高崎卓馬のクリエイティブクリニック2024「なんでも質問バコ」
2024/08/19
高崎卓馬があなたの質問にお答えします──「2023年クリエイター・オブ・ザ・イヤー」を受賞したトップランナーが、若手からベテランまで電通のクリエイターたちから寄せられたさまざまな質問に本気で答えるクリエイティブクリニック「なんでも質問バコ」。30年におよぶキャリアと経験に裏打ちされた言葉の中に、クリエイターはもちろん、そうでない人も(ブレイクスルーを必要としているあなた!)、明日の仕事のヒントを見つけませんか。
質問する側と答える側、双方の「熱量」もそのままに、一問一答形式で一気にお届けします!
映画や漫画、アートなど、表現を広げるために広告以外のクリエイティブを見なさいと言われますが、どう「見て」いいのかよくわかりません。高崎さんはどのように広告以外のコンテンツを見ていますか?
(コピーライター)
研究者、特に企業系の人たちの間では、「闇研究」という言葉が昔から使われてきたそうです。その分野の人たちにとってはごく普通の言葉のようですが、僕はこの間初めて知りました。設備の整った研究施設を使用して、自分の中にある好奇心を検証するため、夜な夜な自発的に研究することを、そう呼ぶのだそうです。ある研究者は、「闇研究」が自分の引き出しを増やし、可能性を広げてくれたと言っていました。一見無関係に見える研究が、大きなヒントをくれたことが何度もあったそうです。これに強く共感しました。
僕自身、そう考えたら「闇研究」をずっとしてきたような気がします。特に映像については、本を読み、研究をし、実験をし……ということを仕事とは別の軸でやっていました。これはたぶんみなさんがキャンプをしたり、ゴルフをしたり、フェスに行ったりするのと同じような感覚でやっていたと思います。単純に好きなことなので。
そして、そこからカメラを使わない映像に関心が広がり、小説を書いたり、ラジオドラマをやったり。コミュニティというものの良しあしが気になったら、そこからいろんな検証をしていったり、環境問題について疑問が浮かんだら大学の先生に話を聞きに行ったり。基本、好奇心を止めないようにする。それが大事な気がします。
広告、映画、コンテンツ……と線を引いてしまうことに対して、そもそも「誰かが勝手に決めたことだから自分にはあまり関係がない」と思っているので、すべて自分の好奇心の行動範囲を、あとから広告と呼べばいいやと。そのぐらいでやっています。だから、インプットのためのインプットと思ってやったことはほとんどありません。
でも、広告に携わる者が、広告の歴史や現在、そして未来に詳しくない、あるいは自分の言葉を持たない、というのはなんだか痩せた悲しい状況なので、広告に携わる者として広告を徹底的に研究するのもいいのでは?その過程で出会ったカメラマンの作品を追う、洋服を追う、音楽を追う、キャストの作品を追って舞台に詳しくなる、そんな感じでいいのではないかと思います。
好きなものをたぐり寄せるのは楽しいですし、そういうものの方が自分のアウトプットにとてもいい作用をしてくれると思います。
クリエイターとしての成長実感のなさとどう戦えばいいのか。(中略)実績や他者からの評価として努力をほめられることはあるが、自分が自分のクリエイティブ力の成長を実感し、肯定してあげられるきっかけや気づきがなく苦しいです。高崎さんにとってのクリエイティブ力の成長実感、このまま進んでいいんだと思える手応えとはどんなものでしょうか。
(コミュニケーションプランナー)
それ、めちゃくちゃわかります。僕も同じです。ほめられてももう終わったことに対してだし、今抱えてる課題の最適解が見つかってないことの苦しさを、賞は別に解消してくれません。賞ってもらった瞬間はうれしいけど、それって他人から見た自分をつくる要素でしかないから、自分の中の苦悩にはあまり作用してくれないんですよね。これ、30年やってる僕がこんな感じなので、そのことに関しては諦めてもらった方がいいと思います。評価と自分の体内の感覚は基本ずれているものだと。
僕は根っこが企画の人間なので、やはり企画を思いついたときが一番快感を覚えます。これはクライアントを幸福にできる。タレントの価値を上げられる。商品が売れそう。自己模倣ではない方法を見つけてる。これを見た商品と関係のない北九州の高校生もちょっとハッピーになるかも。みたいなことをいっぺんに獲得できるアイデアを思いついた(と思う)瞬間。それをただひたすら追いかけています。
成長しようとは思っていません。振り返ったら足跡がなんか大きくなってた、というのが成長というものじゃないでしょうか。それを実感したとしても、その足のサイズに比例して責任とか課題とか悩みとかも大きくなるので、まあ、とにかく必死です。いつまでこれやってんだろうと思いますが、あの瞬間の快感がある限り、やめられないんだなと。この質問の答えにあまりなってないかもしれないけど、その悩みが解決することは30年やってもなかったという経験だけ伝えておきます。
1. オリエンが来たとき、高崎さんは何から始め、どう動きますか?初動、そして企画のプロセスを知りたいです(例えば、まず競合他社の事例を見る、コピーから先に書く、とか)。
2. CMをプランニングする上で「しない」と決めていることを教えてください。
3. クリエイティブディレクションで大事にしていることはなんですか?(自分らしいなと思う点がありましたら)
4. 打ち合わせで広告事例を持ってくる人が多くてげんなりします。でも、結構それが通りがちです。それってオリジナリティを奪う行為なのかなって思うんですが、高崎さんは企画の「オリジナリティ」は何で、どう発揮するのがいい、すべきだと思われますか?
5. 昔、ある先輩から「あの超忙しい高崎さんも若いとき会社休んで海外を放浪してた」という話を聞いて、24時間働いてたんじゃないんだ!自分もやっていいんだ!と思って海外一人旅をするようになりました。ですが、そのうわさって本当ですか?
6. 今、9年目です。もうそんな若手でもない。でもめっちゃ中堅でもない。絶妙な時期なのですが、こういう年次でどういうことを意識するとよいでしょうか?今後さらに伸びていくために。
(コピーライター)
1. そのときどきで全然違います。まず知らないことを確認して、それを知るように努力します。
使ったことのない商品なら使う。使っている人の話を聞く(調査ベースでもいい)。行ったことのない場所なら、行ってみる。このあいだの映画のときは早朝から丸一日渋谷の公衆トイレを清掃員の方についてトレーニーとして掃除しました。そのとき肌で感じたことは誰にも侵食されない「創作のときの聖域」になるので。
あとは競合のことも調べます。つまりクライアントの悩みにどれだけ正確に同期できるかが大事なのだと思います。企画がその途中で出てくることもしばしばあります。
2. 汚いものはつくらない。
タレントの価値が下がるようなものはつくらない。
確信のない状態で進まない。
3. クリエイティブ・ディレクションは本当に下手です。自分で考えずにチームを動かすということをほとんどしたことがないので、それは自分の大きな欠点だと自覚しています。
4. オリジナルとは、誰よりも考えた結果でしか手に入らないと信じています。山登りと同じで、最後まで足を止めずにいたら、だんだん周りに人が少なくなって、誰よりも高い場所にたどり着きます。そのとき手にしているものがオリジナル、なんだと思います。そして、それを簡単に手に入れる方法が一つあります。つくり方をつくってしまう、というものです。これに勝る近道はありません。過去の模倣と自己模倣がもっとも避けるべきものなので、それについては考える必要もないかと思います。
5. 会社に入って結婚するまでのあいだ毎年1月はまるまる休んで海外を放浪していました。沢木耕太郎の「深夜特急」世代で、根がバックパッカーなのでそれをやめることができませんでした。当時はそんなの許してもらえるような時代じゃなかったと思いますが、上司や部の先輩たちがそれを許してくれました。完全にリセットする時間で、世界は今目の前にあるものだけじゃないということを深く体に刻む時間でした。
でも、行かなくなってから少したって鬱になったんで、そういうリセットって必要なのかなやっぱり、と思います。当時はネットもまだない時代だから、連絡のつかない場所に逃げ込めてよかったです。
6.「骨は折れるたび太くなる」というのは本当だと思います。成功より失敗の方が糧になっているなあと振り返るたびに思います。だから中途半端なスイングをして成功でもないけど失敗もしていないという仕事をするより、毎回ちゃんとフルスイングするといいと思います。失敗しよう、とは言っていませんが。
企画するとき、いつも何から考えたらいいかわからなかったり、どう考えたらいいかわからなかったりして、企画を考える前段階で時間がかかってしまいます。高崎さんは普段、何を出発点に企画を考え始めますか。あるいは、具体的なCM企画をする前に普段行っていることがあったら教えていただきたいです。
(コピーライター)
①できるだけストレスのない状況で、適当に考える時間を必ずつくる。コンテにしたり、企画にしたり、コピーにしたり、は絶対にしないで、例えばこんなの、こんな印象の、昔あったあんなの……みたいにオリエンで遊ぶような無責任な時間をつくります。ストレスのない状況で考えて、脳に「楽しい仕事」という印象をあたえます。実際とても楽しいです。
②その中でちょっと真面目に考えるとこのへん?いいかも?みたいなのを一つ企画にしてみます。でも、それがなかなか中途半端だな、思ってるほど面白くないな、となります。
③その企画の長所と短所を考えます。一度体の外に出した企画は割と客観的に見られるので(客観的に見ましょう)。そして、短所を直したり、長所を伸ばしたりしながら案をたくさんつくります。
④コンテが書けなかったら、企画書を書いてみます。オリエンの整理と自分の企画の溝がわかります。
⑤それを埋める企画を考えます。
⑥それをただひたすら繰り返します(ここで結構気持ち悪くなるか、眠くなります)。
⑦あら、不思議。すべてをクリアするアイデアが!!となります。
このプロセスはやればやるほど短くできるようになります。本当です。
20〜30代の頃を思い返して、仕事でひそかにあれは失敗したなと思っていることや後悔していることはありますか。どうしてそう思われたかも併せて伺いたいです。
(コピーライター)
表現や広告として、失敗や後悔というのはあまりないかもしれません(というかあまり考えないようにしてるかもです)。それよりも、もっといい方法論があったなあとか、あのとき意見を言わずに飲み込んでしまったなあとか、そういう後悔を次にしないようにしなきゃなあと思ったりはします。
基本、企画がイマイチになってしまっても、現場でなんとかできるし、現場で想像より面白くなくても、編集でなんとかできるし、編集でイマイチ到達できなくても、PRでストーリーをつくれるし、オンエアの仕方で工夫もできるし、僕たちの責任は最終的に「売れる」という状況をつくる、というところにあるので、表現の一つ一つでどうこうというのはあまりないかもです。あらゆる引き出しを駆使して、結果をつくる。その努力は基本いつもしているので、失敗はないと思いたいです。
1.賞獲りのコツがあれば、教えてください。
2.印象に残った(感心した)広告はありますか?
(コピーライター)
1. 賞は、それを目標とした瞬間に、悪い作用をもたらしてしまうものだと思います。それは過去に対するもので、しかも相対的なもので、多数決で決められるものだから、そこを目標にしてしまうと、過去以下のもので、みんなの票が集まりそうなものをどこか目指してしまうからです。模倣という病を連れてきがちなシステムだからです。強いていえば、「力を余らせて獲る」のがいいと思います。背伸びしてギリギリで受賞して、それはうれしいかもですが、やっぱり、賞をもらったときには自分はもう少し先に行っておくべきだと思います。
賞の良さは、「次の仕事をつくってくれる」、しかも「期待してアサインしてもらえる」ということです。それに尽きます。
テクニカルなことをきっと質問したいのだと思いますが、圧倒的なものをつくろうという気持ちを持つことがやっぱり一番の近道だと思います。
2. いくつもあります。でも、最近はなぜこれをつくったのか、その背景ごとシェアされることも多いですね。制作者の意図とセットで表現を見てしまう。誰かがいいと言っているという情報とセットで見てしまう。純粋に表現と出会うことができないので、もう表現というのはそういう全体の文脈込みのものなのかなあと思います。
雑誌の連載で昔のコマーシャルのことを書いているのですが、関谷さんという監督の仕事はまとめてみると、圧倒されます。15秒や30秒に人生が映っている。つくった世界なのに、そこに本当のものが映っている。これはもしかしたら、今の広告が失ったものかもなあ、でも逆に、今誰もやっていないものだから、やるといいかもしれない、やってみたいなあと思っています。
長くいいアウトプットを出し続けるための健康法があったら教えてください。
(コピーライター)
ジジイみたいですが、睡眠が超大事だと最近本当に思います。眠いと何にもできません。50過ぎると無理が利かなくなるので、なるべく最短距離で企画をして、よく寝るようにします。あと、あまり粘らずにさっと企画をやめて、朝もう一度考えるようにしています。最近、ちょいちょい昼寝します。完全に子どもの頃に見ていた祖父の姿に重なる──と書いててやばいなと思ったけど。
30歳くらいのときに鬱になりました。その頃はまだ鬱という言葉がそれほど浸透していなかったのでなかなか環境的に厳しくて、休むこともできず苦しみました。家族と会社の先輩たちが連絡をとってくれていたことをあとで知ってとても感謝しました。その先輩には今でも本当に頭が上がりません。1年ちょっとたったある日、突然霧が晴れるように「なんか大丈夫だ」と思って。それからあの夜の海はときどき近くで僕を手招きはしているのですが、この線を越えたらダメだというのがよくわかるようになった。ああ、このまま進むと危険だなと感じるというか、そうなるとブレーキをちゃんと踏んで、誰にもわからないようにサボってました。
健康は大事です。本当に。
1. 研修で他の若手のコンテを見ていると、どれもちゃんと面白いというか 「ああ、うちの会社の人って、みんなすごいポテンシャルがあるんだな」と思わされるのですが やっぱりその中で、何十年も継続的にその面白さを発揮し続けられる人と、(こういう言い方が正しいかわかりませんが)一発屋的な人、不発に終わる人、だんだんその面白さが発揮できなくなっていく人が出てくると思います。その違いは、いったい何だと思いますか?
2. クリエイティブクリニック、何度か開催されていると思うのですが、この10年で一番考え方が変わったことはなんですか?
(コピーライター/ストラテジックプランナー)
1. 自分は変わっていないのに相手が勝手に変わっていつのまにか「昔は面白かった人」にされちゃう。でも、それってよく考えると大きなお世話ですよね。他人からの評価があらわになりがちなこの業界ですが、もちろん評価されて賞をもらって……っていいことですけど、それに自分を合わせ過ぎるのもなあ、とは思います。他人の評価は他人のものだから、自分ではコントロールできるものでもないので。それと真逆のことかもしれないけど、自分はこうだと固まってしまって、伸びしろを自分で消してしまうのは損ですね。
質問にちゃんと答えると、継続的にいい仕事をする、というのはとても重要な意識だと思います。常に自分をアップデートさせて、そのとき出会った人にベストの答えを提供する。それを繰り返していたら一発屋にはならないんじゃないかなあと。でも一発でも当てたら、すごいですよね。運かもしれないけど、すごいことだと思います。
長く続けるコツはもう一つあります。Aの自分、Bの自分という二つの意識を常に持つといいと思います。こっちやったから、今度は別のあっちを、というふうに、一つの方法論だけでやらない。そうすると自分に飽きることもなくやっていけます。
2. あまり変わってないです。
仕事を断ることができません(したくありません)。異動したばかりということもあり、どんな仕事にもトライしたい気持ちがあります。一方で、体力や時間など有限な中で、一つ一つのクオリティが下がりそうで怖いです。高崎さんならどうしますか?気合を入れる一言をいただけますと幸いです。
(戦略・コミュニケーションプランナー/コピーライター)
僕自身、基本的に仕事は断りません。僕のところに来た理由や、自分がそれをやるタイミングのようなものがきっとあるんだろうと思うからです。すべてをチャンスだと思ってフルスイングするときついと思います。でも、僕は若い頃そうしていました。僕の場合は、キャパオーバーを繰り返しながら、自分のキャパシティが大きくなっていきました。キャパオーバーすると、どこからやっていくといいかがわかるようになる。一発でプレゼンを終わらせたくなる。会議を短くしたくなる。そして宿題をつくりたくなくなる。意外といいことだらけなんですよね。
あとこれは不思議なんですが、本当にキャパオーバーすると、その大きな理由になっていた仕事が延期になったり、なくなったりします。なんか誰かに守られているような。逆に仕事がなくなったりしたときは、このままやってたらキャパオーバーしてただろうなと思って自分をなぐさめています。
1. 今自分ができることとしてほぼ毎日出社しているのですが、なかなか先輩とお話しする機会が少なく、もし高崎さんをオフィスでお見かけしたら、お声掛けしても大丈夫でしょうか……?
2. 私自身考えられるジャンルが一辺倒に偏っている気がして、感動する広告から笑える広告までどちらも制作できる先輩方が、どうマインドを切り替えて仕事されているのか、どんなジャンルでも同じ心意気で挑まれているのか伺いたいです。
(プランナー)
1. 23階WESTにいます。いつでも遊びにきてください。映画の話や広告の話はいくらでもしたい人間なので、ぜひ。
2. 感動系も笑い系も、相手は同じ人間なので、そんなに差はないと思います。ないと思ってやった方がいいです。感動系のお話に、ちょっと笑いを入れる。笑い系のお話に、ちょっといい話を入れる。そういう多層的なものの方が豊かだし、みんなの反応がよかったりします。カテゴリーに縛られて発想しない方がいいですよ。ポン・ジュノ監督もそう言っています。「パラサイト」は実際、僕がNetflixで開くと社会派ドラマと出て、妻が開くとサスペンスと出て、娘が開くとコメディと出てきたりします。そういう方が面白い気もします。
不得意なことは若い時期は攻略しておいた方がいいです。自分なりの方法を見つけて、得意な人に負けない方法を編み出しておくべきです。それこそソリューションです。
1. 最近、マネジメント業務などで、クリエイティブ以外のことに時間を割くことが多くなってきてしまいました。純粋にコピーを書いたり、企画を考えたり、クリエイティブのことで正しく悩む時間が物理的に取れなくなってきて不安です。どんな気持ちで、日々の業務に取り組めばよいでしょうか?
2. 最近、クリエイティブ・ディレクターの仕事というのは、本当に難しい仕事なんだなと感じています。高崎さんが、クリエイティブ・ディレクターになって間もない人にアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えたいですか?クリエイティブ・ディレクターとしての心構えやチームビルディングのコツやBP(ビジネスプロデューサー)やクライアントとの向き合い方など、どんな視点でもよいのでアドバイスいただけますと幸いです。
3. 最近、競合の勝率が低くて悩んでいます。この前も一つ、どうしても勝ちたかった競合に負けてしまいました。負けたときは、どうやって立て直すのが正しい姿でしょうか?また、競合の勝率を上げる秘訣があれば、教えていただけませんでしょうか?
(クリエーティブ・ディレクター)
1. 僕はそのへんまったくできず、いろんな人に甘えて、守られてきました。逆の立場からの言い方になると思いますが、マネージメントも間違いなく一つのクリエイティブだと思います。環境をつくり、それが優れた仕事を生む土壌になる。人を育てるという視点で考えるといいかもですね。時間がない中でプレーヤーとしての自分を研ぎ澄ますなら、多くの打席をつくることを考えず、一つの仕事を徹底的にやるその場所として確保しておくというのも方法かもしれません。長く、商品やクライアントから必要とされる場所を自分でつくり、そして継続していく。
あまり関係ありませんが、昔、仲畑貴志さんに呼ばれて「そろそろ高崎は、量から質の時代に移りなさい」と言われたことがありました。そのときは若かったので、単純に、神様に質が低いと言われた!と思って逆にがむしゃらに仕事しちゃったのですが、今思えばその言葉のとおりの意味だったと思います。
2. クリエイティブ・ディレクターが、というのではないのですが、「他人のためにちゃんと働ける人」でありたいと強く最近思っています。チームのため、クライアントのため、その商品と出会う人のため、その商品を使う人の横にいる人のため、その横にいる人の隣にいる人のため。そんなふうに考えていたいと。クリエイティブ・ディレクターだからとか、部長だからとか、そういうことはあまり関係なくて、人としてちゃんと生きる、みたいなことなんですけど、結局そういうところが仕事に出るんだと思うので。
3. 競合って嫌ですよね。何が嫌って、勝つための案を考えちゃうんです。だから、不純なプランになることが多い。やりますけど。負けたときは勝っていたら逆に不幸が起きたと思うことにして、なるべく早く忘れます。仕事のことは仕事で解消するしかないので、次の案件を全力でやるのみ、です。
この4月で3年目のCMプランナーです。先輩に最近の仕事を聞かれて答えると 「〇〇の案件はいい仕事入れてもらったね」などと言われることがよくあります。それらは、じっくりとコピーの表現に悩めて、あれこれと先輩から丁寧にアドバイスいただけるような仕事を指していることが大半ですが、反対にさまざまな事情からその余裕がなく、よくわからないまま進んでいく仕事も多々あります。もちろんどちらの仕事からも学べることはあって、いつかきっと役に立つと思い取り組んでいるものの、3年目となった今、憧れている諸先輩方の仕事に近づけている実感がなく、同期や近い年次の仕事に焦り、どこに向かって仕事すべきかわからなくなることもあります。高崎さんが思う、若手にとってのいい仕事とは何でしょうか?
(CMプランナー)
どっちもいいとこと悪いとこがあります。優秀な先輩がいるチームの場合、自分の案が残る可能性が低いけれど、最終形がいい感じになる。話題にもなる。そうでもないチームの場合、自分の案が残る可能性は上がる。けれどいい感じになるかどうかわからない。だいたいそこそこの感じになり、あまり話題にならない。若いうちはいろんなパターンでやっておくといいと思います。自覚しているように、そのどれも無駄にはならないので。でも、やっぱり失敗から学ぶことの方が多い気がします。
プレゼンで失敗した。オリエンの解釈を間違えた。みたいなことからの学びは猛烈に大きい。そのためには自分の責任のパーセントが多い仕事がいい。どんな座組でどんなチームであれ、そこから生まれる表現が例えば失敗したときに、自分が責任を感じるそのパーセントを高めておくことが若い時代のいい仕事だと思います。やがて独り立ちします。そのときそれが役に立ちます。年次の近い人や、同期がやっていることを気にするのは時間がもったいない。横を見るな、前を見ろ、の精神で行くのがいいと思います。うまくいかないことの方が多いので、だったらそれをどう自分の糧にできるか、じゃないでしょうか。
受ける仕事、断る仕事はどんな基準で決めていますか?どの仕事も、進めてみないとクライアントさんとの相性や自分の得意分野でより良くできるかなどわからないことが多く、つい受けてしまうことが多く。ただ労働時間も限られている中でいいクオリティを担保しようと思うと、本当はもう少し断るべきだと思い。高崎さんがこれまでの経験で感じられたこと、こうしたらうまくいったなどありましたら教えてください。
(クリエイティブ・ディレクター/コピーライター)
Aという仕事のオファーが来たときに、忙しいあなたはクオリティの担保を理由にそれを断わったとする。その直後にBという大きくて楽しそうな仕事のオファーが来たら、あなたはきっとBを受けてしまうんじゃないでしょうか。質や得意不得意を何か少し言い訳にしたくなってるのかもしれないですね。単純にちょっと忙しくて、疲れてるとかかもなあと質問を見ていると思います。だから、まずこれから来るいくつかの仕事を内容にかかわらず断って、クールダウンした方がいいかもしれないですね。それから自分のスタイルについて考えていけばいいのではないでしょうか。
僕の場合は、基本、仕事は断りません。なぜならその仕事の過程で自分が知り得たことは、必ず他の仕事にも役に立つからです。広告の仕事は特に市場や時代に敏感です。どの角度からの相談でも、間違いなく、そこには「時代」とか「ちょっと先の未来」とかのヒントがあります。そのインプットは、他の仕事の効率を間違いなく上げてくれます。そこに敏感でいると仕事のステップも多少、省略ができるようになります。質を上げるために断るか、という問いには、断っても質は上がらない、と答えます。問題はそこではないからです。たぶん。でも、僕はちょっと変態なのであまり参考にならない気もします。一度休んで、それから丁寧に仕事をしていくスタイルに脱皮してもいいかもですね。
読者のみなさん、いかがでしたか。質問する側と答える側、双方の「熱量」が伝わってきたのではないでしょうか。ここに採録された質問と回答が、あなたの今後の仕事(あるいは人生)にとって、何らかのヒントになったなら幸いです。
今回の企画にご協力をいただきました高崎さんとクリエイターのみなさん、そして、最後までお読みくださった読者のみなさん、ありがとうございました。