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AI主導型SNSソリューション「VERTICAL」No.1

「いいね」すらタップしないユーザーが増加中!?ショート動画の“三原則”を知る

2024/12/17

左から電通ライブ前澤克文氏、アドビ宇野香織氏、電通伊豫田敏広氏、野口みどり氏、A Inc. 出嶋翔氏。本記事では野口氏以外の4人からお話を伺った。
左から電通ライブ 前澤克文氏、アドビ 宇野香織氏、電通 伊豫田(いよだ)敏広氏、野口みどり氏、A Inc. 出嶋翔氏。本記事では野口氏以外の4人からお話を伺った。
複数社によるコンソーシアム型で提供される、AI主導型SNSマーケティングソリューション「VERTICAL」
複数社によるコンソーシアム型で提供される、AI主導型SNSマーケティングソリューション「VERTICAL」

今や「ショート動画」は、SNSマーケティングの主流になりつつあります。

特にグローバル展開するブランドの場合、ショート動画で各国のファンダムを広げることはすでに王道と言ってもいいでしょう。

そんな中、競合分析、コンテンツ制作、投稿結果分析に至るまで、ショート動画施策のあらゆる工程にAIを積極活用する取り組みが始まっています。その名も、AI主導型SNSマーケティングソリューション「VERTICAL」。電通、電通ライブを含む、複数社によるコンソーシアム型のプロジェクトです。

VERTICALに参画する電通、電通ライブ、アドビ、A Inc.(エース)のメンバーが集まり、「VERTICAL」の展望を語りました。

※座談会の中で、電通と電通ライブが取り組んできたトヨタ自動車(以下、トヨタ)のSNS施策事例を紹介していますが、いずれも「VERTICAL」立ち上げ以前の事例であり、トヨタ事例が「VERTICAL」というわけではありません。

 

<目次>

ショート動画の三原則。「What is this!?」「冒頭2秒のツカミ」「非言語」

コンテンツ制作にもデータ分析にも、AIが不可欠の時代に入ってきた

人間だけでは不可能な領域をAIにカバーしてもらう

 

ショート動画の三原則。「What is this!?」「冒頭2秒のツカミ」「非言語」

左からアドビ宇野香織氏、電通ライブ前澤克文氏、電通伊豫田敏広氏、A Inc. 出嶋翔氏
左からアドビ宇野香織氏、電通ライブ前澤克文氏、電通伊豫田敏広氏、A Inc. 出嶋翔氏

──本日は「VERTICAL」に参画している中から、4社の皆さんにお話を伺います。コンソーシアム型のプロジェクトということですが、どういった座組みなのでしょうか?

伊豫田(いよだ):電通、電通ライブがSNS運用の主体となりつつ、同じ電通グループのタグ社や、パートナーであるA Inc.など、分析やコンテンツ制作に長けた会社と共に、AIを活用したマーケティングを実施します。また、エンタープライズ向けのAIソリューションにおいてトップランナーであるアドビに、コンテンツ制作用AIソリューションの提供や監修をしていただいています。

──4人それぞれ、自己紹介をお願いできますでしょうか?

伊豫田:私は電通のビジネスプロデューサーで、トヨタのグローバルマーケティングを担当しています。「VERTICAL」では、クライアントも含めて、関係各社との連携部分を主に担います。

前澤:私は電通ライブのコンテンツ&テクノロジー開発部で、クリエイティブディレクターとしてSNS施策やデジタルコンテンツ施策、 AI施策に取り組んでいます。2018年から伊豫田さんたちのチームと一緒に、グローバル領域におけるトヨタのSNSブランディングに携わってきました。

宇野:私はアドビ法人営業部で、ソリューションコンサルタントチームのマネージャーを務めています。具体的には、国内トップ300社のクライアントに向けて、Adobe Creative Cloudの製品訴求を行っています。「VERTICAL」でも、アドビの生成AIソリューションをご活用いただいています。

出嶋:A Inc.のCOOを務めています。当社はAIを活用した分析ツールで、インフルエンサーやフォロワー、マーケットの実像を解析することを得意としています。「VERTICAL」ではマーケットやユーザーの分析を主に担当しています。

前澤:ちなみに「VERTICAL」の由来ですが、VERTICALは「垂直」といった意味で、9:16サイズの縦型動画という意味と、デジタルマーケティングを垂直立ち上げ的にAIで一気に推進する意味を込めています。

VERTICAL

──前段として、現在のSNSマーケティングの抱える課題について伺います。きっかけはトヨタグローバルSNSでのショート動画施策だったそうですが、どういった背景があって取り組まれたのでしょうか?

伊豫田:トヨタはグローバル向けに、SNSでのブランディングを積極的に行っています。私たちのチームは、2018年からInstagramで、トヨタをブランディングするコンテンツ施策を開始しました。その際に目標として設定したのが、トヨタのファン、具体的には「SNSのフォロワー数」を大きく増やすことです。

その後、2020年にショート動画(Instagramリール)機能がリリースされ、私たちも2022年からショート動画施策を強化するようになりました。近年、SNSのコンテンツは、特に若年層の間でショート動画が主流になりつつあるからです。

前澤:グローバル向けトヨタのInstagramのフォロワー数は、2019年時点で31.5万人でした。電通グループでショート動画をはじめとするコンテンツ施策に取り組ませていただいた結果、現在はおよそ25倍に当たる800万人を超えるフォロワーがいます。しかし、欧州の高級自動車メーカーなどではフォロワーは数千万人もいます。もっとトヨタのファンを増やせないだろうか、という課題に長年取り組む中で、AI主導型SNSマーケティングソリューション「VERTICAL」の構想が立ち上がってきたんです。

「VERTICAL」はまさにたった今立ち上がった実験的なソリューションです。つまり、これまでトヨタで数年間取り組んできた施策が「VERTICAL」というわけではなく、トヨタのInstagramで得た知見がすべて「VERTICAL」のベースになっています。

Instagramのトヨタグローバル公式アカウント。前澤氏らは日々工夫を重ねながら、ショート動画の知見を獲得してきた。
Instagramのトヨタグローバル公式アカウント。前澤氏らは日々工夫を重ねながら、ショート動画の知見を獲得してきた。

伊豫田:私たちはこのフォロワー数の差は、ショート動画をはじめとするSNSマーケティングの差だと捉えています。欧州メーカーは、若年層の間でも「かっこいい、おしゃれ」といったブランドイメージを持たれています。トヨタとしてはSNS領域において欧州メーカーに先行されている部分もあるので、若年層が気軽に見られるショート動画を通して、トヨタのブランドイメージを変えていきたいという思いがありました。

──SNSマーケティングにはどんな特徴がありますか。

前澤:まず大きなポイントとして、SNSのコンテンツを見る人は、2、3秒で離脱する人がとても多いことが挙げられます。また、SNSはテレビと違い、ユーザーが能動的に接触するメディアですから、いかにも宣伝っぽいものは敬遠されます。ほとんど無意識にスワイプされて、飛ばされてしまうんです。

伊豫田:あとは「既視感があるコンテンツ」も飛ばされやすく、離脱されやすいですよね。デジタルの世界はコンテンツが溢れているので、過去に見たようなものや予定調和なものは、簡単にスルーされてしまいます。

電通 伊豫田氏
電通 伊豫田氏

前澤:ショート動画でフォロワーを増やすためには、今までのテレビCMなどのつくり方とは、アプローチを大きく変えていく必要がありました。例えば、テレビ用のコンテンツや動画コンテンツをつくるとなると「起承転結」を付けたくなるのですが、他業界含めファンの多いSNSコンテンツを研究分析すると、一切そういうものはない、と気づかされました。その一方で、見てもらえるショート動画には、テレビとは異なるSNSならではのスパイスが必要だと分かってきました。

一つは、SNS動画コンテンツの中に「 What is this!?(何、これ?)」と、ユーザーの心に引っかかる要素を入れること。もう一つは、動画の「冒頭2秒」でユーザーの興味を引く工夫です。ユーザーが無意識に画面をスクロールしている指を、冒頭2秒のインパクトで止めてもらうということ。この数字も、昔は「冒頭3秒」と言われていたのが、年々短くなっているんです。

伊豫田:もう一つ付け加えると、グローバル向けのクリエイティブは「非言語」でコミュニケーションする傾向が強いです。対象がグローバルですから、特定言語に依存した動画は見てもらえないので、「考えるより感じてもらえる動画コンテンツ」を目指しています。トヨタがInstagramでショート動画施策を行うのは、グローバルなコンテンツを発信して、世界のあらゆる言語圏に訴求したいから。そのため、良質なビジュアルとサウンドだけで訴求する方向を目指しています。

コンテンツ制作にもデータ分析にも、AIが不可欠の時代に入ってきた

電通ライブ 前澤氏
電通ライブ 前澤氏

──コンテンツの内容の他に、SNSマーケティングで感じている課題はありますか?

前澤:「VERTICAL」を始めた理由とも関係しますが、SNSのコンテンツ制作は、時間と労力がかかり過ぎるという課題を抱えています。短い時間でコンテンツをつくって、反応を見て分析し、また次のコンテンツをつくるというサイクルが短いんです。ファンの多いSNSは、面白いコンテンツを短いスパンでどんどんアップしている。そのスピードに遅れまいと、私たちも高頻度で良質なコンテンツ投稿に挑戦しています。

特にデータ分析には頭を悩まされてきました。データドリブンなSNSマーケティングでは、見てもらえるコンテンツをつくるために、各業界のコンテンツ分析や、コンテンツ公開後のユーザーエンゲージメント分析は必須ですが、人力では限界がありました。A Inc.の出嶋さんに相談させてもらったのも、時間と労力の問題を解決し、どういったクリエイティブが最適かをデータで可視化したかったからです。

出嶋:私たちA Inc.では、できるだけ人間の負担を軽減できるようなソリューションを開発していますが、とはいえソリューションだけで解決できるわけでもありません。人間による、「分析するポイントの見極め」も必要です。

──A Inc.はSNSマーケティングの専門家ですが、ある程度勝ちパターンのようなものが確立されているのでしょうか?

出嶋:それが、SNSは非常に変化が早いんですね。前提として、SNSユーザーは、コンテンツに接触したら

「ただ見ている」
「いいねボタンをタップする」
「フォローする」

といった判断を、ほとんど無意識に行っています。昔は単純に「いいねの数」などでエンゲージメントを測っていましたが、近ごろは状況が変わってきました。先ほどの前澤さんの話にあったように、かつては「冒頭3秒」までは見てくれたユーザーが、今は「冒頭2秒」で離脱の判断をするようになってきて、最近はもはや「いいね」すら押さなくなっている。コンテンツがユーザーの興味を引いたかどうかを判断するのが、年々難しくなっているんです。

前澤:加えて、動画の尺もどんどん短くなっていますよね。例えば、ある人気ブランドのSNSアカウントは、6秒程度の短尺コンテンツを効果的に投稿していますが、それが一瞬でビューアー300万人ということもある。そういう意味でも、従来の常識は通用しない局面が今後も続いていきますね。

──ユーザーエンゲージメントは、一般的に「閲覧」「シェア」「いいね」「コメント」などで計測していると思いますが、そこにも変化が見られるんですね。A Inc.やアドビでは、そうしたトレンドの変化を最前線で感じておられると思います。

出嶋:はい。あるコンテンツに、どういう属性のユーザーが、どういう反応をしているのか。「いいね」は押していないけど、もしかしたらじーっと集中して見てくれているのかもしれない。そうなると、コンテンツの滞在時間や、さまざまな指標を用いた、より高度な分析が必要です。

宇野:アドビもコンテンツとデータを両方扱ったビジネスをしていますが、やはりコンテンツ制作とデータ分析は切り離せないと考えています。データ、つまりユーザーの反応はうそをつかないので、そのデータを適切な形で拾って、コンテンツ制作に結びつけていくことが、ますます重要になっています。

前澤:「VERTICAL」に参加してもらっているタグ社は、ユーザーがショート動画のどの部分にどの程度注目したのかを計測し判別する「ヒートマップ分析」の技術を持っています。ビュー数等の数値データだけでなく、コンテンツのリザルトの解析を行う。もはやそのレベルの分析も、SNSマーケティングには必須になりつつあるんですね。

人間だけでは不可能な領域をAIにカバーしてもらう

──一方で、データ分析が重要になればなるほど、人間だけの力では限界がありますよね。

前澤:はい。それに、人間は本来ならクリエイティブな作業に専念したいのに、データ収集や分析など、労働集約型の作業に追われてしまうのはなぜなんだろうと。そこで、SNSマーケティングに強いA Inc.に相談したわけですが、出嶋さんからすぐに「SNSでの分析なら、AIを使えば簡単にできますよ」という答えが返ってきたので、驚きました。

出嶋:次の回で当社の分析ツールについてご説明しますが、簡単にいうと、各SNSにおけるインフルエンサーのフォロワーの興味関心やブランドの好みといった「サイコグラフィック(心理的属性)情報」の分析ができます。

──また、「VERTICAL」では分析のフェーズだけでなく、クリエイティブのフェーズにおいてもAI活用をうたっていますね。

前澤:クリエイティブでも、データ分析同様、人間が専念したいポイントと、AIに任せたい作業を分けたいと考えました。さらに人間のクリエイティブをサポートするAI技術に関しては、AI使用の安全性でもやはりアドビさんが業界をリードしていると思います。

宇野:どの分野でも、従来は人間がゼロからコンテンツをつくり上げるのが当たり前でした。それが、今はAIの力を活用することで、多様なコンテンツがつくれるようになっています。効率という観点でも、反復作業や単純作業の部分を生成AIに任せられるようになると、つくり方も変わってきます。人間がちゃんと時間を確保して、よりクリエイティビティを発揮できるように、AIに助けてもらうイメージですね。

──アドビのAIソリューションにはどういったものがありますか?

宇野:クリエイター個人に最適化されたAIサポート機能として、「Adobe Sensei」を長く提供しているのが一つ。そして画像生成AIの「Adobe Firefly」は、PhotoshopやIllustratorといった既存サービスへの組み込み機能としても提供しています。アドビではもともと「Adobe Stock」という、写真やイラストのストックサービスを長年運営してきたこともあり、権利的に問題のない学習データを用いながら、高いクオリティの画像生成が可能です。

前澤:生成AIをビジネスで使うにあたって、アドビ製品なら安心して使えますよね。

宇野:Fireflyをリリースしてから1年半の間に、130億点もの画像コンテンツが生成されています。この数字は、今までのアドビのどの機能よりも一番使われています。その理由は、生成AIの登場で、アドビのツールがクリエイターだけではなく、すべてのビジネスパーソンに使われるようになったからです。マーケターやIT関連の人たちにも使われるようになり、まさに「クリエイティブの民主化」が進んでいて、誰でもコンテンツをつくれる時代になっています。

──ありがとうございます。次回はいよいよ、「VERTICAL」の全容について伺います!

(後編に続く)

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