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Dentsu Design TalkNo.24

「『関係』をデザインする」

2014/03/28

Dentsu Design Talk 第78回(2013年9月24日実施)は、東日本大震災後に東北の子どもたちの笑顔のためにデザインができることを考えた、日本ユニセフ協会「祈りのツリープロジェクト」の世話人を務める永井一史氏、福島治氏、並河進氏の3人をお招きし、これからの社会にとってのデザインのあり方を考えるためのトークを開催した。

永井一史氏
永井 一史氏
HAKUHODO DESIGN
福島治氏
福島 治氏
福島デザイン
並河進氏
並河 進氏
電通

 

ブランディングからソーシャルデザインへ

まず初めに、3人それぞれの自己紹介をしながら、近年取り組んでいる「ソーシャルデザイン」に関わる仕事を紹介。

HAKUHODO DESIGNの永井氏は、博報堂に在籍していた1990年代末に「ブランドコンサルティング」の専門チームに唯一のクリエーターとして参加し、「宣伝部からオリエンテーションを受けて2週間後にプレゼンするといった従来の広告制作とは違った、クロスファンクショナルなチームで長いスパンをかけて取り組むプロジェクトを経験」したことが最初の契機となったと話す。その後、2003年にHAKUHODO DESIGNを自ら設立し、07年にはよりソーシャルの領域をメインに取り組むhakuhodo+design projectを立ち上げることになる。手がけた具体的な事例として、09年からユニセフと取り組んでいる、「世界にはきれいな水を手に入れられなくて困っている子どもたちがたくさんいることへの理解と啓発」のため、レストランで無料で出てくる水道水にドネーション(寄付)を募るTAP PROJECTの日本での展開を挙げた。

 

商品や企業が社会の役に立つことを形にする

電通ソーシャル・デザイン・エンジンの並河氏は、02~03年頃から「いわゆる物を良く見せようとするCMを作るよりも、その商品が社会の役に立つことができないかと模索」していったという。その中で最初に形になった、トイレットペーパーを製造する王子ネピアがユニセフと行っている「千のトイレプロジェクト」を紹介。これは、独立したばかりでインフラが整っていない東ティモールに、商品の売上の一部を使ってトイレを作っていこうというプロジェクトで、「うんちをする。僕らは生きている」というキャチフレーズで、トイレットペーパーを通して社会貢献をしていく企業の取り組み。現地の子どもが将来の夢を描いた絵や、トイレを設置する写真などを東京で展示し、「形が残っていくことを目の当たりにして、それを伝えることで共感が広がる」という、従来の広告とは違うコミュニケーションの可能性を実感したという。日本ユニセフ協会とはその後、10月15日の「世界手洗いの日」にプロジェクトを実施。このプロジェクトから、協賛企業であった洗剤やせっけんを製造するメーカーのサラヤが、「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」を実施する展開になったと報告した。

 

デザインの力で被災地支援ができるか?

「祈りのツリープロジェクト」の発案者である福島デザインの福島氏は、広告代理店のアートディレクターを経て独立してから広告を中心に仕事をしていたが、社会起業家の「チェンジメーカー」という生き方を知り、50歳を機に働き方を変えて、現在は「デザインと幸福」をテーマに活動を行っている。アートの分野での才能を収入に結びつける「アートビリティ」という貢献事業を、美術大学へ出向いて多くの学生に紹介する「押しかけ出前授業」の取り組みをしていたが、東日本大震災をきっかけに、「私自身もデザインやクリエーティブの力を有効に使って、直接なにか支援ができないかと考えた」という。「その年のクリスマスに被災地の子どもたちを笑顔にさせたいと思い、たくさんの仲間が“自分ごと”として力を合わせて一緒になることで成立する仕組みにしたい」と、親交のあった永井氏と並河氏に相談。こうして、デザイナーを中心に普段の仕事の垣根を越えた「祈りのツリープロジェクト」がスタートする。

 

プロジェクト全体のオーガナイズこそがデザイン

福島氏の“想い”から始まった「祈りのツリープロジェクト」だが、当初の福島氏の案は、「とにかく5億円集めて、デザイナーがサンタクロースになって子どもたち全員に1万円のおもちゃ券をプレゼントするというものだった」という。しかし、そこに永井氏が待ったをかける。「もちろんお金を集めることも大事だが、僕は参加するデザイナーが“自分が心をこめて届ける”ということがプロジェクトの真ん中にあるのが良いと思った。こういう時には想いが先に立ってしまうけど、そこに関わる人たち全体の気持ちをうまくオーガナイズしないと、広がりが生まれずに結局伝わらないということになる」と永井氏。最終的に、参加するデザイナーがそれぞれにオーナメント(装飾品)を作り、それが被災地だけでなく銀座でも飾られることで参加者全体の気持ちを高めていくというプロジェクトの設計が出来上がった。「永井さんの最初の企画書には関係するステークホルダーが書かれていて、その一つ一つがどういうモチベーションでプロジェクトに参加するかという図が描かれていた。表面的なことより、そういうところまで考えていくことがデザインなんだと、このプロジェクトを通して僕も“プロジェクトのデザイン”ということを理解した」と並河氏は語った。

 

広告会社とソーシャルグッドの関係

 

では、社会を良くすることに広告会社はどう関係していけるのか。

永井氏は、「企業が広告を出すという側面では、世の中の人に伝えることが一義的な目的としてあるが、そもそもデザインのオリジンは、経済的な目的よりも文化性とか社会性といった方に軸足があるはず」と述べた上で、3つの方向が考えられると整理した。1つは、「企業とともに社会を良くするサービスを行っていくこと」。2つ目に、「これからの社会に価値のある新しく芽吹いた何かを見つけて、自分たちのクリエーティブスキルを使って世の中に広がっていく手伝いをする道」。3番目に。「クリエーティブの力で社会的な問題を解決することを事業主体としてやっていくということ」。すでに欧米の先進的な企業では、CSV(creating shared value)=共通価値の創造ということが、その企業のビジネスの中心に据えられているという。それを受けて並河氏は、「CSVの成功例はビジネスと社会貢献が一体化しているが、それは実は日本で昔からある、売り手と買い手と世間どれもが得をする“三方良し”の考えと同じ」と指摘し、福島氏も、「それに“継続性”という時間軸を加えた“四方良し”が理想」と、Think the Earthのプロデューサーを務める上田壮一氏の考えを紹介した。

 

ソーシャルをより拡がりをもってつなげるために

 

最後に、「ソーシャルと言った時に、社会のどこを見るのか」という並河氏から提議があった。そして、「僕らのやっていることに共感してくれる都会の人たちというのもあるけど、そこから完全にあふれている人たちもいる。今そういうことにコミットしていない人たちの心をつないでいくことができるといい」と。

永井氏からは、「やっぱり僕たちは社会を変えたいと思ってNPOを立ち上げて当事者になるというよりも、デザインやコミュニケーションといった自分たちのスキルを生かして、それが社会テーマと結びついた時にパワーを持てる」と、「関係のデザイン」という本日のテーマを再確認する発言があった。

福島氏からは自らの経験も踏まえて、「持続させることを考えると、やはりお金の問題をどうするかが現実問題としてあります。クラウドファンディングなども日本では海外ほど金額が集まらず、日本の社会ならではのマネタイズの仕組みを開発することも重要」と今後の課題を挙げてトークを締めくくった。

(企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀    記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治)

 

 

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