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企画者は3度たくらむNo.6

ブランドの価値を翻訳する力

2015/04/16

前回のコラムでは、時代に応じて製品やブランドが抱える課題は変わっていくということをご説明させていただきました。

そして今回は、課題だけではなく、製品の存在価値自体も変化していくことについて話を進めていければと思います。

時代にあった価値を与える

製品の存在価値に関しては、課題の再設定を行うことで、自然と再設定されることが多いとも言えます。

前回挙げていた地図の例で言えば、地図を個人に販売していた企業は、地図情報を企業に販売する企業へと姿を変えました。これは、企業体そのものの存在価値が再定義されたことと同意です。
製品やサービスといったブランドだけでなく、企業の存在価値の再定義は、最終的には企業が結論を下すものなのですが、世の中の動向や生活者のニーズに合わせて変化していくものであり、その起点を生むのも、企画者の大事な仕事であると考えます。

例えば、冷凍食品は、腐りやすい食品を冷凍することで長期間保存できる画期的な製品として生まれたのですが、共働きが一般化しつつある今日では、どんなに忙しいときであっても、家族揃って食事することを可能にする製品へと存在意義を変えました。当然のことながら、日本で冷凍食品が生まれた一九六〇年代初頭に、個食や孤食までを見据えていたわけではないと思います。

また、ポータブル・オーディオであれば、聞きたい曲を手軽に持ち運んで楽しむための製品から、いつでも自分の気分や集中力を高めるための、ある種、空間を持ち運ぶことができる製品に存在価値を変えました。ノマドという働き方が認められつつあるいま、いつでもどこでも自分の世界に入り込むことができる必需品としての側面を持ち始めています。プロアスリートが自身の出番の直前まで、好きな楽曲を聞きながら集中力を高めている話はとても有名です。

直近の例で言えば、蚊取り線香は、蚊に刺された後の痒さから逃れるものでなく、デング熱という病気と闘う、生命を守る製品へとその立ち位置を変えました。

ここで挙げた例は、製品やサービスが持っている機能的ベネフィットを、その時代に合わせた価値に変換していると言い換えることができます。

この価値を変換する力は、製品と価値をつなぐ翻訳力と定義すると理解しやすくなります。

一見無機質に見える商品やサービスも、企画者が時代に合った新しい意味や役割を与えることによって、光り輝くことができます。さらに言えば、過去に発売し、役目を終えた製品ですら、新たな役割を与えることで、新商品として発売することもできるでしょう。

これからの鍵は「社会的ベネフィット」への翻訳

製品の性能である機能的ベネフィット(ファンクショナル・ベネフィット)を、情緒的ベネフィット(エモーショナル・ベネフィット)に翻訳することは、これまでも数多く行われてきました。これは、物事を語る主語を、企業から生活者へと変えることであり、ブランドが人の生活にとってどのような価値をもたらすことができるかを定義することと同意です。

さらに、近年では、社会的ベネフィット(ソーシャル・ベネフィット)に翻訳する重要性が高まっているように感じます。この言葉を端的に表現するならば、なぜ社会にとって製品やサービスが必要なのか、という広い視点でブランドを捉えることに当たります。

先ほどの例で言えば、冷凍食品が個食を解消するために一役買っていることや、蚊取り線香が命を守る製品であると定義することが、社会的ベネフィットへの転換に相当します。

この社会的ベネフィットを発見しようとする場合には、特に、目指すべきビジョンを強く、かつ、明確に持つ必要があります。そして何よりも、いまと徹底して向き合わなければなりません。逆に言えば、常に課題や製品を再定義しようという心構えを持ってさえいれば、その糸口に気付く可能性が広がるのです。

これからも世の中には様々な変化が訪れ、それらは常に歓迎されるべき明るいものであるとは限りません。しかし、そんな状況であるからこそ、企画者の役割は大きいと考えます。製品やサービスに新しい価値を与え、世の中をよくしていく一歩を共に踏み出していく。その起点になる再定義する力は、企画者にとって武器になっていくでしょう。

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「ちゃんとたくらんでる?」