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なぜか元気な会社のヒミツseason2No.35

「しなる」ものづくり、「しなる」経営

2024/03/19

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第35回は、廃棄される竹を素材に美しいインテリアを製造・販売する岡山県倉敷市真備(まび)町のテオリという会社を紹介します。竹の魅力について、中山和幸社長に大いに語っていただきました。

創業者は、和幸氏のお父さまである中山正明会長。以前、インタビューさせていただいたことがあるのだが、物腰柔らかな人物である。筆者は、電通西日本 岡山支社で13年ほど勤務していた。そのときに「メード・イン・岡山」の商品を紹介するという企画で、正明社長(当時)にお話を伺ったのだ。

テオリは、1989年創業。元々は、タンスのパーツの加工などを手掛ける会社だった。オリジナルの商品をつくりたい、と目をつけたのは倉敷市真備町の竹。昔からタケノコの産地として有名な町なのだが、タケノコではなく竹、あるいは竹林そのものに着目したのだ。ここがまず、すごいと思う。裏山の竹林。タケノコは価値があるが、こういってはなんだが、ぼうぼうに生えた竹をどうにかしてやろう、という発想はなかなか出てこない。

竹、と言われてイメージする、あの筒状で青くてびよーんとしたものを、どうやって家具などのインテリアにしているのか?それだけで、興味津々だ。

文責:手代木聡(電通西日本)

中山和幸氏 テオリ代表取締役社長: 岡山県倉敷市出身。大学卒業後、家具製造メーカーで経験を積み株式会社テオリに入社。製造、工務部を担当し専務取締役を経て2021年7月代表取締役就任。同11月に経営革新計画の認定、その後に竹集成材増産にむけ新規設備の開発を行い機械導入。現在も新たな設備開発を計画中。想いを込めたものづくりに努め、地域の方々と共に持続可能な『竹循環型社会』の構築を目指す。

中山和幸氏 テオリ代表取締役社長:
岡山県倉敷市出身。大学卒業後、家具製造メーカーで経験を積み株式会社テオリに入社。製造、工務部を担当し専務取締役を経て2021年7月代表取締役就任。同11月に経営革新計画の認定、その後に竹集成材増産にむけ新規設備の開発を行い機械導入。現在も新たな設備開発を計画中。想いを込めたものづくりに努め、地域の方々と共に持続可能な『竹循環型社会』の構築を目指す。

丸いものを、板にする?

「あの青い竹を、どうやって家具などのインテリアにしていると思いますか?」と開口一番、中山社長は切り出した。かぐや姫が生まれてきたあの竹を、家具にする?どういうことなのだ?「あの丸い竹を、4等分から10等分に割って、それを削って合わせて一枚の板にしているんです。タケノコ、おいしいですよね?つまり、竹には虫などが好む栄養分などもたっぷり含まれているわけです。それを除去するという作業も、これまた手間がかかるんです」

竹集成材というらしい(編集部注:丸竹を割り、4面平滑にした竹片を接着剤でプレスし板状にした物)。当初は海外の工場に依頼して、板にしてもらっていた。地元の竹の活用からスタートした家具づくりだから、やはり国産100%を目指したい。それゆえ、2018年に国内産の竹材を製造するための工場を建てた。もちろん、コストはかかる。「まだ、3割程度ですけどね。でも、いつかは100%国内産の竹集成材をつくってやろうと思っています」

竹の採取
竹の割り
竹素材の仕上げ工程

生育がはやいのが、竹の特性。

「杉などを思い浮かべてください。木材として出荷するには30年から50年といった時間がかかる。ところが竹は、3年から5年で成長する。ここが優れたところです。さらに杉やヒノキを育てようと思ったら、苗から植えないといけませんよね?竹の場合は地下茎が巡らされていて、勝手に生えてくる。毎年、生えてくる。もちろん、手入れや管理は大変なんですが。でも、その利点は生かせるのでは?と思ったんです」

中山社長いわく、竹林の手入れのために伐採にした竹が問題なのだという。たとえば、ヒノキとかなら、伐採したものには価値がつく。でも、竹の多くは、ゴミでしかない。それをテオリが買い取る。生産者とメーカーの、いわゆるウィンウィンの関係や循環型社会の未来がそこから生まれる。生育がはやい、というのはメリットでもあるがデメリットでもある。ちょっと目を離すと、にょきにょきと伸びてしまう。裏山の竹が、自宅の庭に生えてきたりする。ちょっと想像するだけで、竹林をいいあんばいで保持するのは大変だ。

ダイニング、リビングシーン

テオリ、という社名に込めた思い

「テオリという社名の由来は、ドイツ語で基本とか原点といった意味なんです。父が決めたものなんですが、英語で言うならセオリーということですね。経営者として一番大切にしなければならないものは、そのテオリだと僕は思います」

中山社長は、お父さまの影響で、幼少期から「ものづくり」の魅力に取りつかれたのだと言う。「僕が小学4年生のときに、父が独立しましてね。そのころ、木材で滑り台をつくってくれたりしたんです。気がつくと家具をつくる会社に就職して、その後、父の会社に入社していました」

原点を見失わないことが大事なことではないでしょうか、と中山社長は言う。二代目ということで、あれこれ言う人もいるにはいる。「でもそこは、割り切ることです。ものづくりが好きなんだ、という原点さえ見失わなければ、ビジネスはブレませんから」

2018年の西日本豪雨では会社のある真備町が全国ニュースで連日放送された。工場は、2m20cmまで水浸しになったという。当然、社業は成りゆかない。それでも父である正明社長(当時)は、社員の給料はなにがあっても保証する、と宣言したという。雨降って地固まるではないが、会社の気持ちが強固なものになった、と中山社長は当時を振り返る。

竹の魅力を、もっと知ってもらいたい

たとえば桐(きり)、と言われれば、ああ、高級和だんすのあの桐ね。防虫効果もあるし、香りもいいし、みたいなイメージがありますよね?それに対して、竹の魅力ってなんでしょうか?とあえて意地悪な質問をしてみた。中山社長の答えは、ものすごく誠実なものだった。「加工は難しいし、割れやすいし、いろいろ工夫しないと虫も寄ってくる。でも、そんな難しいものに本気で挑む企業って、そうそういませんよね?つまり、競合がいないということなんです(笑)」

中山社長いわく、竹の魅力は「しなり」と「堅さ」なのだという。その特性を生かしてテンションという椅子のシリーズも、テオリは展開している。頑丈さと同時に、竹のしなりを生かした極上のクッション性を提供するものだ。

竹製のチェア

しなやかに、したたかに

「しなり」というところには、グッときた。日本的な美、とかどうしてもそっちの方面にイメージがいってしまうが、竹の魅力とは「しなり」なのだ。

「しなり、ということでいうと、たとえば青竹の青い部分は入浴剤や家具への塗料としても使っています。殺菌性があると言われているんです。わが社としては、竹?ああ、あの丸い、緑の?節があって?安価な?どこにでもある?というイメージをなんとか拭い去りたい、と思っているのですが、でもその部分にも活用の仕方はいくらでもあると思うんです」

「しなる」ものづくり、「しなる」経営というタイトルでつづってきたこのコラムだが、そこには「したたかさ」もあるような気がした。これは、褒め言葉だ。竹の魅力、あなた十分に理解していないでしょう?お教えしましょうか?というような「したたかさ」だ。相手の心を読んで柔軟に応える、というのはビジネスの基本だ。でもそこには、絶対に折れない、譲れない、「したたかな」戦略と信念が同時に必要だ。

インタビューの最後に「中山社長にとって、元気な会社とはどんなものですか?」という質問を投げかけた。「社会の変化に対応して、お客さまに笑顔をお届けできる会社でしょうか?」という答えが返ってきた。うーん、しなやかだ。

テオリ社名ロゴ

テオリのHPは、こちら

カンパニーデザインロゴ

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第35回は、廃棄される竹を素材に美しいインテリアを製造・販売する岡山県倉敷市真備町のテオリという会社を紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

取材に先駆けて、竹のことをあれこれ、考えた。竹馬、竹トンボ、流しそうめん、竹ぼうき、竹竿、タケノコ、正月の門松、メンマ、竹刀、茶道具、扇子、竹かご、尺八……もう無限に出てくる。これほどまでに、竹といっしょに暮している民族は、世界でも珍しいのではないか?中山社長にそう話を向けると「そうですね、ヨーロッパあたりに竹は生えていませんからね」とのことだった。

編集部としては、ぜひとも「そんな竹の持つポテンシャル」について尋ねたい。日本の国土の67%は森林だという。でも、木材のほとんどは海外からの輸入に頼っている。山がちな地形ゆえ、林道の整備がなかなかできないからだ。

中山社長いわく、竹の魅力を一言でいうなら「根本から葉先まで、捨てるところがない」ことなのだそう。先日、知人数人と「ぶりパーティー」をした。ぶり刺、ぶり照り、ぶりしゃぶ、ぶりのカマ焼き、ぶり大根、と、ぶり尽くしのメニューだ。富山県の氷見(ひみ)から、11キロのぶりを届けてもらった。まさに、捨てるところがない。私たち日本人は、そんなぶりにも通じる竹の魅力を、おろそかにしているのではないだろうか?ぶりと竹、なんの関係もないが、そんなことを考えさせられた。

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