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ウェルネス1万人調査からひもとく最新のヘルスケア・インサイトNo.4

日本の約10倍も!?中国でヘルステック活用が進む理由とは?

2024/05/29

本連載の前回記事では、日本における“ヘルステック活用”の実態を、電通ヘルスケアチームが毎年実施している大規模調査「ウェルネス1万人調査」(調査概要はこちら)の結果からご紹介。ヘルステックを活用した商品・サービスの利用意向が少しずつ伸びてきている現状をお伝えしました。

電通では中国でも大規模調査(日本の「ウェルエス1万人調査」の主要項目について同一内容で調査)を実施しています。その結果、同様の商品・サービスの活用が、日本よりも大きく進んでいることが明らかになりました。中国版の調査結果(調査概要はこちら)と比較しながら、実際の事例とともにその理由を考察します。

※中国での調査は対象者が20~40代に限られるため、本記事においては、日本の「ウェルネス1万人調査」の結果も20~40代のみを抽出して提示しています。
 
<目次>
日本では1割のスマートウオッチの現在利用率、中国では6割以上!

4000種類以上のレッスンメニュー!アプリ発のインフルエンサーも誕生!「Keep」が人気の理由

市場拡大に貢献するヘルステック

日本では1割のスマートウオッチの現在利用率、中国では6割以上!

まずは、健康増進・コンディショニング・予防領域におけるヘルステック活用の実態について、一部の具体的なサービスの現在利用率をご紹介します。

トータル・ベーシックに健康管理ができ、同時にファッション性も評価されているであろう「腕時計型デバイス」の現在利用率は、日本では11.0%、中国では62.1%、と、大きな差があることが明らかになりました。また「ダイエットに関するトータル的な個別指導を、アプリやウェブを介して提供するサービス」の現在利用率は、中国では45.4%、日本では4.3%という結果になりました。

「腕時計型デバイス」の現在利用率

ダイエット系アプリ現在使用

日本でもヘルステックの活用について認知度や意向が上がってきたといっても、現在利用者は中国に比べるとかなり少ないことが分かります。その原因は何か、中国で人気の高いアプリを例に、考察します。

4000種類以上のレッスンメニュー!アプリ発のインフルエンサーも誕生!「Keep」が人気の理由

2023年度中国「ウェルネス調査」の結果、最も使われているアプリは「Keep(キープ)」でした。Keepは2014年に立ち上げられた中国で最大規模のオンラインフィットネスアプリです。KeepのIR情報によると、2023年度の平均MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)は約2976万人になっています。

Keepは会社の創立当初、メインユーザーが大学生でした。中国の大学生活は日本とは異なり、学生が大学構内にある寮に住むのが一般的です。へき地にある大学も多いため、筋トレや運動を始めたいと思っても、徒歩で通えるジムが少なく、費用も高いため、気軽に“宅トレ”できるKeepは人気を集めるようになりました。

その後、忙しい生活の中でジムに通う時間がない社会人にも愛用されるようになりました。筆者の1人・姜も、大学生の時に使い始め、今も使い続けています。

2020年以降、コロナ禍で行動が厳しく制限されたことで、宅トレのニーズがより一層高まりました。若者から高齢者まで、幅広い世代に定着してきています。同社では最近、オフラインのジム運営、独自のスポーツウエアブランドまで多岐にわたるビジネスを展開しています。「健康的なライフスタイルといえばKeep」のように、健康生活のあらゆる場面に登場する統合的な一つのプラットフォームになっています。

10年間にわたりユーザー数が増え続けてきたアプリとして、人気の秘訣は2つあると考えます。

1つ目は、豊富なカリキュラムとパーソナライズされた顧客体験です。アプリダウンロード後、ユーザーは基本情報や目標などを入力します。その情報を踏まえて、おすすめプランが提示されるのはもちろん、現状の体力などについて具体的な質問を通じて確認されることが特徴的です。

例えば、「腕立て伏せは何回できますか?」「マンションの5階まで階段で上がったら、息が切れたことありますか?」などの質問です。そうすることで、ユーザーの現状のライフスタイルに寄り添った持続可能なカリキュラムを組んでくれます。

また、カリキュラムの豊富さも特徴の一つです。筋トレ、ランニング、自転車、そして球技、ダンス、スキーまで、60種類以上のカテゴリーがあります。さらに、女性に特化した生理中や出産後対応のシリーズ、場所を切り口にした学生寮やオフィス専用シリーズなど、シチュエーション別のレッスンメニューが4225種類あります。限られた時間や空間の中で、一人一人の体調やニーズに沿って、誰でもいつでも気軽に運動を楽しめるところが魅力です。

Keep の豊富なカリキュラム
Keepの豊富なカリキュラム

2つ目は、「社区(しゃく)」というSNSの機能です。「社区」にはユーザーが自由に投稿することができ、トレーニングやスポーツのノウハウに加え、運動履歴も共有可能。それに対して他のユーザーが「いいね!」やコメントをすることができます。「社区」の中にもコミュニティがたくさんあります。友達や他の運動仲間と運動記録を共有し、お互い鼓舞することができるため、トレーニングを継続させるモチベーションにもなっています。

筋トレなどを頑張った後に、きれいなボディラインの写真とともに、ポジティブなメッセージを添えた投稿をする人が注目され、有名なインフルエンサーが多く誕生しています。例えば、Keepでフォロワー数は260万人を超えた「语姐姐(ユージェージェー)」の場合、最初は腹筋の変化の写真でフォロワーが増え、その後7年勤務した会社を辞めたのちKeepの専属インフルエンサーとして独立しました。さらに、ヨガや栄養学などの知識を身につけ、オリジナルで制作したレッスンもKeep上で人気を集めています。

また、「社区」内にはKeep主催のイベントもたくさんあります。国内・海外を問わず有名人とのコラボレッスン、人気IPコンテンツを活用したオンラインスポーツ大会、異業種分野とのコラボなどで、アクティブユーザーを増やしてきました。それだけでなく、ユーザーはオンラインスポーツ大会などのイベントに参加すると、オリジナルデザインの実物メダルも獲得することができるようになっています。ユーザーが集めてきたメダルの写真を投稿すると、「いいね!」の数が増え、モチベーションの向上、新しいライフスタイルの形成にもつながっています。

社区の図

市場拡大に貢献するヘルステック

ヘルスケア市場は、これまで予防や健康管理、医療・介護技術の進化などにより大きく拡大してきました。スマホ、ウェアラブルなどデジタル技術の進化、AIの活用も、人々の健康意識および行動に影響を与え、ヘルスケア市場のさらなる拡大を後押ししています。

本記事ではヘルステックに着眼し、日本と中国の利用状況の違いを明らかにした上で、中国No.1のヘルスケアアプリが人気となった理由を分析しました。生活環境や健康に対する意識が変化し、日本でもヘルステックの利用率が上がってきている中で、少しでもヒントになればと思います。

もちろん、日本・中国における健康意識・行動に関して、ヘルステックはあくまでもその中の一つの視点です。ヘルスケアチームでは、生活者のヘルスケアに関する意識や行動インサイトも、毎年の大規模調査の結果に基づき、時系列で多角的・包括的に考察しています。日本企業のヘルスケアビジネスや中国市場にサービスを展開する日本企業、またはその逆の場合にも、調査から得られた考察を、生活者視点でのヘルスケア市場の把握とビジネス開発に役立てていただきたいと考えています。

【調査概要】
〈日本〉
調査名:第17回「ウェルネス1万人調査」
実施時期:2023年6月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国20~60代の男女(10000サンプル)
調査会社:電通マクロミルインサイト
 
※中国での調査は対象者が20~40代に限られるため、本記事においては、日本の「ウェルネス1万人調査」の結果も20~40代のみを抽出して提示しています。
 
〈中国〉
調査名:2023年度中国「ウェルネス調査」
実施時期:2023年11月
調査手法:インターネット調査
調査対象:中国1級および準1級都市20~40代の男女(5150サンプル)
 
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