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髙崎卓馬x樋口景一x磯島拓矢 鼎談No.2

「考える技術」(中編)

2014/08/27

メディア環境の変化は、クリエーティブの世界にも大きな影響を与え続けている。“自由に何をやってもいい”という荒野を、若手クリエーターはどのように歩いていくべきなのか。3人は、「考える技術」の中心にある「言葉」の重要性を説く。

全ての企画の真ん中には言葉がある

磯島:今の若いクリエーターは、荒野に立っているというか、本当に大変だと思う。「まずコピーライターとしての技術を磨きなさい」という昔の常識が正しいのかどうかも分からなくなってしまった。僕自身は「まず言葉」というふうに育ってきたから、いろんな荒野があっても前に進む「とっかかり」はあるのだけれど。

髙崎:以前は、クリエーティブという“箱”の中で技を磨く時間が十分にあって、自分の得意・不得意や性質を認識できた。でも、今の人たちは、自分の背骨がどこにあるのかを確かめる時間もなく、“何をやってもいい”という荒野を歩かなければならない。自由って不自由なんです。そこから、突然変異的にすごく面白い才能が生まれてくる可能性はあるのですが、相当な生命力が必要かもしれないですね。

磯島:ある新人から「入社後半年間、ずっとアプリを作っています」という話を聞きました。いきなりアプリを作ることがどういう“筋肉”に変わっていくのか。経験則だけでは語れないのが今ですよね。

樋口:ただ、全ての企画の真ん中にあるのは、言葉だと思います。その言葉が、弱く曖昧になっている感じが僕は不安です。ゆるい言葉で「こういうコンセプトにしよう、こういう映像やこういうウェブにしよう」と手段を語っても、きちんと世の中に伝わるものにはならないのではないかと思います。コピーライターとか関係なく、広告業界にいる人たち全員が磨かないといけないのは、言葉の技術では。

髙崎:すごい発明をしても、伝わる言葉をつくらないと、誰にも発見されないですからね。

樋口:「うまいことを言うのが、いい言葉」という変な誤解もある気がします。「うまいこと」より「正確である」ことの方が大事。コピーライティングだけではなく、いろいろな分野で似たようなことが起きていませんか?

髙崎:コピーライティングを学ぶことは、コミュニケーションの言葉を学ぶことと限りなく近い。そう思えるか、思えないか。そこが大きな差をつくってしまうんですね。

樋口:優秀な経営者や事業部長の方々と話をすると、経営戦略も事業戦略も、そして商品企画も全部、言葉が中心になっていると思い知らされます。何万、何十万もの社員や関係者を一方向にまとめる端的な言葉。そこには、コピーライティングに近いくらい、言葉の力が求められることを優秀な経営者は分かっている。僕たちの仕事も、広告コミュニケーションだけではなく、クライアントの事業をアイデアでどう高めていくかという領域に入っています。この部分の言葉を伸ばす訓練をしないといけないのではないでしょうか。

「懇請の強度」と「メタフレーム」

磯島:狭義のコピーライティングとは、概念が違いますよね。思想家の内田樹さんが書いた『街場の文体論』(ミシマ社)に、「懇請の強度」という言葉が出てきます。どうしても相手に聞いてもらいたい、知ってもらいたいという懇請の強度だけが、その文章のクオリティーを決定する、と。たしかに、懇請の強度があるものを見つけられれば、そのままでいい言葉になるんですよ。たぶん樋口君の言っていることと近いんじゃないかな?

樋口:近いですね。

髙崎:精神論ではなく。

磯島:「この課題はこれくらいやれば85点は取れるだろう」では絶対にクオリティーは上がらない。文字量やテーマという外枠は決まっていても、その中で自分が本当に伝えたい「懇請の強度」を見つけないと。

髙崎:全員が「作りたくなってどうしようもなくなる何か」の発見こそが

全ての表現の起点になるから、それはどうしようもなく必要ですね。

樋口:僕らの言っていることは、技術論じゃなくて精神論だと言われるかもしれない。でも、「今、伝えるべきものはこれだ!」という思いの強さまで含めて技術だ、と伝えているのが技術シリーズの3冊なのでは?

髙崎:ですね。広告という山の天気は、基本的にガラガラ変わる。変化し続ける。5万個のマニュアルがあれば、その変化に対応できて登れるかというとそうではない。毎回過去を疑い、新しい答えを見つけようとする精神的な部分がないと対応できない。そこまでが登山技術なんじゃないかなと思います。

磯島:たまに、佐藤雅彦さんみたいな“モンスター”が現れて、全然違うルートを見せてくれることもある。

髙崎:僕たちが言語化できない、安易に言語化したらきっと失われる何かが佐藤さんの表現にはありますよね。まねてもまねできない何か。佐藤さんのルールにそって作ってもアレは生まれない。

磯島:内田さんの本に、「メタフレーム」という言語学の概念が紹介されていました。教室で「後ろの人、聞こえますか」と先生が聞くと、後ろの人が「聞こえません」ってやるでしょう。ものすごく矛盾しているんだけど、意味より先に伝わる言葉が確実にあって、それがメタフレームに当たる言葉らしい。この感じ、佐藤さんの「どうしても伝わってしまう何か」に近いと僕は思った。

髙崎:面白いですね。どうしても伝わってしまう何か。意識してなかったけど、ずっと意識してきたもののような気がします。商品や企業のことを伝えているけれど、その手前で伝わってしまう部分はかなり意識してそこの設計を普段から一生懸命やっている気がします。

樋口:メタフレームは、どれくらい普遍的なんでしょう? 時代を超えてしまう可能性も感じますよね。

髙崎:作り手の人格に近い気もします。そこはどうしようもなくにじんでしまうから。人間が人間に伝える。そのとき伝わってしまう何か。それは古い映画や文学に今感動できる理由なのかもしれないですね。

(後編に続く)