト的に社歌動画を体験してもらうことで、より多くの方に私たちのメッセージを届けることができるのではないかと思いました。

また、若い人に保険という仕事の魅力を伝えることは、当社だけでなく業界全体の課題でもあります。今回、私たちのような保険代理店がデジタル空間にチャレンジすることで、若い人たちが保険業界に興味を持ってもらうきっかけを作りたいという思いもありました。

森本:まさにデジタル空間を使うことで、若年層に保研オフィスの魅力を届けやすくなるのではないかと考えたことも、お声がけさせていただいた理由の一つです。a春さんは保研オフィスの社歌動画から、どのようなインスピレーションを受けて、どのようにデジタル空間を作っていったのでしょうか?

a春:私も保研オフィスのウェブサイトや動画を見て最初に浮かんだのが、“温かみ”というキーワードです。このすてきなカルチャーを言葉以上の表現で体感してもらうにはどうすれば良いのかを考えながら制作を進めました。

例えば、今回はキャラクターの後ろ姿にカメラの視点を持っていき、デジタル空間の中を動き回るキャラクターの体験を視聴者も疑似体験できるような演出を採用しています。また、キャラクターの呼吸まで感じられるような細かな動きや、あえて動画の上にキャラクターが立って見下ろすアングルを入れるなど、没入感やコンテンツとして飽きさせない工夫も施しています。

田野:ユニークな見せ方ですよね。デジタル空間ならではの先進性もありながら、もともとの動画自体が持っている温かさや大切なメッセージもしっかりと押さえているので、保研オフィスらしさが伝わってくるコンテンツになっていると思います。

森本:背景に夕陽が差し込むタイミングや音楽が切り替わる瞬間も秀逸で、それぞれの社歌動画のハイライトシーンが引き立っているんですよね。私は関係者の立場にもかかわらず、完成した動画を初めて見たときにとても感動したのですが、社内外の反応はいかがでしたか?

田野:今回、わりと私の独断でプロジェクトを進めていたので、突然ウェブサイトにコンテンツが現れたことにみんな驚いていました(笑)。

森本:トップページに「メタバース空間入口」というバナーを作ったんですよね。

田野:そうです。「メタバース空間って何ですか?」という反応でした(笑)。でも実際にコンテンツを見てもらうと、みんなとても喜んでくれましたね。デジタル空間という新しい試みをフックにして、自分たちの思いや働いている姿をより多くのお客様に届けられるチャンスになる、と。

a春:良かったです!こういう新しい取り組みにチャレンジしていること自体が、会社のオープンマインドなイメージの創出につながりますよね。私自身も保険のことに詳しくない人間の一人として、このコンテンツを見て保険業界に抱いているイメージが変わりそうだと思いました。

田野:それはとても大切なポイントです。本来、保険はお客様に安心をお届けするものですが、「余計なものを売られるんじゃないか?」「しつこく営業されるんじゃないか?」といった不信感や不安を抱いている人がいらっしゃるのも事実です。そのネガティブなイメージを払拭するためには、私たちだけでなく業界全体でお客様と信頼関係を築いていく必要がありますが、まずその第一歩となる心の障壁を取り払う手段の一つとして、今回のプロジェクトは非常に意義のあるものだと感じています。

コンテンツメーカー

ビジネスだけでなく、社会貢献活動にもデジタル空間が寄与しうる

森本:今回の取り組みを踏まえて、保険業界におけるデジタル空間活用の可能性をどのように捉えていますか?

田野:ほんの数カ月前までは、デジタル空間は当社と無縁の存在でした。今回このような機会をいただけたことで、改めてデジタル活用の未来を考えるきっかけになりましたし、言葉では伝えきれていなかった当社のカルチャーを発信していく手段が増えたことをうれしく思っています。同じように、保険の大切さも言葉だけではなかなか理解できない部分もありますから、それを疑似体験できるようなデジタル空間づくりも考えていきたいと思いました。

また、私たちは創業以来、お客様に何か起きてしまった際に保険金のお支払いを全力でサポートすることに尽力してまいりました。ただ、それよりも一番大切なのは、お客様に事故なく健康で、平穏な日常を過ごしていただくことだと考えています。これまでも事故や病気を減らすためには心身の健康が欠かせないという考えのもと、お客様のご家庭や企業内の人間関係をよりよくするきっかけをご提供してきました。そのような社会貢献活動においても、デジタル空間が貢献できる可能性があると思っています。

a春:とてもすてきですね。私もデジタル空間を単にコンテンツとして生み出すだけでなく、それを使うことで人びとの好奇心や活力を呼び起こし、感動体験を共有できる“場の創出”まで見据えた活動をしていきたいと考えています。地域や国の枠組みを超えて人びとが集まり、新しい感動や価値に出会えるようなデジタルワールドを皆さんに届けていきたいですね。

森本:O(オー)が持っている最先端のテクノロジーと、地域の企業が持っている唯一無二の魅力を掛け合わせることで、社会を元気にするコンテンツを作っていきたいですね。本日はありがとうございました!
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