【続】ろーかる・ぐるぐるNo.16
ぐるぐる思考 散らかすモード③(ラピッドプロトタイピング)
2013/10/03
まだニュースになっていない地方の逸品が見つかるお取り寄せサイト「よんななクラブ」と初めてお仕事をしたのはもう数年前のこと。「よんななクラブらしいカタログギフトをつくりたい」という相談を受けたことに始まります。たしかに結婚式の引き出物やお中元で頂くカタログギフトは、デパートにせよギフトショップにせよ同じようなブック形式です。牛肉、ハム・ソーセージ、果物そして食器という構成もおんなじ。よんななクラブらしいカタログギフトとお客様の「新しい結びつき」が何かあるのかさがし始めました。
これが「贈りもの弁当」。カタログが新聞記事形式のカードになっている「駅弁」です。
ぼくたちが最初に手にしたキーワードは「旅」。ふつうのカタログギフトだと和牛なら神戸、松阪、山形+宮崎あたりというようにエリアが偏りがちですが、よんななクラブの場合、全国の新聞社が選んでいるので「必ず各都道府県の商品がある」という特徴がありました。「とすると、まるで旅先で出会うようにそのひとつひとつの商品を紹介できないかな」と考えたわけです
この着想に基づいて「電車の車窓」や「旅行鞄」のような具体的な形をいくつも作り散らかしました。その中にあったのが「駅弁」を模したデザインです。
たしかに駅弁はその各地の名産品を手軽に味わえる仕組みです。だったら各新聞社が選んできた商品をおかずのように楽しめるデザインはできないか、せっかくだから地方紙の記事のような形で紹介できないか、そんな試行錯誤を繰り返して「新聞記事を召し上がれ」というコンセプトに行きついたのでした。
この他とにかくいろいろ作り散らかしました。
疑いをさしはさむ余地がまったくなくなるまで検証してからモノづくりを始めるという一般的なビジネスのジョーシキから外れているのかもしれませんが、実際に試作品(プロトタイプ)を作りながら考えを巡らせたのがぼくたちの「散らかすモード」の実際でした。
イノベーションを起こす方法論として注目を集めている「デザイン思考」では、このようなアプローチをラピッド・プロトタイピングと呼びます。この分野を先導するデイビッド・ケリー※1はこれを「両手を使った思考」と位置づけ、作られる試作品のレベルは「やっつけ仕事でかまわない」「これくらいで十分だ」といいます。
贈りもの弁当も「新聞記事を召し上がれ」というコンセプトにもとづいて最終的な開発に入った段階で「カタログギフトって、たとえば1万円する贈りもの。その価格にふさわしい駅弁らしいパッケージってなんだろう?」という新しい壁が現れました。それを解決したのは後の「磨くモード」、アートディレクターの技でした。
ちなみにデザイン思考のプロセスを「理解・共感→問題定義→アイデア出し→試作→テスト」※2というステップに分けて説明することがあるようですが、「散らかすモード」は試作をしながら問題定義とアイデア出しの間を行ったり来たりする感じ。なのでかなり負荷の大きな作業になります。
コピーライターの岩田純平さんとアートディレクターの工藤真穂さん。
手にしているのは新バージョンです。
前回コピーライターの七転八倒について書きましたが、あれも形を変えたラピッド・プロトタイピングです。実際に現物をつくる代わりにアウトプットを想定したリアルな「ことば」で試行錯誤をするので。
おかげさまで「贈りもの弁当」は発売2年弱で15,000セット以上を販売し、よんななクラブの定番商品に成長しました。お中元、お歳暮はもちろん、ちょっとした手土産に如何でしょうか(笑)。
最後はすっかり宣伝くさくなってしまいましたが、次回はこの先にある「発見!モード」のお話をしましょう。
どうぞ召し上がれ!