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NRF2024 ~リテール・コマース領域の最新&最前線レポートNo.5

Visit APAC, Exhibit NRF !
~来た、出た、そして分かった! NRF APACとASEANのリテール・コマースのいま~(前編)

2024/10/24

毎年1月に行われる全米小売業協会(NRF)主催の流通小売分野における世界最大のコンベンション「NRF Retail's Big Show」。史上初となるAPAC 版が、6月11日から13日にシンガポールで開催されました。リテール・コマースの最先端トレンドは、半年の時間を経て、また米国からシンガポールに場所を変えてどう変わったのか?前回に続いて、電通で流通小売業のBX・DX支援を行う木村仁昭からお送りします。

はじめに

NRF Retail's Big Show APAC 2024(NRF APAC 2024)の参加登録者は約8600人、リテール専門家は約5800人。国ごとの内訳でみると56%がシンガポール自国から、それに次ぐ8%が日本からとなり、初開催にしては、日本でも盛り上がったといえるのではないでしょうか。一方、90%以上がアジア圏なのに対して、アメリカ・ヨーロッパからは計4%の構成比になっており、集客規模的にも年初実施された米国 NRF2024 の4分の1程度というのが実態でした。
 
とはいえ、“ASEAN ならではのリテール&コマースシーン”をじっくりと見る、 “日本国外における、コロナ禍明けの新しい消費パラダイムシフト”を体感する、という点において最適な機会だったと思います。

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NRF (1月ニューヨーク)/下: NRF APAC (6月シンガポール)

コロナ前から今に至るまでここ数年間にわたり NRF を定点観測してきた中で、デジタル・テクノロジー、そしてデータ、おのおのの環境変化・トランスフォーメーションがもたらしたものの総体を「リテール DX 」とするならば、その潮流変化は大きく以下の3つのステップを踏んできた、と考えています。

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来店・対面に何の制約もないコロナ前の時代においては、リテールテックは、あらゆる接点において顧客体験(CX)をいかにリッチに創りこむか?ということが論点となっていました。

その後、コロナによって、非接触が加速すると、フロントラインワーカーへの安全性配慮と効率化の観点から、リテールテックは従業員体験(EX)の向上へと向かうこととなります。

コロナが収束に向かった2023年以降では、顧客体験(CX)、従業員体験(EX)の課題ごとに部分最適解としてリテールテックが存在していたところから、店舗を起点として統合化がなされ、リテール DX がここに成熟ステージを迎えました。

このような「コロナを挟んだ、リテールDX文脈」の延長線上に、今回のNRF APACが位置付けられるわけですが、それらを①エクスポ(展示内容)、➁キーノート(有力登壇者スピーチ)、③ストア(実店舗視察)の3つの視点から振り返ってみたいと思います。 

エクスポ(展示内容)

象徴的な展示を3つ、リテールテックキーワードとともに紹介します。

①SCMソリューション(Blue Yonder/米国)
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Blue Yonderはパナソニックコネクトが2021年に買収したSupply Chain Management (SCM) ソリューションの会社であり、受注から納入に至る全工程をネットワークを介して一元管理するソリューションを提供しています。展示では、彼らの得意とするAIによる需要予測やディマンド(顧客起点)⇔サプライ(供給者起点)の最適化、リアルタイムでグローバルな協働プレーヤーが同一プラットフォーム上取り扱いできるダッシュボードなどを、 AWS やマイクロソフト等との協業ケースを取り上げながら分かりやすく説明していました。

②PLMシステム(Centric Software/米国)image
PLMシステムとはProduct Lifecycle Managementの略で製品の企画から廃棄までのライフサイクル全体を管理するシステムのこと。展示では、Centric PLM™、Centric Planning™、Centric Pricing & Inventory™、Centric Visual Boards™、Centric Market Intelligence™という5つの主要サービスモジュールを紹介。「AIによるリアルタイムリテールという選択:AIを活用した小売り計画、価格設定、在庫最適化そしてPLMが実現する収益性の向上、サステナビリティ対応と消費者ニーズの把握」をテーマとしており、基調講演にもアラインするものとなっていました。

③BIoT(SUNMI Technology/上海)image
SUNMI TechnologyはモバイルPOS、金融系POS、デスクトップ型POS、セルフキオスク、プリンターなどスマート決済端末製造を起源にもつスタートアップ企業。現在はソフトウエアとハードウエアを組み合わせ、インテリジェントなIoTデバイス×トータルソリューションを BIoT 戦略として標榜しています。ですが、展示で来場者の耳目・客を集めていたのは、彼らの提示していた全体戦略というよりも、顧客接点から従業員接点まで、店舗接点から商品接点に至るまで、豊富な製品ラインアップを取りそろえたハード端末でした。

上記3社以外も含め、さまざまなソリューション展示をまとめたものが以下になります。

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これらの異なる3エリアからの展示からみえてきたのは、先述した通り、ASEANではまだ店舗や人(店員・顧客)領域への部分最適にとどまっており、ソリューションとしてチェーンをまたいだり、異なるステークホルダーを横断するといった全体最適のレベルまでにはなっていないという点です。

dentsuブースを国内外の統合チームで出展

今回のNRF 2024 APACでは、電通グループも出展を行いました。dentsu Japan各社・各セクションとdentsu APACが、それぞれの専門性をいかした、初の国内外統合チームで臨みました。その内容についてもご紹介します。

dentsu Japanでは主に、BX/DX 部門・投資部門・海外部門・データテクノロジー部門の4つの組織が協働。そこに、協力会社など全10社(国内8社+海外2社)の共催社が集まり、出展を実現しました。

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私たちが掲げた出展テーマは「Infinity Circle」。これは、「遭遇し、検討し、体験し、購入するパーチェスサイクル(購買サイクル)」と、「関係し、帰属し、充実し、推奨するロイヤルティサイクル(ロイヤル化サイクル)」をData起点でループさせていくことで、より高次元な顧客体験へと発展させていく、というフレームワークでもあります。

7社の顔触れは① MEO(マップエンジン最適化) を得意とし、チェーン展開するリテール企業のDXに強みを持つCanly(カンリ―)。② AI カメラを活用したインストア顧客動態解析から、マーケティングROI向上のための店内改装までをワンストップで手掛けることができるLMIグループ。③ユーザーの所有情報を基にした新たなWeb3.0時代のトークングラフマーケティングを標榜するSUSHI TOP MARKETING。④ビーコンソリューションの先駆者から、今や日本を代表するリアル行動データビッグデータを操るプレーヤーとなったunerry(ウネリ―)。⑤決済完了画面をリテールメディア化するポスト・パーチェスソリューションのRokt(ロクト)。⑥存在感を増す中国 EC 駆動の、源泉となる AI を駆使したハイパーリコメンド技術が持ち味のBytePlus。⑦電通グループ会社としてアプリなど、CX 起点のリテールDXを得意とするGNUS(ヌース)、以上の通りです。各社それぞれのサービスを展示しながら、パーチェスサイクルとロイヤルティサイクルをループさせる「Infinity Circle」を、展示全体で表現しました。

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会場では、イオンのブースと並んで出展することになり、はからずもリテール・コマース領域における“ジャパン・プレゼンス”のアピールに成功しました。多くの来場者に興味をもっていただき、会場内で最もにぎわったエリアのひとつであったと思います。

共催出展された2社(カンリー・LMIグループ)からのコメントもご紹介します。

LMIグループ:永井 俊輔 代表取締役社長
出展ブースでは、LMIが展開するリアル店舗から得られる貴重な無形資産“リアルワールドデータ”の活用を通じた、LMI独自の店舗づくりを提供するインストアマーケティングソリューション事業(以下、IMS事業)と、昨年11月からサービスローンチした次世代のリテールメディア「AdCoinz(アドコインズ)🄬」の仕組みや導入事例をご紹介しました。

私なりに総括すると以下の4点を言及させてください。
 
「① NRFを通じて流通小売業を再度考える」良い機会になりました。主にAIとリテールメディアの2軸が展示のメインと感じましたが、それ以上に、「②リアル店舗はどこに向かうのか?」という LMI が強みとしている部分については、十分勝算があるようにも感じました。
それは即ち、流通小売業はさまざまに既成概念に縛られているとの課題認識で、それをテクノロジー・データの力で、科学的に・論理的に示し、その改善具体まで持って行くところに LMI としての強みがある、その過程において「③(既存事業をピボットしての)副次収入を稼ぐ」ということがあり、弊社ではAdCoinz がそれにあたります。
 
それをリテールメディアとしてとらえるのであれば、その価値を高めるためにも「( AI で高度化した)④ハイパーパーソナライゼーション」がキーになるのでは?と、考えています。

Canly(カンリー):神田 大成 事業部長
4つの大きな潮流を肌で感じました。それは「①AIによるビジネス変革」「②顧客中心主義の実現」「③ブランディングへの回帰」「④コラボレーションの加速」です。

どの講演においても前提は「①+②」の話(AIをビジネスに導入することで真のパーソナライズされた摩擦のない顧客体験が実現される)がコアにあり、この世界観が実現される中で「単なるマーケティングの打ち手という話ではなくビジネスモデル自体の見直し、変革」が求められており「各事業者は自社の提供価値・ポジショニングをどう捉えなおすかが問われている(③の話)」という局面なのかなと。
 
「顧客がより多くの情報にアクセスでき収集するようになり、商品をディスカウントで購入するようになったことがリテーラーにプレッシャーを与えている」というメッセージや「リテーラーの若返りが重要である」という話が印象的でしたが、ディスカウント以外の戦い方をしていくために新たな価値をリテーラーが提供していく必要性の示唆だと受け取りました。
 
新たな付加価値創造の延長線上で、自社という枠組を超えた事業者同士のコラボレーションビジネスが加速していく(④の話)ことで、描かれるカスタマージャーニーが「自社単体→複数ステークホルダー間、ひいては社会全体」に拡張されていく未来が想像できました。食事体験ができるスーパーや、コミュニティに振ったショッピングモールの話が挙げられていました。複数事業者のコラボレーションを前提とした体験設計が主要になってくるのだろうと感じます。
 
日本という市場においてはAIを導入する前に「教師データの利活用(そもそも品質のよいデータを収集し統合管理すること)」が大きなテーマだと思うのでその領域に貢献できるようサービスの拡張を進めてまいります。

ディマンド・チェーン、サプライ・チェーン、バリュー・チェーンといった言葉に表現されているように、 Pre コロナ時代のマーケティングを直線的・固定的・分業的な「チェーンモデル」と言うのであれば、dentsu が掲げた「Infinity Circle」の切れ目なく・連続性を保ちながら・循環し続ける「8の字モデル」こそ、 Post コロナ時代のマーケティングパラダイムシフト、と言うことができるのではないでしょうか。

まさに、「お客さまの購買体験は∞(無限)の可能性を秘めている」のです。

後編は、キーノート(有力登壇者スピーチ)、ストア(実店舗視察)の視点をお届けします。

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