イノラボが生み出す協創のカタチNo.9
小学生が当たり前のようにプログラミングを学ぶ時代がやってくる
2014/05/12
株式会社電通国際情報サービス(ISID)のオープンイノベーション研究所(イノラボ)は、ICTを活用した教育改革にも挑戦しています。連載9回目の今回は、前回に引き続き、2児の母でもあるシニアコンサルタント・関島章江さんにインタビュー。ICT教育の要である“人”、そして今後の展開についてお聞きしました。
パパもママも先生も! みんな一緒に、ICTの活用法を模索すべし
――前回は「アダプティブラーニング」の実証実験についてお聞きしました。今回は、学習システムを使う“人”についてお聞きしたいと思います。まず、母親について。よく「ママのITリテラシーが低い」などと言われますが、関島さんはどのようにお感じになりますか?
関島:“ママ”は関係ないと思います。私たちが子どもの頃は、そもそも、スマホやタブレットというデジタルデバイスが存在しませんでした。ママもパパも独身の男女も、ある一定の年齢以上の人は等しくアナログ世代なわけで、声高に「ママのITリテラシーが低い」と叫ぶ風潮には引っ掛かりを感じますね。もっと素直に、「みんなやったことがないんだから、とりあえず一緒に試してみようよ」と声をかけ合えばいい。老若男女が一緒に学びながら、使い方を模索していけばいいんじゃないかな、と思います。
――そうはいっても、家庭間格差というのはありそうな気が…。子どもが小さいうちからバリバリにICT教育をしているご家庭と、携帯も与えないご家庭、スマホやPCは与えるけれどもまったく干渉しないご家庭など、方針はバラバラですよね?
関島:そうですね。家庭間格差については、私も実感しています。だからこそ「みんなで一緒に試してみようよ」という姿勢が重要だと思うんです。
実は昨年、できるだけ多くの方にICTの活用法や可能性を知っていただこうと、2本ほど親子のコミュニケーションアプリを作るお手伝いをさせていただきました。子どもがiPadアプリをタップすると母親に行き先がメールされる、いわば伝言板のようなもの。これで、学校から帰ってきてすぐにランドセルを放り出して出掛けてしまっても、子どもの行き先が分かるという寸法です。
もうひとつは音読アプリ。学校で出された音読の宿題をスマホに録音するというもので、あとから何度でも聞き返すことが可能です。自分で聞き返してもいいし、親に聞いてもらってもいい。親にとっては、仕事から帰った後など時間を選ばず音読を聞いてあげることができますし、子どもにとっては、アプリに搭載されているスタンプ機能で、親からの「がんばったね」シールを確認することができ、モチベーションを高められます。
こういう便利な教育アプリ作り、その良さを感じてもらうことで、みんなで意識を底上げしていきたいなと思っています。
現場の先生やベンチャー企業から、新しい風が巻き起こっている
――先生についてはいかがでしょう? 教育ICTに対応できているとお考えですか?
関島:いろんな先生がいらっしゃるので、人によってバラバラです。ただ、面白いなあと思うのは、先生がポケットマネーで数台タブレット端末を購入し、それを授業で活用するような、ボトムアップの動きが目立ってきた点。政府や自治体主導で足並みをそろえようとすると時間がかかってなかなかうまくいかないんですが、現場の先生が動いて、いいICT授業を行うと、周りの先生も興味を示して広がりを見せていくんです。
同じように、ベンチャー企業もいい風を巻き起こしています。先生と子どもの学び合いSNSを無償で提供する会社が出てきたり、先生方のノウハウを共有するクラウドサービスがリリースされたり。2013年の夏頃から、ベンチャー企業が発信する教育ツールが次々と登場しています。現場の先生をベンチャー企業が支援して、そのベンチャー企業を大企業が支援するというような流れができつつあるんですよね。
私たちは、この流れを潰さないように実証実験を重ねて、学校内のルールづくりや、導入ノウハウ、家庭と学校との体制づくりなどを進め、先生や生徒、保護者が利用しやすい教育プラットフォームを実現していきたいと考えています。
プログラミングを学ぶのは当たり前。小学生が大人顔負けのアプリを作ることも!
――最後に、教育ICTの最新動向について教えてください。
関島:海外では、プログラミングを学ぶことが当たり前になってきています。リトアニアでは小学校1年生から、必修でプログラミングを学ぶのだそう。「仲間と協力しながらものづくりに取り組み、自分を表現することができる」という点が、総合的な学習として評価されているようでした。
日本でも、Raspberry Pi(ラズベリーパイ)という小型PCを使った子ども向けのプログラミング講座が、頻繁に行われるようになってきました。また、つい最近、中高生向けのITキャンプ「Life is Tech」の小学生版が立ち上がり、少しずつではありますが、プログラミングが低年齢化していることを感じています。私も子どもを参加させたんですが、半日で時計と計算機のようなプログラムをふたつも作ってしまって、わが子ながらびっくりしました(笑)。自分の作ったものをプレゼンしたり、講評してもらったり、他人の作った作品を見ることで、刺激にもなったようです。単にプログラミングをやらせるのではなく、説明やフィードバックなど他者とのコミュニケーションの機会を設けることがとても大事だと感じます。
ただ、受講料が、まだちょっと高いんですよね…。こういうワークショップがもっと安価に、例えば学童保育の中などで普通の習い事のように受けられるようになるといいなと思っています。プログラミングやICTが特別なことではなくなって、家庭の食卓でも当たり前に話題になるような、そんな未来が来てくれたらうれしいですね。