事業成長を加速させる人事戦略「HR for Growth」No.2
事業成長に“変革の企業カルチャー”が求められる理由
2024/04/19
「昭和の時代に作られた会社や事業は成功体験が残り、今もそれなりの利益をあげている。でも、大きな成長にはつながらない——」
これは、今年1月にラスベガスで行われた「International CES(Consumer Electronics Show)」における、三部敏宏本田技研工業社長の言葉です。
今、あらゆる業界においてさまざまなディスラプター(※)が現れ、既存の企業の成長を脅かし、市場の構造そのものが大きく変わっています。もしかしたら、今までのやり方で、会社そのものは存続できるかもしれない、しかし、それでは企業の成長が止まるだけでなく、縮小することも覚悟しなければならない。三部社長に限らず、多くの経営者はそう考えているようです。
※ = ディスラプター
既存の業界のビジネスモデルや市場を破壊し急成長する企業などのこと
さらに彼らは、大きな成長を成し遂げるための一つのカギが、「企業カルチャー」のアップデートだと考えています。そして、私たち電通も「Integrated Growth Partner」や「Integrity」を合言葉に企業カルチャーのアップデートを図っており、もちろん、さらなるアップデートを続けています。
本記事では、電通BXデザイン局で企業の人的資本経営の実現と事業成長のための支援プログラム「HR for Growth」を手掛ける小山雅史が、企業変革のために必要な「企業カルチャー」のアップデートとは何か、またその方法についてお伝えします。
<目次>
▼なぜ、「変革」のために、企業カルチャーのアップデートが必要なのか?
▼「変革の企業カルチャー」とは何か?
▼企業カルチャーをアップデートするには
▼従業員の自律的行動を支援するアプローチとは
▼キーとなるのは「ミドルマネジメント」層
なぜ、「変革」のために、企業カルチャーのアップデートが必要なのか?
なぜ、変革を推し進めるために企業カルチャーのアップデートが必要なのでしょうか。
例えば、スマホ。スマホそのものはいわば「箱」であって、そこには基盤となるOSが存在し、OSの上でさまざまなアプリケーションが働くことにより、私たちは「スマホという利便性」を享受できています。
OSが最新でなければ、さまざまなアプリケーションが、仮にそれが最新のものであっても、ベストなパフォーマンスを発揮できないことはよく知られているはずです。場合によっては古いOSではアプリが動かないこともあります。そのために、スマホ側も常に最新のOSへとアップデートを行っています。
本記事でお伝えする「企業カルチャー」は、いわば、「企業のOS」だと考えられます。企業において変革を起こすためには、成長戦略を描き、実行する前に、実は企業カルチャーをアップデートする必要があるのです。マネジメントの父、ピーター・ドラッカーは「企業カルチャーは戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という名言を残していますが、まさに戦略(=アプリケーション)の前に、企業カルチャー(=OS)のアップデートが必要であるということを示した言葉と言えるでしょう。
「変革の企業カルチャー」とは何か?
では、変革の企業カルチャーとはどんなものでしょうか。基本的な要素としては、次の5点が挙げられます。
トヨタ自動車の豊田章男会長は「いいクルマをつくる」という目的を掲げており、同社にはそれに向けて、従業員が改善をし続ける、というカルチャーがあります。また、Netflixも「自由と責任」という言葉に代表される企業カルチャーを可視化・言語化し、共有することで、それに共感する人材が集まり、成長につなげています。
集団のあるところ、すべてにおいてそれぞれの集団のカルチャーが存在します。しかし、多くの企業は変革に突き進めておらず、企業の目指すべき成長に貢献する「カルチャー」はなかなか築けていない、というのが現実なのです。
企業カルチャーをアップデートするには
従来の日本企業の特徴として、同質性(いわゆる、言わなくてもわかるだろう、的な企業のカルチャーが暗黙的に共有され、実践されているもの)が高く、終身雇用を前提とした雇用形態に起因するヒエラルキー型の組織というものがあります。こうした企業は、正しい方向性が示されていれば、集団戦においてはとても強い組織となりえます。
しかし、現代は企業の競争優位性が「事業」や「技術」では、高い差別性を生みづらい時代です。さらに不確実性が高まり、スピードが重視される時代において、大きな集団が「右向け右」で動いていては、成長に結びつけることが難しくなってきました。むしろ、競争力の源泉は今や従業員一人一人のクリエイティビティと実行力に依存することになっています。そうした組織づくりは、ジョブ型雇用の導入など制度的なアプローチを中心に、日本企業の中でも始まっていますが、なかなか定着していません。
筆者はさまざまな変革の企業カルチャーづくりに従事してきた中で、そうしたカルチャーを生むための必要条件を以下の2つだと考えています。
- 従業員が自律型の意識を持ち行動すること。
- 組織がその自律を支援する仕組みや関係性があること。
まず①については、従業員がいかに自分で企業や自分の取り巻く環境を考え、行動するのか、ということになります。この観点に対しては、電通も伴走する「はたらく未来コンソーシアム」に詳しく書かれているため興味がある方はご覧ください。
もちろん、①を引き起こすために、さまざまなコミュニケーションを企業から行い、従業員に駆動してもらうことも重要ではありますがが、本記事では②についてより深くご説明します。
従業員の自律的行動を支援するアプローチとは
まずは、「企業がどこに向かおうとしているのか?」をはっきりさせることが重要です。ゴール地点が見えなければ、仮に従業員が自律していても、個々人がバラバラに動いてしまうことになるからです。
ここ数年パーパスなどで企業の社会における存在価値を明確化する動きがみられましたが、残念ながらそれが従業員に浸透しない、という課題をよく耳にします。認知を促すためのさまざまなインナーコミュニケーションを行っているものの、「認知はすれども動かない」という現象が起きているのです。実際に行動を起こさせるためには、いかに従業員のココロに火をつけるか、ということが重要になります。
従業員はそれぞれ目の前の業務に集中しています。その一方で、パーパスやビジョンはとても遠い存在のように感じられるのではないでしょうか。「行動」につながるまでパーパスやビジョンを従業員のココロに浸透させるには、その“ギャップ”を埋めるアプローチを徹底して行わなければなりません。
会社が提示したパーパスが、日常の行動の中でどういう意味を持つのかを“翻訳”する、あるいは従業員一人一人が自分自身に落とし込んだ時にどうなるかを考えさせる、さらには個人で考えるだけでなく、従業員同士で語らう場を作る。さまざまな方法を複合的に組み合わせることで、従業員のココロに火をつけていくのです。
ただし、火をつけただけでは、その火はいずれ消えてしまいます。そこで、せっかくついた火を大きくしていくための、「行動のデザイン」をしていくことが重要です。ここでは、いわゆる「パーパスの認知・理解」というコミュニケーションレベルの話ではなく、「どのように行動する場を設計し、評価するか」、あるいは「その火を大きくするための企業と従業員の関係性を作っていくか」という人事領域、あるいは組織領域の話にまで踏むこむ必要があります。
具体的には、会社の目指す方向とマッチした、自律的な意識と行動力を有する従業員の見える化、そしてそれを踏まえた評価、異動などの人事制度、あるいは表彰制度や現状の業務に囚われない新規事業の発案プログラムなどの場づくりなどが考えられます。
キーとなるのは「ミドルマネジメント」層
これらの制度や場を効果的にしていくためにも重要だと感じるのは、ミドルマネジメントの存在であり、彼らと一般の従業員(非マネジメント層)の「関係性」が大切になってきます。
大抵のミドルマネジメントは企業や事業が成長するための「目の前のタスク」を背負っています。そのために部下に対しても、目の前の業務を完全に遂行することを求めてしまうのです。この部分でパーパスなど長期的な視座と切り離されてしまうと、部下が仮に自律的な意欲を持っていたとしても、そうした視点の基には行動させてもらえず、「あきらめ」を生んでしまいます。
そこで「どのようにして個々の自律的なケーパビリティを高めていくのか」、「それを事業の成長に結びつけるのか」、あるいは「自分のミッションに結びつけるのか」といった考えを、ミドルマネジメントに持ってもらうことが重要になってきます。ミドルマネジメントや会社そのものと、従業員の関係性をどうデザインし、形にするかを考える必要があります。
今回は、変革の企業カルチャーとは何か、その上で変革の企業カルチャーをアップデートするためにどのようなことが重要なのかをお伝えしました。
すでにさまざまな企業が、この変革の企業カルチャーへのアップデートに取り組んでいるため、次回以降はその事例について、インタビュー形式などでご紹介していきます。