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【特別対談】広報・PRは新たなステージへ PR4.0への提言No.2

PR4.0時代、ソーシャルコミットメントが今再び注目される理由

2024/06/27

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加速するビジネス環境の変化を背景に、新しい「企業価値」を創出していく新時代の広報・PRはどのようにあるべきなのか。今知っておきたい6つの潮流と7つの視点から、これからのPRを考察する「PR4.0への提言」が、2024年4月に出版されました。

出版にあわせ、本書の巻末解説を担当した「広報会議」の浦野有代編集長と、共著執筆者を代表して電通PRコンサルティング執行役員・井口理が広報・PRの新たなステージへの展望について、特別対談。

後編は、7つの視点の中から「コレクティブ・インパクト」の重要性や、これからのPRに最も重要な視点「ソーシャルコミットメント」について語りました。

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PRの専門家を擁する電通PRコンサルティングが執筆した、新時代の広報・PRを考察する書籍「PR4.0への提言」(2024年4月発売)。本書は、電通PRコンサルティングが2020年8月から3年間、月刊「広報会議」(宣伝会議発行)で連載した「データで読み解く企業ブランディングの未来」から特に頻出したテーマを抽出し、コロナ後の新しい局面を迎えた広報・PRのあるべき姿を新たに書き下ろした。https://dentsu-ho.com/articles/8863

 

信頼と共感を築き上げるのに近道はない

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井口:前編では人手不足が深刻となる2024年問題を背景に、多くの企業で関心の高いインターナルブランディングをどのように考えて進めていくかを皮切りに、これからのPRの未来を切り開く鍵は、ズバリ何かを提示させていただきました。

浦野:「ブレない思考とパーパス」ですね。変化が激しい時代だからこそ、組織の軸足をどこに置くのか、社内だけでなく社外に対しても示していき、現実的なアクションに結びつけて体現していかないと、周回遅れの企業になってしまうと警鐘を鳴らされた感じがします。

井口:まさに100年企業はそれを今日までやってきているわけで……。信頼と共感を築き上げるのに近道はないということですよね。後編の今回は7つの視点から、どうしてもこれだけは押さえておいてほしい「ソーシャルコミットメント」と「コレクティブ・インパクト」について、どのように広報・PR戦略に反映させていくのか、お話ししたいと思います。

たとえ炎上があっても、その対応が自分たちの考えを示す場に

浦野:「ソーシャルコミットメント」を意識するタイミングは、大きく2つあると思います。1つは自社が炎上するなど危機が発生した際に、社会に対して何かアクションしなければ、というとき。もう1つは能登半島地震のように社会に大きな影響を及ぼす出来事が起きたとき、自社はどのように行動していくかです。

前者に関して、2023年の好事例としてよく話題に上がっていたのは、離乳食無料サービスの炎上に対し、企業姿勢を丁寧に伝える声明を出して、新たなファンも獲得した飲食店の話です。離乳食の無料提供は「ありがたい」とポジティブな意見がある一方で、「静かに食事ができなくなる」と子連れ客が増えることを懸念している人もいて、SNSで賛否両論が展開されました。そうした反響に対して、声明を出したのはサービス開始後。その内容は、企業理念や大切にしている価値観、それをもとに取り組んできたこと、なぜ離乳食無料サービスを開始したのかについて説明するものでした。発言を控えていたのは「私たちの存在意義について思いを巡らせ、考えを深めていたから」として、社会の抱える課題にどのように向き合っていこうとしているのか、気持ちのこもった発信を行い、共感を集めました。

後者については、災害が起きたとき、すぐに動いて、地域社会の一員として共に復興していこうとする姿勢を示している企業・組織はやっぱりすごいなと思います。能登半島地震は元日に起こりましたが、義援金や無償サービスの提供を即発表していた会社もありました。お正月休みの中でも、迅速に対応した企業は、日頃から有事のときどうするかをきちんと固めているはずです。いざというときに発信と同時に行動もできることが、結果として、世の中の共感を呼ぶのだなと思いました。

井口:マニュアルではなく、その前にスタンスをちゃんと決めておくことが重要ですよね。そのスタンスと照らし合わせることで、おのずと何をすべきか、スーッと道が開けるというか、答えが見つかると思います。企業のスタンスをしっかり持ちましょうということを、本書でもお伝えしました。自分たちのスタンスを、常日頃から明示しておくことで、有事でも有事でなくても、何かアクションしたときに、生活者を含む社会に自社のスタンスを説明せずとも、理解してもらえるのではないでしょうか。

浦野:多様な価値観をもつ多くのステークホルダーを前に、企業としての立ち位置を表明することは、覚悟がいるところではあると思いますが、自社について理解してもらいやすい環境を整えることにつながるというわけですね。

「関係人口」で加速するコレクティブ・インパクト

井口:普段からスタンスを表明しておくと、「コレクティブ・インパクト」にも良い影響があると思います。表明をしていたからこそ、同じ志を持つ仲間づくりがしやすくなるし、特に有事の際はすぐに連携して動き出せることが最大のメリットかなと。

今、「コレクティブ・インパクト」を推進するネットワーキングをサポートしているNPOのETIC.さんと仕事をしていますが、今回の能登半島地震が起きたときに、日頃から災害地域に対してなにかしら積極的に関与していこうと考えていたグループが即座にアクションを起こしていました。グループのメンバーには、東日本大震災で苦労されてきた方も多く集結していたので、そのリアルな経験を背景に、今なにが必要でなにがプライオリティ高いかを認識し、国や行政の支援よりも素早く動けたという話をお聞きしました。

有事だけではなく、人や団体との接点をとにかく開いておくことで、誰とでも協働・協創していくことができるので、これからの時代には地域の外から関わる「関係人口」の役割もますます期待されていくのではないかと思います。関係人口とは、ある地域に対して寄付をしたり、2拠点生活をするといった、趣味やライフスタイル的に何かしら関与している人たちだけでなく、その地域に対して「関心を持っている」人も、関係人口に含まれるんです。そのようなことが企業や個人を含めた、さまざまなレイヤーのチーミングでどんどん拡大されるといいなと思います。

浦野:「広報企画」に関する本の著者2人による対談企画をした際に、(より良い世の中の関係づくりを目指す)広報さんなら、自らNPOとか業界団体を立ち上げてしまうのも有力な選択肢です、という指摘がありました。企業単体での発信と比べて客観性が担保されやすくなり、メディアに取り扱ってもらいやすいという利点もあります。外部を巻き込んで座組をつくり、アクションを起こしていくには、広報の熟練の技が必要かもしれませんが、協働・協創の流れは、「広報会議」の取材でも感じるところがあります。

人材のオープンリソース化がもたらす、“競争戦略”から“共創戦略”へ

井口:さきほどのETIC.さんが立ち上げたコンソーシアムに参画しているある企業では、ある程度会社で技術や知識を身につけたら、それらを生かして、活躍の場を社外にも広げていくことを社員に強く推奨しています。そのための社内的な仕組みまでつくっているんですよね。働く人の可能性を伸ばし、社会に対してさらに活躍する場を与えるという企業の方針なのです。だから社員も共感し、自社を好きになりますし、その好きをいろんなところへ伝え広げていくことができている会社だと思っています。ETIC.さんには実際に社員の社外活動の背中を強く押す仕組みをもった企業さんが数多く集まっているんですよね。

これまで、オープンイノベーションは第三者的な立場の人が声を上げてリードしていたように思います。普通の営利企業が、技術や知識をどんどん社会に開いて、より良い社会のためになるならどんどん使ってくださいというのが、新しい世界になってきたと思いました。

特許や商標登録といった囲い込み戦略から脱却して外へ開いていくことで、つながる仲間が増え、またその先の企業の成長につながっていく。企業の存続のあり方や、拡張の仕方が、これまでの“競争戦略”から“共創戦略”というふうに180度変わっていくかもしれませんね。

浦野:逆にまだ囲い込みをやっているところは、そういうスタンスなんだと思われていく……。自社の技術や知識を世の中にオープンにする、そこに仲間が集まる。それがまた従業員や、周りで見ている人の共感を得て、働く人のモチベーションにつながってイノベーションが加速する。そんないい循環が生まれたら理想的ですね。

井口:そういう意味でもやはり「ソーシャルコミットメント」の重要性が増してきていると思います。「ソーシャルコミットメント」は古くて新しい言葉として、PR4.0の時代になくてはならないキーワードです。企業が社会の中でのスタンスを明確にし、そのスタンスに共感を得ることができるかが、仲間づくりやその先の企業の成長に大きく影響していくと思いますし、今後の企業の成功につながるかどうかの鍵となると思います。

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「ひとり広報」は大変だが権限ある立場でもある。PR4.0視点はここにも生きるはず

井口:最後に浦野さんに1つ伺います。

現場的に言うと 「ひとり広報」といった、少人数でやることが山積みで、みたいな窮状に陥っている企業さんがここ数年すごく増えていると思います。「ひとり広報」でもなんとかやれますといったハウツー本も出ていますよね。広報をいかに効率的にやるか、表面的なところにまた戻ってしまうのは嫌だと感じているのですが、「ひとり広報」はこれからどうなっていくと思いますか? 

浦野:企業の持続的な成長において広報はますます重要な役割を担っていくので、前提として、広報を組織化していく方向にあると思います。ただ、「広報会議」の取材を受けてくださったスタートアップの広報の方がこんなことをおっしゃっていました。「『ひとり広報』は『独り』ではありません」と。ああ確かにと思いましたね。ひとり広報の「ひとり」は数字的には1人だけれど、決して孤独ではない。社内外の協力者と一緒に動くこともできますし、1人ゆえに動きが素早かったり、経営者の思いをくみ取りやすかったりすることもあるのではないでしょうか。

広報の部門化に向けてステップを踏んでいくことは大事だと思います。ですが1人だからといって悲嘆する必要もない気がします。「PR4.0への提言」の中にあったように、現状とその理想のギャップを埋めていく広報の戦術を考える際に、自社のリソースで実施できないことは外部パートナーに支援してもらうとか、一方で小回りが利く強みを生かすとか、そういう戦術もあるのだろうと思いますね。

井口:なるほど。その考え方、いいですね。それこそ、「ひとり広報」には「コレクティブ・インパクト」的な思想が軸になるのではないでしょうか。物理的な業務に追われる一方、外部も含めたネットワーキングを活用すれば、より自由度の高い広報をやれるし、何よりトップとも向き合いながら進められる強みがあるわけで、自社のスタンスをしっかり固めて、ぜひPR4.0の視点、思考を取り入れていただきたいなと思います。

浦野:7つの視点を達成するには、広報の本質、戦略を考えるところに相当時間を割かないといけないと思うんですよね。そのためには外部のパートナーと一緒に考えていったり、AIを活用して業務の効率化をあわせて進めていったり、これまで以上に発想の転換が必要で、この本はたくさんの気づきを与えてくれると思います。

井口:外部のパートナーだけでなく、社内の連携も必須ですよね。これは「ひとり広報」だけの話ではないですが、縦割りでしか動けない企業は、発信もバラバラになってしまい、本当にもったいないです。広報部、宣伝部、事業部、人事部など、うまく一元化して連携できれば、相乗効果によってインパクトは3倍、5倍になると思います。それぞれの部署がそれぞれの都合で発信していると、かえってマイナスになることもあるかもしれません。

浦野:マーケティングと広報は連携する機会が多いところだと思いますが、今こそ連携していくべきは人事ですよね。人的資本経営や、労働人口不足、多様性のある組織づくりといったことが言われている中で、新しい人事制度ができました、と単に発表しただけでは共感が得られず浸透しない。ここに、客観的な視点を持っている広報・PRのプロフェッショナルによる力が発揮されれば、そのコミュニケーションは大きく変わっていくと思います。それこそ企業の存続のあり方にも直結する話ですし、私たちもメディアとして、広報と人事の連携によって組織がどう変化しているのか、ウオッチしていきたいなと思っています。


(対談後記)
本対談のベースとなった書籍「PR4.0への提言」は、これまでと同じやり方に固執するよりも、時代の変化を受け入れ、さらに企業やブランド側から変革を起こしていくことが求められる時代が来ることを示しています。

ビジネス環境が激変する中で、社会からの信頼と共感を得るためには、企業は一貫した思考と明確なパーパスを持ち、内外にその姿勢を示し続ける必要があります。ブランド・アクティビズム、ソーシャルコミットメント、コレクティブ・インパクトを意識した広報・PR戦略は、企業が社会との関係を深め、共に成長するための鍵となるでしょう。それがたとえ「ひとり広報」であっても、広報・PRは経営戦略と一体化し、企業の未来を切り開く重要な役割を担っています。

今回の対談で取り上げられた事例や提言は、広報・PR担当者だけでなく、部門部署を越えたすべてのビジネスパーソンにとっても有益なヒントがあるかもしれません。自社の立ち位置を自身の立ち位置に置き換え、そのスタンスを社内外に示し続けることで、同じ志を持つ仲間が集まり、共創社会を構成する一員となるでしょう。

(文:電通PRコンサルティング 中川郁代)

「PR4.0への提言」についてはこちら

 

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