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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

人もペットもうれしい社会を。No.3

セッション#1-2

『いぬのきもち』創刊のきっかけと、現在

2014/06/18

前回に引き続き、ベネッセコーポレーションの『いぬのきもち』『ねこのきもち』創刊責任者である伊藤正明さんと、電通でペットに関する社内専門チームThink Pet Projectを立ち上げた明石英子さんが、ペット産業の可能性について話し合いました。

ペット事業は「愛情」で発展する

明石:これはThink Pet Projectに取り組む中で感じていることなのですが、ペット事業を成功させる上で大事なのは、事業に携わる人たちがペットを愛していることだと思うのです。例えばクライアントに動物好きな人が一人いるだけで、プロジェクトがどんどん進んでいきますし、思いがけない広がりを見せることもあります。これはペット事業ならではの特徴ではないかと。

伊藤:『いぬのきもち』『ねこのきもち』をやっていて感じたのは、雑誌で扱っているテーマに対する読者の愛情が、これまで私が関わってきた雑誌よりも圧倒的に大きいということ。それは作り手も同じです。『いぬのきもち』を立ち上げる時に、社内でプロジェクト参加者を募ったのですが、以前は指示通りに動いていた社員が自ら積極的に営業に行くなど、集まったメンバーがみんな生き生きと率先してやってくれていたのが印象的でした。それに、ペット産業に携わる人たちも本当に熱心で真剣ですよね。動物病院やペットショップへ営業に行った時も、企画の意図や理念を伝えると無料でチラシを置いてくれるところもあったのです。このように作り手と受け手の愛情で成り立っている事業なので、すべての基本ですがスタッフには特に「誠実に、ひたすら誠実にやりましょう」と言っていました。

明石:みんなの思い入れで事業が動いていく醍醐味はありますよね。Think Pet Projectのメンバーも社内で声をかけて、犬や猫が好きな人たちが集まって細々と始めたのですが、プロジェクトに賛同してくれたクリエーターが自主的にロゴを作ってくれたりするなど、動物好きな人たちの協力があって少しずつ発展していきました。今回、ベネッセさんと一緒にコンソーシアムを立ち上げることで、さらに1歩大きくステップアップできると思っています。

「線でつなげ、面で見せる」ビジネスモデル

明石:伊藤さんはこれからのペット産業において、どのような商品やサービスが必要とされると思いますか?

伊藤:日本に限っていえば、ペットの高齢化に対応したサービスが必要になると思います。例えば、今は人間と一緒にペットの高齢化も進んでいますよね。特に、ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバーなどの大きい犬は、「老老介護」のような状態になると面倒を見るのが大変です。お墓や葬式などの事業は出てきてはいますが、その手前の介護などのサービスはあまり発展していないのが現状です。

明石:Think Pet Projectチームのメンバーに猫を飼っていた人がいて、その猫は20歳まで生きたんです。それで、具合が悪い時に獣医師さんのところに連れていったら、「こんなに長生きする猫を診たことがないから自信がありません」と言われたそうで。ペットの高齢化が進むことで、医療の世界にも未知の領域が生まれている。それに対する何かしらの解決方法をみんなで考えなければならないと思います。

伊藤:ペットが長生きすること自体は良いことですけど、それに付随する様々な問題はきちんと対処していくべきですね。高齢化に関しては単体の事業だけでなく、みんなで力を出し合いながら上手く回していけるような仕組みをつくり、それに基づくコミュニティーができればいいなと思います。それ自体は大きな事業にならなくても、コミュニティーから様々な事業に発展していく可能性はあります。ドイツでは「犬税」がありますが、日本ではペットに税金をかけるのは難しいかもしれないので。

明石:以前、調査で「日本でペットがもっと暮らしやすくなるためには何をすべきか」というアンケートをとりました。すると、「資格を持った人しか飼い主になれないように、飼い主になるための検定をすべき」とか「ペット税を取り入れるべき」という意見があったんです。多数派ではないですが、ペットオーナーの中にもそういう意識が芽生えつつあるみたいです。

伊藤:税金があれば、例えば犬の学校や飼い主の学校をつくってしつけの仕方やマナーを安価で学ぶことができますよね。ペット税があれば、お金に余裕がある人だけがペットを飼えるということではなく、犬に対して責任が持てる人全員が飼うことができるかもしれない。その意識が徹底されているドイツなどと比べてみると、日本にはまだ「いのちを飼う責任」という自覚が全員に深まっていないのかもしれません。しつけ条例の動きが出てきていますが、そうした責任が広がっていければ、飼っていない人も含めより暮らしやすい社会になると信じます。

明石:これもわれわれの自主調査で分かったことですが、ペットオーナーはペットのためならお金をかけてもいいという意識が非常に高いのです。もちろん高額商品を出せばいいというわけではなくて、彼らの悩みを解決する商品やサービスの掘り起しはもっとできるということだと考えています。

伊藤:基本的な商品やサービスはそろっているので、今後は付加価値の高い商品やセグメントされたサービスが出てくると思っています。そういう意味では、ペット産業は成熟段階に入ったといえます。個人的には、ペットを飼いたいけど飼いにくい人たちをフォローするような商品やサービスが増えるといいなと思います。一世帯あたりの構成人数や子どもの数が減ったからといって、みんながペットを飼えるわけではないので。その中でも、飼いたいと思っている人に対して不安なく飼えるような環境を整えることが必要ではないでしょうか。新しい商品やサービスだけでなく、ペットショップや動物病院も含めてみんなが上手くまわるようなビジネスモデルをつくりたいですね。一歩一歩でしょうが。

明石:Design with Pet Projectも点でやるのではなく、線でつなげる、面で見せるということを大切にしています。1社では難しいことを、10社、50社で集まって実現させましょうと。これまでに伊藤さんたちが培ってきた知見を生かしながら、これから様々な企業とコラボレートして新しいビジネスモデルを生み出していきたいですね。みなさんの「愛情」で動いていくペット産業には、たくさんの可能性があると信じています。