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月刊CXNo.24

自分の「好き!」をカスタマイズして購入できるGoods Luckはこうして生まれた

2024/04/09

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

昨今、“推し活”として、好きなアイドルやキャラクターを応援する活動が一般的になってきています。そんななか、世界にひとつだけのグッズをカスタマイズして購入できるECサイト「Goods Luck」が、2023年5月21日にオープンしました。

今回は、サイトの立ち上げにも携わっている福井知右氏に、サービス誕生の経緯や特徴について話を聞きました。

福井氏
【福井知右氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター
アートディレクター/CXプランナー
コンテンツエコシステム研究所所属。広告表現にとどまらない、顧客体験全般のコミュニケーションプランニングを担当している。また、コンテンツ領域においてはマンガやアニメの原作開発も手がけている。読売新聞広告賞、グッドデザイン賞、AD STARSなど。

自分だけのグッズをカスタマイズして作成できる「Goods Luck」

月刊CX:「Goods Luck」の概要について教えてください。

コンセプト

福井:Goods Luckは、ライセンサーの協力(許諾)のもと、応援しているキャラクターのグッズを自分でカスタマイズして作成できるサービスです。オンデマンドで商品の発注、製造ができるECプラットフォームを提供するKONNEKT INTERNATIONAL(以下、KONNEKT社)との協業事業で、電通ではサイトのコンセプト設計、サイトのデザイン、IP(知的財産)の権利元交渉、商品開発、宣伝・PRを担当しています。

最近は、自分の好きなアイドルやキャラクターを応援する“推し活”を、グッズを通して楽しんでいる方が増えていますが、そうしたグッズが発売されるのは人気のキャラクターが中心ですよね。マイナーなキャラクターは、商品化されていないことも珍しくありません。そこで、多くの方の「好き」を形にすることを目指して、絵柄やデザインを自由に選んで商品をカスタマイズできるGoods Luckを立ち上げました。

月刊CX:具体的にはどのようなグッズが購入できるのですか?

福井:現在は、Netflixで放送された「ULTRAMAN」や、2023年8月に15周年を迎えた人気シリーズ「イナズマイレブン」のグッズが購入できます。また「さよなら中野サンプラザ音楽祭」や「東京卍リベンジャーズ 描き下ろし新体験展」といったイベントのグッズについても、Goods Luckの仕組みを使って展開しています。

月刊CX:さまざまなコンテンツで利用されているのですね。KONNEKT社との協業が決まった経緯についても教えていただけますか。

福井:アニメや映画などのコンテンツを起点としたソリューションを提供している電通のコンテンツビジネス・デザイン・センター(以下、CBDC)ではライセンサーとしてアニメのライセンスを扱っています。自社でもB2Cに向けたグッズ製造販売を検討している中で、在庫を持たずにオンデマンドで製造できるソリューションを提供しているKONNEKT社に声をかけて協業を模索することになりました。そこでただオンデマンドでグッズを作るだけでなく、よりアニメファンが求めていることを追求した新たなサービスを構築するために、生活者とのコミュニケーションで多くのノウハウを持つCXCCが、体験づくりを手がけることになりました。その中でもアニメに精通している私が手を挙げて担当することになりました。

CBDCはアニメや映画関連の多くの会社との信頼関係がありますし、交渉力にも優れています。そこに、CXCCのクリエイティブ企画力を掛け合わせて取り組む形ですね。それらに加えて、KONNEKT社の商品化への素早い対応力が合わさることで、企画から販売実施までスピード感を持って運営ができています。

月刊CX:三者の強みが生かされているのが、サービスの特徴なのですね。

福井:強みが生かされていることに加え、環境に配慮した仕組みを提供できているのも特徴です。

グッズ販売は大量生産による在庫リスクが付きものです。しかし、Goods Luckはオンデマンド販売で、そもそも在庫を持つことがないため、廃棄の必要がありません。エシカル消費につながるサステナブルな事業モデルを実現しています。

全キャラクターの絵柄を用意した作品も。ファンに喜んでもらうことをモチベーションに選定

月刊CX:グッズを購入するまでの流れについても教えてください。

ULTRAMAN
©円谷プロ ©Eiichi Shimizu, Tomohiro Shimoguchi ©ULTRAMAN製作委員会3

福井:例えばGoods Luckで「ULTRAMAN」のTシャツを買う場合は、自分の好きなTシャツのカラー、プリントするデザインのフレーム、そこに入る200種類以上の画像パターンから、好みのものを選んでいただきます。デザインを選んで決済まで完了したら、グッズを製作して配送するといった流れです。

デザインのフレームと画像パターンはIPごとに電通で内製していて、どんな素材にも対応するようにできるだけシンプルなデザインにしつつ、その作品の世界観も反映させるように心がけています。

月刊CX:200種類以上も画像パターンを用意するとは、想像するだけでも大変な作業ですね。

福井:画像パターンの素材セレクトは私が担当しています。劇中の膨大なシーンの中から名場面をセレクトする大変な作業であるのも事実ですが、ファンの方に喜んでもらいたいという一心でやりきりました。

ちなみに「東京卍リベンジャーズ 描き下ろし新体験展」のグッズについても、素材セレクトは私が担当しています。原作全31巻の中から1200点以上の、ファンがグッとくるキャラクターの表情を集めました。

東京リベンジャーズ
©和久井健・講談社/東京リベンジャーズ展製作委員会

月刊CX:1200点以上も!それはすごいですね。素材を選定する際のコツなどがあれば、お話しいただけますか。

福井:ポイントはフレームに収まるかどうか、ですね。かっこいいポーズがあったとしても、横に長い図柄だと縦のフレームには収まらないとか、その逆もしかりで。フレームに合わせて選定するのはなかなか大変でした。また、画像と印刷では解像度も違います。そのため、拡大しても絵が崩れないように、印刷のテストは丁寧に行いました。

月刊CX:印刷の話でいうと、Goods Luckで製作したグッズは発色が良いなと思いました。

福井:ありがとうございます。発色の良さは、Goods Luckの売りのひとつです。通常のインクジェット印刷とは異なりフィルム上に印刷しているので、発色が良いだけでなく耐久性に優れているのが特徴です。

印刷した製品はIPホルダーの監修者にもチェックしてもらうのですが、印刷クオリティに関しては喜んでいただいています。これはKONNEKT社が新しい技術や仕組みを積極的に取り入れているから実現できたことです。

月刊CX:なるほど。カスタマイズで、工夫したところはありますか?

福井:カスタマイズの自由度の調整には気をつけています。というのも、カスタマイズの自由度を高くしすぎると、購入数が下がる傾向があるのです。

例えば、画像を大きくしたり小さくしたり、配置を自由にできるとなると、作成が面倒になってしまいます。また、最後までデザインを完成させたとしても、仕上がりがいいか悪いかの判断が難しくなってしまうので、結果として購入につながりにくくなってしまう。

デザインのフレームはあらかじめ決まったものにしておいて、そこに当てはめる素材を選ぶ、くらいのカスタマイズ性の方が、ファンの方々に楽しんでいただくにはちょうど良いようです。

現代の推し事情が、カスタマイズの動向から見えてくる!?

月刊CX:実際の売れ行きはどうですか?

福井:「イナズマイレブン」でいうと、子どものころにファンだったであろう20代後半~30代の女性を中心に購入いただいています。親子で購入されている方もいました。グッズとしては、最初はTシャツなどのアパレルグッズ、第二弾がキャラクターのアクリルスタンド125体です。125体出すと発表したときにはファンの方々が、数の多さや「あのキャラのアクリルスタンドもあるの!?」と驚きの声を多くポストしてくれました。

アニメ放送当時は今ほどグッズが潤沢ではなかったこと、昨年でシリーズ15周年を迎えたことも反応につながる理由だったのではないかと思います。

月刊CX:グッズを購入された方の反応も教えてください。

福井:商品の写真をXにアップしたり、「このキャラのグッズがあるなんてマジ神!」とポストしたりしてくれている方もいて、うれしくなる反応が多いですね。

こちらの予想以上に「好きなキャラで身の回りを埋め尽くしたい」というニーズがあるようで、同じ絵柄を3つ、4つ並べている人もいて、楽しみ方は人それぞれなのだなと感じました。ちなみに、IPによって購入する層は変動します。

月刊CX:購入データなどを分析すると、また新たな発見がありそうですね。

福井:そうですね。公式の人気投票では見えてこなかった、意外なキャラクターの売り上げが高かったなど、データを活用することで、私たちだけでなく、IPホルダー側にとっても“推し文化”の理解の一助になりそうだなと感じています。

あと、データ活用という点で関連する話をもうひとつ。オンデマンド販売は、カスタマイズはしてみるけれど購入する前にサイトから離脱してしまうというケースが多くあります。Goods Luckでも公開初日にカスタマイズをするけれど購入を保留されることも多く、その後はしばらくアクセスが落ち着いて、締め切り直前になると購入数が増える傾向があります。どこで離脱してしまっているのかなどのデータも確認しながら、タイミングのいいところで購入を促すリマインドをするなど、サービスの改善も進めていきたいですね。

月刊CX:なるほど。それ以外に、運営をする上で気づいた改善点はありますか?

福井:改善点というわけではないですが、今後はプロモーションを戦略的にやっていきたいです。例えば、Goods Luckとして「イナズマイレブン」のCMを放映したときは、テレビ画面を撮影してシェアする方もいたほど反応がありました。

しかし現状では、ファンがECサイトで購入しやすい時間帯を狙ってCMを放映できているわけではありません。今後は売り上げ目標に対してより精緻にプロモーション費用を見積もって、SNSでの情報発信を絡めて、より立体的にプランニングしていく必要があると考えています。 

企画から販売まで手掛けるCXクリエイティブには、周囲の助けが必要

月刊CX:このプロジェクトで、福井さんの強みはどう生かされましたか?

福井:私の強みは、推し文化に寄り添い、ファンに近い気持ちを持っていることですね。どういうグッズがあれば喜ばれるのかを考えるのも楽しいです。また、アートディレクターとして、リアルの印刷物もデジタルも両方扱った経験があるので、今回のようなオンラインで作成してリアルな商品にするといったケースにも対応できたのだと思います。

月刊CX:福井さんにとって、CXクリエイティブとは?

福井:CXクリエイティブは、企画から製造、販売まで、最初から最後まで一貫して取り組むことです。私自身も得手不得手がありますが、いろいろなステークホルダーと連携しながら、全員で協力して最初から最後までやり切ることが重要だと感じています。

CXCCはナレッジ共有の文化があり、他の人の協力を仰ぎやすい組織なので、困ったことがあったら一人で抱え込まずに、誰かを巻き込んでいます。それができないと、CXクリエイティブは難しいのではないでしょうか。

月刊CX:今後やってみたいことはありますか?

福井:海外展開を見据えて、Goods Luckを拡大していきたいです。海外では海賊版が横行しているケースもありますが、公式グッズが購入できるようになると、海賊版が激減するといいます。日本のコンテンツを応援しているファンは海外にもたくさんいらっしゃるので、そういった方々に向けて提供していきたいなと考えています。

あとは、イベントの前に商品を購入してもらって当日に着て行けるようにするなど、購入で終わるのではなく体験につなげられるような企画も考えていきたいですね。


(編集後記)

カスタマイズはやってみると楽しいですね!ついつい時間を忘れて、あれこれ試したくなります。好みが多様化している現代において、自分でカスタマイズしてオリジナルグッズが作れるこのサービスは、さまざまなIPでの展開が期待できそうです。

今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、ご興味がおありでしたらそちらも併せてご覧ください。

また、今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

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