中小企業の共創プロジェクトに見る、境界線をなくす意義
2022/03/01
中小企業のコンテンツメーカーとしての魅力や可能性に迫る本連載。
今回話を伺ったのは、中小企業の社員主導イベント「工場ライブセミナー」を実施する「情熱の学校」エサキヨシノリ氏と、地域・企業を巻き込んだ対話型映画「未来シャッター」ムーブメントをリードするワップフィルム代表の高橋和勧監督。
両プロジェクトに参加した経験を、自身の企画開発に生かす電通の森本紘平が、心を揺さぶるコンテンツメイキングのポイントを聞きました。
中小企業ならではの課題解決手法「工場ライブセミナー」
森本:僕はお二人のプロジェクトからさまざまなヒントを得ました。また、その経験を生かして立ち上げた「社歌コンテスト」にも、情熱の学校とワップフィルムには協力名義でご参画いただいています。まずはお二人のプロジェクトを改めて教えていただけますか?
エサキ:僕がやってきたのは「工場ライブセミナー」です。一言でいえば、「工場で行う、歌を通じた中小企業のためのビジネスセミナー」ですね。皆さんにお見せする景色としては、製造業の工場で社歌を含めた歌を歌っているということなんですけど、実は本番の8カ月ほど前から該当企業の若手社員を中心にプロジェクトチームを作り、月1回のミーティングをしていきます。その過程で自分たちの会社を知ることができるし、歌にアウトプットする上で、大切なことを言葉にできる点も大きいです。
森本:準備していくプロセス自体が課題解決になっていそうですし、中小企業さんのフットワークの軽さが生かせる企画ですよね。
エサキ:「工場ライブセミナー」は中小企業だからできると思っていました。そもそも製造業はこれまで得意先を呼ぶということが難しかったんです。「工場ライブセミナー」であれば社員の家族や得意先も呼べます。
森本:工場ライブやります!っていうと、いい意味で本業の文脈からズレるから、何それ?となって、得意先も金融機関の方も地域の方も呼べちゃいそうですね。早くコロナが落ち着いて次のライブが見たいです。
未来志向の対話を重視する、日本一のロングラン映画「未来シャッター」
森本:「未来シャッター」について伺えますか?
高橋:「未来シャッター」は、2015年に公開した映画で、「対話型映画」という新しいジャンルを掲げて中小地域間連携による、“産・官・学・金・市民”の全てのご協力で製作しました。この映画は現代社会に生きにくさを感じた若者が東京都大田区を中心としたさまざまな人びと(実在する地域のリーダー)と関わり合いながら未来を創り出そうと動き出すストーリーになっています。
町工場の集積地かつ近代映画発祥の地である蒲田を舞台に、実際に地域の中小製造業の経営者や職人の方々、商店街、銭湯の方々に演者を務めていただきました。映像の制作過程から生み出される協同作業を通じて地域ブランドを確立し、その作品を世界に発信することで、地域活性化に寄与することを目指しています。
森本:対話型映画とはどういうことですか?
高橋:この映画は観賞を終えたお客さんと映画製作者などのさまざまな人たちが感想を語り合いながら意識改革を促して未来に向けた行動につなげられるものとなっています。映画上映後に対話をするから対話型映画というのではなく、対話をしたいような衝動にかられるから対話型映画なんです。
森本:2019年には日本一のロングラン映画記録を樹立されましたね!
高橋:はい、みんなでやってきた結果の1つとしてこの記録を達成できたことはうれしいです。
境界線をつくらないという共通点
森本:僕はプライベートでこの2つのプロジェクトを体験させていただいて以降、自分の仕事の創り方がガラッと変わるほどの衝撃を受けました。2つに共通している点が「境界線をつくらない」という点だと思います。本当に多種多様な人が集う場になっていますが、この点をどのように捉えていますか?
エサキ:大とか中とか小とか、業種とか肩書は一旦置いといて、みんなで交ざり合ってみることで見えるものがあると思います。自分の畑(領域)とは違う畑の価値観に触れることで、自分の当たり前が当たり前でないことに気付き、今あるものが急に輝き出すこともあります。日常でいきなり交ざりましょうと言われても無理があるので、こういうコンテンツが入り口のような役割を果たしているかもしれません。
高橋:そうですね。「未来シャッター」のワークショップや「工場ライブセミナー」は、その境地を感じるためのステージであるとも言えると思います。
共感が深く、夢中になると時間を忘れる
森本:さらに、2つのプロジェクトに共通すると感じたのが「時間を忘れさせる」という点です。
未来シャッターは、映画観賞~ワークショップまで入れると2~3時間、工場ライブセミナーに関しては、4時間近くもあって、しかも一般の人からすると聴いたことのない曲を20曲近く聴かされるという……それだけ聞くと結構きつい(笑)イベントなのかなって思われるんですけど、実は真逆で、誰も退屈していない。そこにいる人全員が共感し、夢中になり(中には涙を流す人までいて)、その結果時間が経っていたという印象です。
この参加者の充実感ってどのように生まれていると思いますか?
エサキ:みんなでハンバーガーを食べに行くのと同じだと思います。仕事のときって誰かが誰かの畑に行くっていう構図が多いと思いますけど、社長もハンバーガー屋さんに行くとただのおっちゃんだったりします。組織や立場を超えて価値観を共感できると温かい気持ちになり、そこにいる人を応援しようぜという空気感が生まれます。その共感を生むハンバーガーのような役割を「映画」や「歌」が担っているのだと思います。
高橋:われわれは平和を願って映画活動をしています。対話というのは平和な状態を維持する上での最適解だと思っています。そういう意味で、さまざまな人の考えに触れ、リスペクトし合う「対話」を軸にプロジェクトを組み立てることがポイントだと感じます。「未来シャッター」に強いファンやリピーターが多くなっている理由もここにあると考えています。
森本:自分の畑から一歩出た「ハンバーガーのような体験」であること、そして、「対話」の精神があることが重要なんですね。先日、日経社歌コンテストの決勝戦があって、こちらも3時間を超えてしまったんですけど、自分が見た限り、参加者の方々が組織や立場を超えてリスペクトし合う温かい雰囲気があったと思います。そういう意味で、「未来シャッター」や「工場ライブセミナー」と世界観は近くなっているかもしれません。
エサキ:社歌コンテストは主催の日本経済新聞社さんや、協賛社のJOYSOUNDさん、ココペリさんともつながらせてもらいましたけど、皆さん熱くてリスペクトし合う空気感があり、それが企画の発展にも結び付いているんでしょうね。続けているからこそ、その輪が広がってきているように思います。
森本:続けないと見えないことってありますよね。
高橋:これからも、どんどんみんなでつながって挑戦し続けていきましょう。
森本:ぜひよろしくお願いします。本日はありがとうございました!