ウェルネス1万人調査からひもとく最新のヘルスケア・インサイトNo.3
ヘルスケアもタイパ重視!?健康意識から読み解く“ヘルステック活用”の現在地
2024/03/13
医療や健康とテクノロジーの進化を融合させ、新たな価値を創造するヘルステック事業。
日本でも、市場拡大が予測されるとともに大きな注目を集める分野であり、生活者の興味も高まり、少しずつ浸透しつつあります。健康増進・コンディショニング・予防領域におけるヘルステック活用の実態を、電通ヘルスケアチームが毎年実施している大規模調査「ウェルネス1万人調査」(調査概要はこちら)の結果からご紹介します。
<目次>
▼自身の健康・身体データを有効活用したい意向が顕在化
▼ヘルステック活用の商品・サービスの利用意向も伸長
▼健康領域におけるタイパ重視世代は40代!?ヘルステック活用との相関は?
自身の健康・身体データを有効活用したい意向が顕在化
メディカル・ヘルスケア業界で働く人間にとって、“ヘルステック”は長らく注目すべきテーマではあるものの、生活者のニーズがどこまで顕在化しているか、その本気度がつかみづらい領域でもあったのではないでしょうか。
ウェルネス1万人調査では、ヘルステックの活用を意識・行動ベースに具体化した選択肢を複数提示し、聴取しています。例えば、「自分の健康情報や生活習慣をデータで把握・管理したい」と答えた人は全体で34.1%でした。特に20代女性でその意向が高く、42.4%に上っています。
また、具体的なサービスを想起しやすい「遺伝子検査や生体データの解析などで、自身の健康リスクをあらかじめ把握したい」という意向は、特に40代女性で高く39.2%、20~30代女性で37.8%となりました。
また、より実行動に近い項目として、「良いと思う機能があれば、ヘルスケアアプリの有料会員になりたい/なっている」に該当する人は、20代男性では26.5%に上りました。全体では14.3%とまだ低いものの、「本気度」の高い人も一定数存在することが分かります。
ヘルステック活用の商品・サービスの利用意向も伸長
では次に、既存の具体的な商品・サービス内容を提示して聴取した利用実態・意向の2020年と2023年の経年比較結果を見てみましょう。
調査では、22種類の具体的な商品・サービスについて聴取していますが、以下は、代表的な4つの商品・サービスの「利用意向」(「現在使用していて、今後も使用し続けたい」もしくは「使用したことがないが、今後使用したい」の合計)を抽出した結果です。
例えば、腕時計型デバイスは23.9%(2020年)から34.0%(2023年)、尿や便の一部を採取することで、自分の栄養状態や腸内環境が把握できる検査キットは22.3%(2020年)から34.2%(2023年)と、急増とは言えなくとも着実に伸び、3人に1人が利用意向を示しています。今まで状態を可視化しにくかったストレスや睡眠も、利用意向が高い領域です。
このように、ヘルステックサービス・商品が生活者に受け入れられつつある兆しを感じる一方、もちろん、課題もたくさんあります。例えば、一部の人気ヘルスケア系サービスを継続利用する目的として「ポイントをためるため」「なんとなく」が上位に挙がるなど、生活者が具体的な健康の維持・向上以外を目的に使用しているケースも多々見られました。
個人的には、生活者が認識している目的が“経済的なお得感“であること自体は悪いことだと思いません。結果的に、その人の健康につながっているなら(ポイントをためたいから歩く、など)、それで良いと思うのです。ただし、ポイントやクーポンだけがモチベーションだと、「飽きた」「面倒になってきた」「必要なくなった」という、回避しがたい理由で離脱してしまう可能性があり、結局、健康行動が習慣として根付かないことが課題だと感じます。
医療・介護・健康障害などのメディカル領域でのヘルステックサービスは、使うことで「痛みが緩和される」「できないことがやりやすくなる」などベネフィットが明確なものが多いので、「なんとなく」やってみて「飽きてきた」からやめてしまう、ということは起こりづらいのかもしれません。一方、健康増進・コンディショニング・予防領域では、体への効果=ベネフィットを短期間で実感しづらい曖昧さがあります。
だからこそ、「体のデータを把握し、効率的で妥当な健康管理をする」ことだけではないモチベーションもある、という生活者のホンネをないがしろにせずに、なぜ使うのか、なぜ使い続けられるのか、をあきらめずに考え抜くことが重要だと感じます。
健康領域におけるタイパ重視世代は40代!?ヘルステック活用との相関は?
Z世代が好むとして話題となったタイパ意識も、ヘルステックの浸透に好影響をもたらすかもしれません。「健康のために何かするなら、効率性を重視する」と答えた人は47.2%。特に、40代女性(56.6%)に多いのが特徴で、公私ともに忙しく時間的余裕がない世代特性が反映されていると推察します。
40代女性は自身に加えて家族の健康管理も自分ゴトであり、家族の 中で1人でも体調を崩すと生活リズムが破綻してしまうかも、という切迫感の中にいる人も多いと推察します。 例えばそんな状況の方たちが、忙しい毎日をスムーズに過ごすために、「無駄な時間をかけずに、最大限の健康効果を得る方法」としてパーソナライズサービス(自分“だけ”に合った方法)を選びたい、そのためのヘルステックを活用したいと志向すれば、商品・サービス利用の揺るぎがたい モチベーションになりそうです。
ヘルステックを切り口にすると、「最新テクノロジーは若者が好みそう」とか「健康の話はシニアの方が親和性が高い」などという既存の概念を打ち破り、健康増進・コンディショニング・予防領域における事業の可能性を検討していけそうです。
一方で、どんなに斬新なヘルステックであっても、そのサービス・商品を使うモチベーションデザインにはやはり工夫が必要だと感じます。ヘルスケア市場の特性にとどまらず、より一般的な消費意識の変化やリアルな日常生活に視野を広げ、事業・ブランド戦略を構想する必要がありそうです。
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計が異なる場合があります。
【調査概要】
調査名:第17回「ウェルネス1万人調査」
実施時期:2023年6月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国20~60代の男女(10000サンプル)
調査会社:電通マクロミルインサイト