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クックーのおいしいお仕事No.3

家政学部から、広告会社へ。
「気持ち」を料理するお仕事。

2015/03/13

有名シェフの帽子から生まれた不思議な生きもの、クックー。
料理の腕はピカイチ!で、食への果てしない好奇心を持ったクックーが、
広告会社・電通に潜入。

どうやらここには、食にまつわる「おいしいお仕事」をしている人がたくさんいるみたい。
そんな人たちに会ってお話を聞いてみたら、
いつもとちょっと違った視点で、「おいしい毎日」へのヒントが見つかるかも。

連載3回目は前回に引き続き、「食」に関する調査や分析、商品・ビジネス開発を行っている「食生活ラボ」主宰の大屋洋子さんです。

クックーのおいしいお仕事

クックー:どうして大屋さんは「食」のお仕事をするようになったんですか?

大屋:実は、大学では家政学部だったんです。

クックー:え、家政学部!

大屋:家庭科の教員免許を持っていて、学生時代、教育実習のほかに、アルバイトで教えていた進学塾で国立中学の受験対策として家庭科を教えていたこともあるんです。でも、今でこそ、「食育」というワードがありますが、当時はまだまだ、「そんなこと知らなくていいから算数や国語をやりなさい」という風潮が強かった。今もそうかもしれないけれど、家庭科なんて、内職の時間だと思われていたんじゃないかな(笑)。それに、女子しか授業がなかったし。

クックー:そうなんですね。

大屋:だから、みんな主要教科といわれる勉強はものすごくできるのに、驚くほど「食」については知らないんです。5、6年生でも、マグロはサクで泳いでいると思っている子が、本当にいるんですよ。「お米を洗う」という記述を見て、「食器用洗剤と洗濯洗剤、どっちを使えばいいんですか?」と質問されたり。

クックー:洗剤・・・。家でお米が洗われているところ、見たことなかったんでしょうか。

大屋:その子は、お母さんが洗っているのを見たら、水が白くなっていたから、洗剤を使っていると思ったんですって。

クックー:わあ、米ヌカだって知らなかったんですね。

大屋:そうなの。それで、この人たちがこのまま大きくなって将来えらくなると思うと恐ろしいな、という気持ちになりました。本来、食べるものへの知識って、人間が生きていく以上必ず必要なものですよね。「食」という字は「人を良くする」と書きますが、旬や産地を知っているか、素材を生かす調理法を知っているか。知れば知るほど生活が楽しくなるし、豊かになる。なのに、そのことを知らないまま大人になっていくのか、と。

クックー:すごく残念な話ですよね。

大屋:だけど、こうして教室で教えていても、クラスの数十人にしか伝わらないし、その子たちにも本当に届いているかは分からない。

その状況を変えたいと思った時に、就職先として思い付いたのが広告会社でした。クライアントにも食品関係の会社はたくさんあるだろうし、博覧会のようなイベントもやっている。「食」で、もっと世の中とつながることができると思ったんです。

クックー:なるほど!そういう考えの人って、周りにもたくさんいたんですか?

大屋:とても珍しかったと思います。女子大の家政学部から、どうやったら広告会社に入れてもらえるだろうと悩みました。そこで、アート職の人たちが美術大学で専門的に学んでいたりするのと同じように、自分も「食」に関しては絶対に誰にも負けないくらい詳しくなれば、アピールポイントになるんじゃないかと考えたんです。当時、図書館にこもって、食べ物についてめちゃくちゃ勉強して就職活動に臨みました。

クックー:それが今につながってるんですね。電通に入ってからは、ずっと「おいしいお仕事」をしているんですか?

大屋:いいえ。最初の配属は関西支社のマーケティング部署だったんですが、半年後に異動して、ラジオの媒体担当になったんです。

クックー:ラジオノバイタイタントウ?

大屋:全国のラジオ局さんの広告枠を売るのがお仕事の部署です。ラジオって、じつは食品企業さんの広告が少ないんですよ。「おいしそう!」「食べたい!」っていうシズル感は、その様子が目に見えないと伝わりづらいんですよね。だから、音だけのラジオは、食に関するお仕事が少ないんです。

正直、食から一番遠いところに来てしまったかも、と思いました。だけど、ありがたいことに全く「食」から離れたわけではなく、最初の半年いた部署で開発に関わらせていただいた食品会社の新商品の発売が決まり、異動後もその仕事だけは続けていました。コンセプトやネーミング、商品設計の提案で1カ月に1回くらい東京に出張していたかな。その後、3年目に東京本社のマーケティング部署に異動になり、少しずつ食を仕事の中心に持ってこられるようになりました。

クックー

クックー:そうやって、さっきお話しされていた、「世の中とのつながり」も、自然と強くなっていったんですか?

大屋:2005年に「食育基本法」ができたのは大きな流れでしたね。私も、この法案が施行される前年に「食育プロジェクト」を社内で立ち上げました。施行後から2~3年は、多くのクライアントさんから講演や事例収集の依頼もあったのですが、それもしばらくしてくると、「『食育』は大切だけどもうからない」というようなムードが広がってきてしまって。

クックー:うーん、法律ができただけでは、なかなか難しいんですね。

大屋:そうですね。人の気持ちをもっと掘り下げた上で、仕組みの部分から取り組むことが必要だと感じました。

クックー:人の気持ち。

大屋:そう。だから2011年に発足した「食生活ラボ」通称「食ラボ」では、「食」についての研究だけでなく、食を起点にした人の気持ちや動き、「インサイト」を研究するようにしています。

クックー:あ、前回聞いた「食ラボ」ですね。

大屋:はい。それに加えて広告に必要なデータや情報を収集するだけでなく、新しいかたちのビジネスに一緒に取り組むことに挑戦しています。商品開発を一緒にすすめたり、イベントをつくったり。

クックー:「おいしいお仕事」が広がりはじめているんですね。

大屋:そうです。食ラボに来る問い合わせも、だんだん変わってきました。以前は「次に流行るものは何?」というような、直近のトレンドに関するものが多かったんです。それをふまえて、マスヒットを狙いたい、という感じで。それが最近は、一過性のトレンドを追うことが難しくなっていることや、そもそもマスヒットが生まれにくいという背景から、中長期的な視点で「食」に取り組んでいる企業や人が増えたように感じます。例えば、今一番多い問い合わせのテーマは、「2020年の食」だったりします。

クックー:みんな、食べることから未来を考えようとしてるんですね。ステキな話だ。

大屋:ステキよね。食は楽しみのひとつでもあり、健康の礎でもあります。さらに、コミュニケーションのツールにもなるし、それが趣味の人もいる。手っ取り早く気持ちをアゲる方法でもありますね。そんな食とのさまざまな向き合い方を、うまく結びつけてサービスを展開していけば、もっとみんながハッピーになれると思うんです。

クックー:ひとつの食材でも、味付けや調理法ひとつでおいしさはムゲンに広がりますからね。

大屋:さすがクックー。分かってるね。

クックーメモ。「おいしい」はカラダの基本で、ココロの基本でもある。 調査データを「ダシ」のようにつかって、人の気持ちと行動をむすぶのが、 「おいしいお仕事」の腕の見せどころ。