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15年目の海外生活者インサイト~ジャパンブランド調査2025~No.2

都市と地方をめぐることが、訪日旅の新たな醍醐味に。インバウンド地方回遊を促す3つの視点

2025/10/28

ジャパンブランド調査は2011年にスタートした電通オリジナルの海外大規模調査です。訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流など、日本全般に関する海外生活者の意識と実態を把握することを目的としています。15年目を迎えるジャパンブランド調査2025では、過去最大規模の20の国・地域(調査概要)、20を超える産業分野、10を超えるテーマを網羅したデータとなっています。

第1回では、観光および持続可能な未来に焦点を当てながら、調査結果を広くご紹介させていただきました。

第2回の今回は「地方観光」に焦点を当て、持続可能な観光の実現における「地方」の重要性に着目。調査から見えてきた海外生活者からのまなざしや、さらなる誘客に向け意識すべき視点をご紹介していきます。全国の観光事業者・自治体などで訪日外国人の誘客に取り組まれる方々の参考になれば幸いです。

<目次>
持続可能な訪日観光に向けて「地方回遊」は不可欠なピース
満足度&再訪意向90%超!「地方をめぐる」旅行こそ、日本の醍醐味に
「地方回遊」を促すために意識したい「ルート・シーズン・コンテンツ」の視点
「都市と地方をめぐる旅」が持続可能な訪日観光を築く

 

持続可能な訪日観光に向けて「地方回遊」は不可欠なピース

2024年、日本を訪れた外国人は3687万人と過去最多を記録しました。これは、コロナ前に最多を記録した2019年の3188万人を上回り、30年前である1995年の334万人からは10倍以上増加したことになります。2025年は、上半期(1-6月)で過去最多の約2151万人を記録し、年間4000万人達成ペースで推移しています。

一方で、その内訳を見ると、訪問先の地域別の偏りが顕著に見られています。観光庁発表のデータからは、2024年の都道府県別の訪日客数を確認できます。1位は東京都の1446万人、2位は大阪府1288万人、3位は千葉県1064万人と都市圏への偏りが見られます。これに対して下位は、島根県4.3万人、福井県5.2万人、高知県は7.1万人となっています。

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訪日客数の過度な集中は、地域社会へ少なくない影響をもたらしています。「オーバーツーリズム」が社会課題として認識されてすでに久しいですが、観光客の過度な集中によって地域の深刻な交通渋滞やごみの増加などの「環境的影響」、ホテルや飲食店の物価上昇などの「経済的影響」が起きています。

このような状況に対し、観光庁は2023年に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を取りまとめ、その柱の1つに「地方部への誘客促進」を掲げています。

地方部の経済活性はもちろんのこと、2025年の訪日観光客が4000万人を超える見込みの中、「住んでよし、訪れてよし」の持続可能な観光の実現に向けて「地方回遊」は国全体の観光振興の不可欠なピースとなっています。

満足度&再訪意向90%超!「地方をめぐる」旅行こそ、日本の醍醐味に

ジャパンブランド調査2025からは、国別での地方訪問の傾向の違いや、ユーザー目線からの「地方回遊」の価値が見てとれます。

訪日経験のある海外生活者に対して、直近の訪日旅行で「都市部のみ(東京、大阪、京都、名古屋)」「地方部のみ」「両方を訪れた」のかを尋ねた調査結果では、国・地域間において大きなばらつきがあることが明らかになりました。例えば東アジアにおいても、韓国は「都市部のみ」の旅行実施率がおよそ70%、中国本土・台湾・香港は「地方部」の訪問がおよそ50%となっていました。

地方部を訪問した訪日客のうち、地方観光の満足度は96.2%、また訪れたいという回答は93.4%となっており、地方観光の高い満足度と再訪意向が明らかになりました。この傾向は調査対象すべての国・地域で共通でした。この数値は、地方回遊を促すことが、日本の持続可能な観光を推進するだけでなく、訪日客目線でも満足度の高い訪日経験につながるWin-Winな取り組みであることを示唆しています。

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一方で、海外生活者において、都市部に対し地方部の「認知度」や「訪問意向」が明確に低いことは依然として課題であると言えます。都道府県別では、「東京都」が「認知」「経験」「意向」ともに他を圧倒して高く、次いで「北海道」「大阪府」「京都府」が他県と大きく差をつけています。

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ジャパンブランド調査2025では主要都市についても同様に聴取しています。「札幌市」「大阪市」「京都市」はやはり群を抜いて高い認知・経験・意向を誇り、認知度でいえば「福島市」「横浜市」「広島市」が比較的高い傾向にありますが、経験・意向に差はあまり見られません。

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では、「誘客に向けて、うちの地域も注目を集めていこう!」となったとき、多様な海外市場に対して何をしていけばいいのか、悩むことも多いと思います。また、都市部の自治体や観光事業者に比べて、予算にも比較的限りがあると推察されます。そこで、今回は公的統計やジャパンブランド調査を活用し、地方回遊を促す上で意識したい3つの視点もご紹介します。

「地方回遊」を促すために意識したい「ルート・シーズン・コンテンツ」の視点

地方部に訪日客を誘客する上で意識したい視点として、

「ルート(=訪日客が物理的に地方に来ることのできる経路は何か?)」
「シーズン(=訪日客が特に来たいと感じる時期はいつか?)」
「コンテンツ(訪日客が特に目当てにしてくれそうな魅力・体験は何か?)」

の3つの視点があると考えています。
 
まず「ルート」の視点です。地方部における都市部との最大の違いは「海外からのアクセス性」言い換えれば「訪日客の輸送力」にあります。

日本国内には97の空港がありますが、2025年夏の国際旅客定期便数(国土交通省発表)を空港別で見てみると、成田国際空港、東京国際空港(羽田)で約50%を占め、関西国際空港で25.5%、中部国際空港で5.8%、福岡空港で8.4%となり、その他地方空港で12.1%となっています。

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国際便の運航がない空港も全国には多くありますが、訪日客がまず日本に訪れる入り口がある程度限定的であることが分かります。地方の観光地がまず念頭に置くべきは、「どの空港および空港付近のエリア」から訪日客を呼んでくるかという視点です。例えば九州の観光地であれば、最寄りの国際便のある空港に加え、福岡空港からの誘客も検討する必要があります。

加えて、参考になるのが各空港に「どの国・地域から訪日客が来ているか」を把握することです。法務省が発表している出入国管理統計からは、空港別で国・地域からの来訪者を分析することができます。

例えば、羽田空港は米国・ヨーロッパからの来訪が4割近くある一方、成田空港はアジアからの来訪が7割を占めています。また福岡空港は過半数が韓国からの来訪になっていて、地域別の傾向が明確にあることがわかります。

このことから、例えば九州においては、韓国からの観光客を念頭に置いたプロモーションや受入体制の整備が基盤となりそうです。

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この最寄りの主要空港に訪れる訪日客がターゲット市場のベースになり、そこからバス・電車・新幹線などによる陸路の交通網や輸送力を考慮していくことが、地方部におけるターゲット国・地域を分析する視点になると思います。

続いてシーズンの視点です。訪日旅行で関心のある体験としては、1位が「和食を食べること」2位が「自然景勝地」3位が「四季の体験」となっています。

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上の表から国・地域別の特徴も見てとることができます。和食は欧米豪も含め全体的に意向が高く、四季体験は特に気候が異なる東南アジア地域で人気となっています。和食・日本の自然景勝地は「季節」や「旬」との関連性が非常に高いため、訪日客を誘客できるような「シーズン」を見定めることも重要となります。

訪日観光で海外生活者が「最も訪れたい」と答えた季節は「桜シーズン」となり、「その季節ならではの景色を楽しみたい」という訪問理由がトップになっています。一方で、桜シーズンに次ぐ訪日時期については、国・地域によって関心が分散する傾向があり、欧米は「夏休みシーズン」東南アジアや台湾は「雪シーズン」への関心が高いのが特徴です。季節を意識した、ターゲットや魅力への着目も地方誘客の重要な視点となるでしょう。

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最後に「コンテンツ」の視点です。前述のとおり訪日体験では、「自然景勝地」や「四季体験」の関心が高い結果となっていましたが、「自然体験」の関心についてさらに細かくみていきましょう。

図表9を見ると、「桜の花見」に次いで「温泉入浴」「自然散策」の他「紅葉狩り」「花火大会」「星空観察」「フルーツ狩り」などが人気であり、山岳・海洋・河川などのアクティビティはまだ注目を獲得できる余地が見られます。

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日本は森林地域が国土の2/3を占め、山が多く河川にも恵まれた自然環境が特徴ですが、その特徴を生かした体験の磨き上げが全国的な課題といえそうです。近年は、混雑していない地域やまだ知られていない景色の価値も高まっているため、地方部における自然景勝地に今一度目を向けてみてはいかがでしょうか。

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参考:地方で光るジャパンブランドとは?訪日客を地方に呼び込むための3+1のコト
 

「都市と地方をめぐる旅」が持続可能な訪日観光を築く

今回は、「日本の地方観光」に着目し、持続可能な観光・訪日客の満足度獲得に向けたポテンシャルと、さらなる地方誘客に向けた3つの視点を公的統計や調査結果をもとに考察してきました。オーバーツーリズムが指摘される中で、訪日観光の地域・時期の分散は今後も大きなテーマとなります。また訪日客としても、地方を訪れる観光の満足度・再訪意向は高いため、継続的な訪日リピーター獲得の重要な要素となります。

「地方観光」に限らず、観光の促進は観光庁が掲げるように、「住んでよし、訪れてよし」と地域住民にも配慮され進められることが大前提と考えます。ただその中で、「地方観光」が官民で促進される現在の国内機運は、今よりももっと多くの人たちに自分たちの地域を好きになってもらえる、千載一遇のチャンスと捉えることもできます。

ジャパンブランドプロジェクトチームとしても、今回の「ルート・シーズン・コンテンツ」の視点に限らず、地方観光の持続可能な促進に、ぜひ貢献していきたいと思います。

【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社電通 ジャパンブランドプロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp

【電通ジャパンブランド調査 実施目的】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年、調査設計・分析アプローチおよびアウトプットを抜本的再構築し、専門性を高める全社横断プロジェクト活動へと進化。2025年、一般向けナレッジポートフォリオを新たに企画・構築し、生活者インサイトに立脚した社会的価値の創出を目指す。
ジャパンブランド調査では、訪日観光や地方創生、食分野、日本産品、コンテンツ、価値観、ライフスタイル、社会潮流などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題・可能性を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。
 
【電通ジャパンブランド調査2025 調査概要】
・対象エリア:20カ国・地域※1(アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、サウジアラビア、インド、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、中国本土、香港、台湾、韓国)
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)※2
・サンプル数:12400(内訳:アメリカ・中国本土 各1600、インド1200、韓国・台湾・イギリス 各800、その他の国・地域 各400)※3
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2025年5月20日~6月22日
・調査機関:株式会社電通(調査主体)、株式会社ビデオリサーチ(実施協力)

【注記・免責事項】
※1:中国本土の対象エリアは上海・蘇州・北京・天津・広州・深セン・成都・重慶、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ・ベンガルール、オーストラリアはシドニー都市圏、東南アジアは主にメトロポリタンエリアに限定。 
※2:中間所得層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
※3:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
※4:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
※5:本調査レポートおよびウェブサイトからの情報発信における対象国・地域の名称表記は、従来からの日本政府の見解、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものです。
※6:本調査の図表作成において、分析対象となる国・地域名は一部例外を除き、国際基準ISOカントリーコード(ISO 3166-1 alpha-2)を使用しています。
アメリカ/US、カナダ/CA、オーストラリア/AU、イギリス/UK、ドイツ/DE、フランス/FR、イタリア/IT、スペイン/ES、サウジアラビア/SA、インド/IN、インドネシア/ID、シンガポール/SG、マレーシア/MY、フィリピン/PH、タイ/TH、ベトナム/VN、中国本土/CN、香港/HK、台湾/TW、韓国/KR
※7:本調査における国・地域の名称表記は、統計上または分析上の便宜を目的としており、いかなる政治的立場や見解を示すものではありません。
※8:本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。

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